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人気税理士が教える、会社とお金の話「世に出回る節税のほとんどが無意味、それどころか逆効果!」
2018.11.18
個人事業主や中小企業の経営者の中には「どうすれば税金が安くなるか」と節税について常日頃から意識している方も多いかもしれません。しかし、本当にその節税は必要なものなのでしょうか。もしも経営にとって意味がないとしたら?
今回は『その節税が会社を殺す お金に強い社長がコッソリやってる節税&資金繰りの裏ルール31』(すばる舎)の著者で税理士の松波竜太氏に解説いただきました。
目次
ここを間違えると会社がおかしくなる二軸とは
少々厳しい言い方ですが、世に出回る節税のほとんどが無意味、それどころか逆効果です。そもそも税金を払っても大きな見返りがあるわけではないから損だと考える方も多いでしょう。しかし、損得軸だけで考えるとビジネスは失敗します。経営にとって最も大切なのは資金です。
損得の軸と資金集めの軸を混同している人がいますが、ここは分けて考えないと経営がおかしくなります。冷静に考えれば当たり前のことですが、損得と資金の増減は関係がありません。
上図をご覧ください。
ビジネスには種類によって、得はするが資金が減るもの・増えるものと、損をしても資金が減るもの・増えるものがあります。
「損をしても資金が増えるビジネスなんてあるの?」
と、思われる人もいるかもしれませんが、たとえば有名な例ですが、英会話教室や脱毛エステサロンなどの広告宣伝費率の高いビジネスモデルはこれにあたります。彼らにとって広告宣伝費は原価です。しかし多くの場合、広告宣伝費は1ヶ月分をまとめて月末や翌月に支払う「後払い」です。
これに対し売上は、授業や施術よりも前に入金される「前金制」をとっています。ですから、お客さんさえ集められれば損得に関係なくお金が入ってくるので、資金が尽きることはありません。入金が商品やサービスの提供時という違いがありますが、飲食店やパチンコ店など、現金売上の業種も基本的にはこれと同じ構造です。図の右半分に位置するビジネスがこれ当たります。
これに対して、世の多くの会社が図の左上に位置する「得だが資金が減る」ビジネスをしています。これは良し悪しの問題ではありません。
卸売や製造業を考えてみましょう。商品を売るあるいは製品を作るためには、まず在庫を抱えなければなりません。商品代や材料代は後払いかもしれませんが、売上の入金も後払いです。先行して支払う在庫分と商品や製品に乗せた粗利分だけ確実に資金が減ります。
さらに人件費は給料締め日の数日後には支払う必要があります。ほとんどの会社で人件費の支払いが一番先に来ます。頑張って売った、あるいは頑張って作った商品代や製品代の入金はずっと後なのに、その人件費はすぐに会社から出ていってしまいます。
結果として、売上が増えれば得はするけど資金は減っていきます。これは商習慣によるものですから、お客様よりよほど力関係が強くない限り逆転の余地はありません。損得と資金の増減が無関係ということがお分りいただけたと思います。
「頑張ればお金が増える」と考え、努力してきた経営者には、真逆なわけですから衝撃の事実かもしれません。つまり、一般の会社が会社の資金を増やすには「借入」をするか「増資」するかしかないわけです。
それでもまだ意味のない節税を続けますか?
その意味で、世に出回る節税のほとんどは資金が「減ります」。税金も減るかもしれませんが、資金はもっと減ります。その代表例が保険による節税です。
保険には支払った額の全額が経費扱いにできるものと半額だけが経費扱いになるものがあります。ここで仮に半額だけが経費扱いになる保険を考えてみましょう。法人税率を30%とすると、税金を100万円減らそうと思ったら666万円もの保険料を支払わなければなりません(100万円×2倍÷30%)。
法人税が抑えられて得した気になっても、これだけ資金が減っては意味がありません。さらに、保険で減った法人税は、保険を解約した時に結局支払うことになりますから、実は法人税を得すらしていないのです。
先ほどお伝えしたように、一般の会社が資金を増やすには「借入」をするか「増資」するかしかない訳ですから、世のほとんどの会社が、この損にも得にもつかない取引のために借入をして無駄な利息を支払っているということになります。
さらに、保険は一度契約してしまったら、会社が赤字になろうが払い続けなければなりません。損益が一定している不動産賃貸業など以外では、余程のことがない限り、売上も経費も自社でコントロールできる余地は多くありませんから、利益には当然のように波が生じます。赤字の時に支払う保険料はまさに泣きっ面に蜂といえましょう。
赤字になると当然銀行から借入しにくくなります。結局、損をしてでも資金を確保するために、意に反して保険を解約せざるをえないという状況に陥ることになります。
つまり、利益をコントロールしているつもりが、いつしか逆転して自分がコントロールされる側に回ってしまう訳です。
本当に怖いのは経営者が◯◯できなくなること
私は税理士業の現場で「資金が尽きる」悲惨さを嫌というほど見てきました。
尽きるとまではいかなくとも、資金が減るだけでも経営者の事業意欲は衰えます。その結果、打つべき投資が打てなくなり、「会社本来の良さ」が損なわれていきます。ちょっとした投資への躊躇が、結果としてライバル会社との大きな差になったりするものです。
衰えるだけならまだしも、本当に怖いのは経営者が「正常な判断」をできなくなることです。正常な判断ができる人なら考えないような視野の狭い自己中心的な言動を発して信用を失ったり、あるいは、正常な判断ができていれば決して手を出さない取引に手を染める経営者は枚挙にいとまがありません。
「資金がないから利益が出ない」という悪いスパイラルにはまってしまうのです。
「法人税を支払うのがもったいない」という気持ちは、私も経営者のひとりですからよくわかります。また、事業を「頑張れば頑張るほど資金が減る」わけですから、多くの会社で「税金を支払う頃には資金がない」わけで、このようなシチュエーションにおいては、「税金で資金を持っていかれるのは嫌」と考えるのは仕方がないことでもあります。
最高に良い節税はこれだ
しかし、そこをぐっと我慢すると、事業がずっと楽になりますし、良い循環に持っていくことができます。
1.資金を逃す節税をやめて法人税を支払う
↓
2.資金が増える
↓
3.前向きに事業・投資ができるようになる
↓
4.その結果、利益が出る
↓
5.利益が出ているので銀行が資金を貸す
↓
6.より大きな資金で精神的に安定し、前向きな投資ができる
↓
7.融資を受けて「資金を減らさずに」投資をする
↓
8.投資減税を受けることで法人税支出を減らす
↓
9.より資金が増える
↓
3.にもどる
資金の有無は経営者の事業意欲の向上に大きな影響を及ぼします。また、実際に資金がないと不可能な打ち手は多くあります。
8.の投資減税にしても「新品で◯◯万円以上」という条件がついています。世に出回る節税はほとんどが無意味とお伝えしましたが、「資金を減らさない節税」は大いに行うべきです。その意味で、融資を受けて投資をすることで受けられる投資減税は最高です。私は実際にこのような「得をしつつ資金の増えるスパイラル」を多くの会社で作ってきました。
しかし、これには何も特殊な能力が必要なわけではありません。きっかけはここまでお伝えしてきた、考え方のちょっとした違いにあるのです。ぜひ、ご自身の事業を見直してみていただきたいと思います。
私は、競争に優位に立てるボジションを築きたいなら、月商3ヵ月分の資金を常にキープしてくださいと相談者の方々にお伝えしています。相談者の決算書をたくさん見てきましたが、ほとんどの会社が月商1ヶ月ほどしか持っていませんでした。
宣伝になってしまいますが、記事ではお伝えしきれない、利益確保のための決算方針や銀行との付き合い方など、月商3ヶ月分の資金を持つにいたるプロセスを、拙著『その節税が会社を殺す お金に強い社長がコッソリやってる節税&資金繰りの裏ルール31』では詳しくお伝えしています。
ここまでお読みいただき興味を持っていただいた方、経理担当者だけでなく、会計事務所さんや銀行さんにもぜひご一読いただきたいと思います。
この記事の著者
弥報編集部
弥生ユーザーを応援する「いちばん身近なビジネス情報メディア」
この記事の監修者
松波 竜太
銀行交渉コンサルタント・税理士 会計事務所業界に20年、税理士資格取得後独立し16年間となる。 500社以上の中小企業に関与し、特に資金繰りと銀行交渉については113社をサポート。
お客様の手元資金をサポート前の最大17倍(平均3倍)金利は1/2以下とした目からウロコの手法を、誰にでもできるよう再現性のあるセオリーにまとめ、書籍「借入は減らすな!」(あさ出版)、「その節税が会社を殺す」(すばる舎)などを執筆。
「決算書が読めない経営者でも銀行交渉ができる」をコンセプトに説明資料の準備から、アピールすべき点、想定される質問、さらには交渉の継続判断など具体的な「次の一手」をアドバイスし、中小企業経営者から絶大な信用を得ている。
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