- 業務効率化
起業したばかりで忙しすぎる!大事なことを考える時間がない……【中小企業お悩み相談室 経営者編】
2018.04.25
著者:若山 修
著者:株式会社スコラ・コンサルト
「中小企業お悩み相談室」では、中小企業や小規模事業者のような「小さな組織」によく見られる実際の悩み事をピックアップ。組織風土改革のパイオニアとして30年以上の実績を持つ「株式会社スコラ・コンサルト」が回答します。
前回の経営者編では事業継承に課題を抱える中小企業のお悩みに回答しました。
今回は、開業2年目のカフェを経営する35歳の男性からいただいた、起業したばかりの多忙な経営者がぶつかる壁についてのお悩みに回答します。
目次
Q.日々の忙しさに追われて、気になっていること、大事なことを考える時間がないのですが…。
「2年前にカフェをオープンしました。食品輸入の会社で実務経験を積んだ後、都内のカフェで勉強のため2年間修業し、独立しました。カフェの仕事は大変やりがいもあり、お客さまにも喜んでいただいています。そうした点では毎日が十分に充実しています。
しかし、スタッフには頼めないこまごまとした雑用まで含めて、朝から夜まで仕事に追われている毎日。定休日くらいは、せめて子どもたちのために使いたいと思い過ごしてしまうと、自分のための時間はなかなかとれません。この先、店をどうしていくのか、他店の状況はどうなっているのかなど、将来のことを考える時間が持てていないことが悩みです。
ゆくゆくは複数店舗を展開し、自分の腕を試してみたいという思いはあるですが……」
A.「時間がない」という思い込みを取り外し、発想の転換で考える時間をつくり出しましょう。
個人事業主や起業間もないベンチャー企業では、トップ自身が現場に立って、自ら汗を流して働くのは当然です。また、そのような働き方が性に合って独立される方も多く、その意味では質問者の方と同じく、忙しいこともまた本望かもしれません。
しかし、そのような方々の多くが将来のビジョンや計画などの重要なテーマについて、ゆっくりと時間をとって考える余裕がないことに悩んでいるのもまた事実です。
有名な「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著)の「時間管理のマトリックス」でいえば、「重要だが緊急性は低い」事柄についての時間が手薄になっていることをどこかで不安に感じています。
将来のビジョンや計画はもちろんですが、新規出店のための市場調査や物件探し、資金繰りを楽にするための助成金活用、日々の営業データを整理して自分自身の経営を見直すなど、「緊急ではないが重要なこと」は、それこそ山のようにあります。
「でも、正直なところ『緊急かつ重要』なことを消化していくだけで手一杯……。やっぱり1人じゃ厳しい」という声が聞こえてきそうです。
そのとおりですよね。私もそう思います。多くの人がそう思っています。ですから、ここにチャンスがあります。
言い換えると、小規模な事業を営んでいるビジネスパーソンのほとんどがそう思っていますから、この問題を解決し、忙しい中でも大事なことを考える時間をつくれた人ことが成功するといえます。
私は自身でも青果店を営みながら、コンサルタントとして多くのスモールビジネスの経営課題にまつわるアドバイスをさせていただいていますが、その中で出会った3人のビジネスパーソンは、ちょっとした発想の転換で上手に時間をつくり出しています。彼らに共通するのは、小規模な事業経営者の多くが当たり前だと思っている常識を取り外して、本当に大事なことをしっかり優先できる環境を自らつくり出している点です。
そんな3人から学んだ3つの工夫を、ご紹介したいと思います。
【ケース1】「1人しかいないからできない」の思い込みを取り外した「今日だけ経営企画部」
「大企業でいえば『経営企画部』の仕事ですよね」と話すのは、デザイン性の高い文房具の製造販売を手がける、個人事業主の加藤さん(仮名・40代・男性)です。
もともと大きな会社に勤めていた加藤さんは、現在独立して奥さまと2人で仕事をしています。小さなお子さまを育てながら、てんやわんやの毎日。そんな日々を過ごしながら、頭の隅では、自分の事業をインターネット販売で伸ばしていくのか、それともリアル店舗への卸しで伸ばしていくか、また海外からの引き合いもある中、国内に注力すべきか海外にも打って出るべきかなど、重要なテーマに対して、しっかりリサーチや熟考をしたいと思っていました。
しかし、日中は自ら営業に飛び回り、夜は家事のほかに機械の整備や調整を行うと、それだけで1日の時間は埋まってしまうのでした。
ここが個人事業主の悩みどころ、分岐点です。「自分が2人いればなあ……」と、ほとんどの人は思うものです。「1人しかいない以上、日常業務は自分でやるしかないよな。人が雇えればまだしも、今はそんな余裕もないし」
加藤さんは少し違いました。自身が勤めていた会社のことを思い起こしたのです。
「会社には営業があって、製造がありました。今、僕はその2つの部門を2人でやっているんだな、って思ったんです。でも、会社はそれだけじゃなくて、ほかにも経理や総務があります。これは、自分たちでいえば妻と分担してやっているところです。それ以外に、そういえば経営企画部というのがあったなあ、と。経営企画や役員の人たちが日常業務とは別に、3年後の計画を立てたり、10年後のビジョンをつくったりしていたなあ、と思い浮かべたんです」
こう話して、加藤さんはニッコリほほ笑みました。
「いろいろな会社を知っているわけではないのですが、私の勤めていた会社を参考に考えると、きっと1つの会社では10%から20%くらいの人たちが『将来のこと』を考える仕事をしていたんじゃないだろうか。だとすれば、私という1人の人間を1つの会社だと見立てたとき、営業もやるし製造もやりつつ、10%~20%くらいは経営企画部になっていいんじゃないかと思いました」
かくして、加藤さんは1週間7日間のうち、曜日を決めて毎週1日だけ「経営企画部」になることにしたのでした。「営業部」や「製造部」として忙しい毎日を過ごしつつも、週に1日だけは現業部門を離れ、「経営企画部員」として、将来のことや日ごろ時間がとれない重要なテーマについて考えたり、調べたり、まとめたりという仕事に充てています。
【ケース2】「社長しかできない仕事」という思い込みを取り外し、「トップの仕事を2人で」
小さな会社では「社長しか知らないこと」が多くあります。経理や財務などの数値情報、契約や各種届け出をはじめとする法務などの管理的な仕事、新規物件開発や、新しい機械・設備の導入などの判断業務がそうなりやすい傾向にあります。その結果、社長の時間は膨大な量のこまごまとした業務に消えていきます。
「でも、ほかのメンバーもそれぞれ忙しいし、第一お金が絡むことはやっぱり社長の自分にしかできない仕事だから……」と思ってしまうのがほとんどの社長です。
こんなとき、私はいつも「自分が何もできない人間ですからね!」というのが口癖の前田さん(仮名・40代・男性)のことを思い出します。前田さんはベビー用品店を起業し、関東を中心に複数店舗を展開しています。
前田さんのモットーは「トップが1人でやってしまいがちな仕事をなるべく2人でやる」でした。たとえば毎月、月末月初の経理・財務は、必ず社員の誰かと一緒にやっています。銀行への訪問も自分1人で行くことはありません。新規出店の候補物件が見つかると、やはり社員の誰かとともに見に行きます。社外の交流会などに出席する際もやはり2人です。
前田さんの会社のスゴイところは、経理・財務ができる社員が3人も育っていることです。銀行の担当者を相手に資金繰りの交渉なども社長と同じように渡り合える社員が3人もいるのですから、心強い限りです。これは、実は銀行の担当者にとっても大変な安心材料なのです。銀行にとっては融資先の会社が、「社長並みに会社のことを知り、考えている社員のいる会社」と映るわけです。
また、新規出店の物件情報がもたらされると、前田さんがいなくても、社員のほとんどが各自勝手に物件を見に行きます。自分なりに物件と周囲を見て回り、その物件の可能性を診断して帰ってきます。そして、社員会議でそれぞれが自分の見方や意見を話し、社長はそれらの意見を聞きながら判断を下すことができるといいます。
「よくよく考えてみるとですね、社長にしかできない仕事ってほとんどないんですよ」
前田さんが取り外した思い込みは、この言葉に集約されています。先の加藤さんの例ではありませんが、通常の会社では多くの仕事が役割分担されています。個人事業主や小さな会社で「トップしかできない」と思われている仕事の多くが、一般社員に分担されて行われているのです。
まずは、毎週必ずやっているルーティン業務の分担から始めてみてはいかがでしょうか。奥さまや長年働いてくれているアルバイトの方と一緒にやってみれば、けっこううまくいくものです。毎週のルーティンから解放されるだけでも、トップの自由な時間はぐんと増えるはずです。
【ケース3】「小さな会社だからなんでも自前でやらなくては」の思い込みを取り外して「気軽に知恵の貸し借り」
最後は、「専門家を雇うのは大企業だけ」の思い込みを取り外して、SNS時代らしい新しい知恵の貸し借りを実現している新藤さん(仮名・50代・男性)の例です。不動産仲介を軸に、多彩なコンサルティング業務を行う事業を営んでいます。
大きな会社なら外部にアウトソーシングするような専門業務でも、小さな会社や個人事業主は余裕がないため、トップ自ら頑張っているというケースは多くあります。特に、決算や確定申告のような年に1回しかない業務は覚えるのが難しく、本やインターネットを見ながら自分でできないことはないのですが、非常に煩雑で膨大な時間をとられます。
助成金制度の活用や労働保険の加入など、めったにやらない業務も同様です。ほかにも、物件調査や仕入れ先調査など、専門業者さんには情報の量も質もかなわない、という業務もたくさん存在します。ホームページやチラシ・パンフレットなどのデザイン、ロゴなどのデザインも同様です。
こういった専門業務は、自分自身の楽しみとして取り組めるなら良い(「確定申告、一度は自分でやってみたい!」とか「無駄足になっても物件探しで歩き回るのは苦にならない」など)と思いますが、そうでない場合は、膨大な時間と労力を考えると、専門家を活用することのメリットも小さくありません。
しかし、当然のごとく費用が発生しますし、それは利益を生むための直接的な経費ではないため、個人事業主や小規模企業にとっては「ぜいたく品」として選択肢に入っていないケースをしばしば見かけます。
しかし、現在はSNS時代。一方的に専門家を頼る、委託するという時代ではなく、「得意なことを持ち寄って助け合う仲間のネットワーク」という感覚で、専門知識の貸し借りを気楽にやっているのが新藤さんです。
新藤さんは、株式会社にはしていますが、従業員は代表の自分1人だけ。奥さまに手伝ってもらうこともしていないので、本当の「1人会社」です。ところが、新藤さんの周囲はいつもにぎやかで楽しそうです。
新藤さんは約2カ月に1回、自分のビジネスパートナーを招いて懇親会をやっています。そこにはさまざまな業種のプロや専門家が集まりますし、彼らのお客さまも集います。そこでの気楽な雑談から、また次のビジネスの種が生まれ、そのビジネスを支えるにふさわしい専門家が紹介される、という好循環を実現しています。
その好循環の結果、新藤さんはオーガニック野菜中心の飲食店や介護を兼ねたスポーツジムなど、時代にマッチしたいくつかのビジネスに出資する立場になりました。その周辺には、新藤さんが紹介した税理士や不動産屋などがいて、お互いを応援しあっています。FacebookやInstagramを見ていると、彼らがまるで大学のサークルのように楽しそうにつながりあって、互いの仕事を助け合い、働くことを楽しんでいる様子がうかがえます。
まさしくSNS時代ならではの情報活用の仕方だと思いますが、私が新藤さんを見ていて思う大事なポイントは、玉石混交のインターネットだけに頼りすぎることなく、個人としての付き合いもできる仲間づくりです。
情報そのものはインターネットでいくらでも手に入るバーチャル全盛の時代ですが、気軽に電話で聞けるスピード感や、本音でベタなやりとりができる信頼感、実際に修羅場をくぐってきた生身の人間が持っている専門知識の質などのリアルにはやはりかないません。
そのバランスをとりながら、人間と人間の付き合いを大事にする姿が、新藤さんをして「よくある利害関係だけを重視する異業種交流などとは別次元の、『友人同士』が気軽に助け合うネットワーク」を形成し、その中心にいさせているのだと思います。
大事なことを考える時間がないという悩みの本質は「孤独感」では?
「大事なことを考える時間がない」
この悩みを持つ個人事業主や小規模企業の経営者は、世の中にたくさんいるだろうと思います。そんな方々への多少の応援になればと思い、すでに時間づくりに成功している3人の経営者を事例に、その工夫をご紹介しました。
それぞれ事業においても成功している3人の姿をあらためて思い起こしながら、私は、「大事なことを考える時間がない」という悩みの本質は、実は「大事なことを考えるのは自分1人しかいない」という孤独感ではなかったか、と感じています。
くしくも私が紹介させていただいた3つの工夫は、だんだんと「仲間の広がり」が大きくなっていく工夫にもなっています。「自分の時間をつくる」というテーマは、「自分の仲間をつくる」というテーマでもあったのです。
生き生きと自分自身が手足を動かすことをいとわずに仕事を楽しみ、なおかつ将来に向けた大事なこともしっかり考える時間と仲間を持っている経営者。そういう経営者が増えれば増えるほど、世の中はおもしろくて夢のあるものになっていく気がしています。
この記事の著者
若山 修(わかやま しゅう)
ベンチャー企業で草創期から東証一部上場までを経験。その後、株式会社スコラ・コンサルトで組織風土改革プロセスデザイナーを続けながら、2014年に青果店を開業。スモールビジネスに限りない愛着を持つ。
この記事の著者
株式会社スコラ・コンサルト
組織風土改革のパイオニアとして企業・公的機関の支援に30年の実績をもち、実践を目的とした〈プロセスデザイン〉という独自の変革手法に特徴がある。「コンサルタントのいないコンサルティング会社」のスタンスを貫き、「プロセスデザイナー」が現地で現場の人たちと一緒に考える伴走型の支援を行う。本音でまじめな話ができる対話の場、職場や立場を離れてフラットな関係で行う「オフサイトミーティング」は、スコラ・コンサルトの代名詞になっている。
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