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資金ショートを防ぐ!自社に適した「現預金」の決め方と増やし方【教えて!吉田先生】

2025.02.27

著者:弥報編集部

著者:吉田 学

経営者としては、手元資金はあればあるほど安心して経営に集中することができます。しかしながら、自社はどれくらい現預金があれば適正なのかという判断は難しいですし、どうやって現預金を増やせばよいのかというのも、中小企業にとっては大きな課題となるでしょう。

今回は、現預金の必要性や確保の仕方などについて、財務・資金調達コンサルタントの吉田学先生に伺いました。

※本記事は2025年1月時点の情報を基に作成しております。法令などの最新情報については、政府・各省庁などから出ている文書をご確認ください。


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なぜ、現預金が大切なのですか?

事業者の方なら「経営には財務が重要である」という認識を持たれていると思います。この「財務」とは何でしょうか。さまざまな定義や考え方があると思いますが、資金繰りという視点で考えると、小規模・中小事業者における「財務」とは「資金ショートを防ぐこと」または「安定した資金繰り」などと定義することができます。

実際に小規模・中小事業者は「手元の資金(現預金)」がなくなると事業継続は困難となります。逆に、手元に潤沢な資金があれば安心して事業を行うことができ、何か突発的な問題が発生してもすぐに資金ショートしません。手元資金の確保は、最優先すべき財務課題の一つであると認識してもいいでしょう。

一般的に「月商の3か月の現預金があるとよい」といわれている理由を教えてください。

月商の3か月分というのは、一つの目安でしかありません。ただ、シンプルに捉えて事業活動において何か突発的な問題が発生したときに、3か月の現預金があれば余裕をもって改善に取り組めるという見方もできます。

これが1か月であれば、売上が激減したとたんに資金ショートして倒産してしまいます。3か月あれば、その間にさまざまな対応策を講じることができるといえるでしょう。

自社の適正な現預金をどのように決めればよいのですか?

まずは、自社の過去の決算書や直近の月別試算表、または通帳の過去の月末残高を確認してください。過去の経緯と現状の現預金について把握できるはずです。例えば、年商1.2億円の企業であれば月商1,000万円ですから、現預金が1,000万円で推移していれば「1か月分」になります。3,000万円であれば「3か月分」です。

もし、月商の1か月分にも満たない場合は、まずは月商の「1か月」を目標に設定しましょう。そして1か月達成したら、次は「2か月」、そして当面の目標として月商の「3か月」と定めてください。実務的には、業種やその企業の財務状況などによってさまざまな基準設定をする必要がありますが、まずはこのようにシンプルに捉えて大丈夫です。

実際には、どうやって現預金を増やせばよいのですか?

基本的には「売上増加」「支出削減」「利益増加」、そして「資金調達」によって現預金を増やすことができます。それ以外にも売掛金・買掛金サイトの調整、ファクタリングによる早期現金化、その他会計手法など、さまざまな方法があります。

売上を伸ばしても、支出がそれ以上に増加すれば利益は増えません。また、たとえ売上・利益を劇的にアップさせたとしても、実際には同じペースで現預金は増えないかもしれません。また利益=現預金ではありませんので、実際の現預金の増加については資金繰り表などを作成して状況を予測、把握する必要があります。資金繰り表を作成すれば、現預金の増減状況についてシミュレーションすることが可能です。資金繰り表で自社の現預金推移を把握、予測することはとても重要なことと考えてください。

また、売掛金の回収期間を短縮して、買掛金の支払いについては長期化できれば、それだけ手元資金を長く確保することができます。また、ファクタリングなどを活用することによって売掛金の早期現金化も一つの方法です。ただし、ファクタリングにはリスクも伴いますから、依存しないように注意してください。劇的に現預金を増やすには、「資金調達すること」が近道です。

現預金を増やす目的で資金調達しても大丈夫ですか?

現預金が月商の1か月くらいでも、問題なく事業を行っている事業者もいます。また借入金は返済しなければならないので事業拡大や設備投資の必要性がない限り「無駄な借金をする必要はない」という考え方も決して間違いではありません。

しかし、安定しつつある状況だからこそ、金融機関から借りやすいともいえるのです。不安定な事業者より安定している事業者に融資をしたいのは、金融機関にとって当然のことです。財務基盤が弱い小規模・中小事業者は、重大な問題が発生すると一気に業績が悪化して資金ショートしてしまい、業績を回復させる余裕もなくあっという間に倒産してしまうケースも少なくありません。

専門家によってさまざまな意見がありますが「月商の3か月分に到達するまで借入をする」という考え方も決して間違いではありません。現預金が増えれば増えるほど、金融機関は融資しやすくなります。まさに「金融機関は晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」といわれる所以です。

また、「すぐに返済の必要のない融資」を活用することも積極的に検討してください。例えば「据置期間(利払いのみの期間)を長く設定する」、期限一括償還である「資本性劣後ローンの可能性を探る」、経常運転資金に関しては「短期継続融資(短コロ)の活用をする」という方法もあります。

なお、資金調達に関しては、融資ばかりでなく「増資」や「少人数私募債」などによって現預金を増やすことも可能です。ハードルは高いのですが、常にその可能性を探ってください。

現預金を増やすために節税は必須ですか?

確かに利益が増えると税金の支払いが増加します。そうすると税金の支払いのために現預金が減少しますから、節税をして利益を減らした方が、結果として現預金は減少しないのでは?と考える経営者もいます。

しかし、節税をする(利益を減らす)ということは「支出を増やす」ということでもあります。過度な節税で支出を増やし現預金を減らすことは、財務を悪化させることにつながりかねないことを理解しておきましょう。

適切な節税については否定しませんが、過度な節税はおすすめできません。しっかりと利益を出して法人税などを適切に収め、確実に現預金を増やしていきましょう。確実に現預金が増えていけば、同時に自己資本比率も向上し、財務健全性が高まります。結果として、金融機関からの評価もアップさせることが可能です。

金融機関としては、過度な節税により資金繰りが悪化して「資金を貸してください」という事業者に対して積極的に融資はできません。しっかりと利益を出して現預金も増加して財務が安定、向上している企業の方が積極的に融資しやすいのです。このセオリーを忘れないようにしてください。

以上の通り、手元資金を増やすにはさまざまな手法や考え方があります。売上・利益の改善や資金調達、会計的手法、納税との関係など、事業者の置かれている状況によって最適な方法は変わります。一度、顧問税理士に自社の適正な現預金額や増やし方について、意見を聞いてみてください。


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この記事の著者

弥報編集部

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吉田 学(よしだ まなぶ)

財務・資金調達コンサルタント
株式会社MBSコンサルティング 代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)、「税理士だからできる会社設立サポートブック」(第一法規)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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