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【未来を読む】中小企業の倒産はこれから増えるのか?賃金や雇用はどうなる?
2022.10.25
著者:弥報編集部
監修者:飯島 大介
新型コロナウイルス感染症の影響でダメージを受け、倒産に追い込まれた企業が増加しています。ようやく回復の兆しが見えつつあるものの、ウクライナ情勢の影響による原材料費高騰など、中小企業にとってはまだまだ予断を許さぬ状況といえるでしょう。
そこで今回は、株式会社帝国データバンクの飯島 大介さんに、中小企業を取り巻く市場環境の現状と今後の見通しなどについて、お話を伺いました。今後の経営の舵取りの参考にしてもらえれば何よりです。
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目次
【現状を知る】中小企業の倒産件数や売上・雇用・賃上げ状況・金融環境は?
コロナ禍以降の中小企業の倒産件数と、現在の状況について教えてください。
コロナ禍以降の倒産件数は2021年度については戦後65年以降、最も少ないという記録的な低水準を記録しました。2020年4月から緊急事態宣言、まん延防止措置法が続き、企業や経済が思うようにまわらない厳しい状態が続いたため、倒産件数は増えると予想されましたが、まったく違う結果となっています。
倒産減少の大きな要因としては、コロナ融資やゼロゼロ融資と呼ばれる、経営難に苦しむ中小企業の資金繰りを支援する融資制度の存在が挙げられます。多くの企業が「売上の見込みが立たない」「売上が戻らない」といった悩みを抱えていましたが、ほぼ無条件で国からキャッシュが行き渡ったことによって、倒産を回避できました。
2022年以降も同じ状況が続くと思われましたが、8月の倒産件数は前年同月を上回る水準です。結果としては、4か月間連続での倒産件数の増加となりました。2021年の倒産件数は前年同月から2桁減という状況が続いていましたが、2022年以降は反転し、緩やかな増加傾向に転じている状況です。
中小企業の売上状況は、現在どの程度回復しているのでしょうか?また、製造業、情報通信業、飲食業、宿泊業などによる傾向の違いがあれば教えてください。
全体感から先に申し上げると、企業の業績は必ずしも良いとはいえない状況です。
先日、2022年度の業績がどうなるかという見通しについて、全国2万4,561社に尋ねたところ、増収増益であると回答した企業は2割弱で、21年度の同月よりもさらに落ち込んだ結果となりました。
業種別に見てみると、飲食店、旅館業については期待感も含め前年に比べ高くなっているものの、増収増益と回答した企業は4割にも満たない状況です。まだまだ多くの企業が、厳しい状況であると捉えています。
一方、製造業も新型コロナウイルスから回復し、消費が元に戻っていくという見立てがありました。しかし、中国や東南アジアのロックダウンの影響を受けて半導体不足となったことにより、部品が思うように供給されなくなり、多くの企業が増収増益にならないという予想を立てています。特に自動車、家電関係は厳しい状況です。
意外なところでは、情報・通信業がかつてほどの勢いがないといわれています。前年については、コロナ禍の営業スタイルということで、各社がオンラインツールの提供や在宅環境の整備といった特需が発生しました。その需要がひと段落したことが、勢いがなくなった理由の一つです。
また、一部の企業では対面で営業ができなくなったことによって、成約率が上がらなくなったという声もありました。
融資に関して、支払い期限などの状況は、現在どのようになっているのでしょうか?
金融環境については前年から大きく変化したところはなく「中小企業を支援します」という基本のスタンス自体も変わっていません。直近は厳しい状態が続きますが、金融機関自ら「積極的に支援をしない」というスタンスを打ち出している状況ではありません。
したがって、借入金の返済についても返済猶予という形で先送りをさせるスタンスに変化はありません。ただし、あくまでも既存の借入金に対してのみの話です。
追加融資を行っても返済ができる、もしくは今後業績が回復する見込みがある企業については、金融機関も積極的に支援をする姿勢をみせています。一方、追加融資を行っても、いわゆるゾンビといわれるような、今後も事業の利益が立たない企業や事業として存続が難しいと考えられる企業については、緩やかに市場退出を促してしていくスタンスです。我々は、これを医療現場になぞらえてトリアージ(選別)と呼んでいます。
国の財政がかなり限界に近づいていることもあり、これ以上の追加支援は難しい状況です。そのため、支援に頼りきりで自立できない企業については、残念ながらもうそれ以上の支援が望めないという方向へ、少しずつ温度感が変化しているのではないかと思っています。
中小企業の雇用面については厳しい状況が続いているかと思われますが、現状としてはどのような様子でしょうか?
人材採用に関しては、新型コロナウイルス前の状況に戻りつつある印象があります。
先日の調査では「正社員の人手が足りない」と答えた企業の割合は49.3%で、ほぼ半数の企業で人手が足りないと認識している状況です。特にIT業界では、ソフトウェアを開発するIT人材が不足しているため、人材の取り合いになっています。
またアルバイトやパートの採用も、非常に厳しい状況といえます。29.1%の企業が非正規の雇用が足りないと回答しており、これは2019年の37.8%に並ぶ程度の水準です。また、正社員・非正社員ともに、人手不足の割合はコロナ禍(2020年4月)以降では最高水準となっています。
一昨年、昨年については、飲食店などを中心にアルバイトの採用を控える企業が多かったことが、現在の採用難に陥っている背景にあります。コロナ禍に飲食店や旅館で解雇された人材が、需要が増えた運送業や倉庫業などに移ってしまい、そのまま戻ってきていないのが現状です。
飲食店や旅館などは「薄給・多忙の職場」というイメージもあり、人材採用の足かせになっていると聞きます。さらに、経営がうまくいっていない場合には、人材獲得のために良い条件を提示しづらくなっていることも課題といえるでしょう。
賃上げについては、どのような状況でしょうか?
2022年度の企業の賃金動向について尋ねたところ、正社員の賃金改善について「ある」と答えた企業は54.6%で、こちらも新型コロナウイルス前の状況に戻っているといえるでしょう。
一方「ない」と答えた企業は19.5%ということで、前回の28.0%に比べ低下しています。
業界別にみると、製造業が最も高く、建設やサービスがそれに続いています。先ほどお話した通り、一度人材を解雇してしまうと新たな採用が難しくなるリスクがあるため、苦しい状況であっても、離職率抑制のために賃上げは仕方ないと考える企業も存在するということです。
最近、中小企業の経営者からは、帝国データバンクに対してどのような相談が多いのでしょうか?
新しい営業先を開拓したいというご相談が、コロナ禍の2020年や2021年よりも増えている印象です。売上向上のご相談以外では、新商品開発に取り組みたいといったご相談が、日々弊社に寄せられています。
また、コロナ禍から徐々に増えていると感じるのは、今のうちに社内の体制を見直したいというご相談です。例えば、人材採用の規定やISOなどの内部指標、コンプライアンスの整備などが挙げられます。また残業の抑制といった労働環境の整備や、社内におけるリソース配分の最適化といったご相談も多くお寄せいただいています。
最近は、人材採用が難しくなっているため、離職率を抑制する施策を強化する企業が増えています。しかし人は採用できても、内部体制の整備までは追いついていない企業も多いというのが現状のようです。
【業種別予測】製造業と飲食・サービス業における未来を読む
日本の中小企業はこれから先どのような状況になりそうか、今後の見通しについて業種別に教えてください。
大きなテーマとしては、物価高が一番の課題になってくると思います。物価高の範囲がかなり厳しく、原油や食品、木材、金属など、むしろ値段が上がっていないものを探すのが難しい状況です。
人件費の高騰も、課題といえるでしょう。先日、政府から賃金を大きく引き上げるという話もありましたが、最低賃金が引き上がるということは、その分採用時の給料も上がりますし、従業員の給料も上げる必要があります。
となると、今後のコスト高にどう対応するかというのが、中小企業が向き合うべき課題となってきます。言い換えれば、コスト高をどう価格に転嫁していくかが、今後の収益を左右する大きな命題となるのです。
製造業
業種別に見ていくと、どの業種にも言えることですが、製造業では特定の取引先に依存している企業は、今後先行きが厳しくなることが予想されるでしょう。また、ただ「加工するだけ」「流すだけ」といった企業もこの先淘汰されていく可能性が高く、いかに付加価値を高めていくかが課題になってくると思います。
例えばDXを推進して生産性を向上することや、設備投資をしてより省力化、効率化を目指すといった工夫が重要です。コロナ禍の影響もあり、現状維持の企業はこの先置いていかれる可能性が高いとみています。
飲食・サービス業
飲食業やサービス業は、さらに厳しい状況になることが予想されるでしょう。特に、これまでインバウンドに多くを頼ってきた企業は、根本的に事業を見直す必要があります。
これまでインバウンドを主軸としていた企業は、何もしなくてもお客さまが来ていました。しかし現在は状況が違いますから、自分たちで積極的に情報発信をしてお客さまをつかむ努力が必要です。
また、宿泊施設に限っていえば、改めて事業のコスト構造を見直すことも大切です。例えば、一泊の宿泊料金のうちリネン代や朝食・夕食、従業員などのコストがいくらかかかっているかを分析している企業は、意外に多くないといわれています。
近年、宿泊のニーズは多様化しています。一人旅を満喫したい方もいれば、ファミリーで少し高級な所に泊まりたい、夫婦二人で素泊まりをしたいというように、ライフスタイルによってさまざまなニーズがある状況です。コスト構造を理解しておかないと、こうしたニーズに対応できる適切な価格設定や付加価値の創出は困難といえるでしょう。
コロナ禍の厳しい状況にあってもお客さまを呼び込み売上を伸ばしている宿泊業では、こうしたコスト構造を理解したうえで、売上と収益を最大限高める取り組みを実践しています。今後、こうした取り組みが遅れた企業は競争に負けて、最終的に淘汰されていく可能性が高いでしょう。
飲食店については、現在売上が伸びている企業の多くは、新型コロナウイルス前後でまったく違う業態にチャレンジしています。例えば、昼は喫茶店営業をして、夜は居酒屋業態というような二毛作ビジネスにチャレンジをした結果、成功を収めた例などがあります。多様化したお客さまのニーズを満たすためには、失敗を恐れないチャレンジが必要と考えてください。
新型コロナウイルスを機に二極化する中小企業
高齢化や後継者不足は、中小企業にどのような影響を与えるのでしょうか?
後継者がいない企業の割合は、新型コロナウイルスによって大きく下がりました。それまでは66%程度で3社中2社は後継者がいない状況でしたが、昨年の調査では61%まで低下し、マックスから7ポイントほど下がっています。
背景はいろいろありますが、コロナ禍を機に自社の事業を継続するかどうかを、改めて考える経営者が増えたことが大きな理由として挙げられるでしょう。また、銀行から「将来どうですか」と尋ねられた際、考える機会が増えたという経営者が増えたという話もよく聞きます。
検討した結果、事業を続けられそうにないという企業は、緩やかに廃業に向かうでしょう。倒産すると自分自身も大きなダメージを負うため、余力と時間が残っているうちに、できるだけ雇用や自社の技術に悪影響を与えない方法で廃業などを検討する必要があります。
一方、コロナ融資を借りて、今後返済していくために事業を継続しなくてはいけない企業などは、後継者問題の解決が必要です。チャレンジをするためにも、早急な後継者候補の選定と育成に注力しなくてはいけません。
今後の中小企業は、こうした二極化が進むのではないかと予想されます。
未来に向けて経営者がすべき舵取りとは
今後、中小企業の経営者はどう経営の舵取りをしていくべきでしょうか?
中小企業の経営者に一番お伝えしたいことは、1人で問題を抱え込むこと、1人で悩むことをしないでほしいということです。
例えば資金繰りや人材、後継者の問題などを、すべて社長1人で解決するのは不可能だと思います。1人で問題をずっと抱え込んだ結果、解決できるタイミングがなくなり、手が付けられなくなって最終的に経営が破綻していった、もしくは自身が病気などで無念のうちに亡くなられた中小企業の事例を、これまでもたくさん見てきました。
弊社としては、できればそのような事態は避けて欲しいという思いがあります。我々帝国データバンクの信用調査マンでもいいですし、お付き合いしている銀行や地域の中小企業再生支援協議会など「中小企業を助けたい」と考えている方々に、ぜひ相談してみてください。
中小企業の経営者のなかには、厳しい現状を正直に相談したら銀行から融資を引き上げられるのではないか、取引が止められるのではと思い、悩んでいる方も多いと思います。しかし、一昔前ならともかく、今は決してそんなことはありません。
むしろ今では、相談しながら一緒に経営課題を解決していきたいと考える銀行や信用金庫、地域の商工会の方などがたくさんいます。ぜひ、そういった方々に一度相談する時間を作ってください。そのうえで今後の舵取りをどうすべきか、1人ではなく地域の皆さんと帆走・伴走しながら考えるという発想をもっていただきたいと思います。
相談したことで、良い提案をもらえる場合もあります。例えば、自社の事業と親和性が高い技術を持つスタートアップと新規事業を始めたことで、業績が回復した中小企業の事例もあります。銀行マンも万能ではないので、声をあげていただかないと課題に気づけない、水面下でもがき苦しむ経営者の姿に気づかないケースはたくさんあります。つまり助けたくても助けることができないのです。それは経営者だけでなく地域にとっても、非常にもったいないことです。ぜひ1人で悩まず周りに頼ってください。
今後、ますます労働力の確保が難しくなると思いますが、従業員の雇用や賃金については、どのように考えるべきでしょうか?
現在は少子高齢化で労働人口が減少し続ける人手不足の状況ですから、人を呼び込むためには、やはり給料を上げる必要もあるでしょう。ただし「最低賃金が上がったからといって、自社も同様にすぐに給料を上げる必要はない」ということをお伝えしたいです。
実は2018年に企業の採用時における最低賃金の調査を行ったところ、全国平均で975円でした。当時の最低賃金は全体平均で874円、2022年の最低賃金は930円となっていますから、仮に当時と給与水準が変わっていないのなら、現在でも最低賃金の水準を上回る状況です。つまり、慌てて賃金を上げなくてはいけない状況かというと、多くの企業では必ずしもそうではないのです。
ただ、人材獲得競争自体はいまも白熱しています。求職者が職場を選ぶ最終的な決め手の1つとして、賃金のアップは今後も考える必要がありますから、二律背反の状況だといえるでしょう。最終的には、自社の収益とバランスをとる必要があると考えてください。
ただし、求職者が必ずしも賃金だけを見ているわけではないことも、お伝えしたいです。もちろん、時給が高いほうがよいという方もいます。しかし社内の労働環境や人間関係、福利厚生、コンプライアンスなどを重視する方も、たくさんいます。アピールすべきは必ずしも時給の高さである必要はない、ということです。
一方で、「働きやすく、離職率が低い」という、見えなくても優れた点をアピールできていない中小企業も多いので、ぜひ自社のPRに有効活用してみてはいかがでしょうか。それでも人が採用できない場合は、最終手段として賃金アップに着手する必要がありそうです。ただしその際には、均衡を保つために、既存の従業員の給与を上げる施策も同時に行う必要があります。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
飯島 大介(株式会社帝国データバンク 情報統括部主任)
本社産業調査部、データソリューション企画部を経て、令和3年に東京支社情報統括部。企業データの企画分析・アナリスト業務を担当。得られた分析結果は「特別企画レポート」として執筆し、官公庁や新聞・テレビなど多方面で活用されている。主な調査対象は自動車産業や企業の海外進出動向、コンシューマー産業、アニメ産業など。最近の主な調査企画には食品の値上げ動向を取りまとめた「『食品主要105社』価格改定動向調査(10月)」など。
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