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人件費の最適化や人材確保にも!中小企業が知っておくべき「労働時間制」の選択肢

2024.11.26

著者:弥報編集部

監修者:宮田 享子

2024年4月1日、裁量労働制について労働基準法施行規則などが改正されました。労働時間制度は、従業員の働き方を大きく左右する重要な要素です。中小企業にとっては、従業員のワークライフバランスを保ちながら、効率的な経営を行うために適切な制度を導入することが鍵となります。

今回はみやた社労士事務所の宮田享子さんに、知っておくべき各制度の概要などについてお話を伺いました。この機会に、法定労働時間や変形労働時間制など各制度の特徴を理解し、自社に最適な選択肢を見つけましょう。


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労働時間の原則「法定労働時間」とは?

まず、基本的な労働時間制度の概要を教えてください。

労働時間制度にはいくつかの種類がありますが、基本となるのは「法定労働時間」です。法定労働時間は労働基準法で定められており、1日8時間、週40時間の労働時間が上限とされています。ただし労働者数が10人未満の小規模事業所に限り、一部の業種では週44時間まで労働が認められる特例があります。これは商業や保健衛生業、接客業など特定の業種(特例事業場)に適用される規定です。

法定労働時間を超える際には割増賃金を支払う必要があり、企業にとっては人件費が追加で発生します。その場合は必ず「時間外労働協定」、通称「36(サブロク)協定」を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。さらに、時間外労働には法的な上限が設けられており、36協定を結んで届け出たからといって、雇用者が無制限に時間外労働を強いることはできません。

最近では「法定労働時間」以外を採用する企業も増えていると聞きます。

労働基準法では法定労働時間を原則としつつも、事業の実態に合わせて幅広い働き方を認めています。実際に厚生労働省が令和5年(2023年)に行った調査によれば、法定労働時間以外を適用している企業は全体の半数以上となっていることがわかっています。近年では従業員の柔軟な働き方やワークライフバランスの重要性が増しており、画一的な労働力の確保も難しくなっていることも背景にあるでしょう。

今後は中小企業も法定労働時間以外の制度を選択肢として知り、今一度検討・確認してみてはいかがでしょうか。

(参考)
令和5年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省

人件費の最適化、人材の確保……柔軟な労働時間制が会社を強くする

「法定労働時間」以外の制度を採用するメリットを教えてください。

まず、人件費の最適化があげられます。法定労働時間に縛られないことで、企業は労働時間やシフトを柔軟に設定でき、業務の繁閑に応じてリソースを効率的に配分することが可能です。例えば、忙しい時期には必要なだけの労働力を投入し、業務が少ない時期には勤務時間を減らすといった調整がしやすくなります。このような運用により、人件費を無駄なく使いながら、業務効率の向上も期待できます。

加えて人材が確保しやすくなるなどの効果も見込まれます。柔軟な働き方が求められる昨今、法定労働時間にこだわらない企業は、柔軟性を重視する求職者にとって魅力的な選択肢となります。特に「採用がうまくいかない」と悩む中小企業にとって、法定労働時間以外の制度を導入することは、対応策の1つになり得るでしょう。

在籍する従業員に関しても、働き方の自由度が高くなることでワークライフバランスが取りやすくなり、満足度の向上といったメリットもあげられます。育児や介護、趣味などを重視する従業員にも配慮できる環境を整えられれば、結果的に離職率の低下にもつながるでしょう。

変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制……どう違う?

「柔軟な働き方」を実現するために、具体的にどのような制度があるのか教えてください。

代表的なもので大きく分類すると「変形労働時間制」と「みなし労働時間制」の2つがあり、小分類として皆さんがよく耳にするような「フレックスタイム制度」「裁量労働制」などがあります。1つずつ解説していきましょう。

変形労働時間制

企業の繁忙期と閑散期に応じて、労働時間を柔軟に調整できる制度です。一定期間(1週間、1か月、1年など)の中で労働時間を調整し、忙しい時期には1日9時間、閑散期には6時間など、労働時間を変動させ、一定期間全体で週平均40時間を超えないように調整できます。なお、特例事業場は週平均44時間が可能です(1年単位の変形労働時間制以外)。

1週間単位または1か月単位の変形労働時間制は、特定の期間に労働時間を長めに設定し、それ以外の時期に短くすることで、業務の波に柔軟に対応できる制度です。繁忙期に残業代が発生しにくくなり、企業はコストを抑えつつ、効率的に労働力を活用することが可能です。例えばサービス業や小売業、製造業など、週または月ごとの繁閑がはっきりしている業界ではこの制度が有効でしょう。なお、1週間単位の非定型的変形労働時間制は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業に限ります。

一方で1年単位の変形労働時間制は、季節による業務の繁閑がある企業に適しています。例えば、観光業や宿泊業では、観光シーズンに業務が集中し、閑散期に労働需要が減ることがよくあります。1年間の中で忙しい時期に労働時間を増やし、閑散期に労働時間を短縮することで、年間を通じて効率的な従業員の配置が可能になります。この制度を活用すれば、シーズンごとに大幅な残業を避けつつ、年間の労働時間を調整することができます。

フレックスタイム制

従業員が自分で出勤・退勤の時間を決定できる制度で、分類としては変形労働時間制の1つです。通常、コアタイム(全員が出勤している必要がある時間帯)とフレキシブルタイム(自由に働く時間)に分かれていますが、近年ではコアタイムなしの「スーパーフレックス」と呼ばれる制度を導入する企業も増えてきました。

フレックスタイム制の利点は、従業員が自分のライフスタイルに合わせて働けることです。例えば育児や介護をしながら働く従業員にとって、時間の融通が利くフレックスタイム制は非常に魅力的です。子育てや介護などで稼働時間が流動的になりがちな従業員が多い場合は、パフォーマンスを最大化できる点も企業にとってのメリットとなるでしょう。

みなし労働時間制

実働時間ではなく、事前に定めたみなし労働時間を基に労働時間をカウントする制度です。みなし労働時間です。始業・終業時刻や労働時間を定めず、労働者に委ねたうえで運用するのが一般的です。みなし労働時間制の小分類としては以下の3制度があります。

事業場外みなし労働時間制

事業場外で業務を行い、労働時間の算定が難しい場合に適用されます。例えば、外回り営業などを行う従業員など、実際の労働時間を把握するのが難しい職種に利用されます。

専門業務型裁量労働制

成果物や業務の進捗に基づいて評価される職種に適用されます。例えばプログラマーやデザイナー、研究職など、業務の性質上、遂行の手段や時間配分の決定などに関して、使用者から具体的な指示をすることが困難なものとして定められた20の業務に限られています。時間に縛られない反面、自己管理能力が求められます。

企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査や、分析の業務が対象となります。例えば経営企画を担当する部署で、会社の経営状態や経営環境について調査・分析を行い、経営に関する計画を策定する業務などが適用対象です。

なお、2024年4月の改正では、裁量労働制の導入と継続に新たな手続きが必要となりました。同意の撤回後の処遇や申出方法などについての事前協定で定める義務などが追加されています。細かな改正点は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。

業種や規模に応じた適切な労働時間制度を導入すれば、従業員の働きやすさを向上させるとともに、業務効率の改善につながるでしょう。

(参考)
裁量労働制の概要|厚生労働省

どの制度が適している?考え方や懸念点も知っておこう

各制度は、どのような企業やケースに適しているといった指標はありますか。

先ほどお伝えした通り、繁閑のある小売業や製造業には変形労働時間制、IT業界やクリエイティブ業界などは裁量労働制が適している可能性が高いですが、一概に「この会社には必ずこの制度が適切だ」といった指標はありません。

例えばテレワークを行っている企業を例にあげてみても、常時連絡が可能な状態にあるかどうか、都度指示を受けて業務を行っているかどうか、などの細かな状況によって適切な制度が変わってきます。

自社の業務形態を見直し、従業員のパフォーマンスが落ちる制度になっていないか、余計に賃金が発生してしまっていないかなどを確認してから、どの制度を選ぶべきかを柔軟に検討することをおすすめします。

各制度の導入によって考えられる懸念点はありますか。

労働時間に関する自己管理が従業員に求められるため、労働時間の自由度が高くなる一方で、自己管理がうまくできない従業員が出る可能性があります。これにより、必要以上に長時間働いてしまう、あるいは逆に業務に支障をきたすほどに労働時間が不足する、といった問題が発生するリスクがあります。

組織全体のつながりやコミュニケーションが希薄になる懸念もあるでしょう。例えば、リモートワークやフレックスタイム制を導入することで、従業員が異なる時間帯や場所で働くことが増え、対面でのコミュニケーションが減少することがあります。結果として、従業員同士の親近感や組織文化の維持が難しくなる可能性もあるので注意が必要です。どの制度を導入するにしても、適切な管理と計画が欠かせません。

導入ステップと成功のための秘訣

新たな労働時間制度の導入は、どのような流れで行うとよいでしょうか。

労働時間制度を導入する際は、必要に応じて就業規則の見直し、労使協定の締結、労働基準監督署への届け出、労働時間の管理、従業員への周知など、複数のステップが求められます。労使協定や労使委員会の決議内容は、従業員全員に周知しなければなりません。また、各制度によって労働基準監督署への届出の有無や届け出る内容は異なります。詳細は厚生労働省の各種リーフレットを確認するとよいでしょう。

(参考)
労働基準関係リーフレット|厚生労働省

その他、成功させるためのポイントなどがあれば教えてください。

スムーズな制度の導入には従業員への周知徹底と、制度運用に伴う管理体制の整備が求められます。いずれの制度も時間の自由度が高いため、従業員同士の連携を維持するコミュニケーションツールや、勤怠管理システムの導入も検討することをおすすめします。

制度を導入する前にシミュレーションを行うのも効果的です。例えば、一部の部署や特定の社員にテスト導入し、問題点を洗い出すことで、全社導入時のトラブルを避けられます。特に小規模な企業では社内リソースが限られているため、導入後の管理が現実的に可能かどうかも慎重に判断する必要があります。社労士などの専門家に相談することも1つの手でしょう。

中小企業にとって、従業員の労働時間管理が複雑化するのは、短期的に見れば確かに導入のハードルは高く感じるでしょう。しかし長期的な視点で見るとさまざまなメリットがあり、結果として企業競争力の向上につながります。まずは各労働時間制度を知ることから始め、会社の未来のために自社の働き方を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。


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この記事の著者

弥報編集部

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宮田 享子(みやた社労士事務所 代表)

社会保険労務士。産業カウンセラー。
B型。左利き。商社・損害保険会社・ゲームソフト会社など、さまざまな業種の企業で事務職を経験した後、結婚を機に退職。2児の育児中に友人の社労士事務所を手伝ったことが資格取得のきっかけとなった。
2010年4月に独立開業し、労務相談の他講師業や執筆業等にも力を入れている。「お堅い法律の話を馴染みやすく」がモットー。
趣味はオーボエ演奏なので「チャルメラ社労士」を名乗る。

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