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売るタイミングや売買成立のコツは?中小企業M&Aを成功させるための秘訣【船井総研が解説】

2024.07.09

著者:弥報編集部

監修者:光田 卓司

事業承継の方法として、中小企業の経営者がM&Aを検討するケースが増えています。しかし、M&Aを成立させるには適切な売却タイミングがあることをご存じでしょうか。

今回は、株式会社船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部の光田卓司さんに、M&Aを検討する最適なタイミングを解説いただき、良い条件で会社を売却するためのコツなどについてお話を伺いました。

M&Aは、後継者不在時の事業承継の一手としてだけでなく、経営戦略としても前向きに取り組んでみてもよいかもしれません。ぜひ参考にしてください。


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増える中小企業のM&A

中小企業のM&Aについて、昨今の推移を教えてください。

あくまでも公表されている件数からの考察にはなりますが、M&Aは増加傾向にあります。加えて、中小企業の成立割合も拡大しています。また、国の公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」への問い合わせ数も増えており、注目度は年々高まっています。

経営者の平均年齢が年々上がっていることや、多くの企業が後継者問題を抱えている背景がある他、政府や各種機関などの積極的な支援があることも、M&Aへの関心を高めている理由としてあげられるでしょう。

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中小企業が、どのようなタイミングでM&Aに取り組んでいるかを教えてください。

やはり経営者の高齢化に伴い、世代交代を考えるタイミングで事業承継の一手としてM&Aを検討する企業が多いです。後継者不足も加速の一途を辿る中、M&A件数はますます多くなると予測されています。

その他、健康面でのできごとや社会情勢などの大きな変化を受け、M&Aを決意される経営者も少なくありません。

M&Aには、どれくらいの期間がかかると想定すべきでしょうか?

企業によって異なりますが、事前準備をしっかりと行ったうえで進行する場合、最低でも半年はかかると想定してください。理想は2~3年程度の余裕がある方が望ましいでしょう。

ちなみに親族や企業内での後継者がいる事業承継の場合、後継者が経営力を発揮できるようになるまでに、一般的に5年以上はかかると考えられています。いずれにしても、余裕を持って取り組むに越したことはないでしょう。

M&Aを検討するタイミング、いつが適切?

M&Aを検討する適切なタイミングがあれば教えてください。

事業承継の選択肢としてM&Aを検討するのはもちろんですが、経営戦略の側面もふまえ、良い条件で取引を成立させることを目的にした場合、事業ライフサイクルが「成長期」のタイミングが理想です。

事業のライフサイクルは通常、顧客の獲得と市場の拡大期である「導入期」「成長期」、事業が安定する「成熟期」、しだいに衰退していく「展開期(斜陽期)」「安定期(衰退期)」があります。業界市場規模が大きくなっていく「成長期」でM&Aを行えば、さらなる事業成長が期待されるので、好条件での売買成立が狙えますし、売買後の事業成長も期待できます。

また、業界上位の企業の統合や投資ファンドなどによる業界再編が起こるタイミングもM&Aの動きが活発になり、ニーズも高まるでしょう。M&Aを検討していなくても、そのようなタイミングに声がかかり、譲渡を検討する例もあるようです。

中小企業のM&Aは、事業承継の最終手段や、赤字事業の精算方法として捉える会社も少なくありません。しかしタイミングを間違えてしまい、結果として廃業を選ばざるをえない企業があるのも事実です。会社や従業員のことを考えれば、適切なタイミングかつ適切なM&Aを行うことが、より良い結果につながるでしょう。

経営戦略として自社がM&Aをすべきか迷ったとき、どのように判断すればよいでしょうか?

「会社を売却するかどうか」ではなく、「この先会社が自力で事業成長を続けていけるかどうか」に焦点を当てて検討してください。業界の将来性が低く、今後自力では経営が厳しくなると判断した場合に、ファンドや他企業とのシナジー効果で事業成長を続けていけばよいのです。タイミングを誤りさえしなければ、比較的好条件で売買が成立する場合も多く、売手の要望が通るケースも見受けられます。

実際に、早い段階でM&Aに取り組んだ企業例はありますか。

葬儀業界の例をあげてみましょう。ある葬儀会社の経営者は、自身が45歳のときにM&Aを決意されました。会社の業績も良く過去最高益を記録したタイミングでしたが、将来を考えた際、葬式件数の減少が想定される中で業界全体が右肩下がりであることを見通し、早めの決断に至ったのです。

結果としてある企業から希望を受け、早々に売買が成立しました。譲渡後も経営者、従業員、屋号などは変わらず継続する条件も成立し、現在では譲渡実行前の3倍近くの施工件数を獲得しており、成長を続けているといいます。

売却のタイミングを逃さないためのコツを教えてください。

日ごろから業界の市場動向などを追い、情報収集を積極的に行いましょう。例えばセミナーに参加したり、経営コンサルタントを活用したりする方法もありますね。業界に詳しい人や機関に問い合わせるなどして、アンテナを張ることを怠らないでください。

あるいは、「まだ譲渡は考えていないが、まずは情報収集の一環として自社に興味のある会社を見てみよう」というように、M&A仲介会社に気軽に問い合わせてみてもよいかもしれません。

「良いM&A」のための事前準備

M&Aを検討する際、必要な事前準備とポイントを教えてください。

M&Aを進めるにあたり、非常に重要になってくるのが「デューデリジェンス」です。デューデリジェンスとは、売手企業における財務状況などの実態を明確にし、交渉時に役立てるための調査のことを指します。調査範囲は、財務・税務・法務・労務・ITなど多岐に渡ります。至極まっとうな経営をしていれば問題ないですが、思わぬ所を調査されて慌てる企業も少なくありません。

よって必要な準備としては、日ごろから財務や法務などの内部体制を強化し、適切な企業経営をしているかを改めて確認しておくことをおすすめします。その他、現在の株主名義や株主総会の議事録などについても把握し、記録を辿れるようにしておくと、M&Aの進行がスムースになるでしょう。

デューデリジェンスは、さまざまな資料の提出依頼や質疑対応などがあるので、売手企業に負荷がかかりますが、健全な経営状況を見せることにより、好条件で売買を成立させられる可能性も高まります。仮に好ましくない事項があったとしても、デューデリジェンス時に露呈するよりも、事前に把握して掲示しておいた方がリスクは低くなるでしょう。

好条件で売買成立させるためのコツは「将来性」

M&Aを好条件で成立させるためのコツを教えてください。

買手企業がM&Aに期待するのは、「事業拡大」が大半です。よって、自社の技術やノウハウ、販路などの強みを整理して明確に伝え、想定されるシナジー効果をより具体的にイメージしてもらいましょう。

また、中長期的な視点で具体的な事業の成長を描けるかどうかも重要です。買手候補先に、自社の将来性をいかにアピールできるかで、評価も変わってきます。

そのための対策を教えてください。

事業の先を見据えた概要書や事業計画書を作成しましょう。加えて、予実管理表の数値と照らし合わせることでそれらの信憑性を高めます。未来を見据えた経営をしていると理解してもらい、期待できる内容であれば評価の対象になります。

M&Aのサポートを専門家などに依頼する場合は、業界に特化した相談先の方が、具体的な経営計画を立てやすい傾向があります。いずれにしても、その場しのぎの事業計画ではなく、M&A後のことも考えた事業計画書を作成できれば、信頼度が上がり将来性も感じてもらえるでしょう。

私たちはM&A支援の際、実際の企業マッチングに入る前の段階で、企業価値を診断します。その結果により、必要であれば中期経営計画策定やビジョン策定などのサポートもしていますが、やはりその工程を踏むことで企業価値も大幅に上がり、結果として企業に将来性を感じた買手が決まる例が多いです。

現状の企業価値が低かったとしても、対策を講じれば高められることもあるので、前向きに取り組んでいただければと思います。

 

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

光田 卓司(株式会社船井総合研究所 フィナンシャルアドバイザリー支援部マネージング・ディレクター)

横浜国立大学を卒業後、船井総研に入社。大学時代にベンチャーを立ち上げるなど多岐に渡るビジネスを経験。入社後は専門サービス業の経営コンサルティング部門の統括責任者を行い多数のM&Aを経験。現在は、M&A部門の統括責任者を務める。買って終わり、売って終わりではなく、M&A後の企業成長を実現するマッチングに定評がある。過去に経営支援を行ってきた企業は200を超える。

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