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中小企業の「技術伝承」はなぜ進まない?ベテラン社員の技術を若手に引き継ぐ最適な方法とは

2023.05.24

著者:弥報編集部

監修者:畑 和宏

高齢化に悩む中小企業では、技術伝承問題に頭を悩ますところが多く見受けられます。技術を持っているベテラン従業員に若手への伝承をお願いしてもなぜかうまく伝わらなかったり、マニュアルがあってもまったく機能していなかったり……。そういった問題を解決し、技術伝承を進めるにはどうしたらよいのでしょうか?

技術伝承を上手く進めるには重要なポイントがあります。それは「技術の棚卸しを行い、ベテランの持つ暗黙知を可視化する」ことなのだそうです。

今回は、技術・技能伝承について支援プログラムを共同開発するなど、ひとづくり系・ものづくり系のコンサルティング支援に力を注いでいる株式会社ジェムコ日本経営の畑 和宏さんに、正しい技術伝承の方法について伺いました。

製造業の会社だけに限らず、バックオフィスなどあらゆる業務の引き継ぎにも役立つ内容になっています。


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なぜ若手に伝わらない?技術伝承が難しい理由

技術伝承を行っている会社では、どのような課題が発生していますか?

まず、自分が教わったやり方で教えようとする人が多いという課題があります。ベテランの人たちの若いころは「見て覚えろ」「やりながら学べ」と言われる時代だったんですが、今の若い人たちにはそのやり方では伝わりません。世代間の問題では、お互い何を教えたいのか、何が知りたい・聞きたいのかよくわからない、コミュニケーションがうまくいかないとの声もよく聞かれます。

そして、手順書は存在するものの内容が更新されておらず、今のやり方と乖離していることもありがちな課題です。それならばと手順書をメンテナンスしようとしても、一番詳しい従業員はだれなのかがわからず、手順書を作成した人を探すところから始めなければいけません。また、該当者が既に辞めている場合もよくありますので、メンテナンスは定期的に行うことが大事です。

技術伝承がうまくいかない・難しいのはなぜでしょう。

暗黙知が可視化されていないことが、技術伝承の難しさにつながっていると言えるでしょう。ベテランは経験豊富で、さまざまな知見を持っています。ただし、論拠を説明できなければ、そのやり方は説得力を持ちません。加えて、他の従業員がなぜそうする必要があるのかわからない技術は、たとえ引き継いだとしても、トラブルが発生したときに問題解決が難しくなります。そもそも理解に時間がかかるようでは、現場でタイムリーに活用することもできません。伝承する技術は、背景も含めてだれにでも理解できるものでないといけないのです。

技術伝承で困っている会社は、やはり製造業が多いのでしょうか。

製造業が多い印象です。少なくともジェムコのクライアントは、大半がものづくりの会社です。製造業、特に「町工場」と呼ばれるような会社が多くを占めています。

大事なのは「技術の棚卸し」!技術伝承を行う方法や注意点

技術伝承を始める際に、まず何をすればよいのでしょうか。

技術伝承に取り組む前に、伝承する内容を「作業標準」「技術標準」「管理標準」の3つに分類し、可視化することから始めてください。作業標準は、仕事の手順ややり方・方法を示すもので、作業手順書とも呼ばれています。技術標準は、各技術の原理・原則、根拠などをまとめた基準・規定類です。管理標準は、品質マニュアル・設計規定・DR要領・ISOをはじめとする管理規定類を指します。このうち、技術伝承において特に大切なのが作業標準・技術標準の2つです。

作業標準・技術標準・管理標準の各種ノウハウがごちゃ混ぜになったマニュアルはわかりづらく、実践的な内容にはなりません。標準を3つに分類したうえで、どの工程でどんな対応が必要なのかといった3つの標準の「紐づけ」を行い、その関連性を明確にすると良いでしょう。3つの標準が分類・整理された状態で、初めて技術伝承の準備が整います。

実際の技術伝承はどのような流れで行うのでしょうか。

ジェムコでは、コンサルタントとテクニカルライターが下記の流れで共同作業します。

〈技術伝承を行う流れ〉
  1. 技術・技能保有者に既存の手順書・マニュアル、ドキュメント、参考資料などの収集を依頼する
  2. 技術・技能保有者に業務・作業の進め方・手順とその際の考え方、技術に関する知識・知見をヒアリングする
  3. ヒアリングした内容の整理
  4. フロー図や業務・作業手順書、イメージ図(ポンチ絵や図表など)の作成 5、業務・作業手順書などを技術・技能継承者が理解できるか、その場で確認しながら進行

ヒアリングで重要なのは「暗黙知」を引き出すことです。暗黙知とは、経験や勘に基づく知識・動作を言葉にできないまま個人が保有している潜在的なナレッジを指します。暗黙知である以上、本人がマニュアルを作るなどしてもその潜在的なナレッジが盛り込まれることはほぼ期待できません。また同時に、第三者の視点で、だれにでも同じように認識・理解できる情報、つまり「形式知」に変えていく必要があります。

形式知化する際は一部の人にしか伝わらないような、あいまいな表現を排除しましょう。フロー図や手順書、イメージ図(ポンチ絵や図用など)の作成段階では、文字で残すのはもちろん、画像や映像、音声を交えて、可能な限りわかりやすい見せ方を心がけてください。手順に変更があった場合は、すぐにメンテナンスできる体制を整えておくのも大切です。

技術伝承を進めるにあたって、注意点があれば教えてください。

最初にドキュメントを取集する段階で、伝承する技術の取捨選択、すなわち「技術の棚卸し」を行うようにしてください。残す技術が決まったら優先順位をつけて、優先度の高いものからヒアリングを開始します。

そして、手順書を作るときは細かな業務や作業ごとに情報をまとめていくより、まずは大まかな流れをフローにして進める全体感を掴むのがおすすめです。その後で、業務や作業の詳細など細かい部分を詰めるほうがやりやすいと思います。

小さな会社が自社内で技術伝承を行うには?

小さな会社が自力で技術伝承を完結させることは可能ですか?

技術伝承を行ううえで重要なヒアリングは、だれでもすぐにできるわけではなく、特に「暗黙知」を引き出すのは決して容易ではありません。やはりコンサルタントであるとか、プロがもたらす外部知識を入れると技術伝承がスムーズに進むのではないでしょうか。

そうはいっても技術伝承にはそれなりに時間がかかるため、取り組んでいる間ずっとコンサルタントに任せていると費用がかさみます。そこでおすすめしたいのが、技術伝承の担当者を選定して、ヒアリングやライティングのノウハウをコンサルタントから学んでもらうことです。ジェムコでは、指導だけでなく実践の場に同行し、その場でのアドバイスも行います。

技術伝承の担当者に適しているのは、30~50代のいわゆる中堅社員です。伝承された技術を使いこなしていくという点では20代も同様ですが、入社間もない人に技術の網羅は難しいと考えています。いずれにしても、柔軟な対応を得意とする人が向いているでしょう。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

技術伝承は、なるべく早く手を打てば現有の技術を維持できますし、伝承によって生み出された新たな技術でさらに厚みを加えること(技術力の強化・向上を図ること)も可能です。小さな会社で技術伝承の時間を作るのは大変ですが、ベテランの高齢化・退職などで対応が遅れると、技術力は時間の経過とともに低下の一途をたどり、技術力の後退や会社の弱体化につながると思われますので、早期に対応されることをおすすめします。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

畑 和宏(株式会社ジェムコ日本経営 上席執行役員 ひと・もの・ことづくり革新コンサルティング事業部長)

設計、購買・調達、製造分野を中心にコスト系や仕組みづくり系、また分野を問わずひとづくり系のコンサルティング支援を実施。「次世代管理者のマネジメント力向上支援」「生産性向上支援」「業務改革・効率化支援」など、実践的な指導・支援は顧客からの評価も高い。特に「技術・技能伝承」については、支援プログラムを共同開発するなど力を入れている。他にも日本企業の再生に必要な多くのコンサルティング技術の開発と支援を行っている。

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