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4年で利益6倍、キャッシュ11倍を実現!?「財務DX」とは【船井総合研究所に聞く】
2023.05.24
著者:弥報編集部
監修者:谷 翔太
経営状況を把握できている企業は、そうでない企業に比べて利益が出やすく、財務体質も良い企業が多いです。しかし、多くの中小企業は月次決算に課題を抱えており、経営状況を把握したくてもできない、時間がかかるというのが現状でしょう。そのような課題をクリアにするのが、財務DXです。
実際、自動車販売店A社は経理・会計業務の自動化や効率化、仕組み化といった財務DXに取り組み、月次決算の早期化と将来の財務状況を可視化したことで、営業利益6倍、キャッシュ11倍を実現しています。今回は船井総合研究所の谷 翔太さんに、中小企業における財務DXの概要や進め方、成功事例などについてお話を伺いました。
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目次
経営状況を財務DXでリアルタイム化!そのメリットとは
そもそも財務DXとは、どのような取り組みなのでしょうか?
財務DXとは、経理や会計などの財務領域における業務のDXです。DXは営業や管理など、さまざまな領域に分かれているのですが、財務領域に特化したものが財務DXと考えてください。
例えば資金調達や投資、出店をはじめ、採用や広告費などについては、多くの企業が知識や経験を頼りに金額を決めているのが現状です。本来は数字を基に判断するべきですから、当然ながら決算書や試算表が必要になります。
しかし多くの中小企業において、月次決算の数字を作る仕組みが非常にアナログなため、スピーディーに作業が行えていません。DXを推進することで、経理・会計業務の自動化や効率化、仕組み化、高度化を実現する必要があります。
財務DXを実現できれば、資金調達や投資などの経営判断を、知識や経験ではなくデータを活用して実施することが可能です。
中小企業が財務DXを実現することによって、得られる具体的なメリットについて教えてください。
売上が伸びることはもちろん、それ以上に利益が増え、お金が残りやすくなる点は、財務DXのメリットとして挙げられます。
某自動車販売店が財務DXを行った結果、16億円だった年商が4年で約2倍の33億円になり、営業利益は6倍の1億、営業利益率は3倍の3%にまで向上しました。また、いつでも借入できる融資枠が3.3倍の10億、現預金も11倍の11億になったそうです。
経営状況をなんとなく把握しているつもりでも、きちんと数字に落とし込んで確認できていない中小企業は多いと思います。財務DXを実現すれば、拠点別や部門別、事業別など見たい数字をすぐに確認することが可能です。
またこれまで作成に1か月以上かかっていた月次決算の試算表が、人員を追加することなく、5日程度で出せるようになる点も大きなメリットといえるでしょう。
紙の試算表で数字を確認する場合、経理担当者や税理士に確認して数日後に返答する流れが一般的です。財務DXを実現することで、スマホやパソコン上ですぐに数字を確認できるようになります。例えば、広告宣伝費の箇所をクリックすると詳細な内訳が確認できますし、個別の数字をクリックすることで請求書などの確認も可能です。
実績が早く出るようになることで、資金繰りの予測もしやすくなるため、先手を打って金融機関に相談したり投資したりできます。未来の経営状況を予測しやすくなることは、財務DXの大きなメリットです。
財務DXを実現するための方法
財務DXを実現するために取り組むべきことや、解決するべき課題を教えてください。
そもそも財務指標を把握できていないことが大きな課題なので、まず月次決算を早く出せるようにすることが大切です。データからも、経営状況や財務指標を把握している企業のほうが財務体質は良く、利益もしっかり出ていることがわかります。
中小企業は月次決算を出すスピードが遅いところが多く、確認に1か月以上の期間がかかることも珍しくありません。売上や原価の計上基準があいまいになっていることもあり、結局のところ年間の業績は、決算で締めてみなければわからないケースも多いです。
請求書や領収書、通帳のコピーを税理士の先生に丸投げしている企業も多いので、社内で会計データが見られないところは非常に多いと思います。そもそも経営状況の把握ができていなかったり、遅かったりすることが中小企業の大きな課題です。
中小企業が月次決算のスピードを速くするためには、どうすればよいのでしょうか?
やるべきことは、大きく3つあります。
1つ目は、クラウド会計の導入です。月次決算をスピーディーに行えるようになり、いつでもどこでも簡単に経営状況がわかるようになります。
2つ目は、AIの活用による経理業務の自動化です。クラウド会計に搭載されたAIが、銀行口座に連携したデータを取り込むことで、入出金データの仕訳を予測してくれるため、簡単に実施できるようになります。
経理業務の工数が削減できて、月次決算のリアルタイム化を実現できれば、経営判断の迅速化や融資への活用が可能となるでしょう。その結果、業績アップを実現することが、3つ目の財務DXです。
経営状況のリアルタイム化を実現するためには、何をどのような順番で取り組むべきでしょうか?
経営状況をリアルタイム化するためには「月次決算DX」「経理DX」「財務DX」という3つのフェーズを踏む必要があります。順番に、それぞれの内容について確認していきましょう。
フェーズ1:月次決算DXの取り組み内容
クラウド会計を導入して自計化し、いつでもどこでも簡単に経営状況がわかるようにする月次決算DXの実現には、以下3つの取り組みが必要です。
- 初期設定・口座連携
- データ移行
- 操作トレーニング
初期設定・口座連携
まず、クラウド会計の初期設定を行い、銀行口座と連携させる必要があります。これにより、AI推定による仕訳の自動化を実現することが可能です。
データ移行
次に、会計や固定資産、取引先などのデータをクラウド会計に移行する作業も必要です。これまで紙で管理していた場合は、データの移行に多くの時間がかかる可能性はあります。
操作トレーニング
そしてデータの移行と並行して、経理担当者が会計ソフトの操作方法を覚える必要があります。特にアナログな作業から移行する場合は、経理担当者から反発される可能性もあるので、注意深く取り組む必要があるでしょう。
フェーズ2:経理DXの取り組み内容
AI活用による経理業務の自動化と経理工数の削減を行うことで、月次決算のリアルタイム化を実現する経理DXにも、以下3つの取り組みが必要です。
- 業務フロー設計
- 紙のデータ化
- システム連携
業務フロー設計
まず、クラウド会計に沿った業務フローの設計が必要です。アナログな作業には無駄な部分も多いはずなので、最適なフローを設計し変えなくてはいけません。
紙のデータ化
次に紙伝票や領収書、請求書などをデータ化して、クラウド会計に読み込ませます。AIが学習することによって、記帳作業を自動化することが可能です。
システム連携
また、別の請求書発行システムや給与計算システム、レジのデータなどがある場合、アナログな企業はそちらのシステムとクラウド会計の両方に二重入力しているケースが多いです。これらのデータをシステム連携し、データとして取り込む形にすることで記帳作業を自動化できます。
フェーズ3:財務DXの取り組み内容
財務状況の把握を迅速化することで、経営判断や資金調達がスムーズになり業績が向上します。財務DXを実現するためには、以下3つの取り組みが必要です。
- レポート活用
- 予算管理
- 融資活用
レポート活用
まず、どのような軸で数字を見たいかについては企業や業種によって異なるため、集計軸を決める必要があります。部門・事業・取引先・商品など、経営判断に活用する集計軸を設定しましょう。
予算管理
次に、資金繰りや決算着地の予測を可視化します。予測の精度が向上することによって、投資や資金調達の判断に活用できるようになるでしょう。
融資活用
事業計画や試算表を作成する際には、会計データが必要です。融資を実施するために必要な資料の作成に会計データを活用します。
以上3つのフェーズを経ることで、月次決算のスピードが速まり、経営状況のリアルタイム化を実現できるでしょう。
社内で財務や経理のDXを推進する際には、現場のスタッフに反対される可能性もありますが、どのように調整するべきでしょうか?
経営者自身がDX推進の意思を宣言し、トップダウンで進めることで、現場スタッフの賛同が得られやすくなります。その際、社員に対してDXを実現することで、どのように業務が楽になるのかを説明する必要があります。
社内で財務や経理のDXを推進しようとするとき反対してくるのは、たいていが経理の担当者と顧問税理士です。どのような優れたシステムを導入する場合でも、これまでの慣れたやり方とは変わるため、やはり抵抗感はあると思います。
しかし導入メリットを説明して、業務を行ってもらうことで徐々に慣れてきます。最終的には「こっちのほうが楽だね」と、受け入れられるケースがほとんどでしょう。上手に説明しながら、楽になったことを感じてもらうことが大切です。
紙で業務を行っている企業は、さらにハードルが高そうですね。それとも最近は、そのような企業は減っているのでしょうか?
経理・財務業務を紙で行っている中小企業は、まだ非常に多いです。一方で、デジタルに移行したいと考えている経営者は多いと思います。
例えば社長が70歳の会社で、同年代の奥さまが経理を担当している場合などには、紙によるアナログなやり方で業務を行っているケースが多いです。事業承継をする際も、アナログの場合、引き継ぎが非常に困難になります。
奥さまは長年経理業務に携わっているため、自己流のやり方でも問題なくこなせる経験値はありますが、その他の方にとっては「このやり方では、この分量はこなせません」という状況に陥りがちです。その結果、経理・財務業務の引継ぎが進まず、奥さまがずっと働き続けなくてはいけなくなります。
したがって、奥さまが経理・財務業務を次の方へ引き継ぐためにも、デジタル化の必要性を説明し、納得してもらうことはよくあるのです。
財務DXの成功事例
財務DXの成功事例をご紹介ください。
冒頭にご紹介した自動車販売店の事例以外では、某住宅会社は年商が1億円から2.5億、営業利益はマイナス700万から1,000万になった事例があります。他にも運送業の会社で営業利益が1,100万から4,600万円になった事例や、小売業の会社で年商が2.1億から4.8億円、医療業でマイナス1.800万の営業利益が4,500万に成長したケースなど、成功事例は非常に多いです。
財務DXを実現することで、売上や利益がしっかり出せるようになり、キャッシュが残る仕組みができあがります。また投資を行うことで、さらに売上を伸ばすサイクルを得る企業が増えている状況です。
財務DXを実現できれば、お金が貯まりますから、しかるべき投資を行うためにも、経営状況の可視化必要です。経営状況を可視化することによって、経営者のマインドが変化することも大きなポイントとなります。やはり、お金がなければ投資しようという気持ちにはなりませんし、業績が見えなければ資金繰り状況もわからないため、お金を使おうというマインドにはなりにくいでしょう。
しかし経営状況が可視化され、資金繰り状況が把握できるようになることで「これぐらいの金額なら借りられる」といった投資意欲が沸き、成果につながっていくのではないかと思います。
逆に、財務DXに失敗するケースはありますか?
失敗するケースは2つあります。1つ目は顧問税理士が、新しい会計ソフトに順応しないケースです。顧問税理士に月次の決算入力を確認してもらう必要はあるのですが、なかなか対応してもらえず遅れてしまうケースが散見されます。
「新しい税理士に変更したらよいのでは?」と思われるかもしれませんが、古くからの付き合いや税務調査などの兼ね合いもあり、別の方に変更できないことも多いようです。そのため会計ソフトを導入する際には、税理士の先生も打ち合わせに参加してもらうなど、上手に巻き込んで進めるべきでしょう。
2つ目の失敗例は、経理・財務担当者に「DXによって自分の仕事がなくなるのでは……」と危惧され、取り組みが進まなくなるケースです。例えば、息子が社長でお母さまが経理を担当している会社などの場合、取り組みの内容やメリットを上手に説明しないと「お母さんはもういらないよ」という意味に受け取られる可能性があるのです。お母さまとしても、自分が会社をずっと支えてきたという自負があるので「会社は、もう1人の子どもだ」という意識を持つケースも多く、感情のもつれが発生しないよう注意しましょう。
経営状況が可視化できている場合とできていない場合で、収益が大きく変化するポイントはどこにあるのでしょうか?
経営状況の可視化により経営者が数字を見る回数が増えることは、大きなポイントとなります。経営者であれば、数字の状況が気になるのは当たり前だと思います。しかし紙ベースの試算表しか見られない場合は、わざわざ経理担当者に頼んだり、デスクの中から資料を引っ張り出したりする必要があるため、どうしても後回しとなってしまいがちです。
財務DXを実現できれば、スマホで数字を確認することができます。いつでもどこでも数字が見られるようになるため、経営判断がスピーディーにできるようになり、アクションが早くなることは大きなメリットだと言えるでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
谷 翔太(船井総合研究所 財務・IPO 支援部 デジタル財務グループ マネージャー)
大阪市立大学卒業後、地方銀行に入社。銀行では、中小企業を対象に法人営業を経験。
船井総合研究所に入社後、企業の成長を財務面からサポートし、企業のステージに合わせた最適な財務提案が経営者から高く評価されている。自由に使えるお金を増やす「キャッシュリッチ戦略」と経営判断力をアップさせる「リアルタイム経営」による、業績が上がる財務戦略の実行を得意とする。
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