- 人材(採用・育成・定着)
小さな会社が即戦力のITエンジニア・プログラマを採用するには?
2022.09.06
著者:弥報編集部
監修者:大和 賢⼀郎
現在、即戦力のエンジニアをはじめとしたIT人材は、大手企業でも採用がかなり厳しい状況です。そのような状況のなかで、中小企業やベンチャー企業がIT人材を採用するためには「自由度の高さ」や「裁量の大きさ」をアピールすることが重要です。それは、大手企業にはない大きな魅力だからです。採用される側からすれば「自分の好きなように仕事ができる、魅力的な職場」となり、採用につながる可能性が高まります。
今回は、ITシステム開発常駐案件やコンサルティング業務で広く活躍されている、ITエンジニアの大和 賢⼀郎さんに、中小企業やベンチャー企業がIT人材を採用する効果的な方法や注意点などを伺いました。
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目次
即戦力人材は奪い合い。IT人材の採用が困難な理由とは
IT人材の採用は現在非常に難しい状況となっていますが、その主な理由を教えてください。
IT人材を採用するのが難しいといわれる理由は、2つあります。1つ目が即戦力人材の不足です。
現在、IT人材の求人倍率は7~8倍程度が一般的ですが、それ以上の10倍になるケースもあります。一口にIT人材といっても、エンジニアやプログラマーなどさまざまな種類がありますが、特に即戦力といわれるベテランクラスは、各社で取り合いになっているのが現状です。
例えば、僕のような20年以上の経験を持つベテランの場合、毎日のようにメールなどでヘッドハントのオファーが来ています。今月だけでも10社以上からオファーが来ていますが、すべてに返信できていません。また、職場で「だれか良い人を紹介してほしい」とお願いされることも多いのですが、本当にいないので紹介できない状況です。
このように、即戦力のIT人材は取り合いになっていますが、一方で、未経験でプログラミングスクールを卒業した人材は市場にたくさんいます。なぜなら、育成に手間がかかるため、大手企業が新卒採用枠以外の未経験者を採用することは少ないからです。そのため、IT人材はベテランと未経験者で完全に2極化しています。
IT人材を採用するのが難しい2つ目の理由は、いきなり仕事が爆発的に増えて、需要に供給が追い付かなくなることがあるためです。
医者や税理士など、他業種の仕事がどんなに忙しくなっても、いきなり仕事量が10倍になることはあまりないでしょう。しかし、ITの仕事は「翌年になったら仕事が昨年の10倍以上増えた」という状況があり得ます。例えば、スマートフォンが爆発的に普及した2008~2009年あたりは、スマホアプリを開発する企業が一気に増えたため、IT人材の需要も爆発的に増えました。しかし、そもそも市場に需要を満たせるだけのIT人材はいないので、供給が追い付かない状況に陥ったのです。
僕が新卒で就職した1998年も同じ状況だったので、IT人材を取り巻く状況は20年以上変わっていません。
欲しい人材の採用に必要なのは「自社の現状分析」と「採用戦略明確化」
IT人材を募集する媒体は多くありますが、中小企業の場合、どれを利用するべきでしょうか?
まず、求人サイトは完全にレッドオーシャンです。ありとあらゆる求人サイトが、IT人材に毎日大量のスカウトメールを送っています。そのため、ベテランエンジニアの間では、スカウトメールですらスパム扱いとなっている状況です。
スカウトメールには、普通のスカウトとプラチナスカウトと呼ばれるものの2種類がありますが、ベテランのところにはプラチナスカウトしか来ないためデフレ化しています。また現在、求人サイトは大手企業が大金を投じて出稿しているので、5~15名程度の中小企業が募集をかけても玉砕する可能性が高く、おすすめできません。
そのため中小企業の場合、人材紹介や派遣、委託契約の1つであるSES(System Engineering Service)などのほうがIT人材を確保できる可能性があるでしょう。いきなり正社員採用にこだわる必要はないと考えてください。
企業の採用担当者に「なぜ正社員で採用したいのか?」「派遣じゃダメなのか?」とたずねると「派遣は半年で辞めてしまう」と回答されます。しかし、そもそもその考え方が間違いです。仮に正社員で雇用したとしても、もっと良い条件で、最新技術の案件に携われるような別企業から、スカウトされる可能性は常にあります。正社員だからといって、長く働いてもらえるとは限らないのです。
そのため、即戦力である程度の実力があるIT人材に、ある程度の金額を払ってでも雇いたい場合は、派遣やSESのほうが採用できる可能性は高くなります。また、中小企業がIT人材にオファーする方法としては、本人に直接連絡するのもおすすめです。
例えば、見ず知らずのエンジニアに対して「株式会社〇〇の代表取締役〇〇です。20時から30分ほどお時間をいただけませんか?」と連絡してみるのです。IT人材の多くはSNSや自身のホームページで情報収集や発信をしているため、そちらに企業のトップから直接オファーされたほうが響くIT人材は多いと思います。TwitterやFacebookのDM(Direct Mail)などから一方的に連絡すればよいです。
ただしオファーする際には、そのIT人材にやってほしいことと、なぜその人でなければいけないのかという理由を明確に伝えるようにしましょう。社員数が多い大企業では実現が難しいものでも、中小企業であれば可能なこともあります。その人を採用したい理由を伝えたうえで、IT人材がやってみたい案件がマッチすれば、採用できる可能性が高くなるでしょう。
採用活動の前には採用戦略を立てる必要があると思いますが、どのようなポイントに注意して進めるべきでしょうか?
まず、自社で実現したいことを明確化することです。
例えば「医者を紹介してください」と言われても、どのような医者を紹介したらよいのかわかりません。ご自身の症状に応じて皮膚科や外科、形成外科など、最適な種類の医者を紹介しなければ、問題解決にはつながらないでしょう。
IT人材と一口にいっても、フロントエンジニアやバックエンジニア、インフラエンジニア、アプリエンジニアなど、さまざまな種類があります。アプリを作りたい場合でも、iPhone向けかAndroid向けかによって、採用するべきIT人材のスキルは異なります。
自社でやりたいことが不明瞭な状態でIT人材の募集をかけても、求職者が自分に何を求められているのかがわからず、応募しない可能性が高くなります。IT人材の募集をかけるときには、要件をできるだけ具体化しておきましょう。
そしてもう1つが、本当にエンジニアなどのIT人材の採用が必要な案件かどうかを見極めることです。
例えば、肩こりに悩んでいる方がいた場合、整骨院や整形外科などへ行くことが正解ではなく、運動が必要というケースがあります。これはIT人材も同様です。自社でECサイトを開きたい場合に、ゼロからサイトを立ち上げなくても、Amazonや楽天に出店することで解決することもあるでしょう。
もし、Amazonや楽天でもOKという場合は、出店登録さえできればECサイトを開くことが可能です。その場合はIT人材を採用しなくても、普段メルカリなどを使っている若いアルバイトの方でも十分対応できます。
自社にITリテラシーの高い社員が少ない場合は、そのような方に自社で実現したいことを伝えて、ネット検索などで解決できそうなソリューションやベンダーを探してもらうのも1つの方法と考えましょう。その方が実際にプログラミングはできなくても、プロジェクトマネージャーのような役割を与えればよいのです。
居酒屋などで、お客さまのオーダーを紙にメモしていたものをタブレットに変更したいという場合なども、そのようなソリューションは山ほどあるので、そちらを活用するほうがIT人材を雇って開発するより費用対効果が高くなります。
中小企業やベンチャーがIT人材の募集をかける際、求人媒体にはどのような内容で訴求するべきでしょうか?
中小企業やベンチャーがIT人材の募集をかける場合は、ありのままの状況を、そのまま伝えることが大切です。
例えば、大手企業がエンジニアを求人する際には、使用する言語や開発環境などを詳細に募集要項に明示します。求職者側も自分のスキルにマッチするキーワードの有無で判断するので、未経験のキーワードだった場合は対象外として認識されるでしょう。
このように必要なスキル要件が記述できるのは、開発したいものが明確に決まっていて、かつITを本格的に生業にしているCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)などが存在する企業です。しかしITリテラシーが低い企業が、これと同じことを書けと言われても厳しいと思います。そのため、自社の状況を正直に伝えるしかありません。
正直に伝えるとはどういうことかというと、例えば「うちは20年やっている居酒屋で、人材不足を解消するために注文のIT化を検討しており、その一環としてまずタブレット注文のしくみを導入したいと考えています。しかし、社内にセットアップできる人材がいないので、そちらを推進できる人材を探しています」「自社には5名しか社員がおらず、WordPressを使ってこのようなホームページを作りました。しかし、使い勝手もデザインもイマイチなので、WordPressのメンテナンスなどができる人材を探しています」といった内容です。
このような募集要項であれば、新卒入社で2~3年の経験があるIT人材が「これなら自分でもやれそう」と思って、応募してくる可能性が高いでしょう。この程度の案件であれば、アプリ開発などができるスキルがなくても、十分対応できると思います。また、DMで一本釣りする場合も同様に、自社の状況を正直に伝えることが大切です。
くれぐれも「弊社はこれからグローバル展開をするために、AIやDXを推進できるスペシャリストを募集します」といった、何が言いたいのかわからない募集要項にならないように気をつけましょう。
IT人材との面接は「企業側が熱意を伝える場」と考える
これまでIT担当者を採用したことがない企業がIT担当候補者と面接する場合には、普段の採用とはまったく違う見方をするべきなのでしょうか?その際、どのようなポイントに注意すべきか教えてください。
面接のパターンが2種類あるので、それぞれについて解説します。
1つ目は、即戦力のIT人材と面接するパターンです。業界経験が20年程度のベテランが、たまたま面接にやってきたと仮定しましょう。この場合、もはや面接ではありません。いかに来てほしいのかを、企業側がアピールする場であるということを認識する必要があります。
例えば、大手企業で働いている方の場合は、大手ならではの息苦しさがあって中小企業の面接に来ていると思うので「今弊社で実現したいのはこういうことですが、あなたの自由にやってください。社内でITに詳しい人材はいないので、自分で動く必要はありますが、信頼してお任せします。」といった「一緒に頑張っていきましょう」というスタンスでアピールすることが重要です。よって、一般的な面接のように「志望動機は何ですか?」という質問をすることはありません。
2つ目は「未経験ですが御社に興味があります」という若手と面接するパターンです。若手の場合はポテンシャルをみるしかないので、人柄や会話の内容などで判断するしかありません。極論ではありますが、技術力は度外視で判断してもよいでしょう。ですから、一般的なスタイルの面接を実施すれば問題ありません。
ただし入社後に勉強してもらう必要があるので、コミュニケーション能力の高さや、一緒に働いてみたいといったフィーリングで判断することも大切と考えてください。
即戦力となるIT人材を採用するためには、自社にマッチした優秀な人材か見極める必要があると思います。優秀な人材を見極めるポイントを教えてください。
結論としては、いきなり正社員で採用しないことです。
特にベテランのエンジニアなどは「この会社に就職して大丈夫か?」とけん制することが多いので、お互いを見定めるための期間が必要になります。そのため、まずはフリーランスの業務委託契約などで、平日の夜や週末などに何時間か手伝ってもらうような働き方からスタートするのがおすすめです。副業的な立ち位置で業務に関わってもらい、少しずつコミュニケーションしながら、お互いの相性を確認していきましょう。
その結果、両者が納得できれば、正社員として採用するというパターンが、IT人材の採用には多いです。逆のケースで正社員にならないかと誘われたエンジニアが、そのまま業務委託契約を選びたがることもあり得ますが、早い段階で判断できるのでお互いにとって損はないでしょう。
面接だけで、求職者のすべてを見抜くことはIT人材でなくても難しいと思いますので、スモールスタートでようすを見ながら、自社に合った人材かどうかを判断していくのがポイントです。
面接ではIT人材に対して企業側からどのようなポイントをアピールすると、採用率が上がりますか?
人によって価値観が異なる部分はありますが、従業員数が5名~15名程度の中小企業であれば、よい意味でのゆるさや自由さ、柔軟性などをアピールするのがおすすめです。
入社をすればわかると思うのですが、だれもが知っているような超大手IT企業の場合、セキュリティが厳しく好き勝手にはできませんし、社内の稟議やスタッフの上下関係なども当然あります。そのため「もっと自由にできる環境で働きたい」と思う時期が、IT人材には必ずあるのです。
そのようなときには、5名程度の社員で会社を切り盛りしている社長が、非常にかっこよく見えて憧れを感じます。上場企業の部長が、毎日上司の顔色ばかり窺っているのを見ていると、なおさらそのような気持ちが強くなるのです。そこに刺さるフレーズを出せるかどうかがポイントでしょう。
例えば「うちに来れば、ITに関しては君に社長と同じぐらいの権限を与えるので、頑張ってほしい」「経営者と同じような立場で、会社を動かしてみないか」などと言われれば「この企業で働いてみたい」と思うIT人材を採用できるかもしれません。
社内にIT人材がいない企業が、未経験のIT人材を採用すると、社長などが教育を担当しなくてはいけないケースも想定されます。何か良い方法はありますか?
この場合は、少なくとも3~5年程度の業務経験があるエンジニアをSESなどで採用して、新人の教育担当にしましょう。
新人が正社員で教育担当者がフリーランスや派遣というケースは、この業界ではよくあります。ただし、人によっては「正社員ではない外部の人に教えてもらいたくない」というプライドを持っているケースもあるので、コミュニケーションの取り方には注意が必要です。
もう1つの注意点として、SESで入ったベテランが「若手の教育なんてやりたくない」というスタンスを取ることもあります。新人を下につける前提ならば、その旨を了解してもらったうえでSES契約するのが望ましいです。
職場環境次第で優秀なエンジニアは定着する!
IT人材は離職率が高い印象があります。離職する理由で一般的に多いとされるものや、定着率が上がらない会社の特徴を教えてください。
IT人材の離職率が高い理由は、引く手あまただからです。特にベテランIT人材のところには、常に新しい案件のオファーが来るので、今よりも良い条件の案件があれば、そちらを選択するのは当たり前でしょう。それ自体は、悪いこととは思いません。
定着率を高めたいというのは企業側の勝手な希望に過ぎませんし「この人材に抜けられるとうちの会社は潰れる……」といった状況のほうが、良くないと思います。その状況でエンジニアに「来月から給料倍にしてください」と言われたら、飲むしかありませんよね。
よって、経営者側はこうしたリスクを回避するために、IT人材を採用できるためのノウハウを社内に蓄積する必要があると考えてください。派遣や人材紹介、SESなどを活用してIT人材を新たに採用できるスキルを企業が身につける方向性のほうが、離職率を抑制するよりも現実的です。
IT人材を採用できたときの口説き文句やアクセス方法といったノウハウの蓄積だけでなく、エンジニアなどを採用しやすい職場環境の整備も必要と考えてください。
IT人材の定着率を上げるために会社側の組織体制や制度の整備も重要だと思いますが、どのようなポイントを押さえるべきでしょうか?
最初の1人を採用する段階であれば、社内体制の整備は特に必要ありません。しかしIT人材の数が増えてくると、待遇面の整備が必要です。
例えば、エンジニアにボーナスを支払う際には、金額を適当に決めるとうまくいきません。「このスキルを持っていれば、いくら」「このシステムを開発できたら、いくら」というように、一定の基準を元に金額を決めるしくみの構築が必須です。なお、金額の相場についてはIT人材が理解しているので、市場相場よりも劣らない条件になるよう調整しなくてはいけません。
しかし、どうしても「経営的に苦しい」という状況であれば、裁量の広さやフルリモートOKなど、待遇面のメリットを強化してください。具体的にどのようなメリットが必要なのかについては、IT人材とコミュニケーションをとってヒアリングが必要でしょう。すべてのIT人材と社長が面接する時間がない場合は、別途マネジメントを担当する人材を立てる必要があるのです。
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この記事の著者
弥報編集部
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大和 賢⼀郎(ITエンジニア)
1977年生まれ。IT業界経験24年(正社員16年+フリーランス8年)。官公庁からベンチャーまで幅広く案件をこなす。サーバサイドを中心にインフラからフロントまでフルスタックの開発実績と、部下10名以上の管理職経験があり、採用する側とされる側の知見が豊富。東京で業務委託のシステム開発やコンサルティングに対応中。近著「小さな会社がITエンジニアの採用で成功する本」日本実業出版社。
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