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【小室淑恵に聞く】離職率が1桁に!同一労働同一賃金や有給休暇がもたらす効果とは?
2023.04.04
新しい働き方といっても、施策は多岐に渡ります。何から手をつけたらいいのか、そもそも何をやればいいのかわからない……。これは、多くの中小企業が抱える悩みではないでしょうか。
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長の小室 淑恵さんは、最も大切なのは「意見を出し合える仕組み作り」だと言います。今回は、現場の声を吸い上げるのにおすすめする取り組みを紹介します。また、同一労働同一賃金や有給休暇がもたらす効果などについても伺いました。
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目次
社内の風通しを良くするには「カエル会議」がおすすめ
私の会社では「カエル会議」というものを行っていて、「カエル」には「仕事を振り返る」「働き方を変える」「早く帰る」「人生を変える」という4つの意味が込められています。カエル会議をやることで、社内の風通しの悪さや離職問題など、あらゆる課題の解決に役立ちます。会議のためにわざわざ集まる必要はありません。実施する場合は、課題や改善案をオンライン上のファイルなどに挙げたり、意見を書いた付箋を所定の場所に貼ってもらったりという方法をとります。ポイントは無記名にすることです。そうすることで自由に発言できます。自由といっても、テーマがないと愚痴大会になってしまいがちなので、「職場のありたい姿のために何ができるか」を目的にすると、理想の実現に向けて変えたいことを考えられるようになります。
実際に、カエル会議を取り入れている新菱冷熱工業では、ベテランと若手の間に壁がありました。ベテランは「技術は背中を見て覚える」という意識が強かったり、若手が積極的に質問をしてこないことに不満を感じたりしていました。ところがカエル会議をやってみると、若手は会社に貢献したい、成長したいという思いはあるのに「こんなことを言ったら怒られる、忙しそうだからなかなか聞けない」のだとわかったんです。その後、育成方法の改善に取り組み、報告・連絡・相談の「ほうれんそう」に、(お)怒らないで・(ひ)否定しないで・(た)助けて・(し)指導しての「おひたし」を加えるなどしてスキルアップとコミュニケーションの活性化を実現しました。
〈参考〉
新菱冷熱工業株式会社様|株式会社ワーク・ライフバランス
2018年に「いわて働き方改革AWARD」で個別部門賞を受賞した信幸プロテックも、カエル会議を実施している会社です。こちらは空調の修理会社ですが、凄腕のベテランを揃える一方で若手の離職が多いという悩みを抱えていました。技術の継承がうまくいかないようすを、歯がゆい思いで見ていたのが事務職の女性たちです。そんな彼女たちが提案したのは、ベテランの仕事ぶりを撮影し、社内のLINEで発信することでした。共有された動画を観た若手はベテランの技に驚嘆し、自ら現場に同行して教えを乞うようになったそうですよ。
〈参考〉
特集 わたしたちの「働き方見直し活動」|信幸プロテック株式会社
カエル会議に大掛かりな準備は不要ですし、付箋さえあれば今日からでも始められます。カエル会議を導入するにあたって1つお願いしたいのは、現場からアイデアが出てきたら「そんな小さいアイデアなのか」などと言わずに、経営者はまず「従業員を徹底的に褒めてほしい」ということです。ささやかな改善でも積み重ねれば大きな変化を生みますし、何かを変えられたという達成感がポジティブな意識を作るでしょう。それがさらなる提案につながり、「やっぱり働き方改革はやるべきなんだ」という空気を社内に醸成していきます。
離職率を下げるには「同一労働同一賃金」がおすすめ
新しい働き方といってもさまざまな施策がある中で、優先的に取り組むことをおすすめしたいのが「同一労働同一賃金」です。なお、同一にするのはお金だけではありません。休暇の種類や教育訓練の対象範囲など、待遇全般を見直す必要があります。
特別養護老人ホームなどを運営しているヘルシーハイムでは、離職率が60%を上回ったことをきっかけに、雇用形態にかかわらず共通の賃金制度を導入しました。基本給や住宅・資格などの手当、退職金を正社員と同じ基準で支給し、研修も同内容で実施しています。その結果、離職率が7%へと大幅に縮小しました。
〈参考〉
社会福祉法人南風会 ヘルシーハイム|福岡県 働き方改革推進事業ポータルサイト
非正規労働者の多くは「仕事は変わらないのに待遇は何もかも違う」という不満を抱えています。頑張っても評価されない、賃金が上昇しないのであれば当然離職率は高くなるし、会社・上司と非正規労働者とのコミュニケーションを難しくする要因にもなってしまいます。同一労働同一賃金をあまり大ごとと捉えすぎず、まずは「待遇を透明化してわかりやすくする」ことを目指すとうまくいきますよ。
従業員の満足度向上には積極的な「有給休暇取得」がおすすめ
2019年4月から、年に10日以上の有給休暇が付与された労働者には、必ず年5日は有給休暇を取得させなければならなくなりました。中には、これまで休日だった日を出勤日に変えて有給休暇を取得させたりと、抜け道のような方法をとる会社も出てきています。でも実は、従業員が好きな時期に5日以上の休みを取得することには、可処分所得(手取り収入)が30~40万円増えたのと同じような効果があり、さらには良い会社だと思ってもらえるんです。
例えば、家族で年5日ほど旅行に行くとしましょう。土日やゴールデンウイーク、お盆・正月休みを利用すると、宿泊料金などは繁忙期で高くなりますよね。一方、学校の創立記念日などに合わせて平日に休めば、閑散期料金で泊まれます。この金額の差が、4~5人家族だとだいたい30~40万円というわけです。会社のキャッシュは出ていかないのに、従業員はこれだけの利益を得られるんですから、win-winとしか言いようがありません。しっかり休みを取ることでモチベーションが向上するのはもちろん、「うちは良い会社だ」と思えるようにもなります。
厚生労働省の働き方改革特設サイトでも取り組み事例として紹介されているマエダハウジングは、1枚で1時間の有給休暇を取得できる「時間有給休暇申請チケット」を導入しました。チケットというスタイルにしたことで「チケット=お得=使わないと損」という雰囲気が生まれ、有給休暇の取得が促進されたといいます。その後有給休暇の取得率は17.4%から69.35%に大幅にアップ、1日の平均残業時間も1.7時間から0.68時間に減少しました。
有給休暇の取得を促進する際のポイントは、制度を「見える化」するという点です。前田ハウジングでは申請チケットのほか、有給休暇の残日数を記載した「有給休暇票」も配っています。従業員が積極的に有給休暇を取得することは、会社にとってもプラスです。早い段階で休暇の予定が決まれば、その分対応も容易になります。
どうやったら働きやすくなるかの答えは、現場にある
積極的に取り組んでいただきたい施策として、カエル会議や同一労働同一賃金に関する事例をご紹介しました。でも、もっと先にやるべきことがあります。それは経営者の意識改革です。例えば、新しい働き方としてテレワークを取り入れるとするならば、経営層もしっかり実践してください。そういう姿勢が社内の空気を変えていきます。
また、いきなり定量的な変化を求めるのもやめましょう。最初に「残業を〇時間減らす」のような形で外枠を固めてしまうと、そこにばかり目が向いて本質的な改善にはなりません。「仕事を持ち帰れ」「勤務時間を正確につけるな」と言われていると、誤解する職場も出てきます。まずは「変えたい」「やりたい」ことを決めて、そのために何をしたらよいか考えるようにします。それを続けていけば、残業が減るなどの結果が後からついてきますよ。
また、新しい働き方を始める前に「会社に利益が出たら必ず還元する」と、従業員に宣言するのも重要です。業績を落とさずに残業が減ったとしたら、その分給与アップなどを行うようにします。還元がないと「残業代が減るのに生産性を上げなきゃいけないの?」と受け止められてしまい、従業員にとってのメリットを見出せません。
やはり、どうやったら働きやすくなるかは現場に聞くのがベストです。従業員が望まない施策は、「仕事が終わらないのに帰らされた、残業代が減った」といったネガティブな体験になってしまいます。従業員のアイデアをきちんと募り、運用についても現場に任せるほうがよいでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
小室 淑恵(株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長)
2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立。多種多様な価値観が受け入れられる日本社会を目指して、多数の企業・自治体などに働き方改革コンサルティングを提供し、多くの成果を出している。自らも子育てをしながら、会社としても全社員が残業ゼロと有給取得100%を実現したうえで、増収増益を達成し続けている。
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