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ネット上に公開されているひな型はハイリスク?AI契約書レビュー支援ツール活用で自作の契約書に安心・安全を
2021.10.14
小規模事業者の中には、経営者自身が契約書の内容を確認したり、ネット上のひな型などを活用して契約書を作成したりするケースも多いと思います。しかし、法的に問題がないか、不測の事態を発生させないかといったリスクを最低限に抑えるためには、一定の法的知識が必要になるため「なんとなく作ってはいるけど大丈夫なのか……」と常に不安感じている経営者も多いかと思います。そんな不安を解消するサービスが「AI契約書レビュー支援ツール」と呼ばれる、AIを活用した契約書の審査やドラフト作成をサポートするサービスです。
今回は、弁護士でありGVA TECH株式会社のCLO(Chief Legal Officer)である康 潤碩(かん ゆんそ)氏にAI契約書レビュー支援ツールのサービス概要や導入メリット、現状実現できることなどについてお話を伺いました。
目次
AI契約書レビュー支援ツールを使えば何ができる?
AI契約書レビュー支援ツールとはどのようなサービスなのでしょうか?
契約関係の業務(契約審査)には、相手側から届いた契約書をチェックする「レビュー」と呼ばれる業務と、自社で1から契約書を作成する「ドラフト作成」の業務の2つがあります。これら2つの作業をアシストするツールが、AI契約書レビュー支援ツールの基本的な機能です。
1から契約書を作成する「ドラフト作成機能」について教えてください。
ドラフト作成機能は、弊社で用意した契約書のひな型データを瞬時にWordに書き出せる機能です。ドラフト作成の際、書籍を参考にしたり顧問弁護士に高額な費用を支払って作成する機会が少なくなります。さまざまなひな型をフォルダやサーバーなどから探す必要もなく、白紙のWordを開きさえすれば、ひな型データを一気に書き出すことが可能です。
ひな型は弊社の弁護士や元法務部員が作成・監修したものや、業界標準ひな型といったもので、現在も続々と追加中です。もちろん、法令改正などにもあわせて、随時内容を更新しています。「弁護士が監修した契約書のひな型集が活用できる」と思っていただければよいでしょう。
また、契約書をレビューしたりドラフト作成をしていくなかで生まれた、知見やノウハウをタイムリーに蓄積してマネジメントできる機能も付いています。
例えば、Wordでレビューをしていくときには「この条文って結構使いやすい」「この条文例はちょっと残しておこうか」といったケースがよくあると思います。こうした気になる条文などを、Word上から簡単にクラウドにストックすることが可能です。クラウド上に溜まったデータは、Word上で簡単に呼び出すことができますし、ソートをかけながら管理画面上で編集や比較、削除などができます。
多忙な方の場合、こうした条文管理をExcelなどで行っていると、いざ使いたいという時に探す手間が掛かり業務時間が膨れ上がってしまいます。しかしこちらの機能を使えば、作業にかかる工数の圧縮が可能です。
レビュー機能は、200種類以上のひな型と契約書の内容をAIが比較し「契約書に潜むリスク」や「不足している条文や単語」を瞬時に検出して、見落としを防ぐ機能です。
例えば、上の画像の右上部(赤枠の部分)に「不足条文」「不足単語」と表示されているのが分かると思います。これはAI契約書レビュー支援ツールが、発注者、受注者といった契約当事者の立場からみて、入っていて然るべき条文が入っていない箇所を洗い出し、表示している状態です。
また契約審査をする際には、契約書を上からレビューしてリスクになりそうな単語を洗い出すこともできます。
チェックされた項目を修正する際に、アドバイスしてくれるような機能はあるのでしょうか。
法律の専門家ではない経営者や法務も兼任している管理部門の担当者が、指摘された箇所を正しく修正するのは難しく感じると思います。この点についても、弊社が作成した200種類以上のプレイブック(契約審査のノウハウ集)からAIが検索したものを参照して、条文の内容を修正することが可能です。
具体的な手順を見ていきましょう。
AI-CON Proを使って契約審査を行うと、まずは全体感でリスクのある項目を洗い出すことができます。
各条文単位(画像で言うと「保証」)の項目をクリックすると、チェックポイントや解説、推奨条文を見ることができます。
推奨条文の内容に条文を丸々修正する場合は、ワンクリックでコピーをしてWordに貼り付けることが可能です。
もちろんこれらの作業はすべてWord上で行われますので、変更履歴を残しての修正もスムーズにできます。
また表記揺れや条番号ずれなど、場合によっては契約書の内容を大きく変えてしまう形式面のチェックもアシストしてくれます。
これらが、AI契約書レビュー支援ツールを導入する大きなメリットと言えるでしょう。
業界独自の慣習など、独特な条文がある契約書もあると思いますが、基本的な内容に加え、業界特有の契約内容が含まれる場合でも対応できるのでしょうか?
弊社のAIの仕様は、業界慣習や特殊用語などには左右されない仕組みになっています。自社に合うようにカスタマイズをしていくことで、業界ならではの特殊な文言などが出た場合でもエラーが発生することはなく、基本的に対応可能です。
法律事務所も導入!AI契約書レビュー支援ツールの導入メリットを解説
AI契約書レビュー支援ツールの導入メリットを具体的に教えてください。どのくらいの工数が削減できるのでしょうか?
契約書の案件数次第という面もありますが、お客さまからいただいている声としては、契約審査作業の工数が2~3割程度削減されたとのことです。
また、最近は法律事務所でのご利用もかなり増えています。弁護士の先生には、2021年9月時点で370種類以上ある契約書のひな型がダウンロードできる「ドラフト機能」が、かなり好評です。
弁護士からの導入が多い理由は、どのような点にあるのでしょうか?
契約審査作業で時間がかかるものとしては、契約書のドラフト作成が挙げられます。特に、普段あまり扱わない類型の契約書のドラフト作成は、とても時間がかかります。
作成を始めるには、まずベースになるひな型を探す必要があります。インターネット上に存在するひな型は、法律を理解していない人が作成していることも少なくないため、ベースとして使用できないものがほとんどです。仮にネット上にあるひな型を使用する場合であっても、作成監修者が分かるものを使用することが多いです。依頼にフィットしたひな型を探し当てるためには、相当な時間を要します。ひな型が書籍にしかない場合は、それを書き起こすこともあります。
その点、弊社が用意しているひな型の中には、普段あまり扱われないような共同研究契約や株式譲渡契約、投資関係の契約、人事労務規程など、さまざまなひな型とプレイブック(契約審査のノウハウ集)が入っています。この部分が、弁護士の先生に評価されているのではないでしょうか。
小規模事業者の場合は、ネットのひな型からドラフト作成をスタートする場合も多いと思いますが、どのようなリスクがあるのでしょうか?
ネット上にあるひな型は、発注者・受注者どちらの立場から作られたか不明瞭なものが多くあります。そのため、ネット上のひな型は、極力使わない方がよいと考えてください。
これは弁護士だけではなく、企業の法務などにも同じことが言えます。ネットで調べ物をすることはいいのですが、最終的な判断は書籍などで確認するのが一般的です。「定評のある〇〇〇の書籍にはこう書いてあるから大丈夫」といった部分が、一つの重要なポイントだと言えるでしょう。
サービスの価格を教えてください。
サービス価格は初期費用10万円、月額費用1アカウントが3万円からとなっています。契約書を何回作成しても、値段は変わりません。
エンタープライズ版も提供しており、利用するユーザー数に応じて個別に相談させていただきます。
詳細はwebサイトをご覧ください。安心してご利用いただける価格となっていますので、ご興味がある場合はまずはお問い合わせください。
料金について|AI-CONPro
多くの小規模事業者さまが扱う契約書は、ほとんどがNDAや業務委託契約書などの定型的な契約書だと思われます。ですので、業界慣習云々というよりは、月額3万円で一般的な内容に関するアラートが上がってくるだけでも、かなり便利にご使用いただけるのではないかと思います。
10名以下の事業者の場合、顧問弁護士を雇うより、スポットで依頼するケースがほとんどではないでしょうか。それも、金額のインパクトが大きいものに限定されると思います。そのほかの契約書に関しては、経営者などがご自身の感覚で判断されているのではないかと推察されます。
定型的な契約書の場合、ビジネスに合わせて必要なリスクヘッジができていれば十分ですから、弁護士に依頼して完璧なものを作るというよりは「最低限、ここは抜け漏れてはいけない」という部分さえ押さえられていればいいのです。例えば、開発の契約書で権利の移転の条文が抜けている場合には「納品はするとして、開発したものの権利は一体どうなりますか?」となってしまいます。費用や知的財産なども同様です。こうした致命傷になり得る内容の抜け漏れを、しっかり確認したいという場面で、ご活用いただけると思います。
御社のAI契約書レビュー支援ツールはIT導入補助金の適用対象ですか?
はい、利用は可能です。弊社のAI契約書レビュー支援ツール「AI-CON Pro」も対象となっているため、ぜひ補助金を活用して導入をご検討ください。
AI契約書レビュー支援ツールで対応できないことも知っておこう
AI契約書レビュー支援ツールを利用する際に、注意するべき点を教えてください。
弊社のサービスに限らず、全リーガルテックサービスに共通して言える点ですが、契約書の自動修正などはできません。日本語表現の揺らぎや「てにをは」など、さまざまな要素があり複雑なため、すべてをAIが自動で作業してくれるという期待感は持たないほうがよいと思います。
現在の技術では、AIはサジェスト(提案)をするのが限界でしょう。弊社が「AI契約書レビュー支援ツール」と呼んでいるのは、あくまでも「支援ツール」でしかないと考えているからです。ユーザーの方も支援ツールであることを意識して使用することが、上手に使いこなすコツになると思います。
また、AI契約書レビュー支援ツールが契約書の内容を読んだ際、甲と乙が逆転していることに気がつかない場合があります。この判断は、弊社以外のサービスでも難しいと思います。
2~3年前にリーガルテックが出始めた頃は、AIが契約書を自動修正してくれると思っていた方も多かったのですが、現在は支援ツールとして活用することが浸透してきているため、最近はこうした声は減っています。
小規模事業者は、契約書のリーガルチェックが必要な場合に、その都度弁護士などに確認依頼をしているところも多いと思います。AI契約書レビュー支援ツールを導入することで、そのような必要もなくなるのでしょうか?
結論から言えば、AI契約書レビュー支援ツールが弁護士に取って代わることはないと思います。ただコストを抑えるという意味では、活用が可能です。
契約審査作業の内製化や定型的な契約書を毎回弁護士に投げていると、コストは膨れあがります。特に企業が成長過程にあるときは契約書の数も多くなるため、すべて弁護士に依頼するとかなりの金額になるでしょう。
それを見直して内製化するフェーズや、定型的なものは弁護士に投げずに最低限のチェックだけ依頼すればよい状態に整えるという観点であれば、その前段階のチェックにAI契約書レビュー支援ツールは大変有効です。
レビュー時に指摘された内容が「自社にとって有利・不利か」の判断は、初心者でも分かるものなのでしょうか?
例えば「この単語が不足していますよ」といったサジェスト(提案)が出てきますので、どの単語が足りないのかは、一目で分かります。不足している条文についても同様ですので、こちらもすぐに分かるでしょう。
しかし、これらが今回のビジネスにおいて本当に必要かどうかといった点については、あくまでもヒトの評価判断が必要です。例えば、権利の移転が不足しているとマズいことが何となく雰囲気で分かったとしても、まったくの素人の方が本当に危機感を持ってきちんと対処できるかは疑問が残ります。
現在のリーガルテックツールでは「不足していますよ」「リスクですよ」とサジェストをするのが限界です。したがって条文や単語を「入れます」「入れません」の判断と作業は、あくまでもヒトに委ねられます。
そのため、まったくの素人がこのツールを使ったときに、レビューできるかといわれれば、厳しいだろうというのが私の見解です。普段から契約書をチェックしているような経営者や管理部門の方など「法務の専門家ではないが、契約書作成やレビューに多少携わっていました」という方であれば、十分に活用していただけると思います。
AI契約書レビュー支援ツールを使った結果、契約書に問題が多々あった場合や判断に迷う場合、その後の対応はどうしたらよいのでしょうか?
ツールが提案する内容を弁護士に申し送りする方法で、正誤判断をしてもらう方法がよいと思います。弁護士のタイムチャージを減らすことで、コスト削減にもつながるでしょう。ただし、すべての条文を入れ込んでしまうと、弁護士のほうで確認・削除する工数が増えるため、そのあたりの判断には注意が必要です。
情報漏えいのリスクはない?セキュリティリスクについても聞いてみた
AI契約書レビュー支援ツールはクラウド型のものが多いと思います。契約書を扱うということで情報流出などのセキュリティが気になるところですが、そのようなリスクはないのでしょうか?
この件については、契約書のデータがサービス提供者側のサーバーに保存される場合と、保存されて何かに利活用する場合の2段階があります。保存するだけでも、情報が流出する可能性はゼロではありません。契約書データの二次利用を始めると、さらにリスクが高くなります。
リーガルテックに限られませんが、他のサービスでは、もしかしたら契約書データの保存や二次利用をしているところがあるかもしれません。しかし弊社のツールでは、契約書データがサーバーに保存すらされない仕様になっています。あくまでもAIに読み込ませるだけであって、データが保存される機構は作っていません。一時的にすらデータは保存されませんので非常にセキュアであり、情報流出の可能性はかなり低いと言えるでしょう。
弊社のツールを使って作成した契約書はユーザーのWordで保存され、ローカルに格納されます。ではどこがクラウドサービスなのかというと、業界慣習や自社のひな型を作ってセットしておきたいというユーザー環境へのセット部分になります。
したがって、クラウド上にレビュー中の契約書のデータが保存されることはなく、情報が流出するリスクも少ないので、安心してご利用いただけます。
この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
康 潤碩(弁護士、GVA TECH株式会社CLO)
横浜国立大学法科大学院卒業後、司法試験合格を経てGVA法律事務所に入所。2017年末頃よりGVA TECH株式会社のリーガルサイド責任者として参画。2019年よりGVA法律事務所のパートナーに就任するとともに、GVA TECH株式会社のCLO(Chief Legal Officer)に就任。
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