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中小企業向けBCP「事業継続力強化計画」でリスク対策

2020.08.11

著者:弥報編集部

監修者:山﨑 肇

新型コロナウイルス感染症の影響や大規模な自然災害など、緊急事態への備えが見直されている状況です。大企業ではBCP(事業継続計画)を策定しているところも多いですが、中小企業の場合、どのような対策を講じるべきなのでしょうか。

今回は、BCPよりも策定しやすいという「事業継続力強化計画」について、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)経営支援部のチーフアドバイザー山﨑 肇(やまざき はじめ)さんにお話を伺いました。

BCPの概要とメリット

「事業継続力強化計画」のお話の前に、あらためて「BCP」とはどのようなものなのか、その必要性も踏まえ教えていただけますか。

「BCP」とは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略語で、大地震や洪水、あるいはテロ、パンデミックなどの緊急事態に際して、事業資産の損害を最小限に留めつつ企業活動をいち早く平常時のレベルまで復旧させ、事業を継続するための方法、手段、平常時に行うべき活動などを取り決めておく計画のことです。

緊急事態は突然発生するものです。有効な手を打つことができなければ、特に中小企業は経営基盤が脆弱なため、廃業に追い込まれる恐れがあります。また、事業を縮小して、従業員を解雇しなければならない状況も考えられるでしょう。

緊急時に倒産や事業縮小のリスクを低減するためには、平常時からBCPを周到に準備しておき、緊急時に事業の継続、早期復旧を図ることが重要です。BCPを適正に策定した企業は顧客の信用を維持し、市場関係者から高い評価を受けることとなり、株主や顧客にとっての企業価値の維持・向上につながるのです。

BCPが重要だと理解されつつも、実態としてはなかなか策定が進まず、2019年6月の帝国データバンクの企業意識調査では、「策定している」と回答したのは、わずか15%にとどまっています(有効回答:9,555社)。この理由については、どのようにお考えでしょうか?

BCPを策定していない理由としては、

  • 策定する人材を確保できない
  • 複雑で、取り組むハードルが高い
  • 策定の重要性や効果が不明

などが挙げられています。

BCPが複雑でハードルが高いものとなっている理由の1つには、BCPが「ISO22301(さまざまな脅威から事業を守り、早期復旧と再開を実現するためのマネジメントシステム規格)」という認証規格に組み入れられていることが考えられます。

ISO22301に準拠するためには細分化した計画が必要で、文書のボリューム、内容ともに中小企業にはハードルが高いものかも知れません。さらにISO認証機関やコンサルタント機関がBCPの文書構成を厳格にしているきらいも否めません。

近年は新型コロナウイルスだけでなく、地震や台風といった災害も経済に大きな影響を与えたと思うのですが、その際にはどのような問題があったのでしょうか。

東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震などの巨大地震や、2018年西日本豪雨、19年の台風15号、19号と巨大災害が続き、その都度サプライチェーン(商品やサービスが消費者に届くまでの「調達」、「製造」、「在庫管理」、「配送」、「販売」といった一連の流れ)が分断されてきました。大手自動車メーカーをはじめ、企業活動に大きな打撃を与えたことは記憶に新しいところでしょう。

そしてこのサプライチェーンを支えているのが、まさに中小企業です。よって緊急事態における中小企業の事業活動をいかに維持し、早期復旧させるかが重要課題になっており、我が国の経済活動を支える重要テーマとなっています。

また昨今の新型コロナウイルスが、100年に1度といわれる大きな経済への打撃をもたらしていることは周知の事実であり、今後はパンデミックへの対応策もBCPに欠かせないものとなってきています。

「事業継続力強化計画」なら1日で作成することも可能!

中小企業はどのように事前準備していけばよいでしょうか?

先ほど説明した通り、BCPの策定はそのハードルの高さから遅々として進まず、特に中小企業が緊急事態に備えた計画作りをどのように準備していくかが、近年の重要課題になっていました。

そこで2019年「中小企業強靱化法」(中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律)が可決成立され、防災・減災に取り組む中小企業がその取り組みを「事業継続力強化計画」として取りまとめ、国が認定する制度が創設されたのです。

事業継続力強化計画とは、簡単に説明すると「旨い(実効性がある)、早い(すぐに役立つ)、安い(作りやすい)BCP(事業継続計画)」といえます。

事業継続力強化計画の策定は、以下5つの検討ステップで計画書を作成していきます。

Step1:事業継続力強化の目的の検討

まず、事業継続力強化の目的の検討です。

具体的には、

  • 従業員やその家族に対する責務
  • 顧客や取引先、地域経済に対する影響
  • 事業継続力強化にあたっての理念や基本的な方針

などについて検討します。

Step2:災害リスクの確認・認識

次に、想定される災害と被害想定が必要です。

自社が被災する可能性がある自然災害と被害を想定します。なお、このとき想定される被害に関しては、

などを参考に、できるだけ具体的しておくことが重要です。

そして、その災害が「人、もの、カネ、情報」にどのような影響をもたらすか検討しておきます。

Step3:初動対応の検討

災害発生時の初動対応に関する検討も必要です。災害発生時の安否確認や人命の安全確保、緊急時体制の構築、被害状況の確認、取引先への連絡をどうするかなどを検討しておきます。

Step4:「人、もの、カネ、情報」への対応

被害想定に対して、「人、もの、カネ、情報」を守る事前対策を検討します。この部分が「事業継続力強化に資する対策及び取り組み」となり、もっとも重要でボリュームが多くなる部分です。経営資源をどのように守っていくかという対策を検討します。

Step5:平時の推進体制

平時の推進体制の整備、訓練および教育の実施、その他の事業継続力強化の実効性を確保するための取り組みを決めておきます。つまり、計画を作りっぱなしにせず、訓練や教育で社員にしっかり身に付けさせることと、計画自体の見直しが大切ということです。


これら5つのStepの検討事項を事業継続力強化計画の中に書き込んでいきます。分量としては、概ねA4用紙で6~7枚程度に収まる程度です。結構なボリュームのようですが、実際には記載例も入った「策定の手引き」が準備されていますので、そちらを参考に作成すれば1日でも十分作成できる程度の内容となっています。

出典:中小企業庁「事業継続力強化計画策定の手引き」
計画が認定されると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

事業継続力強化計画を策定することで、災害時はもとより平時における経営環境の「棚卸と改善効果」があるのはもちろんですが、さらに地域の経済産業局長に認定されることで、社会的信用力の増加とともに以下のメリットが得られます。

  1. 企業名を中小企業庁HPへ公表&認定ロゴマークの使用が可能
  2. 対象の防災・減災設備が税制優遇される
  3. 補助金が優先的に採択される(ものづくり補助金などの加点対象になる)
  4. 信用保証協会枠の拡大、日本政策金融公庫による低利融資などの金融支援を利用可能
事業継続力強化計画には、新型コロナウイルス対策についても盛り込む必要があると思うのですが、どのような点に留意するべきでしょうか?

今般の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)による企業活動や社会、経済に及ぼす影響は、自然災害対応型だけでは対応が困難であり、専用の対策を盛り込む必要性が高まっています。そのため感染症対策として、

  1. リスクの想定
  • 感染症発生時の段階(海外発生期、国内初期~蔓延~収束期ごとの自社への影響の評価)
  • 発生時の脆弱性認識(主に人やサプライチェーン、依存度の大きい市場などが被害を受けた際、影響を拡大する要因)
  1. 事前対策
  • 発生フェーズ毎の対応体制と対応手順の明確化
  • 感染防止対策の徹底
  • 感染者発生時の対応明確化
  • テレワーク準備(業務フロー見直しとシステム対応)

など

  1. 事後対策
  • 政府行政指示の遵守
  • 3密回避の徹底
  • リモートワーク実施
  • 業務形態の変更(非接触)
  • 業務縮退(重要業務への集中)
  • 資金繰り(契約見直し補助金・特別貸付活用)

などの項目の追加が必要です。

「事業継続力強化計画」策定後はどうする?

事業継続力強化計画を実際に運用していくうえで気を付ける点はありますか?

Step5のところでもお話しましたが、平時の取り組みが重要になります。そのため、以下のポイントに留意して運用するようにしましょう。

  • 平時の取り組み推進について、経営層の指揮の下実施する体制を整える
  • 年1回以上、訓練や教育を実施する体制を整える
  • 年1回以上、事業継続に向けた取り組み内容の見直しを計画する
自社だけで解決が困難な問題が浮上した場合は、どうするべきでしょう?

自社だけで乗り切るのが困難な事態に備え、次のステップとして「連携事業継続力強化計画」の策定をおすすめします。

出典:中小企業庁「連携事業継続力強化計画策定の手引き」

連携の形態には、組合等水平型、サプライチェーン(垂直)型、地域型、相互補完(お互い様連携)などの形態があります。平時においても不得意分野の補完、共同生産、受注、販路開拓など、業績拡大に挑戦する取り組みが期待できます。

詳しくは、中小企業庁のホームページをご覧ください。

中小企業のほうが柔軟でスピーディーな対応が可能

今回は、中小企業の経営者が事業計画に想定しておくべき内容として、主に事業継続力強化計画の件について解説していただきました。BCPというと大企業がやるものと思われがちですが、むしろ中小企業が取り組むべき課題であることが分かっていただけたのではないでしょうか。

図体の大きな大企業よりも、むしろ中小企業のほうが柔軟でスピーディーな対応が可能です。早急に事業継続力強化計画を策定して、今後の日本経済の発展に貢献していただければと思います。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

山﨑 肇(中小機構 経営支援部 チーフアドバイザー)

コニカ株式会社(現コニカミノルタ)で子会社統廃合、海外子会社経営、品質・環境・安全マネジメントなど歴任。その後、厚生労働省を経て、現在大手損保系リスクコンサルティング会社所属、リスクコンサルタント。

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