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入社の条件交渉はへりくだらず、対等(50:50)の関係で!【小さくても最強の会社をつくる 人材戦略講座】
2020.06.03
会社の求人に優秀な人材が応募してきて、社長が最終面接で「ぜひうちに欲しい」と合格を出せば「内定」となります。しかし、それはあくまでも会社側の判断にすぎません。応募者が入社を決心するかどうかは、内定後の条件交渉にかかっています。今回は、中小企業における条件交渉の秘訣をお伝えします。
目次
社長が「ぜひ来て欲しい」と頭を下げて起きる入社後のすれ違い
中小企業の場合、人材採用の最終決定権者はほぼ間違いなく社長です。自社にふさわしい優秀な人材が会社の中途募集に応募してきて、最終面接で社長も大いに気に入ったとします。いきおい社長はその場で入社の説得に入ることも多いでしょう。「希望条件はすべてのむから、とにかくうちに来て欲しい!」などと。
そこまで言われてまんざらでもない応募者は「それなら、ぜひ」と入社を決めるわけですが、そこでよく起こるのが入社後のすれ違いです。
社長は中途入社者に期待したような成果が出てないと見ると「即戦力にならない。ぜんぜんダメだ」と早々に見切りを付けたり、社員も社長の態度が豹変するのを目の当たりにして「入社前と話がまったく違うじゃないか!」と憤ったり。私はそういうケースを何度も見てきました。
社長という存在はエネルギッシュな人が多いだけに、気持ちが前面に出てしまいがちです。「この人はぜひうちに欲しい」と思うと熱烈にアプローチします。額を机にこすりつけるほど頭を下げて。
しかし、そんな社長のエネルギーの大きさは採用後に別の形で表れます。期待が大きかった分、その反動で当たりが強くなっていくのです。「もっと○○して欲しい!」「早く結果を出して欲しい!」「何をのんびりやっているんだ!」「好条件で採用したんだから、それに見合うだけ働いてもらわなきゃ困るよ!」というように、最初は遠慮がちでも言葉遣いが徐々に荒くなったりします。
社長は会社や社員たちの人生を背負っていますから、その切実さから気持ちや考えがストレートに出やすいですし、そもそもせっかちな方も多いですよね。それは強い責任感の表れですし、悪いことではありません。ただ、ときに体を目掛けて剛速球を投げてしまう場合があります。
その結果起こるのが、中途入社者の早期退社です。他の社員たちは「ああ、そういえば、中途で○○さんっていう人いたなあ。3か月も経たないうちに辞めたけど……」と、そのうち忘れてしまいます。社長自身も三顧の礼を尽くして迎えたことなどなかったかのように記憶から消し去ります。これでは一体何のために中途採用をしたのかわかりません。
未来を共につくる同志として、対等(50:50)の関係で迎える
優秀な人材に対して、頭を下げてでも来て欲しいという社長の気持ちはよくわかりますが、採用する側と採用される側は、対等の関係を崩さないことが基本です。選び・選ばれるフィフティ・フィフティの関係だからこそ、理性的な判断ができ、合理的な条件交渉も可能になるのです。
社長が頭を下げて入社してもらうようなケースでは、会社を実態以上によく見せようとしたり、会社の給与水準を無視した大盤振る舞いな好条件を提示したりして、それが後のすれ違いを生む原因になることがあります。
受け入れる側の社員たちも、そんな特別扱いを受ける人材に対しては「お手並み拝見」的な態度を取りますし、不要な摩擦を起こしてしまうことが少なくありません。
優秀な人材を迎えるときの基本方針は、「未来を共につくっていく」という同志としてのスタンスの共有です。こちらの記事「人材確保は「意味的報酬」をうまく使おう!」でも書きましたが、高い給料や肩書などの好待遇に魅力を感じて入社してくる人は、お金や権力目当ての人です。それが本当に欲しい人材でしょうか?
「今はまだまだ足りない部分もある未熟な会社だけど、今後世の中に胸を張れるような会社を一緒に築いていきませんか?」というアプローチに魅力を感じるような人材は、お金や肩書ではなく、将来のビジョンや未来の姿に共感してくれる貴重な存在です。
「現在」の会社ではなく「未来」の会社を想像してくれるからこそ、その理想の状態に向かって一緒に頑張ってくれるのです。
幅広い知識も高いスキルもあって、どんな企業でもやっていけそうなのに高い報酬など好待遇にこだわり、それでいてあえて中小企業の求人に応募する人は実は「訳アリ」であったりします(「訳アリ」の例を挙げると、前職で問題を起こして辞めた、表と裏の顔がまったく違う、経歴に嘘があるなどです。しかしこの部分は本人に隠されてしまえば、面接ではほとんど見抜けません)。社長が頭を下げて好待遇で迎えるときは、「訳アリ」な人材を誤って採用しかねない危険性をはらんでいるのです。
「未来を共につくる同志になり得るか」という視点、これは入社の条件交渉時のリトマス試験紙としてうまく使ってください。
初年度の報酬は低く抑え、働きぶりを見て2年目から大幅アップ
条件交渉時に会社が提示した給与額に対して「年収○○○万円以上でなくては絶対に困ります」という人がいます。会社の提示額が極端に低い場合は別ですが、応募者の年齢や経歴に明らかに見合わない希望額を要求された場合は、先ほど述べた「訳アリ」である可能性が高いといえます。
逆に「最初の給与額は御社の給与規定の範囲で設定してもらって構いませんが、会社が成長したら、頑張りに応じて給与を上げてください」という「将来のリターン」に重きを置く人なら、間違いなく未来を一緒につくっていけるでしょう。給与額を決めるときは、この考え方を基本にしていただければと思います。
その際の会社側からのメッセージとしては「最初の給与は他の社員のことも考慮して抑えますが、入社後の実績を反映させ2年目以降は柔軟に昇給します。年収○○○万円のアップも可能です」と、頑張っただけ大幅なアップもあり得ることを示唆するといいでしょう。なお、この部分は暗黙の了解のように曖昧にするのではなく、応募者本人も確信が持てるよう、しっかりとした約束をする必要があります。
中小企業には大手企業のように年齢や入社年次による「給与テーブル」などはない場合が多いでしょうから、年収についても弾力的な運用が可能です。良くも悪くも社長の一存で決められるものなのです。
また、今いる社員の立場から考えれば、海のものとも山のものともわからない中途入社者が「社長に気に入られているから」という理由だけで、自分たちよりも高給であれば複雑な気持ちになります。これでは入社後、社内になじんでいくことも難しくなります。
「入社時の年収や肩書」にこだわる人か、「将来のリターン」にこだわる人かで未来を共にできる人かどうかを判断できます。
中小企業の特徴である成長率の高さや変化への柔軟な対応力、年齢に関係のない権限委譲の大きさなど、どこに魅力を感じているかを応募者に最終確認してみるといいでしょう。
100日間の「ハネムーン期間」は温かい目でサポートを
日本でも海外でも政権交代して新しいリーダーが誕生したときなどに「ハネムーン期間」という言葉が出てきます。「ハネムーン期間」とは、新政権と国民・マスメディアの関係を新婚(蜜月)期間の夫婦になぞらえて名づけられたもので、新体制になってから最初の100日間は、メディアや野党も性急な評価や強い批判は避けるという紳士協定のようなもの。「100日間くらいは温かい目で見守ってあげましょう」ということです。
これは中小企業が優秀な人材を迎えるときにも当てはまる考え方です。先ほど鳴り物入りで迎えた中途入社者があっさり辞めてしまうことが多いと書きましたが、要するに100日以内の間に厳しい評価を下したことで、早々に「離婚」(離職)してしまったということです。
このハネムーン期間における、社長の役割・振る舞いについてポイントをいくつか挙げます。
- 過剰な特別扱いはしない
- 既存の社員(とりわけキーマン)と自然な形で交流できるように配慮する
- 定期的な面談の場を持つ(入社後の気持ちや感想をとにかく傾聴!)
- すぐに結果を求めすぎない
過剰な特別扱いをしてしまうと、どうしても既存の社員から「お手並み拝見」的な冷ややかな態度を取られます。だからこそ社長にはとりわけ社内のキーマンと自然になじめるような立ち回りをお願いしたいと思います。例えば中途入社者とキーマン何人かをランチにでも誘い、ざっくばらんな形で人となりを理解し合える場を設けるなど、お互いが様子見の状態から近づけてあげられる立場は社長しかいません。
また、中途入社者は誰しも入社直後は不安や疑問を少なからず持っています。それをきちんと聞いて受け止めてあげてください。
他社にいた人からの「ここはなんだかおかしくないですか?」といった指摘は、意外と本質的な視点で新たな発見があるものです。それに対していちいち反論するのではなく「なるほど!」とまずは聞き役に回ることです(社長の最も苦手なことだと思いますが……)。そして100日間くらいは結果を求めず、じっくりと本人の実力が開花するのを待ってあげてください。
現状をしっかり理解・把握し、現場とのあつれきを生むことなく、戦略的に動けるような優秀な人材は、たいていは100日以降に力を発揮していきます。温かい目を持つ経営者の下では、中途入社者も会社の貴重な戦力としてのびのびと成長していくことでしょう。
今回は入社にまつわる条件交渉から入社時のポイントまでをお伝えしました。次回は入社後の育成計画についてお話したいと思います。
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この記事の著者
田中 和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
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