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優れた「サービスデザイン」の作り方【連載:読むべき優良ビジネス書】
2019.12.04
仕事に役立つ本を読みたいと思い、話題の本に手を出してみても今ひとつしっくりこない。ビジネス書を読んでも仕事に生かせる手ごたえがない。
そんなスモールビジネスパーソンのために、年間300冊のビジネス書を読破するプロ書評家・坂本海氏におすすめのビジネス書を紹介してもらう連載企画。毎回のテーマに沿ってビジネス書から得られるヒントを元にスモールビジネスを考えていくことで、本から得られる学びをお伝えしていきます。
今回のテーマは「サービスデザイン」。近年は、単純に商品を提供するだけでなく、サービスを付加することで、顧客に対する提供価値を高めることが注目されています。その背景には、現代の消費者があふれるモノや情報に接することで目が肥えたため、商品に対する期待の水準が昔に比べて、上がっていることがあります。また、産業が成熟し、商品そのものだけでは差別化が難しくなった一方で、サービスには差別化の余地が多く、利ざやが大きいという見方があります。
こうしたトレンドに対して、スモールビジネスでは何をすれば良いのかに焦点を当てて考えてみたいと思います。
目次
サービスをデザインする
顧客満足度と商品やサービスの受容度を高める。顧客の不満を減らし、サービスの失敗を避ける。顧客のサービス体験を改善し、より良い関係を築く。こうした目標を達成するためには、サービスにデザインの力を取り入れる必要があります。
サービスをデザインする方法を体系的にまとめた本が『ビジネスで活かすサービスデザイン』です。
顧客体験の作り方など一連の専門的な知識と手法が紹介されています。ただし、この本は、大企業向けであるため、スモールビジネスで実際に実践するには、かなりハードルが高い内容になっています。ここでは、あくまで概念を知るための参考として挙げておきます。
「商品」「場」「人」— ビジネスの3要素
顧客に支持されるサービスを作るには何に注目すべきか。まずは、スモールビジネスの代表的な業態の1つである飲食店を事例に考えてみたいと思います。
「飲食店が勝ち抜くためには何を考えなければならないか」を紹介しているのが『外食逆襲論』です。この本では、あらゆる飲食店を構成する3つの要素、「商品」「場」「人」の視点からポイントを説明しています。
この「商品」「場」「人」の3つの要素のうち、どこに価値を置いて、どこで勝負するかを決めることが大切だといいます。飲食店は数多くあり、競争の激しい業態。だからこそ、3つの要素のすべてで平均点を狙うのではなく、いずれか1つで120点を目指すことで特徴ある店を作ることが重要だといいます。
そして、3つの要素の中で、勝負するのが最も難しいのが「商品」です。過去30年にわたって商品開発でしのぎを削ってきた飲食業界では、どんな店でもそれなりに美味しい。「商品」だけで勝負するには、厳しい業界です。
一方で比較的、誰でも勝ちやすいのは「場」と「人」。これからの時代をサバイバルできるのは、売れる商品を作ることのできるお店ではなく「顧客が共感し、長期的な関係性を築くことができるお店」だといいます。
この考え方は、飲食店に限らず、多くの業態に当てはまるでしょう。特に商品で差別化が難しい業態などはなおさらです。
商品から顧客体験へ
近年、「場」を軸とした体験型サービスが人気です。「モノ」ではなく「経験・体験」に価値を感じる人が増えていて「コト消費」と呼ばれています。
体験型サービスの事例の1つとして「都市型ワイナリー」を紹介します。都市型ワイナリーとは、街の中の醸造所のこと。一般的にワイナリーと言えば、地方にあってブドウ畑の隣に造られますが、最近では醸造設備を街の中に造り、原料は外から運んでくるという施設が増えています。顧客は、醸造の様子を眺めながら気軽にワインを飲むことができます。こうした街の中の醸造所は、ワインに限らず、クラフトビールなどでも増えています。
こうした体験型サービスを作るにあたって参考となるのが『素人が起こす都市型ワイナリー革命』です。タイトルの通り、ワインに全く素人だった著者が、ゼロから都市型ワイナリーを造るために何を行なったかが書かれています。
この本の中で重視されているのが「コト創り」で価値を高めるという視点。今まで体験したことのないユニークな体験を顧客に提供すること。そのために、ブドウからワインができるまでの全工程を「見える化」し、ワインを醸造する体験を提供したり、ブドウの収穫ツアーなどを開催したりしています。
ポイントは「今だけ ココだけ 私だけ」。この3つが特別感を演出し、顧客の満足度を高めるといいます。
体験型サービスは、必ずしも都市型ワイナリーのような設備が必要なわけではありません。例えば、お店で簡単なイベントやワークショップを行うだけでも、体験型サービスとなります。スモールビジネスであっても、工夫次第で取り入れることができます。
顧客が求めている3つのこと
「人」を軸とした優れたサービスについても考えてみたいと思います。『リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法』は、高級5つ星ホテル「リッツ・カールトン」の創業者ホルスト・シュルツが書いた本です。
ホテルで灰皿洗いからスタートし、やがてリッツ・カールトンを立ち上げたシュルツが、何を考え、どのようにサービスを提供してきたのかが紹介されています。
この本の中で、顧客満足についてシュルツは次のように書いています。
“どんな分野のビジネスであっても、お客様は次の3つのことを望んでいる。
①欠陥のない製品やサービス
②待たされないタイムリーな対応
③親切で思いやりのある対応3番目の要望は、前の2つを合わせたものより大きい。この希望に応えることができれば、他に問題があってもカバーすることができる。”
さらに、シュルツは上記の3点に加えて、2つの要望が高まっていると書いています。
- インディビデュアライゼーション(個別対応)
- パーソナライゼーション(個人の興味・関心・行動に合わせた最適化)
これらはつまり、いかに一人ひとりのお客様のことを考えて、サービスを提供するかということです。当たり前のようでいて難しい。一緒に働くメンバーやスタッフにも徹底させることはさらに難しい。ビジネスに関わる人数が多くなればなるほど、難易度は高まっていきます。
ここにスモールビジネスだからこそ、大手にできないサービスを提供する機会があります。規模が小さいからこそ、顧客一人ひとりに満足度の高いサービスを提供し、支持を得ることができます。
本には、組織づくりや人材の育成方法についても書かれています。顧客満足の高いサービスを提供する組織を作る上でも参考になると思います。
ジョブズも「顧客体験こそ重要」だと考えていた
アップルの成功要因は、製品やデザインだけではなく、Apple Storeの顧客体験だという話があります。Apple Storeは、2001年にアメリカで最初の店がオープンして以降、現在では世界中に500店舗以上が展開されています。
スティーブ・ジョブズによって、顧客体験の「場」として設計されたApple Storeは、高級ホテル「フォーシーズンズ」を参考にしたと言われています。店にはレジがなく、コンシェルジュが置かれています。また、フォーシーズンズにバーがあるように、Apple Storeにも製品のトラブルサポートやアドバイスをしてくれる「ジーニアスバー」が置かれています。
Apple Storeの従業員は、次の5つのステップで、優れた顧客体験を提供するといいます。
- 顧客を、それぞれに適した温かい挨拶で出迎える
- 顧客のニーズを丁寧に聞き出して理解する
- 顧客に解決策を提示する
- 課題や懸念などをしっかりと聞いて解決する
- 温かい別れと次回の来店をうながす言葉で別れる
これらは、リッツ・カールトンのシュルツが言う「親切で思いやりのある対応」「インディビデュアライゼーション(個別対応)」「パーソナライゼーション(個人の興味・関心・行動に合わせた最適化)」に当てはまりそうです。
結局のところ、顧客が大切にされたと思うことが、優れた顧客体験を作るために大切なことだと言えるでしょう。
顧客の思考パターン
最後にサービスマーケティングのバイブルとも呼ばれる古典『あのサービスが選ばれる理由』を紹介します。目に見える「商品」がないサービス業では、どのようにマーケティングを行えばよいのでしょうか。
この本の中で、参考になるのが「顧客の思考パターン」です。
- 費用対効果やサービス比較など合理的な判断を下す人は少ない
- 人は自分に一番馴染みのあるものを選ぶ傾向がある
- 新しい情報ほど記憶に残りやすい
- 人は「最良」よりも「無難」を好む
- 人は一度抱いた印象をアンカリング(特定の特徴や情報を重視する)する
- 人は最後の印象が残る
- 人は、自分の好みを通すよりも、嫌な思いをせずにすむことを優先する
- 不安に思っている顧客への売り込みは意味がない。不安を取り除くこと
- 弱みは隠すよりも認める方が、信頼を得られる
- 人は自分が下した決断を正しかったと感じたいため、決断の根拠となる「違い」を求める
これらの顧客の思考パターンを知っていれば、顧客体験を設計する上で役に立ちます。すべてを盛り込む必要はありません。いくつか組み合わせて、取り入れれば良いのです。顧客目線でサービスを考えるのと合わせて、こうした顧客の思考パターンを抑えておくことで、顧客から支持されるサービスを作ることができます。
目の前の顧客のことを考える
飲食店、小売店、士業、美容室など、世の中のほとんどのビジネスは、「人」のつながりによって成り立っていると思います。顧客体験といっても難しく考える必要はないのです。目の前の顧客一人ひとりのことを考えて、サービスを提供できているか。目の前の顧客に対して、何を提供できているのか常に考えていくことが大事なのではないでしょうか。
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この記事の著者
坂本 海
兵庫県出身。大学卒業後、半導体商社を経て、SBIインベストメントでベンチャー投資の審査や経営支援に従事。現在はスタートアップ企業において事業戦略・ファイナンスを担当。書評・要約サイト「ブックビネガー」編集長。ビジネス書読書会「朝・カフェで読書会」主宰。2019年5月 ぱる出版社より「神・読書術」を上梓
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