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外国人採用を成功させる3つのポイント

2019.06.03

著者:株式会社スコラ・コンサルト

著者:簔原 麻穂

採用難・人材難は中小企業の深刻な悩み。「日本人でなければ」と言っていては人手不足の解消は難しい状況です。また、今後は外国人の観光客はもちろん居住者も増加が続くことが予想される中、外国人顧客の対応のためにも、外国人従業員の採用に積極的に取り組んでいきたいものです。

そこで、外国人従業員の採用・育成・定着を成功させるためのポイントについて事例を交えて解説していきます。今回は【採用編】として、受け入れ準備から採用、実際の受け入れまでをじっくり説明します。

小さな会社や個人商店は「外国人採用」にどう取り組んでいくべき?

人手不足による企業倒産や廃業のニュースが身近にも聞かれます。厚生労働省のデータでは、日本の人口は2060年までに32.3%減少、また労働力は45.9%減少という数字が出ており、労働人口不足問題はますます深刻になっていきます。

定年制度の延長やシステム化、AIの導入などで補ったとしても、今までのように日本人だけで従業員をまかなうことは難しい。事業の規模の大小に関わらず「外国人採用」を避けては通れない時代になりました。

海外支社などがある企業は、現地採用や海外留学生が多い日本の学校からの継続採用など比較的上手に外国籍社員の採用を行なっています。また、技能実習制度など、一時的な対処法であったとしても、国の制度を上手に活用し、継続した労働力の確保を行なっている中小企業も多く存在します。

出典:厚生労働省:「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ(2018年10月末)

では、組織的な採用ルートや受け入れ体制を持たない小規模事業者は、外国人採用をどのように考え、取り組んでいけばいいのでしょうか。

採用難に苦しんではいるものの、少人数の会社や個人商店などでは「この仕事は日本人でないと無理だ」「外国人を募集したいけどうまくいくだろうか」など、採用する以前に躊躇してしまいがち。どこかにいるはずの日本人を探し続け、結果として人手不足から脱却できていないのではないでしょうか?

外国人採用を成功させるポイントをまとめると下記の3つです

  1. 違いを理解して受け入れ準備を行なう
  2. 求める人材像を描き、人のつながりにアンテナを立てる
  3. 採用のカギは「日本語上達やコミュニケーションへの積極性」

確かに、日本と他国では文化や国情に違いがあり、言葉の壁もあります。その違いを理解しないと戸惑うのも当たり前です。しかし、近年はインバウンド好景気で外国人観光客が急増し、多国籍の飲食店や文化交流の機会も増えました。2020年の東京五輪に向けて新たな客層を取り込むためにも、外国人採用を国際化の手がかりにしてみてはどうでしょうか。

ポイント1 違いを理解して受け入れ準備を行なう

まずは、採用候補者の出身国のことを調べてみましょう。国の情勢や文化や歴史など、その背景によって、仕事に対する考え方や働く目的は異なります。宗教や独自の慣習、生活感覚や思考・行動の特徴、性格、価値観など、ある程度の情報を頭に入れて違いを理解しておくと、心の準備も含めて、受け入れ準備がしやすくなります。

もちろん、最終的には直接相手に会い、話を聞き、人となりを知ったうえで採用することが一番大切なのですが、その前に私たちが異文化を受け入れる準備をすることが重要なのです。

伸び率が高いのはベトナム(31.9%)とインドネシア(21.7%)。ベトナムは人数で中国に近づいており、外国人労働者の国籍の多様化が進んでいる。出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ(平成30年10月末現在)

例えば、ニュース等では技能実習制度で来日した実習生が「逃げる」という話がセンセーショナルに報道されることがあります。労働環境の厳しさ、いじめなど人間関係の問題が原因の場合もありますが、実際に外国人労働者に直接、話を聞いてみると意外な事実がありました。

実習制度を導入しているとある工場の中国人社員や実習生にインタビューしたところ、「そもそも、自分たちが働く目的は、3年間のうちに1円でも多く日本でお金を稼ぐこと。隣町の工場の時給が1円でも高いのであればそちらにいくのは当たり前。そういった情報は仲間同士でいつも交換している。稼げるところに移っているのです」と話してくれました。

当人は即座に条件のいい職場に移っただけ。いい悪いではなく、常識の違いを知らなければ起こったことが理解できません。

受け入れ側としては「こんなに良くしてあげたのに、なぜ?」と思うかもしれませんが、今回話を聞いた彼らの場合、まずは渡航するために背負った借金を返すこと、家族を養うためにお金を稼ぐことが一番の目的であり、当然、自然なことだったのです。

ちなみに取材した工場では、優秀な外国人材を確保するために、近県の時間給を調べ、同じか、それより1円でも高い時間給に設定するように配慮しているといいます。正社員だけに渡していた一時金なども、少額でも同じように封筒に入れて渡すなど、日本人と同等であることを行動で示したそうです。そうやって相手の事情を汲んで接してきた結果、これまで実習生が他に移ることはなく、技能も安心して習得してくれている、と工場長は話していました。

国の情勢や国を出る事情、生活の背景などを知ることで彼らの行動が理解できる。それによって、一緒に働くためのさまざまな対処方法も見つかってくるのです。

ポイント2 求める人材像を描き、人のつながりにアンテナを立てる

では、どのようにして人材を募集すればよいのでしょうか。

近年増えている外国人の人材紹介会社を上手に活用してみることも悪くはないのですが、費用がかかる、紹介ビジネスなので成約後の責任はとってはくれないなど、任せきりのつもりでいると後悔することになってしまいます。

募集にあたっては、経営者が大切にしていることや、外国人採用によって職場や仕事にどのような良い影響があるか、従業員を仲間として受け入れられるかなど、あらかじめ求める人材像や採用する際の決め手になるポイントを持っておくとよいでしょう。

また、人材探しとしては、派遣会社や外国人が多く通う専門学校などに声をかけ、仲介している担当者や学校の先生たちと情報交換のパイプをつくることも有効です。そういうところで外国人同士のネットワークを紹介してもらい、求人の場として上手に活用してみましょう。

経験上、「良い人材の周りには良い友だちがいる」と企業の採用担当者たちは口をそろえます。周辺に外国人を採用しているお店や会社などがあれば、良いことや悪いことなど直接話を聞きに行くなどして情報を集めます。そして、うまくいっているケースを見つけたら、その人の周りにいる自国の友だちを紹介してもらいます。

日本で働くうえで自国のコミュニティやネットワークは彼らにとって重要なセーフティネットであり、常に仲間同士の情報も交換しあっているのです。

こんな事例があります。ある製造会社では、積極的に外国人採用を考えていましたが、なかなか思うように人が見つかりませんでした。そんな中、たまたま繁忙期に派遣会社からアルバイトを送り込んでもらった時に、フィリピン人のC君との出会いがありました。工場長はその場で即座に、わが社に入ってくれと話したそうです。

C君はアルバイトで入社し、しっかりとした仕事ぶりで実績を上げた結果、正社員になりました。しかし、5年後、家庭の都合で母国に帰ってしまうことになるのです。そこで「君のような仕事ができる友だちを紹介してくれないか」と工場長が頼んだところ、友人のE君を紹介してくれました。そうした経緯で、ちょうど結婚して年収を上げたいと考えていたE君をうまく採用できたのです。

そのE君に「入社してどうか」と話を聞いてみたところ、「今はこの会社に入社できてとてもよかったと思う。でも、子供ができたから、これから生活が苦しくなると仕事は変わるかもしれない」と話してくれました。

工場長にその話をしたところ、彼にはこの会社でもっと活躍してもらいたいので、成果が出せて昇格できるチャレンジ目標を考えておきますね、と笑顔で話をしていました。

ポイント3 採用のカギは「日本語上達や職場コミュニケーションへの積極性があるか」

日本の会社で活躍している外国人社員に「日本で苦労したことは?」と聞いたところ、口をそろえて「日本語で苦労した」と言います。明るいし元気だからと採用したが、結果的に、職場の仲間とコミュニケーションがまったくとれず、仕事も覚えられなくて辞めてしまった、というケースは珍しくありません。

そうならないように、採用時には、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか。長年、外国人採用を行っている会社の採用担当者は次のように説明してくれました。

「まず、その人に自分らしさを出してもらうために、自分が話したいことを話してもらいます。将来、一緒に仲間としてやっていけるタイプかどうかを見定めるためです。職場でうまくやっていける人というのは、コミュニケーションがとれるか、我々が一緒に働きたいと思えるかどうか。さらに、積極性があるかどうかが重要なポイントになります。まず日本語を覚えようとする積極性。日本の職場でコミュニケーションをとるためには、共通言語である日本語が通じることがまだまだ重要なポイントなんです」

「3年前に採用したベトナム人のP君は、休みの日も、日本の仲間と一緒に過ごし、家に招いて母国料理を振る舞うなど積極的に言葉の壁を越えようとしています。日本語の上達も早く、結果的に仕事を覚えるスピードが上がる。逆に、我々が彼の積極性から学ぶことが多いくらいです」

まさに、積極性に勝るものはない!ですね。

人手不足の解消だけでなく、外国人客を増加させたり、新しい視点からの提案や学びを得るためにも積極的に取り組んでみてはどうでしょうか。

この記事の著者

株式会社スコラ・コンサルト

組織風土改革のパイオニアとして企業・公的機関の支援に30年の実績をもち、実践を目的とした〈プロセスデザイン〉という独自の変革手法に特徴がある。「コンサルタントのいないコンサルティング会社」のスタンスを貫き、「プロセスデザイナー」が現地で現場の人たちと一緒に考える伴走型の支援を行う。本音でまじめな話ができる対話の場、職場や立場を離れてフラットな関係で行う「オフサイトミーティング」は、スコラ・コンサルトの代名詞になっている。

この記事の著者

簔原 麻穂(みのはら あさほ)

「株式会社スコラ・コンサルト」の組織変革プロセスデザイナー。国家資格キャリアコンサルタント、女性労働協会認定講師。経営層の参謀役育成やマネジメント改革、女性ならではの強みを仕事の成果につなげる支援を得意とする。

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