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これまでの常識では採用難は乗り越えられない?プロが教える「積極的なアルバイト採用」事例

2019.02.28

著者:若山 修

著者:株式会社スコラ・コンサルト

常時アルバイトで仕事をまかない、人件費負担を軽減する。そんな“間に合わせ感覚”の採用が難しくなっています。大手外食チェーンでさえアルバイト不足を理由に休業や店舗閉鎖に追い込まれる時代になりました。

その一方で、法定の最低時給(最低賃金時間額)は都市圏を中心に上がり続け、東京では985円(平成30年10月)。「スタート時給を上げて人を集めるのも、もう限界!」という悲鳴も聞こえてきます。なんとか時給アップ以外で人を集める方法はないものでしょうか。

ちょっとしたことでも、視点を変えれば差のつく採用の工夫はまだまだあります。今回は、私がコンサルタントとして関わった企業やお店の中から、読者の皆さまにも役に立ちそうな「積極的なアルバイト採用の事例」をご紹介します。

【店頭告知】いつも「急募」の告知を「予告募集」に変える

求人誌や求人サイトなどで広く募集をする前に、まず店頭で募集告知をして、お客さまの中からスカウトする。これは多くの経営者が実践している鉄則です。

玩具販売店を営むA社ではさらにひと工夫し、次のような「来年3月に新規募集します」の予告を半年前から店頭に貼り出しました。

店頭での募集といえば「急募」が定番ですが、これは実のところあまりイメージが良くありません。「人が辞めて困っている=あまりいい職場ではない」という印象につながってしまうからです。

その点、半年前からの告知は、場当たり的ではない計画的な経営の一面を感じさせ、安心感につながります。また、当然ですが、店の利用客を含めた多くの人の目にふれるチャンスがあるため、急募するよりもずっと応募率が高くなるのです。

【求人紙への広告】広告スペースを「文字でぎっしり」埋め尽くさない

どこも似たような基本情報が横並びで羅列されている求人紙の広告。ほとんどの人は、時給なら時給だけ、勤務地なら地域だけを見比べて、斜め読みしているため、まずは目に留めてもらうことが重要です。

求人広告もちょっとした工夫で結果は変わってきます。たとえば、スペースに「余白を持たせる」。1コマ枠にめいっぱい情報を詰め込むよりも、思い切って2コマ枠を購入し、十分に余白を持たせたレイアウトにします。

上記のように、同じ情報でも余白があるかないかで目立ち方はまったく違ってきます。

もうひとつ、簡単なことなのですが、一工夫加えると効果抜群のコツがあります。それは、「求める人材像」だけではなく「なぜ、うちで働くことを勧めるのか」の理由を書く、という工夫です。「明るく元気な方、大歓迎」と書くだけではなく、たとえば「国体出場●●高校サッカー部で主将だった店主が率いる店。チームスポーツ好きがたくさん集まっています」と書いてみるとどうでしょうか。

「親しい友人の息子さんや娘さんに、この店のアルバイトを紹介するとしたらどのように説明するか?」と考えて、そこで働く魅力やその理由をリアルに表現するのがコツです。

ユニークな事例としては、「時間の融通がきき、勉強や趣味との両立がしやすい」という特徴を「なんにもやりたいことがない人、来てみてください。たぶん、何か見つかります」と表現して、大量の応募を得たケースもあります。

【応募数と採用率】採用は「ふるい落とし」ではなく「互いに歩み寄る努力」

これまでご紹介したのは募集についての工夫でしたが、面接を社員に任せているような会社の場合、意外な死角をもたらしているのが「採用率」です。よくあるケースですが、担当者の「ぜんぜん応募がないんです」という言葉が、じつは「たった3人しか応募がなくて採用ができない」という意味だったりするのです。

その社員の経験値に基づく常識では「いつも10件ぐらいは応募があるものだけど」という数字感覚があり、応募者が3人では「それにはまったく及ばない」ために「全然ない」に変換されてしまう、というケースです。

実際に私が支援したあるチェーンの店舗では、約半年間、お金をかけて毎月のように募集広告をしていましたが、採用はゼロ。店長の話では「今年はそもそもまったく応募が来ないんです」ということでした。しかし、よくよく聞いてみると、毎月平均3件は応募があり、通算では15人以上という応募数があったのです。なぜ、それが「まったく来ない」になったのでしょうか。

まず電話で問合せがあった段階で、店長は、ほとんどの人を条件が合わないという理由で断ってしまい、実際に面接したのは3名だけ。半年間、連続で広告を出したにも関わらず面接にまで至ったのは3名だけなので、店長の認識では「ぜんぜん応募がない(=採用に至る応募数はゼロ)」となっていたのでした。しかし、求人難時代の採用には、機械的な「ふるい落とし」ではなく「互いに歩み寄る努力」が姿勢として必要です。そこで大切なのは、応募数が採用率に結びついていくような働きかけの工夫なのです。

まず、その認識を採用担当者が持つこと。そのうえで、面接の場を第1回目のトレーニング日と仮定して、応募者の給料や時間帯など希望を確認するだけではなく、お店の理念や現状、働く人への期待などをしっかり伝え、お互いにいい関係で働くために歩み寄る努力をする機会にします。

「働く人の事情に合わない」自店の課題を解決する

最後に、私が見聞きした中でもっとも果敢に「歩み寄り」に挑戦し、成功をおさめた例をご紹介しましょう。「10時開店、22時閉店」だった営業時間を、思い切って「10時~18時」に変更したあるロードサイド型小売業の話です。

その店では、2シフトを維持するだけの採用が年々厳しくなり、また採用難のために長く働いている昼間シフトの主婦陣の負担も大きくなっていました。そのことを懸念した社長は、悩みに悩んだ末に、ロードサイド業態ではありえないほど大胆な営業時間の短縮に踏み切りました。

そして1シフトで回せる営業時間へと変更した結果、夜シフトのスタッフが少し早く出てくることで繁忙時間帯のスタッフ数が充実し、仕事に余裕が生まれてサービスも向上しました。

営業時間の変更直後こそ売上は前年対比80%に落ち込みましたが、1年を待たずして売上は回復。2年目の売上は変更前を大幅に上回り、過去最高の利益を獲得することになりました。それだけではなく、スタッフがいきいきと楽しそうに働く姿が応募増につながり、店内募集告知だけで安定的な採用もできるようになったのです。

1992年に200万人だった18歳人口は、現在110万ちょっと。もはや、かつてのように「安い労働力」としてのアルバイトは望めません。アルバイトを主力とするビジネスは「働き手重視の体制」で収益が上がる構造へ、「間に合わせ」から「両者満足」の採用へと転換していかなければ存続できないのは自明です。

アルバイトスタッフといえども簡単には代替のきかない、志をともにする仲間と位置づけ、その仲間が無理せずに楽しく働くことが可能なビジネスモデルをつくり出すことこそ、これからの時代に求められている経営者の仕事です。過去の常識で物事を判断せず、知恵を絞って創意工夫を凝らしながら、事業を楽しんでいきましょう。

この記事の著者

若山 修(わかやま しゅう)

ベンチャー企業で草創期から東証一部上場までを経験。その後、株式会社スコラ・コンサルトで組織風土改革プロセスデザイナーを続けながら、2014年に青果店を開業。スモールビジネスに限りない愛着を持つ。

この記事の著者

株式会社スコラ・コンサルト

組織風土改革のパイオニアとして企業・公的機関の支援に30年の実績をもち、実践を目的とした〈プロセスデザイン〉という独自の変革手法に特徴がある。「コンサルタントのいないコンサルティング会社」のスタンスを貫き、「プロセスデザイナー」が現地で現場の人たちと一緒に考える伴走型の支援を行う。本音でまじめな話ができる対話の場、職場や立場を離れてフラットな関係で行う「オフサイトミーティング」は、スコラ・コンサルトの代名詞になっている。

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