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数字に弱い経営者が経理を育てるカギは「コミュニケーション」!経理本来の役割を認識してもらおう【経理の日スペシャルインタビュー】

2022.03.30

著者:弥報編集部

監修者:町田 孝治

時代に合わせて柔軟に変化していくことが求められている昨今、企業が生き延び、成長していくには経理の力が不可欠です。しかし経営者が数字に弱く、経理業務の重要性についてもあまり理解していないケースが散見されます。

そこで今回は、公認会計士である町田 孝治さんに、経理が会社にとっていかに重要か、経理が本来担うべき役割などを伺いました。数字に弱い経営者が経理担当者を育成するポイントについてもアドバイスをいただきましたので、ぜひ参考にしてみてください。


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【チェック項目あり】あなたの会社は経理を有効活用できている?経理が本来担うべき役割

小規模、中小企業の経営者は、経理を有効活用できていない人が多い気がします。町田さまは経理をどのような存在だとお考えでしょうか?

会社のお金の流れや全体像が客観的に見られる経理担当者は、2つの意味で非常に価値の高い存在だと思います。第一に、お金は会社全体を循環する血液といえるものなので、すべての流れを理解できれば、経営実態そのものを把握することが可能です。第二に、会社全体を一歩離れて俯瞰することができる立ち位置にあることです。経営者と同じ目線で動くことができた場合、会社にとって心強い存在といえます。

経理の役割は効率的に数字を作り、効果的に数字を使うこと、これに付きます。ところが、おそらくほとんどの経理担当者は、数字を作るところで精一杯。数字ができたら仕事完了というのが現状です。特に従業員数が少ない会社の場合は、なおさらでしょう。

そのため、少しずつでもよいので、会社の数字を有効活用できるようにする準備を進めることをおすすめします。


経営者と経理担当者はどのような関係性を構築するのが理想的でしょうか?

経営者が意思決定をするために必要なデータを、経理担当者がすっと差し出せるような関係が理想です。経営者が経営判断を下すにあたり、欲しいと思っている情報に限らず「こんな情報もあるんだ!」といった、経営者が気づかないような経営状況をガラス張りにする数字の見方を提示できるととても良いですね。

しかし実際のところ、経営者と経理担当者は見ている視点が違うケースも多いでしょう。

例えば、経営者的には大きな流れを見たいので「10~50万円程度は誤差。早く情報が欲しい!」と思っていたとしても、経理担当者としては円単位で合わないと仕事として完成しないと考えるため「ちょっと集計に時間がかかります」とか「(時間がないから)そんな数字は作れません」と、突っぱねられることもあるかもしれません。

したがって理想の関係を築くためには、経営者の感覚と現場にいる経理担当者の感覚のすり合わせを行うことが必須となります。


なるほど。しかし現実は理想と程遠く、経営者が「新規事業などで攻めたい!」という反面、経理担当者が「いや、無理ですから……」と阻止する会社は多いように見受けられます。なぜ、そのような状況になってしまうのでしょうか?

一番の原因は「コミュニケーション不足」だと思います。

経営者と経理担当者との間で日常的に十分なコミュニケーションがとれていれば、経理担当者は経営者が欲しい情報を理解し、スムーズに準備することができます。もちろん、そのような経営者は会社の状況も理解できているはずなので、多少数字が苦手であっても大きな問題にはなりません。また、社長が施策を展開したいのに、経理担当者が阻止するような状況にもならないでしょう。

ただ、経理担当者から経営層にコミュニケーションをとりにいくのはハードルが高いのも事実です。ですから、経営者側から歩み寄っていくのがよいと思います。経営層に対して、欲しい情報を出してくれる経理担当者がいるのは本当に心強いですからね。


経営者のほうから経理担当者に、欲しい情報についてかみ砕いて伝える必要があるということですね。もしかしたら、経理担当者が担っている役割が、会社経営にとって非常に重要なものであることを理解されていない方が多いのかもしれません。

そうですね。認識をしてもらうためには、経理担当者が扱っている数字が会社にとって大変重要で、会社を支えているものだということを、経営者からきちんと伝えるようにすることが重要です。

本来、経理担当者は会社にものすごく貢献できるポジションなのに「自分の役割はここまで」と決めてしまっている方も多いと思います。それでは、とてももったいないですよね。

普段から「この数字だったら、もっとこうしたほうがいいかな」「この状況なら、もっとここに集中するべきかな」といったコミュニケーションを、経営者と経理担当者がとれる関係性を作っておく。そうすれば、経理担当者も単なるタスクとして仕事に取り組むのではなく、経営の舵取りに自分が関わっていることが実感できますから、仕事への姿勢も変わってくるでしょう。


ちなみに「経理担当者はこれができていればOK」というポイントがあれば、教えていただけますか?

以下のポイントが1つでも多く押さえられる経理担当者がいると、会社にとっては安心だと考えてください。

ただ、あくまで理想にはなりますから、うまく誘導しながら経理担当者を育成していくことが重要になります。

  1. 経営陣から、会計上の不明点や気になることを経理担当者に質問した際、すぐに明確な回答を返すことができる
  2. 経営陣と会社の方針やビジョンを共有できている
  3. 毎月決まった資料(試算表や推移表)で会計のチェックができている
  4. 会社の重要な数値について定点観測(毎月同じ数値を追いかける)を行っている
  5. 毎月、月初の1週間以内に前月の月次損益がわかっている
  6. 毎月の数値の異常値について、経営陣と共有できており、同じように問題点を理解している
  7. 適切な管理者がいて、マネジメントできている
  8. 業務内容がマニュアル化できている
  9. 経理担当者の仕事がブラックボックス化しないよう、担当者以外にも業務を理解している人がいる、また、いざという時はその方が経理担当者の代わりができる
  10. 社内外に、迷った時に気軽に相談できる人が存在する
  11. 会計システムについて深く理解し、各業務システムを連動して仕訳を取り込んでいる
    └請求書発行システム、給与計算システム、経費精算システムなど
  12. 電子帳簿保存法を活用しペーパレス化に取り組んでいる
  13. 未来の予定について、経営陣と経理担当者とで共有できている
  14. 定期的に外部研修を受け、知識をアップデートしている

自社の経理担当者がどのような状態にあるかを把握するためにも、ぜひチェックしてみてください。

経理業務の属人化は不正の温床。デジタル化推進で横領などのリスクを防ぐ

数字に弱い経営者は、経理担当者にお金の管理を丸投げするケースも想定されますが、その際どのようなリスクが想定されますか?

まず、横領などの不正リスクがあります。実際に弊社が担当したお客さまの会社でも、3件くらいありました。金額の大小にかかわらず、よくあるケースだと思います。

「わからないからやっといて!」と、経理業務を一担当者に丸投げすると、不正が発生しても経営者自身は気づくことができないのです。そのため、発覚したときには大きな問題にまで発展し、会社の経営や評判に深刻なダメージを与えるケースもあるでしょう。

さらに、横領されたお金は経費化できないので、税金を支払う義務が発生します。

したがって、経理業務を担当者に丸投げする場合でも、少なくとも資金の増減についてだけは経営者自身がきちんと把握しておくことが重要と考えください。


経理業務はベテランの担当者がメインで作業を行い、業務が属人化する会社もあると思います。経理業務が属人化するデメリットを教えてください。

経理業務が属人化すると、不正の温床になるリスクがあります。

例えば、周囲に業務内容を理解している人がいない状態だと、15分くらいで終わる業務を半日かけてやっていても、だれも指摘できません。業務が属人化すると、業務内容やノウハウもどんどんブラックボックス化しますので、周囲から口を出しづらくもなるでしょう。

また、担当者が退職・転勤後の業務の引継ぎが困難になります。そのため我々のような会計事務所が間に入って、状況を整理することもありました。

一方で、経理担当者が自分の身を守るために、あえて隠しているというケースも考えられます。例えば、デジタル化など新しい業務フローを提案しても、従前のやり方に固執して前に進まないケースもあります。業務フローを変えることに対して、異様に抵抗されるのです。経理業務をデジタル化して、業務フローを可視化されると不都合があるため「この業務は私にしかできません!」と抵抗するわけです。

一方で、会計ソフトなどを導入して経理業務のデジタル化が進めば、入力や仕訳といった作業の効率化や自動化が実現できます。となると「この人にしかできない」という仕事は確実に減っていくでしょう。


自分にしかできない仕事が減ることを嫌い、業務フローの改善を経理担当者に拒否された場合は、どう対処するべきでしょうか?

経営者から「もっと他の、あなたにしかできない業務をぜひやってほしい」と、経理担当者に期待する役割を伝えましょう。先程話しましたが、経理の仕事は効率的に数字を作り、効果的に数字を使う、この2つです。だれにでもできる数字作りは自動化し、経理担当者にはもっと経営を助けるような数字や情報を出してほしいということを伝えながら、育成することが大切だと思います。

経営者が数字のプロになる必要はない。経理担当者に経営目線を持たせる方法

数字に弱い経営者が、数字のプロである経理担当者を育成するのは非常にハードルが高いと思うのですが、まず何から取り組むべきでしょうか?

とにかく「コミュニケーションの強化」が重要です。経営者のほうから経理担当者へ歩み寄ってもらいたいところですが、難しいケースもあると思います。そのような場合は、会計事務所などをうまく活用して、橋渡し的な役割を担ってもらうのも1つの方法です。

公認会計士や税理士はさまざまな会社を見ているので、個社ごとの事情に応じて臨機応変な対応をしてもらえます。例えば、経営者と経理担当者がすり合わせを行う際「こういう伝え方のほうが社長には伝わりやすい」「この表現のほうがわかりやすい」といったアドバイスをもらうことが可能です。

お互いの勘所が理解できた状態であれば、欲しい情報がすぐに得られるようになります。そうすれば、経営者が数字のプロになる必要はなく、経営の意思決定に集中することが可能です。経営者と経理担当者がお互いの役割を理解し、一緒に会社を良くしていこうという思いが共有できる関係性が理想といえます。


経理担当者が本来の役割を果たすためには「手を動かす時間<頭を動かす時間」にする必要があると思います。そのために、経営者が取り組むべきアクションとしては何が考えられるでしょうか?

まずは経理業務デジタル化の推進の意思決定を行い、それを社内に提示することです。そして、実現のためのリソースや予算の準備、また移行期間の設定や、場合によってはコンサルなどに依頼する必要もあるでしょう。

現在はテクノロジーの発展によって、経理担当者が手動で1円単位の集計作業を行う時代は終わりました。会計ソフトなどを活用すれば入力や集計、仕訳といった業務に、以前ほど時間をかける必要がなくなっています。

ただし、従来の業務をデジタル化するだけでは、大きな成果は期待できません。なぜなら、従来のアナログな方法の業務フローとデジタル化した業務フローでは、数字を作るためのプロセスがまったく異なるからです。「デジタルツールさえ導入すれば、生産性が向上する」というわけではないのです。

デジタルツール導入は、業務全体を再構築するくらいの覚悟をもってプロジェクトを推進する必要があります。これは、経営者にとっても経理担当者にとっても勇気がいることですから、経営者は強い意志と推進力をもって、全面的にサポートする姿勢を見せていきましょう。


経理業務の属人化は、どのように回避するべきでしょうか?

「テクノロジーの力をフル活用しましょう」というのが回答になります。会計ソフトなどを導入すれば、一定のルールに則った自動仕訳なども実現できるため、業務フローが可視化できます。もし不具合や非効率な箇所があった場合でも、ルールを変更すれば対応可能です。

経理業務は、基本的に毎月同じような取引を処理するのが一般的です。例えば、500件くらいの取引があった場合、おそらく450件程度は前月と同じルールで対応できるでしょう。残りの50件について個別対応を行う必要はありますが、これらもルールをシステムに記憶させることで、次月からはこれらも自動化・効率化の対象にすることが可能です。

運用を継続することによって、見えないルールがどんどんなくなり、必然的に業務の属人化もなくなっていくことでしょう。


数字に弱い経営者でも「これだけは見ておいたほうがいい」という数字があれば教えてください。

事業が拡大してくると、従業員や店舗のようすだけでは経営状況が把握できないので、数字で判断せざるを得なくなります。

特に資金繰りの部分は非常に重要なので、四半期に一度は確認しておくべきでしょう。具体的には、BSを確認して、資金の流れを定期的に確認しておく必要があります。運転資金が毎月どの程度必要なのか、また会社のどこにいくらの資金が眠っているかなど、お金の流れを把握しておくことが重要です。そのためにも、大前提として経営者は基本的な数字を読むための技術を習得しておきましょう。

例えば、販売の回収サイトを短くすることによって、運転資金を劇的に減らせる場合があります。しかし、こうした判断をするためには、経営者がある程度の数字を読めることが前提だからです。

ある程度数字を読める能力を身につけ、経理担当者に「経営判断に必要なこの数字を出せるようになってほしい」と具体的にリクエストを出せるようになることが、経営者にとっては重要であると考えてください。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

町田 孝治(公認会計士)

2006年の創業から「社長の夢の全直応援団」として公認会計士事務所を展開。理系出身でIT好きなこともありクライアントの大半はIT系の会社。テクノロジーを活用して会計を効率化することで、バックオフィス業務が劇的に効率化する、そんな幸せな世の中になったと実感しているとのこと。経理業務の効率改善サポートなども強みとしている。著書に「攻める経理」(フォレスト出版)

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