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コロナ禍でさらに成長したクラウドファンディングのこれまでとこれから

2021.06.03

前回の記事「クラウドファンディングを成功に導くためのポイント」では、クラウドファンディングにチャレンジする際の大切なポイントに特化してお話をしました。今回は2020年の新型コロナウイルス感染症の影響で一気に普及した、クラウドファンディングのこれまでと今後の見通しについてお話したいと思います。

奈良の大仏の復興にも使われていた?クラウドファンディングの歴史

私が初めてクラウドファンディングに触れたのは2013年の夏のことです。地域密着型で全国展開をしていた、「FAAVO(ファーボ)」というクラウドファンディング・プラットフォームの大阪エリアでの立ち上げに参画しました。

FAAVOはかつて都道府県、市町村単位にエリアオーナーが存在し、地域密着でクラウドファンディングを支援するフランチャイズ制のプラットフォームでした。大阪エリアで2014年3月にスタートし、一時期は全国に100近いエリア展開をしていましたが、その後、クラウドファンディング大手「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」に事業統合されています。

当時はクラウドファンディングという聞き慣れない横文字と「インターネットを通じて不特定多数の人から資金を調達する」というイメージが先行していたこともあり、説明会を開催しても「怪しい」「マルチ商法か?」などと言われることも少なくありませんでした。とある組合で「これからはクラウドファンディングの時代が来る」というプレゼンをした際には、参加者から罵詈雑言を浴びせられたことも忘れられない思い出です。

今や資金調達手段のインフラとも言えるまで成熟したクラウドファンディングですが、今回は少しクラウドファンディングのこれまでを振り返りつつ、今後の見通しについても考えてみたいと思います。

寄付で資金を募る方法が古くから海外で存在

実はクラウドファンディングと同じような形式の資金調達手段が、海外では古くから存在しています。ヨーロッパでは数世紀前から書籍を出版する際、事前広告を使い出版を予告して予約購入者を募り、出版費用の回収目処が立った時点で発売するというケースがあったようです。

また、1884年にアメリカで募られた自由の女神の台座製作も同様のケースになります。ピューリッツァー賞にその名が残る、新聞出版者のジョーゼフ・ピューリッツァーが、自身の新聞紙面で寄付を募る記事を寄せ、これに約125,000人から10万ドルの寄付があったそうです。

単純に数で割れば、多くの人の寄付額は1ドルに満たなかったことになります。しかし、群衆を意味するクラウド(Crowd)の名にふさわしい事例だといえるでしょう。

奈良の大仏もクラウドファンディングで復興!?

一方、日本にも同じような手法が古くから存在していました。今から約1000年前、鎌倉時代までさかのぼります。

1180年に平氏の南都焼き討ちによって焼失した奈良の大仏を再興する際、重源という僧が大勧進職、今でいうプロジェクトマネージャーに任命されました。彼は大八車を作って全国をキャラバンしながら、時の有力者であった源 頼朝、奥州藤原氏をはじめ、名もなき人々からも多くの寄付を募り見事に奈良の大仏を再興させたのです。

つまり大仏再興というクラウドファンディングに支援することで、天下の安寧やご利益をリターンとしたというプロジェクトになります。この他にも昭和初期の大阪城の再建工事や、最近では震災で被害にあった熊本城、火事で焼失した首里城の復興工事などにも寄付が用いられていることを考えると、クラウドファンディングは古くから日本人の身近にあったのかもしれません。

もっと身近な例をあげると、町内会の盆踊りの提灯などもそうですよね。地元の企業が寄付をすることで、盆踊り会場に社名が掲示されたり、提灯に名前が刻まれたれたりすることで販促につながるというリターンを得られ、町内会は盆踊りを開催できる。これもりっぱなクラウドファンディングの一つです。

日本最初のクラウドファンディングサービス

日本で最初のクラウドファンディングサービスを開始したのは、2011年3月29日スタートした「READYFOR(レディーフォー)」だといわれています。クラウドファンディングの綴りは「Crowdfunding」ですが、当時はクラウドコンピューティングなどの「Cloud」と、みつけるという意味の「founding」との組みわせで、インターネット上で支援者をみつけることがクラウドファウンディングだと思っていました。

人と人がリアルで行ってきたクラウドファンディングは、インターネットの普及によってWebサービスとして確立され、READYFORのサービスを開始から10年で、クラウドファンディングの市場は年間2,000億円規模まで成長したのです。そして、2020年に世界を襲った新型コロナウイルスが、さらにクラウドファンディングの変化と進化を加速させたのではないかと思っています。

クラウドファンディングに見られる変化

2,000億円規模にまで成長したクラウドファンディングですが、資金提供者に対するリターンの形態によって、

  • 金銭・物品・サービスのリターンがない「寄付型」
  • 事業収益によって配当のように金銭のリターンがある「投資型」
  • 用意された権利や物品をリターンとして購入することで支援を行う「購入型」

の3つに分類されます。

一般的に多く用いられるクラウドファンディングは購入型です。スモールビジネスにおいて、現実的に活用可能な方法は購入型になるため、今回は購入型に特化してお話を進めていきます。

購入型の市場規模は、2019年の1月~6月の上半期で約77億円でしたが、2020年1月~6月は223億円にまで成長したともいわれています。この動きだけを見ても、半期ごとに倍の成長が続いており、2021年は購入型だけで1,000億円規模にまで成長することが予想されるでしょう。

私がFAAVO大阪立ち上げに参画した2014年、クラウドファンディング全体で200億円市場といわれていました。それからわずか6年で、10倍の2,000億円市場に達したという点を鑑みると、やはり新型コロナウイルスの影響によってクラウドファンディングの利用が急増したことが考えられるでしょう。

成熟期に入ったクラウドファンディング

クラウドファンディング黎明期は、高額調達の事例が先行していました。しかし、少しずつ成熟期に入ってきたのか、活用する側の意識も変化してきたと感じています。

私は数年前から行政機関のWeb活用の相談員として、多い月で10社ほどの相談を受けているのですが、EC活用が7割、クラウドファンディング3割といった割合です。かつては「クラウドファンディングで一山当てたい!」という方も一定数はいましたが、最近ではそのような方に出会うケースも少なくなり、起案する動機も多種多様になってきた印象があります。

単なる資金調達のツールから、潜在ニーズを探るテストマーケティング、コアなファンとつながるきっかけになるコミュニケーションツール、プレスリリースと合わせてプロモーションツールとして活用するケースなど、クラウドファンディングの利用目的が広がってきたと感じています。以下で、それぞれの目的に応じてどのようにクラウドファンディングを活用するのか説明するので、参考にしてみてください。

テストマーケティングとしてのクラウドファンディング

前章の数世紀前のヨーロッパの出版の事例と同様に、開発中の商品や新商品にどれだけニーズがあるかを探る活用方法です。

実行方法を「All or Nothing方式」にすれば、目標金額、目標個数に届かない場合は発売を見送ることもできます。そのため、リスクを試作品の制作費だけで抑えることが可能です。

集まった分の金額で実行可能であれば「All In 方式」で行うこともできますし、クラウドファンディングを通して、自助努力で初期の広報をどこまで拡げられるか自己診断を行うこともできますね。社内会議で盛り上がった商品がクラウドファンディングでは全然ハネなかったケースもありますし、逆に社内会議ではイマイチだったものがバズって大ヒット商品になり得るという可能性もあります。

コミュニケーションツールとしてのクラウドファンディング

クラウドファンディングでは思わぬ出会いもあります。SNSで拡散されることによって、想定もしていなかった人たちにプロジェクトが認知されることを、私自身も多く経験しました。

プロジェクトリーダーは企業や団体、個人の実態を公開して募集を行いますので、名前で検索された方がFacebookで繋がってくださったり、応援メッセージを直接いただいたりすることもありました。また、そうした人が次のファンを連れてきてくれることもよくあり、いわばアンバサダーのようにプロジェクトを後押ししてくれたと感じることもあります。

実際に友人関係になった人もいます。お客さんでもあり友人でもある、そのような人との繋がりもクラウドファンディングがもたらしてくれました。

プロモーションツールとしてのクラウドファンディング

私自身が経験したなかで、最も大きかったと感じるクラウドファンディングの活用方法がこれです。詳しくは次回の活用事例でもお話しようと思いますが、クラウドファンディング黎明期に積極的な取り組みを行った経緯もあり、テレビやラジオ、新聞、雑誌に数10回ほど出演、掲載していただきました。

特に地域密着で行っていたFAAVOでは、50%程度の確率で何らかのメディアへの掲載がありました。クラウドファンディングの資金調達が少額でも、プロモーションとして絶大な効果をもたらしたプロジェクトをいくつも見てきました。また、メディアに紹介されることで信頼感や安心感を生み、金融機関からの新規融資の取り付けに成功したという事業者さんもいらっしゃいました。

有名企業の例では、日清食品さんがかつて独自にクラウドファンディングを実施しています。麺をすする音をカモフラージュする機能を持つフォーク「音彦(おとひこ)」や、カップ焼そば「U.F.O」に取り付けてフタをたたくことで、フタの裏についたキャベツを落とす装置「キャベバンバン」を開発し、All or Nothing方式で公募しましたが、残念ながらいずれも目標到達ならず発売されませんでした。

しかし、だれもが知る企業のユニークな試みはSNS上で話題になりました。目標達成かと思いきや達成できなかったことが、逆にユーモアを交えてWebメディアが報じたことで、プロモーション効果が生まれたのです。

「本気で商品化したかったのか?」という点について疑問はありますが、いかにも雑談ベースで出てきそうなアイデアを実際にクラウドファンディングまで引き上げた姿勢に多くの人が共感した結果、高いプロモーション効果を残したのではないでしょうか。この事例のように、大手企業でも積極的にクラウドファンディングを活用する動きが出てきていますし、認知度も非常に高まってきています。

海外市場の開拓や研修などに利用するケースも

スタートアップ企業の資金調達から仲間集め、話題づくりといったテイストも加わり、クラウドファンディングの敷居もずいぶん低くなってきたと感じます。プロジェクトページにYouTube動画を掲載するケースも多くなりました。また、InstagramやTwitterなど世界中で使われているSNSで拡散されることにより、国境をも飛び越えて事業や商品を認知する機会にも恵まれてきていると思います。

これまでは「Kickstarter(キックスターター)」や「Indiegogo(インディーゴーゴー)」といった海外のクラウドファンディングのプロジェクトが、国内のクラウドファンディングプラットフォームやECサイトへ持ち込まれる輸入型が多くみられました。しかし最近は、国内企業が海外のクラウドファンディングプラットフォームに掲載するケースも増えつつあります。

つまり、プロダクトやサービスの越境販売のチャンスが広がっているということです。これまで海外の販路作りに苦戦していた企業も、クラウドファンディングを通じて海外市場のテストマーケティングを行いながら販路を開拓することが簡単にできるだろうと思っています。

また、クラウドファンディングではプロジェクトの企画やリターン品の設計、原価計算、販売計画などをしながら準備し、実行期間にはプロモーションや販促活動も必要です。終了後には、リターン品の発送や問い合わせ業務といったカスタマーサポート業務も発生します。こうした体験を90日程度で一通り経験することができますので、新人育成や社員研修に利用するケースもあるようです。

単なるモノ売りから脱却しつつあるクラウドファンディング

新型コロナウイルスがヒトとヒト、ヒトとWebの関係性を劇的かつ急速に変化させた結果、もはやただモノを売るだけでは支持されない時代になってきていると感じます。

「良い商品やサービスを作った人がどのような思いで開発し、リリースしたのか?」
「そこに介在した人たちはどんな人たちなのか?」
モノを売る前に、コトを語り、ヒトが出ていく。

クラウドファンディングは、今後そのような形を凝縮したサービスとして、さらに成長していくのではないかと考えています。

次回はこれまでの話を受けて、実際にクラウドファンディングを活用した事例をご紹介しながら、皆さんがチャレンジへ向けて動き出していただくきっかけになればと思います。

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この記事の著者

酒匂 雄二(株式会社ユウキノイン 代表取締役)

ネット通販会社、ゲーム会社を経てアパレルD2Cに。EC店長時代にSNS活用で広告費をゼロにしながら売上を2年で400%まで拡大。大阪地域密着型クラウドファンディングのプラットフォームに設立から参画。資金調達支援の傍ら、自らもクラウドファンディングで9回の資金調達に成功。2020年1月に起業し、セミナー講師、ECサイト・コーポレートサイトのSEO(検索対策)、資金調達のコンサルティングを行う。
過去9回のクラウドファンディング・プロジェクトの起案を行い、全件で目標額を達成。プラットフォーマーとしても200件近いプロジェクトに伴走。

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