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小宮一慶が教える、問題解決力に役立つフレームワークと鍛え方

2020.05.27

人材採用、店舗の改装や移転、資金繰りの改善など、どの会社にも必ず悩みや問題はあります。会社を取り巻く環境によって問題が複雑に絡み合うこともあります。今回はこうした問題解決に役立つフレームワークのご紹介と、問題解決力の基本を踏まえた鍛え方についてご説明します。

フレームワーク1 問題を分解し、論点を明確にする「プロコン・リスト」

問題解決のフレームワークについて具体的な例を挙げて説明していきます。あなたはある会社の採用担当者です。これまであなたの会社では新卒採用のみ行ってきました。しかし業務拡大に伴い、リーダーとしての人材が不足していることから、今後は中途採用についても検討することにしました。採用担当者であるあなたは今後の自社の採用について、どのようにして自分の考えをまとめますか?

ここで有効なフレームワークの1つが「プロコン・リスト」です。プロは「pros(良いこと)」、コンは「cons(悪いこと)」を意味し、つまり「良いことと悪いことの一覧表」です。

物事には必ず良い面と悪い面があります。それぞれリストに書き出してみることで、さまざまなことが見えてきます。これはある物事についてメリットとデメリットを整理する「見える化」の第一歩です。ある物事について大勢で議論する場面などでも論点を整理しやすくなります。

この例では、選択肢Aの「新卒採用」、選択肢Bの「中途採用」の2つについて、それぞれプロコンを書き出して検討します。

〇新卒採用/プロ

  • 社会人経験がないため、会社の色に染めやすい
  • 幹部候補生を一から育てられる
  • 忠誠心のある社員を育てられる
  • 会社の給与体系、職位体系、人事体系を維持しやすい

●新卒採用/コン

  • 一から教育しなければならないので、時間・手間・お金がかかる
  • 期待したほど育つかどうか分からない
  • 会社のカルチャーを革新しにくい

〇中途採用/プロ

  • 即戦力を獲得できる
  • 能力を見極めやすい
  • 会社のカルチャーを(良い方向へ)変える可能性がある

●中途採用/コン

  • 他社での経験があるため、変なクセが付いている可能性がある
  • 会社のカルチャーを(悪い方向へ)変える可能性がある
  • 会社の給与・職位・人事体系のバランスが変わる可能性がある
  • 過去に中途採用の経験がないため、教育体系などを新たにつくる必要がある

このように、プロコン・リストを作成し、それぞれについて検討したうえで、採用の方向性を決定します。

こうした例では検討課題を数値化するのは難しいため、会社はこれからどうしていきたいのか、会社の優先事項は何なのかを考えることが重要になります。

ここでは現状を変えたいのか、変えたくないのかということが最優先事項だとします。変えたくないのであれば、この先も新卒採用を中心に行うという選択になります。逆に会社の良いカルチャーを守りつつも悪いカルチャーを打破したい、新風を吹き込みたい、即戦力が必要ということであれば、中途採用を考える必要があります。

単純な例のように感じるかもしれませんが、それはプロコン・リストによって問題が分解されシンプルになり、論点が明確になったからです。プロコン・リストによる「見える化」は、問題解決や検討の時間の節約にも大いに役立ちます。

フレームワーク2 問題を細分化し、結果までの確率を導き出す「ロジカルツリー」

これも例を挙げて考えていきましょう。あなたはアパレルチェーンの複数の店舗を管理する責任者です。ところが近年、ある店舗で売上の低迷が続き、上司から「てこ入れをするように」との指示を受けています。そこで検討しているのが、店舗の改装か移転です。どちらを選ぶべきなのか。そもそも店舗の改装や移転で売上は好転するのか。あなたならどのようにして結論を導き出しますか?

この例のようにA案を取るかB案を取るかという場合、双方のメリットとデメリットを踏まえ、どんな結果がどのくらいの確率で導き出されるかを明らかにするには「ロジカルツリー」というフレームワークが使えます。

まず売上の低迷が続く店舗を担当する責任者として、てこ入れをするかどうかを考えます。

1 何らかのてこ入れをする

2 てこ入れをしない

次に1の「てこ入れをする」は、改装をするか移転をするかで枝分かれさせます。

1-1 店舗の改装をする

1-2 店舗の移転をする

さらに1-1「店舗の改装をする」は、開店費用や移転費用ごとにA,B,Cと分解できます。

1-1-A 費用1億円規模の改装をする

1-1-B 費用5,000万円規模の改装をする

1-1-C 費用1,000万円規模の改装をする

1-2の「店舗の移転をする」も同様に、開店費用や移転費用ごとにA,B,Cと分解します。

この例ではここまでしか分解できないので、今度はそれぞれについてアップサイド(期待できる売上高や利益)とダウンサイド(失敗したときに被る損害)を鑑みたうえで意思決定します。

ただし現実的には、コストに関しては100%に近い数字が得られますが、期待値に過ぎない収益には確率変数が入ってきますから、やってみないと結果は分かりません。期待値は、過去の経験や他社の状況をベースにした数字でしかありません。実際の複数の店舗での実績や近隣の同業種の店舗の状況を調べて、期待値をより正確に導き出すための「事実集め」も必要です。

また「てこ入れをしない」場合、費用はかかりませんが、このまま損失が出続けることがダウンサイドのリスクとなります。アップサイドは現在の売上高や利益を仮定することができます。これらを長期的なトレンドを加味しながら考えていきます。

フレームワーク3 「QPS」で顧客側の視点、「5P」で企業側の視点から考える

私がマーケティングを行ううえで、お客さま視点で問題を分解する時によく使うフレームワークが「QPS」です。以前「事業戦略 6つの策定ステップ」の記事でもご紹介しましたが、QPSは、Quality(品質)、Price(価格)、Service(サービス)を表します。 

お客さまの購買ニーズについて分解すると共に、自社のサービスや製品について他社との違いを出す時に、どこで差別化するのかを具体化するために使います。Sは「サービス」ですが、「その他」のSと考えても構いません。電話の応対が良い、伝票を間違えない、店舗が近い、店員と仲が良いなど、お金を払って得るもの以外のすべてを含みます。お客さまのニーズをこの3つで分解することで、漠然としていて見えなかったものが明らかになります。

QPSが顧客側、つまり買い手側の視点であるのに対し企業側、つまり売り手側の視点による分類が「マーケティングの5P」です。5Pは、Product(商品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促・宣伝)、Partner(パートナー)を表します。

お客さまが求めるQPSを分析したうえで、会社としてやるべきことを5Pに分解して検討していきましょう。

問題解決力の基本は「論理的思考力」と「好きか嫌いか」と知る

ここまで問題解決に役立つフレームワークを見てきました。実は問題解決の基本は「論理的思考力」と「好きか嫌いか」の2つです。これを踏まえて問題解決力を磨いていきましょう。

まず「論理的思考力」は訓練で養うことができます。私は3つのキーワードとして「本当?」「なぜ?」「それから?」を日常的な会話や会議などで繰り返しています。このキーワードを使うことで、問題についてより深く考えられるからです。普段からこれを実践するかしないかで、問題解決力の磨かれ方は変わります。

もう1つの「好きか嫌いか」という感情は問題解決力とは無関係に、また論理的思考力とも真逆に感じるかもしれませんが、これも問題解決のためには重要です。みなさんも経験があると思いますが、好きな人に言われたことは喜んでやりたくなるものですが、嫌いな人に言われたことはやりたくないですよね。

お客さまや上司、部下との間で問題や対立が起きた場合、感情が問題解決のキーになることも多いものです。日頃からのコミュニケーションや意識の共有も問題解決に影響することを覚えておいてください。

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この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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