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小宮一慶が教える、新人社長が覚えておきたい「経営者の心得」5つのポイント

2019.12.17

「自ら先頭に立ち実践し結果を出す、理想の経営者になろう」

中小から大企業まで数多くの経営者に常に寄り添いながら、その経営を指南してきた、経営コンサルタントの小宮一慶氏。今回は新人社長に知っておいてほしい「経営者の心得」として5つのポイントを挙げて説明していきます。

POINT 1 「経営の本質」を理解しよう

経営とは「実践で結果を出すこと」です。まず経営とは何かを理解し、経営の成功のために正しい努力を積み重ねること。同時に、正しい考え方を持ち、覚悟を決めて実行すること。これが重要です。

まず1つ目のポイントは「経営の本質」を理解すること。経営の本質とは、①企業の方向づけ、②資源の最適配分、③人を動かす、の3つだと私は考えています。もう少し詳しく説明すると、①は「何をやるか、やめるか」を決めること、②は公私混同することなくヒト、モノ、カネを最適に配分すること、③は人に精一杯動いてもらうことです。

もっとも「言うは易く行うは難し」と言われるように、経営の基本を言葉で説明するのはそう難しくはありませんが、実践するのはとても難しいものです。とはいえ、実践して結果を出さないことには誰も評価してくれませんし、部下もついてきません。ここで経営者に求められるのが覚悟と訓練です。

私の大先輩で経営コンサルタントの故・一倉定先生は「評論家社長は会社をつぶす」とおっしゃいました。自社の経営を傍観者的に評論しているようではどうしようもありません。経営者は「経営は実践で結果を出すことだ」と覚悟を決め、努力を積み重ねていくしかないのです。

POINT 2 「正しい努力の積み重ね」をしよう

次に、経営者として「正しい努力の積み重ね」をすることです。ここには「正しい努力」と「積み重ね」という2つのキーワードがあります。

まず「正しい努力」についてご説明します。一例として、先述の「企業の方向づけ」を正しく行うために、新聞をしっかり読むことをおすすめします。社会の動きを正確に捉えておく必要があるからです。これを続けることが「正しい努力」になります。

別の例では、後述する「素直さ」「謙虚さ」においては、反省することが「正しい努力」になります。経営の成功は「正しい努力」の積み重ねによって得られます。そのためには、まず「正しい努力」とは何かを知ることです。

そして、それを積み重ねていきます。どれだけ積み重ねるかで、一定の水準までは必ず達します。コピー用紙の束を思い浮かべてみてください。1枚の厚さは0.1ミリ程度ですが、それを500枚、1,000枚と積み重ねれば、あの分厚さになります。1枚の厚さが5センチ、10センチあるわけではありません。この「紙一重の積み重ね」が大切なのです。

私は「正しい努力」を始めるのが早ければ早いほど、そして積み重ねれば積み重ねるほど、良い経営者になれると信じています。

経営者になる前から積み重ねているのが望ましいのですが、今すでに社長の立場にあっても積み重ねを始めるのが遅すぎるということはありません。今日から正しい努力を積み重ねることでも経営者のレベルは上がっていきます。誰も過去は変えられませんが、今を変えれば、誰でも未来を変えることはできるのです。

POINT 3 「成功の方程式」を理解しよう

3つ目のポイントは、稲盛和夫さんの「成功の方程式」を理解することです。「正しい努力」を積み重ねていく上で「正しい考え方=経営哲学」を学ぶことも重要です。稲盛さんは「成功の方程式」として「考え方×熱意×能力」とおっしゃっています。また、「熱意や能力はゼロから100点まであるが、考え方はマイナス100からプラス100点まである」ともおっしゃっています。

もちろん、経営者としての能力も欠かせません。経営者や経営者になりたい人が「損益計算書とは何ですか?」と言っているようでは、経営は到底できません。加えて、熱意も大切です。しかし「正しい考え方」が間違っていれば、その結果は逆に大きなマイナスになることには十分注意しましょう。

POINT 4 「2つの覚悟」を持とう

4つ目のポイントは、経営者は「2つの覚悟」を持つこと。1つ目の覚悟は「指揮官先頭」です。戦前の海軍兵学校は海軍のエリートを育ててきた学校ですが、そこでの教えは「指揮官たる者、困難な状況に直面したら必ず先頭に立つように」でした。

リーダー(Leader)とは「リードする人」を意味し、先頭にいる人のことです。「教える人」を意味するティーチャー(Teacher)とは根本的に違います。もし部下たちがうまく動かないときは、部下との関係を見直してみましょう。もし対立関係にあるなら、それは経営者がティーチャーとなっているためです。100人の部下がいるとして、リーダーがその100人とお互いの顔を見合わせているようなら、そのあり方は間違っています。

リーダーは先頭に立ち、部下と同じ方向に向かって立つ存在です。つまり、部下には背中しか見せていないのです。部下に動いてほしいと願うなら、まずは自分が動く。部下は上司の背中を見てついてきます。そして、上司が何をするのか見て学ぶのです。リーダーは背中を見せ、ティーチャーは顔を見せる、これが両者の大きな違いです。

2つ目は「責任を取る」覚悟です。部下が事故行動を取ったときに、上司は責任を取らなければなりません。そうでなければ部下は思い切って働けませんし、上司を信頼しません。人を動かす理屈ばかり勉強している上司がいますが、そもそも理屈で人は動きません。経営者もこれをわきまえておきましょう。自ら動かない人が、人を動かすことはできません。

「指揮官先頭」や「責任を取る」といった覚悟を持てるか否かは、それが習慣化できているかによります。「いざとなればなんとかなる」と甘く考えている経営者がいますが、普段できていないことは、いざというときもできません。例えば、車の運転中に「危ない」と思えばアクセルを踏む右足がとっさにブレーキを踏むように動きます。これは普段から訓練し、習慣化しているからできることです。「指揮官先頭」や「責任を取る」もこれと同じで、普段から実践し、どんな場合もそう動けるように、心と身体の訓練が必要なのです。

POINT 5 「素直」になろう

最後のポイントは「素直になる」ことです。松下幸之助さんは「人が成功するために一つだけ資質が必要だとすると、それは素直さだ」とおっしゃいました。素直とは「人の話を聞くことができる」姿勢です。また、素直さは謙虚さにもつながります。

人の話を聞くのは意外と難しいものです。話す側はネタさえあればいくらでも話せますが、聞く側は相手ペースで進む話をまず受け入れなければならず、忍耐力を要します。東洋哲学の大家の安岡正篤先生も「聞く姿勢、聞く態度を見れば、その人の練れ具合が分かる」とおっしゃっています。私も経営コンサルタントとしてこれまでに3,000回以上の講演をこなしており、その人がどれくらい素直かは読み取れるようになりました。

人の話を聞くことに関しては、もう1歩踏み込みが必要です。優れた経営者やリーダーは部下の話をメモに取ります。例えば、講演会や上司の話を聴く際は、大抵メモを取ります。そこでメモを取れない人は傲慢な精神の持ち主であり、そもそも芽がない人です。一方、多くの経営者やリーダーは部下の話を聞いてもメモを取りません。部下の立場から考えると、自分の話を聞いて上司がメモを取るのを見たら、やはり嬉しいものです。

謙虚さとはそういうこと。立場が変わっても、部下と同じ目線で物事を見られるということです。社長はいつもどこでも「社長」と呼ばれ、気づかないうちに目線が高くなりがちです。

経営者は、経営者だから偉いのではなく、経営者という役割を担っているに過ぎません。この役割は特権階級でも何でもありません。ところが会社の業績が上がり、商品が売れ、お金を稼げるようになると人間は傲慢になります。相手がお金に頭を下げているのが分からなくなり、自分が偉いからだと勘違いするのです。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ではありませんが、謙虚さや素直さをなくしてしまうと、物事が正しく見えなくなります。何よりも、はたから見てみっともない。小金持ちになり、上場企業の社長になった程度で天下を獲った気になっている経営者がいますが、それは勘違いであり、間違いです。

失敗する経営者のほとんどは、自ら失敗の道を選び、勝手に転げ落ちていきます。しかし、失敗しかけている自分にすら気づきません。一方、成功する人に共通しているのは些細な気配りや小さな行動を徹底できる点です。そのベースにあるのは、初心を忘れずに素直で謙虚な気持ちを保っていること。だからこそ、部下もついてくるのです。

経営者の成功の道は実践の1歩から

5つの心得を理解できたら、今日から実践できることをまず始めてみましょう。

「千里の道も一歩から」

実践から生み出される結果と、結果を出すための正しい努力の詰み重ねが、経営を成功に導く唯一の答えと分かるはずです。

この記事の著者

小宮 一慶(こみや かずよし)

経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1981年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年から2年間、米国ダートマス大学タック経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。この間、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙監視員として、総選挙を監視。93年には日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。95年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで、多岐に渡るテーマの著作を発表。その著書140冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。

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