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月次決算で経営判断をすばやく!利益を生む月次決算の取り入れ方

2025.12.26

著者:弥報編集部

監修者:猪熊 規博

「決算は1年に1回だけするもの」と思っていませんか?実は、月ごとに数字を締める「月次決算」には、経営判断の迅速化や資金繰りの安定に役立つといったメリットがあります。

とはいえ、「経理の負担が増えそう」「本当にメリットがあるのか」と不安を感じる経営者も少なくないでしょう。

そこで今回は、中小企業の経理・会計の実務と経営支援に長年携わってきた猪熊税務会計事務所の猪熊規博さんに、月次決算のメリットや自社に無理なく取り入れる方法を伺いました。「忙しいのに利益が出ない」「資金繰りが安定せず不安を感じる」といった悩みを抱える経営者の参考になる内容です。


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決算を“経営の武器”に!月次決算のメリットと年次決算との違い

月次決算と年次決算には、どのような違いがあるのでしょうか。

大きな違いは、目的と位置付けです。月次決算は法律上の義務ではなく、企業が任意で行う「管理会計」にあたります。1か月単位で経営の現状を把握し、意思決定に役立てるためのしくみです。一方の年次決算は、会社法や法人税法に基づく「財務会計」に位置付けられます。事業年度(通常1年間)の経営状況を報告し、税務申告や外部への開示に使われるため、正確性と形式が重視されます。

月次決算の主な目的は、経営判断のスピードを上げることです。毎月の売上や原価、経費などを集計し、前月や前年同月と比較することで、利益率やコスト構造の変化を早期に把握できます。月ごとに状況を把握することで、年次決算の早期化や精度向上にもつながります。

経営者が決算数値を把握することには、どのようなメリットがありますか。

経営の感覚を補正し、客観的な判断ができるようになります。「忙しいのに売上が伸びていない」という経験を持つ経営者は多いと思いますが、数字を確認することでそのギャップを明確にでき、原因を探るきっかけになります。

例えば、売上が横ばいでも利益が減っている場合、仕入や外注費の増加が原因かもしれません。数字の動きを把握していれば、問題を早期に特定し、具体的な対策につなげられます。

また、月次決算は資金繰りの安定化にも効果があります。通帳残高だけを見て経営していると、将来的な資金不足に気づけないことがあります。月次決算で売上・仕入・経費を整理すれば、今後のキャッシュの動きを予測しやすくなり、資金のショートを未然に防げます。

さらに、月次決算であればPDCAサイクルを短い期間で回せることも大きな特徴です。年次決算では改善のチャンスが年1回しかありませんが、月次であれば12回検証できます。毎月の数字を基に施策を見直し、効果を確認する。こうした繰り返しが経営の改善を加速させます。

数字に触れる機会が増えることで、経営者自身が数字に強くなり、自社の構造を理解できるようになります。

そのほかにも、月次決算を取り入れると経営者自身に起きる変化はありますか。

経営判断のスピードと精度が上がります。数字を見て課題を特定し、すぐに行動を起こす習慣が身につくからです。

また、数字を見続けることで「売上が1割増えると利益はどのくらい上がるか」といった経営感覚が磨かれます。

月次決算は、単なる会計処理ではなく経営を見える化するツールです。感覚ではなく事実に基づいて判断できるようになり、会社のかじ取りがより的確になります。

月次決算を経営に活かす!数字の流れを読む方法

経営者は、月次決算や年次決算のどの数字を重視すべきでしょうか。

まず意識すべきは、数字の「推移」と「比較」です。月次決算は単月で完結させるものではなく、毎月の結果を並べ、変化を読みとることに意味があります。売上や経費のように、毎月の傾向が出る項目は、前年同月や前期累計と比較することで、どこに変化が生じているか把握できます。

例えば、営業利益が前年同期より下がっている場合、売上や粗利率、原価、外注費などを損益計算書の上から順に確認していくと、利益を圧迫している要因を特定できます。こうした比較を繰り返すことで、自社の事業構造や季節変動なども把握できるようになります。

一方、年次決算では、企業全体の財務状況を「比率」で見ることがポイントです。売上高総利益率、人件費比率、固定費率などを確認すると、利益の源泉がどこにあるかが明確になります。さらに、損益分岐点売上高を把握しておくと、赤字にならない水準がわかり、計画や予算を立てる際の基準として役立ちます。業種ごとの一般的な比率と比較することも、自社の強みや課題を客観的に見つける助けになります。

月次決算をどのように経営に活かせばよいのでしょうか。

ポイントは、数字の変化から原因を探り、次のアクションにつなげることです。ある企業では、月次で営業利益の推移を確認したところ、数か月前から粗利益が減少していることが判明しました。

売上は横ばいだったため、経営者は理由がわからず困惑していましたが、原因をたどると原価の高騰や外注費の増加により、利益率が下がっていることがわかりました。

そこで、一部の商品から値上げを実施し、翌月には利益率が改善していることが確認できました。ただし、販売数量はやや減少していたため、翌月には値上げ幅を調整するなど、施策を修正しながら次の手を打っていきました。販売数の落ち込みが小さい商品については値上げを継続するなど、月次データを基に柔軟に判断するしくみができました。

このように「現場の感覚だけではわかりづらい変化」を、月次決算の推移を見ることによって早期に発見できます。

月単位でPDCAサイクルを短期間で回すことで、経営判断のスピードと精度を高めることができます。月次決算は単なる記録ではなく、経営の現場で使える数字をつくるための重要なしくみなのです。

正確さよりスピードがカギ!“使える月次決算”を実施する手順

月次決算や年次決算は、どのような手順で行うのが一般的でしょうか。

基本的な流れは、月次決算を12回行い、最後に調整を加えて年次決算を締めるというものです。月次を一つ一つていねいに積み重ねることで、年次の作業は大幅に短縮できます。

毎月の決算を終える際には、可能な限り未処理の取引や仮払金を翌月に持ち越さず、その都度内容を確認して整理しておくことが大切です。後回しにすると、取引の内容を忘れたり、修正が増えたりして時間がかかります。月次の段階で消費税区分や仕訳内容を整えておけば、年度末の修正作業も最小限で済みます。

正確性とスピードは、どちらを重視すべきでしょうか。

月次決算ではスピードを優先する方が効果的です。もちろん数値の精度を高めることも大切ですが、経営は日々動いているため「早く数字を把握すること」の方が重要です。1か月前の数字を見られるだけでも、意思決定のスピードが格段に変わります。

ただし、会計処理にかける時間を短縮しようとするあまり、現金の出入りだけで記録してしまうと、売上や費用などの実態が見えなくなります。例えば、9月に商品を出荷して10月に入金される取引を、入金日で処理する「現金主義」で記録すると、月ごとの利益が大きく変わって見えてしまいます。一方、出荷した9月に売上を計上する「発生主義」であれば、売上と経費を同じ期間で比較でき、利益の実態を正しく把握できます。

社会保険料のように引き落とし時期が月末から翌月にずれるだけでも、ある月は費用ゼロ、翌月は二重計上に見えてしまうことがあります。こうしたズレを避けるためにも、「発生した時点で会計処理を行う」という考え方を取り入れることが大切です。難しく考える必要はなく、「取引の動きに合わせて数字を記録する」ことが発生主義の基本です。

月次決算のスピードを遅らせる原因には、どんなものがありますか。

主な原因は3つです。

1、仕入先から請求書がタイムリーに届かない

対策:紙ではなくメールでの受領を依頼するほか、納品書や見積書を基に仮の数値で処理しておき、請求書が届いたら修正する方法があります。

2、在庫の棚卸を年に一度しか行っていない

対策:在庫管理システムを利用して、入出庫データから月末在庫を算出する方法があります。システムがない場合は、過去の原価率を基に在庫を見積もる方法も有効です。

3、入出金の内容確認に時間がかかる

対策:経費精算システムを導入して可視化するか、どうしても内容が不明なものは一時的に仮払金として処理し、翌月に精算する方法があります。

こうした改善により、正確性とスピードの両立が可能になります。

しくみを作って習慣化する!月次決算を効率化する方法

効率的に月次決算を行うには、どのようなしくみ作りが必要ですか。

ポイントは、システム連携と業務の標準化です。請求書、経費、給与などの各システムを会計ソフトと連携させれば、手入力の手間を減らすことができ効率的です。Excelデータを取り込むしくみを整えるだけでも、処理時間は大幅に短縮されます。

また、「この取引はこう処理する」という社内ルールを決めて定例化すると、処理の際に迷う時間をなくせます。経理担当だけでなく、前工程にあたる営業や総務が協力することも重要です。例えば、現金の取り扱いを減らし、銀行振込やカード決済にまとめるだけでも、経理業務の負担は軽くなります。

しくみを整えるうえで、効果的な方法はありますか。

税理士の関与をうまく活用するとよいでしょう。税理士が毎月の試算表をチェックすることで、締め切り日が明確になり、月次決算の処理が習慣化します。また、入力や仕訳の誤りを早期に指摘してもらえるため、年次決算の修正も少なくなります。

さらに税理士は、「数字の読み方」を経営者に伝えられる存在でもあります。売上や経費の増減をどう捉えるか、どの指標を重点的に見るべきかといった視点が得られるため、経営者自身が数字に強くなります。数字を自分の言葉で説明できるようになると、金融機関との面談や社内会議でも説得力が増し、経営判断の精度が一段と高まります。

「スピードを上げると正確性が下がる」というイメージがあるかもしれませんが、システムの活用や税理士との連携で両立は可能です。できるところから少しずつ整えていくことで、月次決算の早期化と精度の向上は十分に実現できます。


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この記事の著者

弥報編集部

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猪熊 規博(猪熊税務会計事務所 所長、税理士)

2001年、明治大学商学部を卒業後、日本生命保険、YKK、本田技研工業で15年に渡り、国内外の会計・経理業務に従事。
2017年に税理士の資格を取得し、猪熊税務会計事務所に入所。2020年には所長に就任。
立教大学大学院で講師やNPO法人の運営も務めている。歴史探訪・史跡巡りが趣味で、各地の歴史的な場所を訪れるのが好き。
豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの多様なニーズに応え、確かなサービスを提供し続けている。

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