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【社労士が解説】雇止めとは?有期雇用契約終了時の注意点

2025.01.30

著者:弥報編集部

監修者:宮田 享子

「この社員との契約、次は更新しないほうがいいのかも……」と有期契約労働者に関して悩む場面があるかもしれません。特に中小企業では、労働契約の更新が組織にとって大きな影響をもたらします。

契約期間が満了する社員が、引き続き契約更新を希望している場合、企業側は更新するかどうかを慎重に判断する必要があります。加えて、更新しないと判断した場合の「雇止め」を行う際には、適切な理由と手続きが求められます。本記事では、みやた社労士事務所の宮田享子さんに、雇止めの基本知識や制限、そして注意すべきポイントなどについて解説いただきました。雇止めを巡るトラブルを避けるためにも、知っておくとよいでしょう。


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「雇止め」とは?基礎知識を理解しよう

「雇止め」の定義を教えてください。

雇止めとは、企業が有期労働契約の契約期間が満了になった際に労働者との契約を更新せず、そのまま終了させることを指します。これは、企業が一定の期間を定めて雇用している従業員、例えば契約社員やアルバイト、パートタイム労働者に適用されます。企業にとっては契約満了というタイミングで雇用の見直しを行う機会である一方、労働者にとっては今後の生活やキャリアに大きな影響を与える重要な決定であるため、慎重な対応が求められます。

「解雇」や「派遣切り」との違いを教えてください。

そもそも「雇止め」は、有期労働契約の終了時に契約更新をしないことで、通常の終了手続きを指しますが、「解雇」は、企業の判断で従業員との契約を終わらせることを指します。解雇にも合理的な理由が必要であり、労働契約法で制限されています。

また「派遣切り」という言葉は、メディアなどで広く使用されている表現であり、正式な用語ではありませんが、企業が派遣会社との契約を解除することを指します。企業と直接契約している有期契約労働者に適用される雇止めとは異なります。

雇止めが認められない?企業が押さえるべきルール

雇止めをする際、どのような制限や定めがありますか?

雇止めは企業が自由に行えるものではなく、一定の制限があります。雇止めが認められるためには、客観的かつ合理的な理由が必要です。この合理的な理由としては、業務悪化、事業の終了、あるいは労働者の勤務態度や能力に重大な問題がある場合などがあげられます。これらの理由を、具体的かつ客観的な証拠に基づいて示されなければ、正当性を欠くと判断される可能性があります。

雇止めが無効となる場合もあるのでしょうか?

はい、雇止めには一定の制限が設けられており、あらゆる有期労働契約が、契約満了で終わらせられるわけではありません。もちろん、満了に伴う労働契約終了は違法ではありません。しかし、有期労働契約の労働者は、不安定な立場になりやすいことから、労働者を保護するための「雇止め法理」(労働契約法第19条)が定められているのです。具体的には、以下3つの要件を満たす場合は雇止めが制限されています。

  1. 労働者から有期労働契約の更新の申し込みがあること
  2. 有期労働契約が実質的に無期雇用契約と同等である、または契約更新が期待される合理的な理由があること
  3. 契約終了に客観的かつ合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められないこと

例えば、労働者が契約更新を申し出たにもかかわらず、更新を拒否する正当な理由がなく、また、契約更新が自動的に繰り返して行われ、雇用関係が無期労働契約と実質的に同じような状態になっている場合などに、雇止めが無効とされるケースとしてあげられます。特に長期間にわたって、自動的に契約を更新し続けていたり、正社員と同じような業務内容を任せていたりする場合は注意が必要です。

その他、「無期転換ルール」(労働契約法第18条)によっても、雇止めが無効になります。このルールは、有期労働契約を継続して5年を超えて更新した場合、労働者が無期雇用契約に転換する権利を持つというものです。労働者が企業に対して無期転換の申し込みをした場合は、企業は断る権利がありません。無期転換を回避するために意図的に雇止めを行うことは、違法ですので注意してください。

不当な雇止めとみなされた場合には、裁判や労働審判などで企業側に不利な判断が下される可能性もあるため、企業はこれらの制限や定めを押さえたうえで、適切に雇止めを行う必要があります。

(参考)
労働契約法のあらまし|厚生労働省
無期転換ルールについて|厚生労働省

有期労働契約時の明記事項、契約更新の判断基準……モメないための対策

トラブルなく雇止めをしたい場合、どのような対策が有効でしょうか?

企業が有期労働契約を円滑に終了させるためには、契約時の明確な取り決めと、適切な運用が求められます。以下のポイントを押さえておくと安心です。

更新可否の判断基準を設ける

何よりも重要なのは、契約時に更新基準を明記することです。労働条件通知書や雇用契約書に「契約更新の可能性」や「更新の条件」、そして「更新しない場合の理由」を明示しましょう。判断基準には業務遂行能力や勤務態度、業務成績、業務遂行に必要な健康状態を維持しているか、などを明記しておくとより正確な基準となるでしょう。

勤務態度や成績の記録を徹底する

もしも有期契約労働者の勤務態度や能力に問題がある場合は、その都度注意喚起を行い、記録を残しておくとよいでしょう。契約更新拒否を行う際に、記録があれば合理的理由を証明できます。口頭での主張よりも正当性が増し、企業としての適切な判断ができるようになるでしょう。

なお補足すると、契約期間中の解雇は難しいですが、期間の変更は労働者の同意があれば可能なため、これらの記録と共に契約期間の短縮を申し出ることは問題ありません。

契約満了前の面談実施

更新や終了の判断を行う際には、有期契約労働者との適切なコミュニケーションを徹底することもトラブル回避には欠かせません。自動更新ではなく、契約満了前に労働者と面談を行い、更新の可否やその理由を直接説明しましょう。

面談では、状況をヒアリングしたり、労働条件通知書の契約更新条件を一緒に確認したりすることで、有期契約労働者も企業の判断に納得してもらえるようにしましょう。労働者への配慮を示せれば、円満に契約を終了できる確率も上がります。

実際に雇止めをする際の流れを教えてください。

契約満了前(契約を3回以上更新し、または雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している労働者の場合は30日前)に、雇止めの事前通知を行います。また、労働者から求められた場合には、契約終了の理由を具体的かつ客観的に記載した証明書を交付する必要があります。不十分な説明や証明書の交付を怠ると、労働者からの異議申し立てなど発展する可能性があるため、慎重に対応することが求められます。

離職証明書の記載も細心の注意を払う必要があります。離職証明書は、会社が退職従業員の離職票交付を受けるためにハローワークへ提出する重要な書類であり、特に有期労働契約の場合、これまでの契約更新回数や通算契約期間などを正確に記載する欄があります。不正確な記載や記入漏れがあると、労働者が不利益を被る可能性があるため、事実に基づいた適切な記載を徹底してください。

雇止めの無効・有効事例からわかる留意点

実際の裁判事例を教えてください。

実際に雇止めされた有期労働者が裁判所に提訴した例を2件あげましょう。それぞれ雇止めが無効・有効となった例ですので、どの部分において異なる点があるかを考えてみてください。

雇止めが無効となった裁判例

ある幼稚園は、有期労働者である園長と約10年間にわたり契約を更新してきました。契約更新は事実上の慣例として定着しており、園長には契約が継続されるという期待が生じていました。しかし、幼稚園側は施設内で児童の転落事故が発生したことを理由に、園長の管理責任を追及し、契約更新を行わず雇止めを通告しました。これを受けた園長は、「雇止めは不当」だと訴えたのです。

裁判所は、10年間にわたる更新実績が園長に期待を生じさせていたこと、転落事故を理由とする雇止めについて、事故は雇止め決定後に起きたものであり、合理的な理由が欠如していると判断しました。その結果、裁判所は雇止めを無効とし、園長の雇用継続を命じる判決を下しました。

雇止めが有効となった裁判例

ある大学は、研究室の補助的業務を行う職員として雇用していた労働者との有期労働契約終了時に、職員側から労働契約の更新申込みがありましたが、雇止めを通告しました。この職員は、過去に複数回の契約更新が行われたこともあり、契約が更新されることを期待していたため、地位確認などを求めて裁判所に提訴しました。

しかし大学側は、契約の途中からではあるものの就業規則に「更新上限を5年」としていたことや、各業務は基幹的業務と言えず契約期間で業務が変化していること、途中に時間給ではなく謝金を支払い、従事させた業務の期間は中断期間として扱うこと、各契約期間の満了前に相応に厳密な手続き(更新基準を明示し、職員の了承を得る)をしていたことから、裁判所は大学側が契約時に更新基準を明示し、職員もそれを了承していた点を重要視しました。よって、この雇止めは有効と判断されました。

以上2件の例は、契約更新基準を明確化する重要性を浮き彫りにしたケースといえるでしょう。

そのほか、有期契約労働者や雇止めに関して留意点などがあれば教えてください。

よくあるケースとしては、「これからもよろしく頼むよ」と直属の上司から口頭で伝えていたのに、契約更新をしなかったことから、トラブルにつながったなどという例があげられます。いくら親しい有期契約労働者だったとしても、今後を保証するような契約に関する言動は慎んだ方が賢明です。

また、有期労働契約が繰り返し更新される場合は、気付けば無期転換ルールが適用されるタイミングになっていた、という例もあります。定期的に契約期間や更新回数などを確認し、必要に応じて早めの対応を検討することも重要です。

雇止めは法律問題に発展する可能性もあるため、迷った場合は弁護士や社労士に相談することをおすすめします。適切な手順を踏むことで、労働者とのトラブルを最小限に抑えることができます。労使双方にとって納得のいく対応を心がけましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

宮田 享子(みやた社労士事務所 代表)

社会保険労務士。産業カウンセラー。
B型。左利き。商社・損害保険会社・ゲームソフト会社など、さまざまな業種の企業で事務職を経験した後、結婚を機に退職。2児の育児中に友人の社労士事務所を手伝ったことが資格取得のきっかけとなった。
2010年4月に独立開業し、労務相談の他講師業や執筆業等にも力を入れている。「お堅い法律の話を馴染みやすく」がモットー。
趣味はオーボエ演奏なので「チャルメラ社労士」を名乗る。

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