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売上・利益アップにつながる「付加価値」はどうやってつける?

2023.11.07

著者:弥報編集部

監修者:武井 綾子

自社の市場における競争力を強化するためには、付加価値による差別化が不可欠です。「だから自社にも付加価値を」と思い、いざ行動に移そうとしても「何をしたらいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。

付加価値を付ける、というとついつい「自社がプラスαで付け加えられるものはなんだろう」と自社視点で考えがちかもしれません。しかしどのような付加価値を付けるべきかは「顧客視点で考える」ことが重要なのです。また自社製品に何かを付け加えること以外に、自社の生産性を上げることも実は付加価値になるのだとか。

今回は中小企業診断士である武井 綾子さんにビジネスにおける付加価値とは何か、高める方法、計測方法、付加価値の創出に成功した企業の事例について伺いました。


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そもそもビジネスにおける「付加価値」とは?

ビジネスにおける付加価値とは、どのようなものなのでしょうか。

まずは一般的な意味で使われる付加価値について説明させてください。付加価値という言葉は、物事に付け足された価値全般のことを指すものです。商品やサービスだけではなく広い意味で使われており、例えばリボンが付いたハンカチがある場合、このリボンが付加価値といえます。つまり自社の商品やサービスにおいて、本来持つ機能や価値に加えて独自の価値を付与し、顧客に提供するプラスαの要素のことを付加価値というのです。

これに対しビジネスの文脈における付加価値という言葉には「粗利益」という意味も含まれるため、主に会社の経営状況や生産性を把握するときに使われるケースがほとんどでしょう。

付加価値を高めることによって、中小企業が得られるメリットを教えてください。

付加価値を高めると、他社と差別化を図れることが最初のメリットです。その結果として顧客に自社の商品やサービスが選ばれ、購買につながって企業の利益を最大化できます。利益が出れば継続的な企業活動ができる、つまり正しい成長のスパイラルに乗れることが、中小企業の得られる最終的なメリットだといえるでしょう。

付加価値を高める方法

中小企業は何の付加価値を高めるべきですか?また、高めるための具体的な方法を教えてください。

付加価値を高める必要がある対象としては商品やサービス、ビジネスモデル、企業文化などが挙げられます。また製造業においては、生産性向上につながる取り組みも対象になります。

ここではサービス業と製造業についてみていきましょう。

サービス業にはさまざまな種類があり、それぞれの会社が独自の顧客を持っています。その顧客が抱える課題や期待する効果を考え、自社の商品やサービスがそれらの課題を解消し、十分な効果をもたらせるように表現することが、付加価値を高めるための重要な要素です。

例えばサービス業の1つである宿泊業は、さまざまなお客さまについて考える必要があります。21歳の大学生のお客さまと33歳の独身女性のお客さま、夫婦のお客さまではそれぞれが抱える課題や期待値は異なるでしょう。また1人で宿泊する場合の料金は、2人以上で宿泊する場合よりも高くなることが一般的ですから、料金に納得いただけるサービスを提供できているかを検討する必要があります。

こうした視点を持って提供内容を検討すれば、どのような付加価値を築けばよいのかが明確になります。例えば33歳の独身女性が1人で宿泊する場合、1人でも充実した時間を過ごせるようなコンテンツや、他の宿泊客との交流の機会を提供すれば、より満足度の高い時間を演出できるようになるでしょう。対応するスタッフは、対象顧客に近い年齢層の人材を配置すれば、同世代ならではのコミュニケーションも生まれる可能性が高く、付加価値を高めることにもつながります。また1人で宿泊しても費用が高くならないようにするために、部屋代だけでなくすべての食事代も含んだインクルーシブ型の宿泊サービスの提供も考えられるでしょう。

一方、21歳の大学生のお客さまの場合は、デザインのカスタマイズが可能な部屋を提供することも1案です。大学生は個性を重視する傾向があります。部屋の壁紙やインテリアをカスタマイズできるオプションを提供すれば、彼らが自分らしい空間で快適に過ごすことができるでしょう。また、大学生は勉強やプロジェクトに取り組む場所を求める傾向があります。ホテル内に学生向けのコワーキングスペースを用意すれば、集中できる快適な環境として活用してもらうことも可能です。

また夫婦のお客さま向けには、ホテル内のレストランでロマンチックなディナーコースを提供するサービスもおすすめです。シェフが手がける美味しい料理と豪華なディナーセッティングが、夫婦の特別なひとときを演出します。またリラックスタイムを提供するため、プライベートなスパ体験を用意するのもよいかもしれません。

製造業の場合はサービス業と同様にお客さまに着目することも重要ですが、商品を対象とした付加価値のみならず、自社の仕組み自体にも目を向けてみましょう。製造業では労働生産性の向上が重要なテーマです。無駄や不必要な作業を削減し、属人化している業務を減らすなど、従業員1人当たりが生み出す付加価値を最大化する方法を模索することが必要になります。外部の視点を積極的に取り入れ、既存の慣習に固執せず、常に疑問を持ちましょう。

外注費の見直しも、労働生産性向上につながりやすいです。外注先との長年の関係性や依存度がある場合でも、他の企業から見積もりを取り直すことで、コストを最適化できます。また、内製化が可能なものであれば、特定の企業に頼らずに自社で行うことも検討しましょう。

製造業において付加価値を高めるためには、業務効率化や無駄の削減などを議論し、それを価格に反映させていくことが重要です。

自社商品やサービスに付加価値をつける際、注意すべき点はありますか。

サービス業においては、顧客の視点を一番に考える必要があります。付加価値をつける作業は自社視点でやりたいことではなく、顧客に対して行うべき取り組みであるため、効率的に実施するためには定期的なヒアリングを行う仕組み作りが大切です。サービス業の皆さんは、顧客とのコミュニケーションを重視し、顧客の希望に沿った付加価値を提供するようにしましょう。

製造業においては外注先に頼るだけでなく、自社内での努力も欠かせません。ただ会社のコストカットだけを追求するのではなく、自社が努力を怠らず他社との競争においても優位に立つことが重要です。外注先だけに無理難題を押し付け、自社で何も努力していない場合、会社の信用問題に発展する可能性もあります。

さらに経営者の方は、従業員への定期的な発信やフィードバックを行うことも重要です。経営者自身の言葉で、従業員とコミュニケーションを取る時間を大切にしましょう。以上の点に留意すれば、経営者自身も付加価値の向上のために重要な役割を果たせるようになるでしょう。

お客さまの潜在ニーズを察知して、付加価値に昇華するためのヒントがあれば教えてください。

近年はSNSを活用してお客さまと密接にコミュニケーションをとることが、潜在ニーズを察知するのに大変役立つと言われています。まずは自社のSNSで情報発信し、投稿に対するユーザーの反応を分析してみてください。「いいね」のリアクションは比較的簡単に獲得できますから、コメントがない状態でも分析を継続してください。

例えば投稿に対して通常は「いいね」が3つ程度しかつかない場合に、いつもの5倍である15の「いいね」が付いた投稿があれば、その理由を考えてみましょう。自分自身で仮説を立て、「いいね」を押してくれた人の顧客層に当てはめてPDCAサイクルを回します。

このようなアプローチをすることによって、お客さまの潜在的なニーズの発見につながるでしょう。

またデジタルツールを活用してお客さまの潜在的なニーズを把握し、付加価値につなげることも重要です。紙媒体では反応がわかりにくいこともありますが、ネット媒体であればGoogleアナリティクスなどの計測ツールの利用が可能です。InstagramやFacebook、X(旧Twitter)などは数値を収集できるツールを提供しています。こうしたデータを客観的に分析し、仮説を立ててみてください。

また経営者と共にニーズを探るポジションを持つ人を、最低でも1人は配置することが重要です。社長1人だけでは思い込みの可能性があるため、複数の視点で判断する必要があります。中小企業の場合、トップダウンのアプローチも必要ですから、社長と2人体制で取り組むのがおすすめです。

付加価値の計測方法

付加価値を計測する方法を教えてください。

付加価値を計測するためには、以下の2つの方法があります。

  • 中小企業庁方式:売上高-外部購入価値(材料費、買入部品費、外注加工費など)
  • 日銀方式:経常利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課

中小企業にとってわかりやすいのは、中小企業庁方式です。この方法は控除法とも呼ばれ、売上高から外部購入費などを除いた損益計算書(PL)の売上総利益を基準としています。かなりざっくりした事例ですが、パン屋の場合5万円で材料を仕入れて、できあがった商品を8万円で販売するとしましょう。この場合、付加価値は8万円から5万円を引いた3万円になります。ただしこの方法はあまり使われず、加算法と呼ばれる日銀方式を使うことが一般的です。

日銀方式では、法定の要件や規定に基づいて付加価値を計算します。例えば商品の加工やサービス提供のために人を雇うことや、営業するための場所や費用も必要です。これらを損益計算書の経常利益に積み重ねて付加価値ができあがっていることを把握しやすい点は、日銀方式の特徴といえます。なお上記の式で書かれている減価償却費は、一般的には付加価値に含まれません。しかし他社から購入した固定資産を売却した費用などは含まれるためケースバイケースとなります。

それぞれ計算方法は異なりますが、算出される利益や付加価値はニアリーイコールになることが多いでしょう。したがって「わかりやすさ」というメリットもあるため、中小企業の場合、まずは控除法から試してみるのがおすすめです。

市場における付加価値の度合い(他社との比較)を計測する方法があれば教えてください。

各業界から発行されている白書を活用して、市場における付加価値の度合いを計測する方法があります。例えば中小企業白書や情報通信白書など、業界ごとに公的なデータを見てみてください。これらの白書は国の関係省庁などが作成しており、市場規模や付加価値について詳細な情報を含んでいることが一般的です。そのため、自社の想定する付加価値と比較して、一般的なレベルより上か下かを確認できます。

近年インターネットを利用して簡単にアクセスできるようになったため、白書を検索することも簡単に可能です。さらに最近では多くの白書が無料で配布されています。年に一度、各白書の発表時期に通信簿を作成するイメージで、自社の付加価値の状況を比較することが、計測や市場におけるポジショニングの確認に役立つでしょう。

付加価値を高めることに成功した企業の事例

自社のサービスや商品などに付加価値をつけ、事業的に成功した中小企業の事例をいくつか教えてください。

アンケヴィーノ!

まずサービス業の事例として、東京都板橋区にあるワイン屋の「アンケヴィーノ!」をご紹介します。この店はワインにこだわりを持つ女性オーナーがワインを販売しているお店です。一般的なワイン屋とは異なるアプローチをしているのが特徴で、売れ筋や仕入れのしやすさを重視してワインを選ぶのではなく、外注費をかけてでも「少し変わったワインの品揃えをしています」という付加価値をつけて販売しています。

生産量が限られていて、ワイン愛好家が選びたいと思うような希少なワインを揃えているのが魅力です。これにより「ああ、こんなワインもあるんだね。」といった、新たな発見や出合いの提供を実現しています。

こうしたワインを個人がネットなどでレアなワインを取り寄せる場合、送料や手間がかかりしますが、こちらのお店では1本からでも購入しやすい仕組みとなっています。

こちらは自社で商品を作っているわけではなく、アレンジ力や組み合わせの工夫を付加価値として成功している事例といえるでしょう。また、最近はワイン屋であるにもかかわらず、月に一度角打ち(購入したお酒を店内でそのまま飲むこと)を実施するなど、さまざまな試行錯誤をしながら顧客とのつながりを意識した活動をしています。

Perché no!(ペルケノ)

次は実際に商品を作っているお店の事例として、東京都板橋区にあるピザ屋の「Perché no!」をご紹介します。ピザ釜を使用した本場ナポリピッツァを提供しているのが特徴のお店で、ピザ職人としては珍しい女性が活躍しているレストランです。この点が付加価値となって、注目されています。

オーナーはもともとナポリピッツァに魅了され「多くの人にナポリの良さを知ってもらいたい」という思いからお店を始めたそうです。その後ビジネスモデルを考える過程で、さまざまな試行錯誤を行った結果、意外なことにラザニアなどのピザ以外のメニューもニーズがあることがわかりました。高温の釜を使用して、家庭では作りにくいプロの味を手軽に楽しめる点や、リーズナブルな価格でプロの味を提供する点が好評を得ています。

またこのお店は第2・第4土曜日以外は基本的には夜の営業を行っておらず、通常の営業時間は11時半から16時までです。営業時間が短く感じますが、夜しか営業していない他のピザ屋と比べても、実は営業時間の長さ的にはあまり変わりません。昼間からお酒を飲めるため、近所の経営者たちが集まって情報を交換する場として活用されています。

このように高温のピザ釜で焼かれる窯焼き料理だけでなく、地域の経営者たちが最新の情報を共有する場所としての役割も果たしている点もまた、付加価値となっています。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

武井 綾子(中小企業診断士)

ライフスタイル商材の商品企画・営業を経験したのち、情報サービス会社でデジタルコンテンツの企画・集客職に従事。現在は商品・サービスに関する売上施策やSNS(Instagram、Facebook、Twitterなど)を活用した集客施策を中心にコンサルティングを行っております。
最近では社内の女性活用応援策の立案・実行についても、ご好評をいただいています。

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