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【弁護士が解説】喧嘩や備品の破損……お客さま同士のトラブルにお店はどう対処したらよい?
2023.10.17
人が集まる場所ではトラブルの発生率が高くなるものです。特にお酒を出す飲食店などではお客さま同士の物理的距離が近いことや声が大きくなるケースも多く、喧嘩が起きやすい傾向にあるでしょう。場合によっては、お客さまや従業員が怪我をしたり、店の備品を壊されたりする可能性もあります。
お店としては万が一トラブルが起きてしまったときに備え、どのような対応を取るべきかを検討しておくことが大切です。またトラブルをなるべく起こさないようにするための事前対策についての知識も求められます。
そこで今回は大谷・佐々木・棚田法律事務所の弁護士である棚田 章弘さんに、お客さま同士のトラブルが発生したときの対処法や、未然に防ぐ対策などについてご解説いただきます。
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目次
お客さま同士のトラブル、店舗側は仲裁すべきか
飲食店、特にお酒を出す店舗では、お客さま同士のトラブルが発生することがあると耳にします。そのようなトラブルの事例はよくあるものなのでしょうか?
はい。例えば居酒屋ですと、
- 声がうるさすぎてトラブルになる
- 狭い場所で体がぶつかったり、料理がこぼれて服がよごれたりしてトラブルになる
- 男性が女性に声をかけて、その女性の交際相手が怒り出してトラブルになる
という事例がよくあります。
お客さま同士のトラブルが発生した際、店舗側は仲裁するべきなのでしょうか?
「仲裁」の定義によって変わってくるのですが、その場を収めるという意味であれば仲裁すべきです。しかし「どっちが悪いのか」「あなたが悪い」「どう解決すべきか」という内容まで含めて仲裁する、となるとなかなか難しいと思います。どちらかに肩入れすると、お客さまが急に怒り出してしまうかもしれません。
店舗側としては、注意はするものの具体的な内容までは肩入れしないほうが賢明です。基本的には「他のお客さまの迷惑になりますから」という理由で注意する方法がよいでしょう。
もし暴力沙汰に発展したら?備品を壊されたら?トラブルへの正しい対処法
例えば口論から暴力に発展しそうなときなど、お客さま同士の喧嘩の現場を店主や従業員が目撃した際の対処法を教えてください。
まずは今どの段階にあるのかを見極めることが重要です。まだそれほど事態が深刻化しておらず、暴力沙汰になっていない段階であれば、トラブルにかかわっている両当事者に対して「他のお客さまの迷惑になりますから」と丁寧に注意を呼びかけましょう。「なんとか収めていただきたいです」と伝えて席の移動などを提案し、トラブル防止に向けた話を持ちかけてみてください。
もし丁寧に対応しても状況がエスカレートしてしまう場合は、毅然とした態度で対応する必要があります。「これ以上進むと、私たちも警察を呼ばなくてはいけなくなります」と警告することも、視野に入れましょう。
既に暴力沙汰になっていた場合はどう対処すべきでしょうか?
目撃した時点で既に暴力沙汰になっていた場合は、他のお客さまに迷惑をかけないよう、現場から離れてもらうようにしましょう。「危険なので、一時的に外に出てもらってもよいですか」と伝え、その後直ちに警察に通報するというのが適切な対応です。
なお従業員が負傷する可能性もあるため、危険な状況である場合には従業員に対しても近づかないように指示することも忘れてはいけません。
従業員が現場を目撃しておらず、既に事故(ケガ)などが発生してしまった場合の対処法を教えてください。
何よりも大切なのは、すぐに警察に連絡することです。怪我をしていた場合は、程度に応じて救急車を呼ぶ必要もあるでしょう。
お客さま同士のトラブルによって店舗の設備などを破損された場合は、どのように対処すべきでしょうか。
店舗の備品を壊そうとしている場合などは、証拠保全をしておかなければなりません。具体的には、破損されたものをスマホで撮影するなどして証拠を残します。警察が来れば実況見聞をしてくれることもありますが、念のため自分で証拠を保持しておくことが大切です。
お客さま同士が喧嘩をしてどちらかがケガをした場合、店舗側は責任を問われるのでしょうか。
適切な対応をして注意を喚起したり、事態を終息させる努力をしていれば、基本的に店舗側が責任を負う可能性は低いと考えられます。
ただし、店舗側には良好な環境で飲食を提供する義務や安全配慮の義務があるため、店舗側が十分な対応をしておらず、お客さま同士の喧嘩を放置していたり、それが原因でケガが発生した場合は、責任を問われる可能性もあります。
お客さま同士のトラブルに対応するときの注意点と未然に防ぐ対策
お客さま同士のトラブルに対処する際、店舗側が留意すべきポイントを教えてください。
繰り返しになりますが、最初は丁寧に対応し、ある程度の段階に至ってしまった場合は毅然とした態度で対応してください。そして、必要であれば警察へ通報しましょう。
なお、お客さまがトラブルを起こした際は、店主などの責任者が対応するのが基本です。もしマニュアルがあった場合でも、従業員やアルバイトがどれだけ理解しているかはわかりません。知識が不十分なまま対応してしまうと、クレームに発展する可能性もあります。場合によっては複数人で対応するようにしましょう。例えば1人が話をしている間に、もう1人が証拠保全に勤めるなど、効率的な対応を行うことが重要です。
また、当事者が逃げようとしている場合は、逃さないように努めてください。逃げられると警察が到着したあとに犯人を確保できないなどの問題が生じるため、ここはしっかりと対応することが望ましいです。また万が一加害者が逃げてしまった場合などに備え、飲食店向けの保険に加入しておくことも視野に入れるべきです。
お客さま同士のトラブルを未然に防ぐ方法を教えてください。
お客さま同士のトラブルを未然に防ぐために、いざという時に備えて店舗側が複数人で対応可能な体制を整えておきましょう。また、トラブル発生時の対処マニュアルを作成し、従業員に教育することも有効です。
『トラブルが起こった場合の対応』についての張り紙や、メニューなどへの注意書きを掲示することなども検討してもよいです。ただし、注意書きがあることによって「そういうことが起こる店なのか」と判断され、店のイメージを損なう可能性もありますから、慎重に検討しましょう。
防犯カメラも抑止力となる場合はありますが、店舗イメージとのバランスなどを考えて導入するかどうかを検討しましょう。なお、設置してある旨を告知しておいたほうが、後々トラブルに発展する可能性は低くなります。
お客さま同士が接触する機会が増えれば、トラブルの発生リスクも高まります。店舗内を余裕のあるレイアウトにしておくことで、物理的にお客さま同士の接触を減らすことも可能です。個室やつい立を設置することでも、接触の可能性を低くできます。
これらの対策を行うことで、口論の段階でトラブルが暴力沙汰に発展することなく終わる可能性が高まるでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
棚田 章弘(棚田法律事務所 弁護士)
中央大学法学部卒業。清水総合法律事務所入所、大谷・佐々木・棚田法律事務所を経て、2024年棚田法律事務所を開設。
一般民事、企業法務を問わず、広く事件を扱っており、特に専門分野を絞らず幅広い相談に対応。日頃から相談しやすい事務所、アクセスが容易な事務所を目指し、業務に従事。
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