- 経営ノウハウ&トレンド
もはや“ウチは無関係”は通用しない?中小企業の働き方改革はITツールで実現しよう
2018.11.01
「一億総活躍社会の実現をめざす」として2018年6月に成立した働き方改革関連法が、いよいよ2019年4月から順次施行されます。新法の大きな柱になっているのが「残業時間の上限規制」と「同一労働同一賃金」。これまで大企業に偏りがちだった各種の規制が、今後は中小企業にも例外なく適用されることになります。
人手不足が深刻化する中で、働き方改革を実現するためにはITツールの支援が必要なケースが多数出てくると思います。今回はITツールをどのように活用して改革を進めていけばよいか、具体的なビジネスシーンを挙げながら紹介しましょう。
目次
猶予期間終了で中小企業の対策も「待ったなし」
最初に、働き方改革関連法で大きく変わる「残業時間の規制」と「同一労働同一賃金」についておさらいしておきましょう。
残業時間規制と同一労働同一賃金は、働き方改革関連法が成立する過程で大きなテーマになってきた問題です。まず残業(時間外労働)について、これまでの基準では「月45時間、年360時間まで」が上限とされていましたが、これを上回る残業をさせた企業に対する罰則はありませんでした。
今回の改正ではこの上限に強制力を持たせ、違反した企業には懲役・罰金が科されることになります。当初は全企業を対象に2019年度から施行される予定でしたが、中小企業では準備のために1年間の猶予が与えられ、2020年度からのスタートとなりました。
一方、「同一労働同一賃金」については、正規・非正規の雇用形態によって待遇に差がある現状を見直し、「仕事内容が同じであれば給料も同じ」という原則に沿った仕組みを作ることが求められています。こちらも大企業では2020年から施行されるのに対し、中小企業には1年後となる2021年までの猶予期間が設定されました。
これらの猶予が設けられた最大の理由は、「人手不足」が深刻化していることです。繁忙期などに対応するため、従業員と相談して残業を依頼することは、多くの企業で一般化しています。それが今回の法改正で上限規制されると、いきなり罰則を受ける企業が続発することになり、特に人手不足の深刻な中小企業にとっては、法律の遵守と業務の遂行の両立が難しい状況になってきます。
とはいえ、猶予期間終了までには残業の上限規制を守り、さらには従業員が納得できる平等な待遇を実現する必要があります。これまで、どちらかと言えば大企業に偏りがちだった感のある働き方改革の取り組みが、今後はすべての企業で徹底されるので、もう「うちには関係ない」というような姿勢は許されません。
日本商工会議所の調査でも、人手不足における事業活動の維持の解決方法として最も多かったのが「既存の業務を効率化する(ICT化、標準化等)」という回答です。業務効率化という大きな課題に対し、このあと紹介するITツールの導入は多くの企業にとっての解決策になるはずです。
時間のかかる資料作成やデータ収集・分析は「BIツール」で対応
さて、残業時間の上限が決まるというニュースを聞くと、多くの関係者はまず「どうすれば残業を減らせるか?」を考えるものです。しかし、大切なのは「なぜ残業が発生するのか?」、その原因を考えることにあります。これは単に仕事量が多いとか、人が少ないという類のものではなく、現在行っている仕事の効率が悪いか、もしくはオーバーワークを強いる勤務体系そのものに問題があると捉えるべきでしょう。
たとえば、日常業務で時間を消費しがちな仕事として挙げられるものに「資料の作成」があります。会議や商談を円滑に進めるための資料は必要ですが、作成にあまり時間をかけてしまうと残業につながります。そこで活用したいのが、企業に蓄積されたデータを収集、分析して迅速な意思決定を支援するBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールです。
「LaKeel BI」(レジェンド・アプリケーションズ)は、企業で広く使われているExcelで作成されたデータを中心に分析を行うBIツール。売上集計や予算管理といったさまざまなファイルから大量のデータを集計し、可視化することが可能です。図表やグラフの作成はドラッグ&ドロップで簡単に行えるので、作業に不慣れなユーザーにもわかりやすいのが特徴です。
この他にも各種のBIツールが提供されていますので、利用目的に合わせて検討してみましょう。
BIツール
Motion Board(ウィングアーク1st)
CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)と連携し、新規開拓に向けた分析が可能。
Power BI(マイクロソフト)
Excelのアドイン(追加プログラム)をベースに、既存のデータを活用した各種の集計・分析機能を装備。
Qlik Sence Cloud(Qlik)
クラウド型のメリットを活かし、さまざまな端末で分析データを活用。5ユーザーまで無料で利用可能。
Yellowfin(Yellowfin)
BIツールとしてのあらゆる機能がWeb上で利用可能。分析結果の「共有」を意識した設計となっている。
従業員の限りある時間を「グループウェア」で有効活用する
残業が発生する主な原因として、もう一つ挙げられるのがスケジュールに関する問題です。たとえば、会議を開くとき全メンバーが揃う時間が取れず、やむなく夜に設定してしまった経験をお持ちの方は多いでしょう。
たとえホワイトボードに「〇時まで外出」と書いてあっても、出先での用が長引いて帰社時間が遅れることは珍しくありません。そこで役立つのが、スタッフ全員のスケジュールを共有する「グループウェア」です。
「desknet’s NEO」(ネオジャパン)は、スケジュール管理やWebメールなど基本的な機能に加え、ワークフローや社内ソーシャルといった全25種類の機能が標準装備されているグループウェア。「機能ごとにアプリを使い分けるのが面倒」というユーザーにおすすめです。
また、会議のための出張に要する時間も、その分残業を増やしてしまいます。経費削減とともに、遠隔地からも気軽に参加できるテレビ会議やWeb会議を導入する企業は増えていますが、通信品質やコスト面で不満の声も聞かれます。「LiveOn」(ジャパンメディアシステム)は、音声の途切れや遅延といったトラブルを回避する新技術を導入し、ストレスのないクリアなWeb会議環境を提供しています。
グループウェア
サイボウズ(サイボウズ)
国内シェアトップを誇るグループウェア。個々の機能はユーザーごとにON/OFFが可能。
Office 365(マイクロソフト)
Microsoft Officeに各種グループウェア機能を装備。セットアップ・管理を省力化。
WaWaOffice(アイアットOEC)
社内LANを活用して手軽に導入可能。職場のニーズに合わせたカスタマイズに対応。
Web会議
FreshVoice(エイネット)
セキュリティを重視したWeb会議システム。最大200拠点の同時接続が可能。
Skype for Business(マイクロソフト)
インターネット電話「Skype」の機能をビジネス向けに強化。Office365ブランドで提供。
CanSee(ユビテック)
画質にこだわり、テレビ並みの高品質HD映像が特徴のWeb会議システム。
時間を「見える化」するツールの導入で「同一労働同一賃金」を実現する
少し前まで、正社員とアルバイト・パートの待遇に差があることは「常識」とされていました。働き方改革がめざす「同一労働同一賃金」を実現するためには非正規社員の待遇改善だけでなく、まずは「この人はどんな仕事を、どれくらいしているのか?」をしっかりと把握し、過去の常識を根本から見直す必要があります。
「TimeCrowd」(タイムクラウド)は、仕事に要する時間を「見える化」することで業務の効率化を支援するツールです。仕事は部署ごとに違うので、全員がそれぞれの内容を理解するのは容易ではありません。そこで、本ツールは「会議に〇時間」「資料作成に〇時間」のように時間に特化して記録し、消費した時間をわかりやすく示します。
また、チーム内で仕事量を管理するツールもあります。「Team ToDo」(actuarize)は、「何を、いつまでにするか」を列記したToDoリストで管理を行いますが、ユニークなのは残業が予測表示されること。たとえば「いまAさんに見積書作成を依頼したら、Aさんは何時に帰れるのか?」といった具合に、各メンバーが抱えている仕事量を数字で確認することができます。
中小企業こそ積極的なIT活用で経営効率を改善しよう
これまでに紹介したツールは、主に「働き方改革」を阻む残業の削減を支援するものですが、その他にもさまざまな視点から業務の効率化をめざす、多くの個性的なツールが提供されています。
たとえば、ビジネスで欠かせない帳票作成や契約処理などの定型業務を自動化する「RPA」(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、人手不足に悩む企業にとって欠かせない存在になりつつあります。「WinActor」(NTTアドバンステクノロジ)は、作業熟練者のパソコン操作を記録し、シナリオを実行するだけで大量の事務処理を行うツール。サーバーを使わず、パソコンにインストールして手軽に使えるのが特徴です。
また、問い合わせ対応など顧客サポートの業務を自動化する「チャットボット」の導入も進められています。「sinclo」(メディアリンク)は、無人で顧客対応が可能なチャットボットのメリットを生かすとともに、高度な質問は随時オペレーターによる対応に切り替えるなど、より使い勝手を高めたツールです。
なお「働き方改革」に伴う法改正では、月60時間を超える仕事に支払われる残業代の割増率を、2023年から50%とすることが決まっています。この制度は以前から大企業で実施されているものですが、中小企業では「当面の間」として猶予されてきました。多くの中小企業の残業代は一律25%割増なので、今回の増額で経営が圧迫されるケースは確実に増えるでしょう。残業をできるだけ減らすとともに、積極的なIT活用で人手不足を補うための工夫が求められています。
この記事の著者
弥報編集部
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