経営者のための
「いちばん身近なビジネス情報メディア」

  • 人材(採用・育成・定着)

中小企業の採用は「マーケティング」がカギ!欲しい人材に届く戦略的アプローチ【船井総研が解説】

2025.10.30

著者:弥報編集部

監修者:手塚 颯

近年、人材不足で全国的に採用難が続いており、資金面に余裕のない中小企業では特に採用活動に苦戦しています。

しかし、低コストでも効果的な採用活動の方法があります。今回は、株式会社船井総合研究所の手塚颯さんに、中小企業のための低コストで効果的な採用方法についてお話を伺いました。採用成功のための考え方や事例も併せて解説していただきましたので、ぜひ参考にしてみてください。


弥報Onlineでは他にも「採用」をテーマにした記事を発信しています。
採用の記事を読む

人手不足で事業撤退?もう放っておけない、中小企業の採用の現状

中小企業では採用に苦戦していると聞きます。現状を詳しく教えてください。

人手不足が年々深刻化する中、特に中小企業では採用活動に苦戦する企業が増加しています。企業によっては、求人票を出しても1か月、ひどいと半年間全く応募がないケースもある状況です。また、応募があっても求めている人材とはかけ離れている、求職者が高齢化の傾向にあるなどの問題により、採用活動が思うように進まない企業も多いと思われます。

業種や地域による差もあり、例えば介護福祉業界など特に人手不足の業種は難航する傾向にありますし、地方のほうが都心部よりも求職者が少なく苦戦しています。採用難や人手不足が原因で業績が悪化し、事業撤退する事例も見られるようになりました。

中小企業が特に採用に苦戦する理由は何でしょうか?

人手不足や最低賃金の引き上げにも見られるように、複合的な理由による競争も激しくなる中で、資金に余裕のない中小企業では魅力的な条件の提示が難しいことが大きな理由と言えます。さらに、求人広告などの採用活動に予算を割けない、福利厚生が充実できないなどの事情もあるでしょう。

中小企業はブランド力・知名度が低く、求職者に認知されにくいと言えます。そのような中で、賃金や福利厚生などの待遇面で優位に立てない場合、求職者に応募してもらうためには自社の魅力を詳しく伝える必要があります。例えば、自社のビジネスモデルや社長の人柄・ビジョン、人間関係の良さといった職場環境を、外部に向けてアピールすることが大切です。

そもそも採用活動をどのように進めるべきか悩む経営者の方も少なくありません。今まで中小企業では、採用活動といえば「ハローワークに求人を出す」だけでよかった時代もありました。

しかし人手不足の現在、採用活動を成功させるためにはさらなる工夫が求められています。この認識を持てずに今までのやり方を続けていると、採用活動に苦戦したまま、事業にも悪影響が出てしまいます。採用活動の根本的な見直しを行うタイミングが来ているのでしょう。

採用は「マーケティング」である!欲しい人材にアプローチする考え方

採用活動を見直すにあたり、どのような考え方が必要でしょうか。

商品販売と同じように、採用活動もマーケティングの考え方を取り入れるとよいと思います。具体的には応募してほしいターゲット(求職者)を明確にすること、そしてターゲットに向けて自社の魅力を訴求することです。

例えば商品を売るときには「だれに」「どんな魅力を」「どこで」「どう伝えるか」を考えますが、採用も同じです。

「だれに」=どんな人材を採用したいのかを明確にし、
「どんな魅力を」=自社ならではの強みや働く価値を整理し、
「どこで」=その人材がよく利用している媒体や場を選び、
「どう伝えるか」=言葉や写真、動画など表現方法を工夫する。

こうして順序立てて考えると、自社が打ち出すべきメッセージや活用すべき手段がはっきり見えてくるでしょう。

つまり、応募してほしいターゲットが「求職活動に利用している媒体は何か」「職場に何を求める傾向にあるか」などを明確にして、ターゲットを採用するための戦略を練る、という発想の転換が求められています。

採用活動をマーケティングとして捉えると、どのようなメリットがありますか?

まず、採用活動の無駄打ちを減らせます。ターゲットを曖昧にしたまま求人を出すと、応募者が集まってもミスマッチが起きやすく、結果的に採用コストが膨らんでしまいます。マーケティングの発想を持ち込むことで、狙う人材像を明確にし、その人材に響くメッセージを届けられるため、効率的に成果を得やすくなります。

次に、自社の魅力を改めて整理できる点です。「うちで働く意味は何か」「他社と比べた強みは何か」を言語化しようとする過程で、社員の働き方や企業文化を再認識できます。これは求人広告の材料になるだけでなく、既存社員のエンゲージメント向上にもつながります。

そして長期的なメリットとしては、採用を通じて企業ブランドが育つことがあげられます。採用活動を単なる人員補充とする考え方では、加速する人手不足時代に太刀打ちできません。「自社にフィットする人材をどう惹きつけるか」という観点で発信を続けると、将来的に「この会社で働きたい」と考える候補者の層が厚くなっていきます。

「自社が欲しい人材」に応募してもらいたいですが、そのためにはどうすればよいですか?

例えば20代男性の採用を希望しているにもかかわらず、ハローワークへの求人のみに依存していると、高齢者の求職者層に比較的偏りがちなハローワークからでは希望の人材からの応募が見込みにくくなります。

このような場合は、若年層がよく利用する就職サイトやSNS広告、あるいはインターンシップや学校との連携など、媒体やチャネルを戦略的に切り替える必要があります。求める人材に「出会える場所」に積極的に出向くことが大切です。

また「どう伝えるか」という視点も欠かせません。給与や福利厚生といった条件面だけではなく、「どんな仲間と働けるか」「どんなスキルが身につくか」「将来どう成長できるか」といった、働く人にとっての価値を具体的に伝えることで応募意欲は大きく変わります。写真や動画で社員の声を紹介するなど、リアリティのある表現が効果的です。

自社サイト・SNS・スポットワーカー採用……低コストでも効果的な採用方法

中小企業では採用活動にかけられる予算が限られています。比較的低コストでも効果的にできる採用方法を教えてください。

まずは、自社のWebサイトで採用に関するページ(コンテンツ)を作成するとよいでしょう。記載項目が制限される求人広告だけでは伝えられない自社の魅力を、自由に表現できます。

サイトの作成費用はかかりますが、社員がマーケティングの視点やライティングの技術を学んだうえで採用ページを作成すれば、社員のスキルアップだけでなく自社の魅力を再発見できる効果も見込めます。

さらに、自社で求人ページを作成すると「求人ボックス」などの求人まとめサイトに掲載できます。まとめサイトはさまざまな条件で検索しやすい仕組みとなっており、例えば、求人ボックスでは求人掲載数2,000万件以上と利用者数も非常に多く、幅広い層にアプローチできます。

求人ボックスは、コストを抑えた効果的な採用方法の一つです。アカウントを作成して自社の求人ページをリンクさせれば、無料で掲載できるので、ぜひ活用してみてください。

採用サイトを活用して成功した事例がありましたらご紹介ください。

社会福祉法人で、中小企業の中でも少し規模は大きい会社の事例ですが、従来のような求人媒体の利用や人材紹介業者へ依頼する方法から、自社メディアで採用活動をする方法に切り替えました。その結果、5年間で100名以上の採用ができました。サイトの作成費用と人件費以外はコスト0円で求人活動に成功しています。

採用サイト作成以外の方法はありますか?事例があれば併せてご紹介ください。

採用活動とは関係ないように思われますが、スポットワーカーの活用が中小企業にとって有効な採用活動につながっています。

スポットワーカーとは、短期間・単発の仕事で働く労働者のことで、例えば「タイミー」などのサービスを使って、空き時間にできる仕事を探しています。その際、企業の知名度は気にしていないことがほとんどでしょう。中小企業でも、自社の仕事を知ってもらえるチャンスです。場合によっては自社の希望する方が来てくれて長期の採用につながるケースがあります。

この方法は即効性のある採用活動の一つと言えるでしょう。ワーカー側でも実際に仕事内容や社内の雰囲気を確認したうえで入社するため、入社後のミスマッチを防げます。

ただし、何の施策もなくただ働いてもらうだけでは難しいかもしれません。職場の雰囲気を良くする、職場環境を綺麗に整えるなどの受け入れ態勢を整備することが大切です。

近年スポットワーカーという働き方がかなり普及し、現在タイミーの登録者数は1,100万人以上に達しています。なかには専門スキルや資格を保持するスポットワーカーもいて、勤務履歴や評価などもチェックできるので、採用リスクも大幅に軽減されたと言えるでしょう。スポットワーカーから半年で10名程度採用した企業の事例もあり、中小企業がコストをかけずに、効果的な採用活動が見込める方法となっています。

SNSを活用した採用活動は効果がありますか?事例があれば併せてご紹介ください。

SNSの利用自体は基本的に無料ですので、うまく活用すれば低コストでの採用が可能です。Instagramでは特に若年層へ自社の魅力を伝えられるでしょう。

ただし、SNSで企業アカウントを運用する場合、フォロワーを増やすために採用情報以外にも発信を見てもらえるような工夫をしないと難しい面があります。

ある企業では、自社のノウハウをもとにして「1分で学べる〇〇の研修」や「〇〇に役立つ方法」などを発信してフォロワーを増やしました。そしてSNS経由で250件もの応募があり、毎年20人の採用につなげています。

もちろん、アカウントを通して自社の魅力や伝えたいメッセージなども発信していたため、応募者とのミスマッチも少なく採用を成功させることができたそうです。ただし、SNSは戦略的な運用が求められるので、劇的な効果につなげるには難しい面があるかもしれません。まずは取り組んでみるのもよいですが、専門家に相談しながら発信することをおすすめします。

採用活動成功のカギは接点作りと資産型採用

これまでのお話から、採用活動で中小企業が成功するためのカギを改めて教えてください。

今後、採用活動の方法が多様化することが考えられる中、中小企業が成功するためのカギは「接点作り」と「資産型採用」でしょう。

「接点作り」に関しては、先ほどお話したスポットワーカーからの採用方法が有効です。知名度が低い中小企業の場合、まずは企業と接点を持ってもらい、できれば実際に働いてみて「良い会社」だと思ってもらえれば、採用の可能性は高まります。

採用サイトを見る場合でも、実際に働いている従業員の声を参考にする方は多いのではないでしょうか。そのためには受け入れ態勢を整えておくこと、そして実際の職場環境をより魅力的にし、日々従業員の満足度を高める努力をすることが大切です。

そうすれば、従業員の知り合いに自社を紹介してもらう「リファラル採用」も大きく期待できます。社内で働く人が「ここなら紹介したい」と思える職場であることが重要で、結果として良い人材の定着や採用コストの削減にもつながるでしょう。

組織改革や働く環境を整えることは時間も労力もかかります。しかし一度整備が進めば、その積み重ねが社内の満足度を高め、結果として外部への自然な発信力につながります。いわば「採用に直結する土台作り」となり、短期的な募集活動以上に大きな効果をもたらすのです。

次に「資産型採用」についてですが、ここでの資産型採用とは活動内容が自社の情報資産として残る方法と考えてください。例えば自社のサイトで採用に関するページ(コンテンツ)を作成する、SNSを運用するといった方法では、活動内容が自社の情報資産として蓄積され、長期的に活用できます。

さまざまな採用活動の方法がある中でも、「求人広告への掲載」は掲載期間が終われば何も残りません。自社の資産を活用した採用方法は、中小企業でも低コストで始められて長期的な効果も期待できるのではないかと思います。自由度の高い発信ができるため、マーケティングの視点を取り入れ欲しい人材に向けた戦略的な採用活動につなげられるでしょう。


弥報Onlineでは他にも「採用」をテーマにした記事を発信しています。
採用の記事を読む

この記事の著者

弥報編集部

弥生ユーザーを応援する「いちばん身近なビジネス情報メディア」

この記事の監修者

手塚 颯(株式会社船井総合研究所 ヒューマンキャピタル支援部 マネージャー)

株式会社船井総合研究所 ヒューマンキャピタル支援部マネージャー。入社以来、人事・採用領域のコンサルティングに従事し、介護・福祉など人材獲得が困難な業界でも成果を創出。採用に特化した全国の成功事例を研究・共有し、経営者向け勉強会「採用力向上経営フォーラム」を主催。変化する人材マーケットに応じて次世代の採用ノウハウを築いている。

経営お役立ちセミナー

経営に役立つノウハウを専門家から学べる、セミナー情報を掲載しています。

「経営戦略・経営計画」「資金調達」「事業承継」など、様々なテーマからセミナーを探すことが出来ます。

資金調達ナビ

新しいチャレンジや安定した経営を続けていくために、資金調達は欠かせません。

「資金調達手段を探す」「資金調達を学ぶ」「創業計画をつくる」「専門家に相談」の4つのサービス・コンテンツで資金調達を成功に導く情報サイトです。

弥生のYouTubeで会計や経営、起業が学べる!

弥生の公式YouTubeチャンネルでは、スモールビジネスに携わる方たちに役立つコンテンツを配信中です。

■弥生【公式】ch チャンネル登録はこちら

■個人事業主ch チャンネル登録はこちら

【無料】お役立ち資料がダウンロードできます

弥生では、スモールビジネス事業者の皆さまに役立つ資料を各種ご用意しております。

経理や確定申告、給与、請求業務の基礎が学べる資料や、インボイス制度や電子帳簿保存法など法令対応集、ビジネスを成功させる起業マニュアル、弥生製品がよくわかる資料など、お役立ち資料が無料でダウンロードいただけます。ぜひご活用ください!

弥報Onlineからのお知らせ

TOPへ戻る