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「良い税理士知りませんか?」税理士選びの基礎ガイド

2025.06.12

著者:弥報編集部

監修者:猪熊 規博

税理士に依頼できる業務は多岐にわたりますが、実際にどこまでお願いできるのか、どのような業務を依頼すべきかが明確でない経営者の方も多いのではないでしょうか。税理士は、税務申告の代行だけでなく、経営全般にわたるアドバイスやサポートを通じて、企業の成長を幅広く支援してくれる存在です。

本記事では、猪熊税務会計事務所 所長・猪熊規博さんに、税理士に依頼できる業務の具体的な内容についてわかりやすく解説いただきました。依頼する際のポイントやよくある誤解にも触れながら、税理士選びを成功させるためのヒント、そして信頼関係の築き方をご紹介します。


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税理士に依頼したい!税理士に依頼できる業務とは

税理士に何が依頼できるかわかりません。依頼できる業務について、概要を教えてください。

税理士に依頼できる業務は、大きく「税理士にしか行えない独占業務」「税理士に依頼できる業務」に分かれます。まず、独占業務として代表的なものは以下の3つです。

  • 確定申告などの手続きを納税者に代わって行う「税務代理」
  • 税務署に提出する申告書などの書類を専門知識に基づいて作成する「税務書類の作成」
  • 税金に関する相談に応じる「税務相談」

これらは税理士にだけ認められている業務であり、一般の方や他の士業が行うことはできません。一方、独占ではないものの税理士に依頼できる業務としては、帳簿や決算書の作成など日々の経理業務のサポート、そして経営相談に対応するコンサルティング業務があります。具体的には、資金繰りのアドバイスや補助金申請の支援、事業計画の策定など、財務や経営に関する幅広い相談に対応しています。

一般的に「税理士にすべて任せたい」と考える経営者の多くは、これらすべての業務を依頼したいと考えているケースが多いようです。ただ、どこまで依頼するかは企業によってさまざまで、「そんなことまでお願いできるとは知らなかった」という声もあれば、逆に「そこまでは税理士の業務ではないですよね」と認識のズレが生じることもあります。結果としてトラブルにも繋がりかねないので注意が必要です。

具体的にはどのような誤解や認識のズレがあるのでしょうか。

実際に起こりがちなトラブルや認識のズレには、このような例があります。

税理士がもっと積極的に提案してくれると思っていた

「税理士は積極的に節税策などを提案してくれる」と期待する経営者も多いですが、実際にはケースによって提案できる内容は限られています。特に打ち合わせが少なく、経営者の状況や目標が十分に理解できない場合、効果的な提案は難しくなります。経営者とのコミュニケーションの頻度や質も、提案の内容に大きく影響します。

税金が必ず減ると思っていた

税理士に依頼すれば税金が必ず減ると考える経営者は少なくありません。しかし、実際にはそうでないこともあります。例えば、企業の収益が増えれば、それに伴い税金も増加します。また、経費として認められない支出がある場合、その分の税金を減らすことはできません。税理士は節税策を提案することはできますが、税金が必ず減るわけではないことを理解しておく必要があります。

日々の細かい経理業務もすべてやってくれると思っていた

経営者の中には、税理士に請求書の処理や経費の仕訳なども任せられると考える方もいます。しかし、税理士は主に税務申告や年次決算、税務戦略の提案を担当する専門家です。そのため、経理業務全般を当然のように任せられるという認識があると、実際の対応範囲との間にギャップが生じてしまう可能性があります。記帳代行や仕訳業務などを税理士事務所側で請け負ってくれるケースもありますが、それは契約内容や事務所の方針によって異なるため、すべての税理士が対応しているわけではありません。

これらの認識の違いは、経営者と税理士の信頼関係を損なう原因となります。良好な関係を築くためには、税理士に対する正しい理解と認識が重要です。

実際に、税理士はどのような業務まで対応していることが多いのでしょうか?

実際には、多くの税理士が日々の経理や決算、申告業務までを一貫してサポートしています。2023年に日本税理士会連合会が実施した「第7回税理士実態調査」によれば、税理士が日々の経理記帳や決算、申告書・税務代理を含めて請け負っているケースは全体の約56.2%にのぼり、決算・申告書・税務代理まで対応しているのは22.3%、税務書類の作成・税務代理を行っているのは19.9%となっています。このことから、多くの税理士が税務に関する一連の流れをカバーしており、単なる「税務代理のみ」だけでなく、総合的に経理や税務の側面から経営をサポートする存在としての役割が期待されていることがわかります。

中小企業にとって「良い税理士」とは?柔軟性と信頼がカギ

そもそも「良い税理士」とはどのような税理士なのでしょうか?

「良い税理士」とは、中小企業にとってどのような存在かを考える際、2つの重要な視点があります。1つ目は、経営者のニーズに合わせた柔軟な対応ができることです。中小企業は、その規模や成長段階によって抱える課題が異なります。創業期、成長期、成熟期のそれぞれで必要とされるサポートは異なり、税理士はその変化に対応できる能力が求められます。

例えば、創業期ではキャッシュフローの改善策や法的手続きのサポート、成長期では税務戦略やリスク管理のアドバイス、そして成熟期では事業承継や資産運用に関する高度な戦略が必要です。税理士が企業の状況に応じたアドバイスを提供できることが、経営者にとって大きな価値となります。

もう1つ重要なのは、経営者との信頼関係を築けるかどうかです。税理士と経営者の関係は長期的なパートナーシップとしての側面が強いため、信頼関係の構築が非常に重要です。経営者が抱える悩みや目標を理解し、それに基づいて適切なアドバイスができる税理士は、経営者が安心して相談できる存在となります。

経営者と税理士の間に良好なコミュニケーションが成立していることを前提として、経営者の目標を共に考えながらサポートする姿勢がある税理士が好ましいでしょう。

税理士に依頼する前に、明確にしておくべきことがあれば教えてください。

ニーズに合った税理士を選び、スムーズなコミュニケーションを図るためにも、事前にしっかりと整理しておくべきポイント5つを紹介します。

1.依頼の目的と課題を明確にする

税理士に依頼する前に、自社がどのような課題を抱えているのかを明確にすることは非常に重要です。特に新規に設立した企業では、税務や経理が不安であることが多いです。こうした場合、「適切な税務申告方法がわからないので教えてほしい」「経費の計上方法があっているかどうか確かめてほしい」などの具体的なアドバイスを求めることが有効でしょう。自分が何に困っているのかを明確に伝えれば、税理士も適切なサポートを提案してくれます。

事業が順調に進んでいる企業では、税金の負担が増えたり、経営の透明性を高める必要が出てきたりします。この場合は「税金負担を軽減する方法を教えてほしい」「企業規模拡大に伴う経営戦略のアドバイスが欲しい」といったニーズが出てくるでしょう。依頼する目的を明確にすることで、税理士が提供するべきサポートが見え、効果的にコミュニケーションを取ることができます。

2.依頼する具体的な業務内容を決める

自社の抱える課題や依頼する目的が明確になったら、それらをより具体的な業務内容に落とし込みます。継続業務としては、例えば日常的な経理サポートや定期的な税務アドバイスが考えられます。

しかし、依頼したい業務内容が広範囲である場合、税理士の提供するサービス内容に、自社が期待するサポートが含まれているのかを明確にしなければ、認識のズレが生じかねません。依頼したい業務内容を具体的にリストアップし、あいまいな範囲がないようにしておきましょう。

3.税理士に求める役割を決める

「税理士にどのような立場で自社をサポートしてもらいたいか」も、あらかじめ決めておきましょう。例えば、全般的な相談相手としての役割や、節税対策のアドバイザーとしての役割、さらにはさまざまなネットワークのハブとしての役割もあります。

特に企業が成長する過程では、税務だけでなく経営戦略や将来のビジョンなど、経営に関する幅広いアドバイスを税理士に求めるケースも多いでしょう。役割を定義し、自分がどの範囲までサポートしてほしいのかを明確にしておけば、後々の満足度も高められるでしょう。

4.税理士の特徴や経歴を考慮する

税理士には、長年の会計事務所勤務経験がある方や、企業の経理部門に従事していた方などさまざまな経歴を持つ人がいます。期待する税理士の経歴や年齢、得意分野などもあらかじめ決めておけば、選定基準の1つとなるでしょう。

例えばスタートアップ企業の場合、柔軟な対応ができる税理士が適している可能性が高い一方で、大企業の場合は高い専門性と経験値を持つ税理士が求められることもあります。自社や自分との相性を考えた基準を設けておきましょう。

また、依頼内容などによっては、該当業務に強い専門の税理士に依頼することを検討してもよいでしょう。例えば、福祉業界に強い税理士であれば、行政や自治体からの助成金情報の共有、小売業に強い税理士であれば、他社事例を参考にした効率的な経営方法のアドバイスなどを得られる可能性が高いです。

5.ある程度の予算を決めておく

税理士に依頼する際の予算設定も非常に重要です。税理士のサービス料金は業務内容や契約形態によって異なるため、予算とサービスのバランスを取ることが求められます。予算に制限がある場合は、税理士が提供できるサポート内容を明確にし、最も効率的に対応してもらえる方法を相談しましょう。

ただ、「できるだけ安い費用で済ませたい」と考えるのは危険です。たとえ安く依頼できても、期待していたサポートが受けられなければ本末転倒です。「税理士に依頼する目的」を念頭に置き、自社にとって本当に必要なサポートが何かを見極めたうえで、適切な対価を支払う姿勢が大切です。

とはいえ自社の何が課題なのか、どのような業務を依頼すべきなのかよくわからない、あるいは整理が難しいケースもあるかと思います。そのようなときは、複数の税理士と面談し話をしてみてください。課題が整理され、自社にとっての税理士を選ぶポイントがわかってくると思います。ぜひ、面談できる税理士を複数探してみてください。

失敗しない!税理士選びから契約締結までのチェックポイント

税理士はどのように探せばよいですか?また、探すのに適したタイミングはあるのでしょうか?

一般的には、知人や同業者からの紹介が信頼性も高い方法とされています。また、最近ではインターネット検索を活用する事業主も多くなりました。税理士のホームページやSNSを通じてその専門性や考え方を事前に把握しやすくなったためです。また、金融機関でも融資や資金調達に強い税理士を紹介してもらえることもあります。その他、税理士紹介会社税理士会を通じた紹介は、公的な枠組みによる一定の安心感がありますが、どうしても限定的になってしまったり、必ずしも自社に最適な税理士が紹介されるわけではなかったりという実情もあるようです。

なお、弥生の「税理士検索」では、地域、依頼内容、対応業種、事務所の特徴など、さまざまな条件を基に自分にぴったりな税理士・会計事務所を気軽に探すことができます。「どのような税理士がいるのか、どこを探せばよいのかわからない」といった、税理士探しの初期段階の悩みを抱える方にもお勧めなので、ぜひ活用してみてください。

税理士を探すタイミングとしては、決算期が終わった直後がお勧めです。この時期は経営者自身も決算内容を振り返り、課題や改善点を意識しやすいため、税理士選びに対する関心や熱意が高まりやすい傾向があります。また、次の決算までに一定の準備期間を確保できることから、税理士との相性や業務内容を見極める時間的余裕も生まれます。

候補の税理士を見つけた場合、どのようにして自社に合うかどうかを判断すればよいでしょうか?

多くの税理士は初回相談を無料で行っていますので、実際に顔を合わせて自社の課題や希望を伝え、税理士の対応や提案力を確認しましょう。この時点で、相性やコミュニケーションがスムーズかどうかもチェックポイントとなります。

例えば「税金対策を強化したい」という課題を伝えた場合、その税理士が具体的な税務戦略、自社の将来像を踏まえたアドバイスなど、実現可能な対処法を丁寧に説明してくれるかが判断材料になります。税理士がどれだけ課題を深く理解しているかなどの「親身さ」も重視して判断しましょう。可能であれば、複数の税理士と面談をして、比較検討の時間も設けましょう。

その他、税理士選びの際に注意すべき点を教えてください。

税理士との契約においては、費用構造の事前確認が不可欠です。「どこまでやってもらえるか」と「いくらかかるか」をセットで確認しましょう。顧問料や決算申告料だけでなく、「年末調整」「税務調査立会」など、スポット対応が必要になるケースは多々あります。その都度、追加費用が発生するのか、それともパッケージ内で対応してもらえるのかを確認しておくことで、後から「こんなに請求されるとは思わなかった」という事態を防げます。

特に料金が相場より極端に安い場合は注意が必要です。必要最低限の処理だけしかしてくれないケースや、手間のかかる相談には対応してくれないなど、結果的に高くつくこともあります。

その他にも、税理士の状況や詳細について以下の点においても確認しておくと安心です。

税理士との契約から契約後までの流れを教えてください。

初回面談後、税理士から見積もりや契約内容の提案を受けます。顧問料の金額や業務範囲、さらには追加料金が発生する条件などを詳細に確認し、料金体系が明確であることを確認します。これに納得したら契約書を交わし、正式に契約を締結します。契約書には期間や解約条件、秘密保持の条項が含まれていることが一般的なので、しっかりと確認しましょう。

契約後は、必要な資料の引き継ぎや会計ソフトの設定などを行い、実務が始まります。この段階で「思っていたサポートの方法と違った」とならないように、契約前から実務イメージのすり合わせもしておきましょう。

具体的には、連絡手段や面談スタイル(対面かオンライン)、使用するソフトなどの認識合わせです。最初の数か月は、税理士との業務フローを確立する期間ですので、積極的にコミュニケーションを取りながら進めていきましょう。

固定観念にとらわれない税理士選びの姿勢を

税理士は、一度決めたら変えない方がよいのでしょうか?

「一度決めた税理士とは、ずっと付き合い続けるべきなのか?」と悩む経営者は少なくありませんが、変えても問題はありません。

長期的に付き合うことで、税理士も自社のビジネスを深く理解できるようになるケースもありますので、信頼関係があり、業務内容や対応に満足している場合は、変える必要はありません。

会社のフェーズや抱えている課題が変われば、求める支援の内容も変わってきます。企業成長によるニーズの変化を踏まえて、現在の税理士が合っているのかを定期的に見直すことが大切です。

税理士を全面的に変更することに不安がある場合は、必要に応じてテーマごとにスポットで他の税理士に相談するという柔軟な方法もあります。例えば、M&A、事業承継、補助金申請など、特定の分野に強い税理士の力を借りることで、顧問税理士との関係を維持しながら、必要なサポートを的確に受けることが可能です。

実際に、セカンドオピニオンとして複数の税理士に随時の相談を依頼した企業は、コストを抑えつつ不安要素のみを解消することができたという事例もあります。税理士との関係は固定的なものではなく、経営にとって最適な体制であるかを軸に、柔軟に見直していくことをお勧めします。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

猪熊 規博(猪熊税務会計事務所 所長、税理士)

2001年、明治大学商学部を卒業後、日本生命保険、YKK、本田技研工業で15年に渡り、国内外の会計・経理業務に従事。
2017年に税理士の資格を取得し、猪熊税務会計事務所に入所。2020年には所長に就任。
立教大学大学院で講師やNPO法人の運営も務めている。歴史探訪・史跡巡りが趣味で、各地の歴史的な場所を訪れるのが好き。
豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの多様なニーズに応え、確かなサービスを提供し続けている。

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