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【税理士が解説!】事前に知っておきたい、法人化で失敗しないための準備と成功のポイント
2025.05.29

法人化には、税負担の軽減や信用力の向上といった魅力的な利点がありますが、その一方で法人化後に発生する新たな義務やコストも存在します。例えば、法人化による新たな税負担や法人税の申告に関する複雑さなど、思わぬ負担を避けるためには事前の準備が欠かせません。
そこで今回は、猪熊税務会計事務所 所長の猪熊規博さんに法人化のメリットだけでなく、法人化を成功させるために必要な視点や注意点なども解説いただきました。税理士に相談するタイミングや法人化後に気をつけるべき注意点を理解し、スムーズに法人化を実現しましょう。
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目次
節税だけじゃない!法人化でつかむ成長チャンス
法人化するメリットを教えてください。
法人化には、主に事業の面と、税金の面でメリットが多数あります。事業面ですと、信用力の向上や資金調達のしやすさなどがあげられます。結果として、事業の拡大を目指しやすくなると言えるでしょう。また、税金面では節税につながる可能性が高いです。例えば、個人事業主では超過累進課税により所得が増えるほど税負担が大きくなりますが、法人化することで法人税の税率が適用されるので、その税率差によって節税になるといった仕組みです。また、経営者が退職金を受け取れるようになるといった点も、法人化の大きなメリットの1つです。
実際に法人化した経営者の方が感じられた、実利の例があれば教えてください。
あるご夫婦はフォトグラファーとして、それぞれの個人名義で共同活動をされていました。しかし、共同で活動しているがゆえに「支出をどちらの経費にすべきか悩む」「それぞれで確定申告を行う必要がある」など、さまざまな課題を抱えられていました。
やがて、大きなスタジオを持つ必要性を感じたことをきっかけに法人化を決断。すると、経費として計上できる範囲が広がり、所得税の負担も大きく軽減されたといいます。また、夫婦それぞれの取引先が一本化されたことで、取引が簡素化したことや信用力が増して取引数が増えたことも、大きなメリットと感じられたそうです。
このように、法人化によって節税効果を得ながら資金調達や取引の機会を増やし、事業の成長を加速させた、というケースが多く見られます。
法人化するかどうか、どのような視点で判断すればよいのでしょうか?
大前提として最初に意識しておきたいのは「自分がどのような事業の未来像(グランドデザイン)を描いているか」という点です。例えば、「事業を拡大したい」「人を雇って組織化したい」「新たな事業展開をしたい」といった明確なビジョンがある場合は、法人化はその実現に向けた有効な選択肢になるでしょう。
「売上〇〇万円だから法人化」は危険?法人化を判断するための視点とは
一般的に法人化を検討するタイミングを教えてください。
法人化を検討するタイミングとして多く見られるのは、「取引先から法人格を求められた」「税負担を軽減するために法人化を決断した」など、取引先からの要請や売上の成長がきっかけとなるケースです。また、事業の規模を拡大するために設備投資が必要になったタイミングも、法人化を決断する一因となります。
一般的には、法人化を検討するタイミングとして「売上が800〜1,000万円程度」が目安にされることも多いですが、売上だけで法人化の判断をするのは危険です。単に売上だけを基準にするのではなく、経営状況や将来のビジョンを踏まえた総合的な判断が必要です。法人化はあくまで「目的を達成するための手段」であり、ゴールではありません。法人化のタイミングは、これらの要素を総合的に考慮することで、見えてくると言えるでしょう。
なぜ売上だけを見て法人化の判断をしてはいけないのでしょうか?
所得状況や経費の使い方、家族への給与支払い、社会保険の負担など、法人化によるメリット・デメリットは他の要素によって大きく左右されるからです。例えば、社会保険料などの負担増を考慮せずに法人化すると、「法人化したのに手取りが減った」という事態になりかねません。具体例をあげてみましょう。

所得が500万円、1,000万円、1,500万円の場合を比較すると、個人事業主と法人の税負担がどう異なるかが明確になります。
個人事業主の場合、500万円の所得に対する税金は約82万円。1,500万円の場合は507万円です。
しかし法人化した場合、500万円の所得に対する法人税は121万円、1,500万円の場合は453万円となります。
これを見てわかるように、所得1,000万円を超えたあたりから法人化の方が税負担が軽減されることがわかります。これは、個人事業主の場合、所得税は超過累進課税により計算される一方で、法人税は一定の税率が適用されるためです。
しかし、法人化において注意しなければならないのは、社会保険料の負担です。近年、社会保険料が上昇しており、これが法人化を検討する際の重要な要素となります。

法人の場合、利益の中から役員報酬が支給され、またその金額に応じて社会保険料が発生します。例えば、法人で利益が1,000万円の場合で、その中から役員報酬として875万円を支給するとしたら、社会保険料が123万円、法人税等が7万と想定されるほか、本人の所得税なども発生します。結果として、個人事業主より39万も支出が増えてしまいました。
このように、法人化することで税負担が軽減される一方で、社会保険料などの支出が増え、最終的に手元に残る金額が予想以上に少なくなることがあります。個人事業主として事業を続けた場合と、法人化した場合の税負担など(所得税、住民税、社会保険料と法人税、給与所得控除、社会保険料など)を比較し、「どちらが手元に残るお金が多いか」をシミュレーションすることで、合理的な判断が可能になります。
自力でシミュレーションはできるものでしょうか?
弥生の「かんたん税金計算シミュレーション」※では、1年間の売上や仕入・経費、希望する役員報酬を入力するだけで、法人化した場合と個人事業主の場合の納税額(税金・社会保険料)の比較ができます。設定できる条件は限られていますが、主要な変更点を簡単に試算できるので、ぜひ参考にしてみてください。
※本診断結果は実際の税額と異なる場合があります。あくまでも目安としてご利用ください。
また、一般的に「難しそう」と思われがちな法人化の手続きも「弥生のかんたん会社設立」を利用すれば、画面の案内に沿って操作するだけで必要書類を作成でき、オンラインで登記申請まで完了できます。
初心者でも安心して進められる設計になっており、しかも無料で利用できるのが大きな魅力です。「法人化に興味はあるけれど、何から始めればよいかわからない」「手続きの全体像をつかみたい」という方にとっても、全体の流れを理解する入口として最適なサービスです。法人設立の第一歩として、ぜひ活用してみてください。
「メリットがなさそう」でも諦めない!専門家と見つける“最適な法人化”
シミュレーションでメリットがなかった場合は、法人化を諦めた方が良いのでしょうか。
シミュレーションの結果、メリットが見られない場合でも、決して法人化を諦める必要はありません。冒頭でお伝えした通り、グランドデザインを踏まえて法人化が必要だと考えるのであれば、なおさらです。
そんなときは、税理士などの専門家に相談すれば、法人化に関するリスクや問題点をクリアにし、損をしないための対策や、より効果的な節税方法を提案してもらえる可能性が高いです。前述した例の場合でも、例えば旅費規程による日当の支給や社宅制度の活用など、法人化したからこそ利用でき、法人化後も手元に残るお金を増やせる方法があります。法人化後に手取りが減ったことに気付いた場合でも、「ではどうすればよいか」という具体的なアドバイスを専門家から受け、法人化の意義を最大化した事例もあります。
法人化を検討する際に最初に行うべきことは、現在の事業の収支状況を正確に把握し、シミュレーションで法人化のメリットとデメリットを比較することですが、これだけでは不十分に判断できない場合もあります。そのため、税理士に相談することをおすすめします。
税理士は法人化に関する専門的な知識を持ち、法人設立に伴う手続きや税務面でのアドバイスを提供できます。サポートを受けることで、法人化におけるリスクを最小限に抑え、事業を成長させるための最適な方法を見つけられるでしょう。
「弥生の設立お任せサービス」は、会社設立の専門家に無料相談できるサービスです。設立手続きの総合的なサポートを依頼したい場合は、ご活用ください。
詳細な税金のシミュレーションだけでなく、資金調達や経営に関する相談も可能です。弥生の「税理士紹介サービス」では、会社設立手続きなどでお悩みの方に最適な税理士探しをサポートしていますので、こちらも知っておくと役立つでしょう。
思わぬコスト増も?法人化前に見直しておきたい準備項目
法人化を進めるにあたって、その他に考慮すべき点はありますか?
役員報酬の決定には慎重を期すべきです。役員報酬は、設定後1年間変更できないため、事業の成長や利益見込みを踏まえ、適切な報酬額を設定することが求められます。安易に高額な報酬を設定すると、法人の資金が不足したり、社会保険料の負担が増加したりする可能性があります。さらに法人化後は、たとえ赤字であっても法人住民税(均等割)が発生し、決算申告のための費用もかかります。
また、法人化の準備を進める際には、資金繰りにも細心の注意が必要です、登記や定款の認証など、コストを抑えると20万円前後で法人設立自体は可能ですが、法人の固定費や社会保険料の支払いを見越し、キャッシュフローが安定する見込みを事前に確認するとよいでしょう。
特に許認可が必要な事業を行っている場合には注意が必要です。個人事業のときに取得していた許可や認可が、法人になることで無効となる場合があり、再度法人名義で申請しなおす必要が生じるケースもあります。こうした手続きには時間がかかることもあるため、法人化を進める際は、早めに確認・準備しておくことをおすすめします。
その他の細かな点をあげるとすれば、例えば個人事業として利用していた店舗や事務所をそのまま法人でも使用する場合、賃貸契約の名義変更が必要になるケースや、個人名義で契約していたサブスクリプションサービスやクラウドツールなどが、法人名義に切り替えることで月額料金が上がるケースもあります。思わぬコスト増につながることもあるため、あらかじめ契約内容を確認し、全体のランニングコストを見直すことが大切です。
加えて法人化後に注意すべき点として、税務処理や法人税の申告を適切に行う必要があります。
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法人化すると会計処理や税務申告も複雑化するのではないでしょうか。
確かに会計処理や税務申告が個人事業主のときとは異なり、より複雑になります。個人事業主の場合、主に青色申告を利用して簡易的な申告が行われますが、法人になると法人税法に基づく税務申告が求められます。そのため、法人設立後は決算書(貸借対照表や損益計算書)の作成や法人税の申告書類の提出が必須となります。
また、法人化により消費税や社会保険料の取り扱いも変わります。特に消費税については、法人が一定の売上規模を超えると課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。これにより、毎月の記帳で消費税に関する処理を行う必要が生じます。
法人化後は、これまで簡易に処理していた部分も法的な要件が厳格になり、記帳や申告が複雑化するため、事前にしっかりと理解しておくことが重要です。
自力で対応するのは大変そうですね。
一般的に、法人化をきっかけに法人向けの会計ソフトを導入する企業がほとんどです。事業が拡大するにつれて、法人税対応のみならず、日々の業績分析や今後の事業計画に役立てたい、取引が増えて複数人で帳簿を記帳したいなどのニーズが出てきます。そのため、会計ソフトを選ぶ際には、自社の具体的な要望をよく考慮することが大切です。
弥生の会計ソフトは、会社の成長やそのときの要望に合わせて製品アップグレードが可能です。上位製品へ移行すると、部門管理機能や経営分析機能、複数台での同時利用など、新たな機能を利用できます。上位製品を新規購入するよりもお得な価格でアップグレードできるため、非常にコストパフォーマンスが高い選択肢となるでしょう。
繰り返しになりますが、法人化は「目的」でなく「手段」です。法人化後のことも考慮し、どのように事業を運営し、どんな課題にどう向き合うのか。そこまで見据えておくことで、企業としての成長にもつながります。頼れるさまざまなサポートがありますから、ぜひ自社にあったサービスを活用しながら、法人化を検討してみてください。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
猪熊 規博(猪熊税務会計事務所 所長、税理士)
2001年、明治大学商学部を卒業後、日本生命保険、YKK、本田技研工業で15年に渡り、国内外の会計・経理業務に従事。
2017年に税理士の資格を取得し、猪熊税務会計事務所に入所。2020年には所長に就任。
立教大学大学院で講師やNPO法人の運営も務めている。歴史探訪・史跡巡りが趣味で、各地の歴史的な場所を訪れるのが好き。
豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの多様なニーズに応え、確かなサービスを提供し続けている。
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