- 人材(採用・育成・定着)
ハローワークでは本当に「いい人材が採れない」のか?応募につながる求人票のポイント
2024.12.05
中小企業にとって、ハローワークは採用コストがかからないため、重要な採用手段です。しかし、期待通りに応募が集まらないケースも多いといいます。最近では、さまざまな求人サイトが登場し、求職者はハローワーク以外の方法でも仕事を探すようになりました。ただ、これらの求人サイトを利用するには費用がかかるため、中小企業としてはハローワークでの採用がうまくいくのが理想でしょう。
実は、ハローワークを活用した採用には成功につなげる考え方があることをご存じでしょうか。今回は、ウエルズ社会保険労務士事務所 代表の五十川将史さんに解説いただきました。ハローワークでの採用に役立ててください。
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目次
5つのデータから見えてくる「ハローワーク」活用の意外なメリット
ハローワークは、全国544か所のネットワークを通じて地域の中小・小規模企業の人材確保を支援する、国内最大の職業紹介機関です。その実績を代表的な5つのデータから再認識してみましょう。
- 求人検索システムへのアクセス数は1日240万件
ハローワークの求人情報は、「ハローワークインターネットサービス」でいつでも検索・閲覧が可能です。令和4年度(2022年)の1日平均アクセス数は約240万件、月間では7,200万件に達し、民間の求人サイトと比較しても遜色のない数値です。
また、ハローワークに求職登録をしていない人もスマートフォンやパソコンで自由に閲覧できるため、離職中の人だけでなく、在職中の人も多く利用しています。
- 年間の求職申込者数は458万人
民間の求人サイトが増え、求職者の仕事探しの手段は多様化していますが、令和4年度(2022年)には約458万人が新たにハローワークに求職登録を行いました。毎月平均38万人以上の新規の求職者が、ハローワークを通じて仕事を探しています。ハローワークの利用に悲観的な見方をする企業もありますが、これだけ多くの新規登録者がいれば、自社の求める人材がいる可能性も高いでしょう。求職者との最初の接点となる求人票を、彼らの心を動かす内容にすることが大切です。
- 新規求職登録者の約3割は在職者
一般的に、ハローワークは失業者のための支援機関というイメージがありますが、新規求職登録者の約3割が在職者であることはあまり知られていません。つまり、現在の仕事を続けながら新しい職場を探している人が全体の3割を占めているということです。
通常、失業中の求職者はなんらかの職に就くことを優先しますが、在職中の転職希望者は現在の仕事や職場に不満や問題を抱えており、より自分の希望に合った職場を求めてハローワークに大きな期待を寄せています。また、こうした在職中の転職希望者は即戦力として期待できるため、中小・小規模企業にとってハローワークは活用次第で有効な採用手段となり得ます。
- 求人の約5割がホワイトカラー職
職業別の新規求人では、全体の約5割が管理職や専門・技術職、事務職や販売職など、いわゆるホワイトカラー職を占めています。かつては、ハローワークには生産工程や建設など現業部門の求人が多く、ホワイトカラー職の求人には向いていないという認識がありましたが、現在は大きく異なります。
このように幅広い職種を対象とした求人は、求職者の多様な職業ニーズに応えるものであり、企業・求職者の双方にとってハローワークの活用が有効な手段となっているといえます。
- 求人票の情報量は1,348文字
ハローワークの求人票には50項目以上の記載欄がありますが、主要な7項目に限っても「職種名」28文字、「仕事内容」360文字、「就業時間」120文字、「休日等」60文字、「求人に関する特記事項」600文字、「事業内容」90文字、「会社の特長」90文字と、合計で1,348文字に達します。
また、その他の自由記載欄を含めると、最大で約2,000文字の情報を掲載することが可能です。これは一般的な募集要項や民間の求人サイトと比較しても遜色なく、情報量を十分に盛り込める点は、ハローワーク求人票の大きな特徴といえます。
求職者は応募を検討する際、必要な情報が不足していると判断できず、結果的に求人票を見過ごしてしまうこともありますが、これだけの情報量が得られれば十分な検討材料となり得るでしょう。ハローワークに対して厳しい意見を持つ企業の中には、このメリットを十分に活用しきれていない場合も多いようです。「いい人材」の応募を確保するには、このメリットを最大限に活かすことが重要です。
求人票は労働条件を示すツールではなく、人材募集に対する「自社の鏡」
「求人を出してもまったく反応がない」といった場合、賃金や休日などの労働条件が原因の一つかもしれませんが、それだけではない可能性も考えられます。
例えば、仕事内容がわずか3~4行の記載で済ませていたり、求人に関する特記事項欄が空欄であったりと、企業側の伝えたい情報が一方的に記載され、求職者の立場を考えていない求人票が見受けられることがあります。
しかし、求人票の内容は企業の姿勢や想いを反映する「自社の鏡」といえるものです。求職者が知りたい具体的な仕事内容や職場環境、入社後の指導・育成体制など、求職者目線に立った丁寧な情報を掲載することが求められます。
ハローワークに求職登録をして真剣に仕事探しに取り組んでいる求職者にとって、内容が薄く手抜き感のある求人票には興味が湧きません。求人票から伝わる企業の人材募集に対する姿勢や熱意が、求職者の心を動かすのです。「いい人材」の応募を得るためには、求人票を単なる労働条件を示すツールとしてではなく、人材募集に対する「自社の鏡」として活用することが大切です。
ハローワークで「いい人材」を確保するためのポイント
求職者は再就職や転職を考える際に「次はこんな仕事で活躍したい」「こんな働き方ができる職場で働きたい」といった希望や条件を持っています。そのため、求人票はこうした求職者のニーズに配慮した内容でなければ、興味を引くことが難しくなります。
以下に「いい人材」の応募を引き寄せる求人票作成のポイントを紹介します。
求職者イメージ(ターゲット)を想定する
求人票は、どのような人に見てもらいたいか、つまり応募してほしい求職者をターゲットとして想定して作成することが重要です。ターゲットが明確でない求人票は、内容が散漫になりやすく、特徴やアピール力に欠けてしまいます。そのような求人でも応募はあるかもしれませんが「期待とはまったく違う人が来た」といった結果になりかねません。
ターゲットとは、一定の条件でグループ化できる集団です。例えば、製造職の求人の場合、「現在は人と接する機会の多い仕事に従事しているが、自分には接客よりもコツコツと作業する仕事が向いていると感じ、キャリアチェンジを考えている人」をターゲットに設定することができます。つまり、現在の仕事や転職理由、次に求めている条件を具体的にイメージすることです。
アピールポイントを明確にする
ターゲットとする求職者が想定できたら、その求職者に何をアピールするかを考えましょう。企業のアピールには主に2種類あります。1つは業績や製品などの顧客向けの情報、もう1つは、そこで働く人向けの特長や魅力です。一般的な求人票では前者が多く見られますが、求職者にとって重要なのは後者です。
具体的な求職者への訴求ポイントは、賃金や年間休日数といった労働条件をはじめとしますが、中小・小規模企業にとっては好条件を示すのが難しい場合もあります。その場合は、転職希望者や再就職者が、過去や現在の職場での不満を、自社ではどのように解決・改善できるかを示すことが有効です。例えば、不規則な勤務時間の改善を望む求職者をターゲットとした場合、自社の時間管理やメリハリのある働き方をアピールポイントとして伝えます。
「いい人材」の応募を引き寄せるためには、ターゲットとする求職者が求めている条件を考え、自社の強みや特長とマッチする点をアピールポイントとして伝えることが大切です。
求職者目線による情報提供
求人票で「明るく元気な人を希望します」「やる気のある人歓迎」「業績好調な会社です」といったフレーズを見かけることがあります。しかし、こうした表現は企業側の一方的な情報であり、いわゆる企業目線といえます。
求職者は仕事内容や労働条件だけで応募を決めるわけではなく、今後長く働ける職場として適切かを多面的な情報から判断しようとしています。そのため、疑問や不安を解消するために知りたいことが多々あります。
具体的には、入社直後の具体的な仕事内容、時間外労働や夜勤を含めた働き方、独り立ちまでの教育制度、有給休暇の取得状況、職場の雰囲気や同僚関係、頑張りに対する評価や見返りなどが挙げられます。求職者の不安や疑問に応える情報を提供することで、「いい人材」の応募を引き寄せる求人票が完成します。
具体的な説明
求人票でよく見かけるフレーズに「未経験でも丁寧に指導します」「アットホームで働きやすい職場です」といったものがあります。どれもサラッと読めば印象は悪くありませんが、こうしたフレーズは他社の求人票でもそのまま使える汎用性が高く、求職者によっては解釈やイメージが異なるため、入社後に「思っていたのと違う」というミスマッチ、さらには離職につながる可能性もあります。
求職者は、求人票の説明から頭の中で職場のイメージを膨らませようとします。例えば、仕事内容の説明から入社後に働く自分の姿を思い浮かべ、そのイメージに納得できると「この仕事をやってみよう」と感じますが、「〇〇業務全般」といった説明では、特に未経験者にとって具体的にイメージしにくいでしょう。
求人票の説明は具体的であることが基本であり、そのためには実績や具体例、エピソードを盛り込むと効果的です。例えば、時間外労働が月平均20時間の場合、「時間外労働は月末と月初めで15時間程度あり、月中はほぼ定時で退社できます」といった説明があると、求職者は働き方をリアルにイメージできます。「いい人材」の応募につなげるためには、求職者が求人票の説明を自分に置き換えてイメージできる具体的な情報を提供することがポイントです。
ハローワークで「いい人材が採れない」のであれば、まずは自社の求人票やハローワークの活用を見直してみてください。求職者のニーズを踏まえ、具体的で魅力的な情報を提供すれば、ハローワークを通じて費用をかけずに企業に合った人材を惹きつけられるようになります。ハローワークの求人票を単なる情報発信ツールではなく、自社の強みや魅力を伝える「自社の鏡」として活用することが、「いい人材」を確保する鍵となるでしょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
五十川 将史(ウエルズ社会保険労務士事務所 代表)
1977年、岐阜県生まれ。明治大学卒。大手食品スーパーの店長や民間企業での人事担当者、ハローワーク勤務を経て、独立。ハローワークを活用した採用支援を専門としている。商工会議所、労働局、社会保険労務士会などでの講演実績も多数あり、これまでの受講者は1万人を超える。著書に『中小企業のためのハローワーク採用完全マニュアル』(日本実業出版社)、『ハローワーク採用の絶対法則』(誠文堂新光社)などがある。
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