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【経理の電子化】どうやって交渉する?取引先に請求書や領収書の電子化をお願いする方法

2024.08.01

著者:弥報編集部

監修者:猪熊 規博

中小企業には、紙と電子の証憑が混在している例が多く見受けられます。「自社では電子化を進めたいが、取引先が紙のままでのやり取りを希望している」「取引先に交渉するのはわずらわしい」「どのように交渉すればよいか見当もつかない」といった経営者も多いのではないでしょうか。

そのような方のために、電子化の交渉に関する手順や方法を、猪熊税務会計事務所 所長で税理士の猪熊規博さんに伺いました。すぐに取り組めるよう、具体的な交渉に使える文面例も記載します。経理業務の効率化やコスト削減、業務フローの見直しなどにお役立てください。


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経理を電子化するメリットと課題

そもそも請求書や領収書などの証憑を、電子化することのメリットは何でしょうか?

大きく分けて3つのメリットがあります。一般的によく知られているのは業務の効率化コストの削減です。さらに一歩踏み込むと、業務フローの見直しや再構築のきっかけにもなるでしょう。

請求書や領収書などを郵送でやり取りする場合、発行側には作成したそれらの証憑を上長や担当者が確認し、封筒に入れて発送、さらに控えを保管するといった業務をしなければなりません。電子化した場合は、封入〜保管までの業務を省くことができます。これが業務の効率化です。同時にこれらの業務にかかる人件費や郵送代、保管場所の賃料などのコストを削減できます。

〈経理を電子化することのメリット〉

特に2024年10月から郵便料金が大幅に上がるので、コストの上昇を抑えたい企業にとっては大きな効果があるでしょう。

受領側も同様に、郵便物の振り分けや保管にかかる業務とコストを減らせます。

さらに、電子化をきっかけに業務フローの再構築に取り組む企業もあります。紙ベースの場合、承認者が在席していないために処理が滞ってしまうことが頻繁にあるのではないでしょうか。メールやシステムで電子化すれば、出張中やテレワーク中でもスムーズに処理できるでしょう。このような取り組みによって、支払業務の効率化月次決算の早期化に成功した例もあります。

2024年に電子帳簿保存方法による電子取引のデータ保存が完全義務化されました。中小企業における経理の電子化にとって、どのような影響があるでしょうか?

部分的な対応に終始している中小企業が多い印象です。主な連絡手段を電話とFAXからメールと表計算ソフトに変えるだけだったり、会計ソフトとの連携には至っていなかったり、といったところが一般的なのではないでしょうか。

一方、大企業は義務化された部分にとどまらず、さらに広範囲にわたって経理業務を電子化している傾向にあります。補助金や助成金などをうまく活用して、ERPやRPAなどの業務システムを導入する企業も散見されます。電子インボイスを視野に入れているところもあるでしょう。

このような大企業の動きは、中小企業にとって無関係ではありません。今後、請求書を紙でやり取りできなくなったり電子インボイスを導入している企業のみと取引したりする大企業が出てきてもおかしくないからです。中小企業も取引先の電子化に関する情報は、キャッチアップしていく必要があります。

中小企業で経理の電子化が進まない理由は「誤解と思い込み」

なぜ中小企業では経理の電子化が進みにくいのでしょうか?

原因は「心理的なハードル」と「技術的なハードル」の2つに大別できます。

心理的なハードルには、例えば以下のようなものがあげられます。

  • そもそも電子化にメリットを感じられない
  • 情報漏えいが心配
  • 多額なコストが発生しそうなイメージがある
  • 自社の業態や業界は特殊なので、電子化には適さないと考えている
  • 単純に面倒くさい

これらはたいてい、誤解や思い込みによるものです。正しい理解が進んだり、時代の流れで周囲に電子化する企業が増えたりすると、ハードルは下がっていきます。

例えば、福祉業界などはもともと紙ベースでの記録・保存が必要とされ、スタッフも高齢の方が多いという特徴があります。そのため「うちには無理」と思いがちです。対策として、経理に関係ない部分からでもよいので、例えばチャットツールなどの簡単なシステムから導入していく方法があげられます。心理的なハードルが下がり、結果として経理の電子化にもつながるのではないでしょうか。

技術的なハードルの例は以下のとおりです。

  • 電子化に対応可能な人材が自社にいない
  • どのツールを使ったらよいかわからない
  • 既存のシステムから変えられない
  • 社内外から抵抗がある

今まで紙ベースでの業務効率化に努力してきたからこそ、電子化という抜本的な転換に抵抗があるのはうなずけます。

しかし、これらの技術的なハードルも社長や決裁者が電子化を決断すれば、難しいことではありません。結局のところ、心理的なハードルが大きいのです。

取引先に経理の電子化を交渉する際の具体的な手順

取引先に請求者や領収書の電子化を交渉する際の、大まかな流れを教えてください。

次のような流れで交渉するとスムーズに運ぶでしょう。

STEP0:話題にあげる
STEP1:ヒアリング
STEP2:できるところからスタートしてもらう
STEP3:具体的な業務フローの構築

まずは打ち合わせや商談などのついでに、電子化を話題にしてみることです。世の中の流れは電子化に傾いていますから、多くの企業で「やりましょう」という話になるはずです。

とはいえ具体的に進めようとすると、前述のハードルが取引相手の頭をよぎるでしょう。そこでSTEP1のヒアリングを行います。これは最も大事なステップです。ヒアリングの内容は「決裁者や担当者、キーマンがだれなのか?」「その人たちのITリテラシーはどれくらいなのか?」「現在の業務フローにおける困りごとや電子化の状況は?」などを聞いておくと、最初の一手を打ちやすくなります。

次のSTEP2では、先ほどの福祉業界の例のように、コミュニケーションツールなどの取り組みやすいものから試してもらいましょう。電子化はそう難しいものではないということがわかってもらえるはずです。

STEP3は、いよいよ具体的な交渉です。後でトラブルにならないよう、使用するシステムや証憑をやり取りする方法、実施のスケジュールなどを打ち合わせてください。

取引相手の心理的ハードルを取り除くために、工夫できることはあるでしょうか?

問い合わせ窓口を設置することです。困ったときに対応する担当者の連絡先を伝えておくと、取引相手は安心します。交渉を成功させるにあたって重要なので、STEP3でしっかり相手に伝えておきましょう。

メールなどで交渉する際の具体的な文例を教えてください。

まずは当社が発行側となる場合の文例を以下に示します。

◯◯[取引先名]御中

平素より大変お世話になっております。

この度、弊社では昨今の環境保全の問題や働き方改革から来るペーパーレス化の流れから、経理業務の電子化を進めることとなりました。これに伴い、請求書や各種経理書類を従来の紙ベースから電子データでのやり取りに移行させていただきたく、ご案内申し上げます。

電子化のメリット

1.業務効率の向上:請求書を電子データでお送りすることで、従来より◯[具体的な日数]日、到着が早くなります。
2.コストの削減:御社において紙での受取・開封業務が不要となります。さらに、保管スペースも不要となり、オフィスの効率化にも寄与します。
3.環境への配慮:ペーパーレス化は環境保護にもつながります。持続可能な社会の実現に向け、共に貢献していきましょう。

実施時期につきましては、◯月◯日[具体的な日付]を検討しており、ご調整いただけますと幸いです。なお、何かご不明な点やご質問がございましたら、以下、お問い合わせ窓口までお気軽にお問い合わせください。お手数をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

【お問い合わせ窓口】
◯◯株式会社 経理部 ◯◯
電話/FAX:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
メール:◯◯◯◯◯@◯◯◯◯◯ 

ポイントは取引相手のメリットを示すことです。実施時期はなるべく余裕を持って設定するといいでしょう。一方的に決めるのではなく、あくまでお願いするという姿勢です。

次に当社が受領側となる場合の例です。

◯◯御中

平素より大変お世話になっております。

この度、弊社では昨今の環境保全の問題や働き方改革から来るペーパーレス化の流れから、経理業務の電子化を進めることとなりました。これに伴い、請求書や各種経理書類を従来の紙ベースから、電子データでのやり取りに移行させていただきたく、ご案内申し上げます。

電子化のメリット

 1.処理の迅速化:請求書を電子データでお送りいただくことで、確認および支払い手続きを迅速に行うことができます。
2.コストの削減:紙の使用を減らすことで、印刷費や郵送費を削減することができます。さらに保管スペースも不要となり、オフィスの効率化にも寄与します。
3.環境への配慮:ペーパーレス化は環境保護にもつながります。持続可能な社会の実現に向け、共に貢献していきましょう。

電子化のお願い

 1.送付方法:電子メールまたは指定のWebシステム経由でご送付いただきたく存じます。具体的な送付先・送付方法は以下の通りです。
メール送付先:◯◯◯◯◯@◯◯◯◯◯[電子メールアドレス]
WebシステムURL:https://◯◯◯◯◯[WebシステムURL]

2.送付形式:請求書はPDF形式でご送付ください。ファイル名には「請求書_貴社名_年月日」を含めていただけますと助かります。

実施時期につきましては、◯月◯日[具体的な日付]を検討しており、ご調整いただけますと幸いです。なお、何かご不明な点やご質問がございましたら、以下のお問い合わせ窓口までお気軽にお問い合わせください。
お手数をおかけいたしますが、ご理解とご協力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

【お問い合わせ窓口】
◯◯株式会社 経理部 ◯◯
電話/FAX:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
メール:◯◯◯◯◯@◯◯◯◯◯ 

ポイントは取引相手のメリットを示すことはもちろん、具体的なシステムの使い方などを明示することです。

電子化に前向きでない取引相手には、どうやって交渉を進めていけばいいでしょうか?

一般的なメリットだけではなく、取引相手の状況をヒアリングしたうえで具体的なメリットを伝えることがポイントになります。

また、経理担当者のなかには取引価格を下げてでも電子化したいという人もいるかもしれませんが、これはNGなので注意しましょう。交渉はお互いにとってメリットがあってしかるべきです。

また、一方的に電子化しようとする企業もあるかもしれませんが、これもNGです。公式・非公式を問わず、取引先に何らかの意思確認をしてください。

心理的なハードルの背景には情報不足があります。正しい情報や事例を伝えることも大切です。ここで外部の協力者を得られると有利になります。例えば税理士は自分の業務を効率化できますし、システムベンダーは営業になるので、積極的に協力してくれるでしょう。

相手のメリットを提示して成功した交渉例

交渉に成功した事例を教えてください。

まず当社が発行側になる事例をお伝えします。取引先の営業担当者であるAさんは、請求書の電子化に前向きでした。自分の業務が楽になるからです。しかしAさんの上司であるBさんは、コスト面の問題から前向きではありませんでした。

AさんがBさんを説得できない理由はいくつかあります。まずは自分の業務が楽になるだけで、会社としてのメリットがないのではないかという思い込み。それとBさんに説明しやすいようなプレゼン資料を、用意する時間がないことです。

そこで担当者は、Aさんのメリットだけではなく会社として取引全体の効率化が可能であることや、自社における成功事例などを伝えました。また、請求書の電子化に関連するシステムのサービス案内やサービス担当者の紹介など、プレゼンをしやすいように資料のネタを用意したといいます。これらの対応によりAさんはBさんを説得でき、電子化の導入が決まりました。

もう1つは当社が受領側になる事例です。取引先の社長はセキュリティ意識が高く、システム導入のコスト負担にも懸念を持っていたため、なかなか電子化が進んでいませんでした。しかしヒアリングをすると、バックオフィス業務の効率化といったメリットについてはあまり知識を持っていないことがわかったのです。そこで担当者が自社における活用事例を説明すると、社長が興味を持ったようなのでシステムベンダーを紹介しました。しかしこの時点では、まだ社長は電子化に慎重な姿勢を崩していません。

交渉の努力が実ったのは2年後でした。突然、その取引先から電子化したいとの申し出があったのです。直接の理由はわかりません。実際の現場では、何らかのきっかけで社長が決断に至るということは往々にしてあります。

電子化は取引先の都合に左右されることがあるので、チャンスを逃さないことが大切です。ある取引先では、経理担当者が体調を崩して1か月ほど入院してしまい、その間は請求書を病院に持ち込んで確認をとり、処理したそうです。このように取引相手が困っているときは業務フローの見直しを提案するチャンスになります。事業承継で若い社長に交代したタイミングなども、業務効率化の一貫として話をしやすいでしょう。

弥生ユーザーなら無料で利用できる!「スマート証憑管理」のご案内

経理の電子化を進めるにあたっては、弥生のスマート証憑管理のご利用がおすすめです。スマート証憑管理は、取引先から受領、あるいは自社が発行した領収書・請求書・納品書・見積書などの証憑をクラウド上で保存・管理できるサービスです。

スマート証憑管理をご利用いただくことで、インボイス制度や電子帳簿保存法に対応でき、さらに弥生製品と連携することで、法令改正で負担が増えてしまう業務も「自動読み取り」「自動仕訳」「自動保存」など便利な機能で効率化を実現します。

また、請求書の電子化から始めたい場合は、クラウド見積・納品・請求書サービスMisocaも便利です。発行した請求書や取引先から受領した証憑は、スマート証憑管理と連携することで、電子帳簿保存法の要件を満たす形で電子保存・管理することができます。

スマート証憑管理との併用もできるため、取引先と自社でまずはMisocaの導入から始めて段階的に対応範囲を広げていくのもおすすめです。

スマート証憑管理

Misoca


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

猪熊 規博(猪熊税務会計事務所 所長、税理士)

2001年、明治大学商学部を卒業後、日本生命保険、YKK、本田技研工業で15年に渡り、国内外の会計・経理業務に従事。
2017年に税理士の資格を取得し、猪熊税務会計事務所に入所。2020年には所長に就任。
立教大学大学院で講師やNPO法人の運営も務めている。歴史探訪・史跡巡りが趣味で、各地の歴史的な場所を訪れるのが好き。
豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの多様なニーズに応え、確かなサービスを提供し続けている。

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