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生産性の低さは過剰な気遣いと忖度が原因?「心理的安全性」で結果を出すチームへ

2024.07.30

著者:弥報編集部

監修者:越川 慎司

「社員との関係性は悪くないはずなのに、なぜか仕事がうまくいかない」……そう悩む経営者は少なくありません。実はそれ、もしかすると「心理的安全性」が低いことが原因かもしれません。

成果を出し続ける組織は、心理的安全性を重視し、オープンで健全なコミュニケーションを行っています。つまり過剰な気遣いや忖度は、チームに悪影響を与える可能性があるのです。今回は『最強チームの条件を1冊にまとめてみた』などの著者である越川慎司さんに、心理的安全性の重要性を解説いただき、明日からできる具体的な心理的安全性の高め方などについてお話を伺いました。


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その仕事、余計な忖度かも?過剰な気遣いが生産性を下げる

「組織内の関係性は悪くなく、理解し合えているのに思ったように仕事の成果が出ない」と悩む経営者は少なくありません。なぜでしょうか?

大きな理由は2つ考えられます。1つは、人は「納得」しなければ行動しないということです。「理解する」というのは、言葉の意味がわかることを指しますが、「納得する」というのは、いわゆる腑に落ちる状態を意味し、理解と納得はまったくの別問題なのです。コミュニケーションの本質的なゴールは、相手の感情を動かして納得してもらい、行動を変えることにあります。前向きで自発的な行動は、理解の後に納得し、感情が変わる段階を踏んで、初めて促されるのです。

2つ目の理由として、組織の「心理的安全性」が低いことがあげられます。例えば上司の指示を理解しているけれど納得していないとき、部下はさまざまな疑問を持つはずです。しかし、心理的安全性が低い環境の場合、質問すること自体がはばかられてしまいます。結果として表面的な対応や、やらされ仕事となり、成果につながらないといった現象が起こります。

そもそも、なぜ過剰な気遣いや忖度が起こるのでしょうか?

過剰な気遣いや忖度の根本的な原因は、周囲に嫌われたり迷惑になったりするのではないかという恐怖、失敗や間違うことに対しての恐れなどです。これらは、年代問わずだれもが持つものであり、間違うことの恐怖は、年齢を重ねれば重ねるほど大きくなっていくこともわかっています。特に農耕民族の歴史を持つ私たち日本人は「村八分」という言葉があるように、自分の属する社会を重視し、そこで後ろ指を指されることを何より恐れています。つまり、リーダーの顔色を伺い、可能な限り和を乱さないことで、自身の身を守ってきたのです。

加えて、相手の気持ちや感情がわからないと、私たちは相手の顔色を伺うという行動を取ります。実際、心理的安全性の低い組織はたいていコミュニケーション不全であるといいます。

具体的には、過剰な忖度があることで、どのような事象が起きますか?

「皆仲良く、一致団結」というのは一見良さそうな組織ですが、それが表面的である場合は、イノベーションは生まれにくい傾向にあるでしょう。例えば、業績が良い状況下では問題ないですが、社会の急速な変化を受け、業績が突然伸び悩んだとしたらどうでしょうか。従来とは異なる新しい取組を行う必要がありますが、新しいビジネスアイデアなどは出ず、リーダーの指示を待つ軍隊のような集団になりかねません。

また過剰な忖度は、日々の業務効率も下げます。私たちが17万人のビジネスパーソンについて調べた結果、日本で行われる会議の6割以上は「会議のための会議」であることがわかりました。また、日々作成されるPowerPoint資料のうち、上司に対する過剰な気遣いの内容である「忖度ページ」は、資料全体の約24%にも及ぶことも発覚しました。しかし実際には、上司は資料の8割方目を通していないこともわかっています。

これらの調査結果を踏まえると、本質的な仕事にかけるべき労力を、言ってしまえば必要のない仕事に充てていることになります。成果につながらないのも納得ですよね。

「分散型自律組織」で、変容する時代でも結果を出す

心理的安全性が高まると、個人や組織にどのような効果をもたらしますか?

心理的安全性が低いと、上からの指示に従う「命令階層組織」であるケースが多いですが、心理的安全性が高くなると余計な気遣いがなくなり、徐々に「分散型自律組織」へと変化していきます。つまり、自分で考えて自分で律する「自律型人材」が育つということです。

分散型自律組織は、目まぐるしく変化する社会において、成果を出すために必要不可欠な要素です。世の中の変化が激しいなか、その変化を即座に察知できるのは現場の社員です。従来の成功体験が通用しないことも踏まえると、個々に裁量権を与えて「自分で考えて動く組織」として、時代に適応していかなければならないのです。

加えて、今はテレワークも浸透し、社員の孤立化による精神疾患も増加傾向にありますが、心理的安全性が高まれば、精神疾患などの発症リスクも下がることがわかっています。

実際に、心理的安全性を高めて組織改革を実現した企業例があれば教えてください。

実績につながらない、忖度や思い込みなどから発生していた業務をなくすことに成功し、作業効率が大幅に上がった例がありました。資料作成時間も減り、具体的なページ数では、全体の25%を削ることができたといいます。また、無駄な社内会議が14%減ったという結果もありました。いずれも良かれと思って取り組んでいた業務ですが、組織間で腹を割って話せる関係性が構築できれば「これ、本当に必要ですか?」と互いに言い合えるようになるのです。

実証実験でわかった!明日からできる、心理的安全性を高める方法

心理的安全性を高める施策などがあれば教えてください。

私たちは、日本の企業や団体815社を対象に調査し、そのうち「うまくいっているチーム」の特徴を明らかにすることに成功しました。「うまくいっているチーム」の定義は、成果を出し続けている、離職率が低いなどの要素を持ったチームとしています。オンライン会議の録画データ、さまざまなツールの履歴の他、アンケートやヒアリングで得られた膨大なデータをAIと人間により分析しました。

その結果、うまくいっているチームには行動共通点があることがわかりました。その行動共通点を39社に再現してもらい、中でも特に心理的安全性を高めるのに効果的だった方法をご紹介します。

フィードフォワード

進捗の見せる化に近い点もありますが、タスク実行中の途中で意見を伝え、軌道修正を図る方法です。例えば資料作成においては、進捗20%の状態で一度共有してもらいましょう。中間レビューを挟めば、その時点で気遣いや忖度からくるページの作成は防げますし、完成後の大幅なやり直しを防げます。実際に、フィードフォワードを導入して、資料の差し戻しが74%も減ったという結果もあります。

1 on 1

1 on 1の目的は「関係構築」と「行動支援」です。チームミーティングや会議ではなかなか実現できない1対1の対話を通して、互いの思いや考えを素直に伝えられる状態を目指しましょう。始める際は「時間を取ってくれてありがとう」という感謝から始めると相手も身構えません。相手に7割話をしてもらうのが理想なので、傾聴力が問われますね。目安としては、2週間に1回、15分程度の頻度で行うことをおすすめします。

コミュニケーションの頻度を増やす

毎朝のあいさつや廊下ですれ違う際などのコミュニケーションも、実は心理的安全性を高めるのに効果的です。上司側から感情共有を率先して行いましょう。また、これは調査でわかったことですが、部下が上司に対して「今ちょっといいですか?」という声かけが頻繁に起きる企業では、新規事業のアイデアなども生まれやすいことがわかっています。上司側は、ゆっくりと歩いてみる、など小さな工夫で話しかけやすい雰囲気を作ってみるのもよいでしょう。

明日からできる、効果的な言動や取組などの具体例を教えてください。

シンプルながらも非常に効果的な方法が2つあります。1つ目は、「口角を2cm上げる」こと。例えばオンライン会議の際に、上司が口角を上げるだけで社内会議が8%減ったという実験結果もあります。これは「怒っていない」という感情共有をすることで、周囲が余計な気遣いや忖度をする必要がないと理解し、適切な意見交換が促された結果といえるでしょう。

2つ目は「深いうなずき」です。心理的安全性が担保されているチームのリーダーは、うなずきが平均よりも3~4cm深いことが調査からわかっています。このうなずきは、社員の意見やアイデアに対し、まずは「発言してくれてありがとう」と、相手を承認する意味を含んでいます。そうすれば、たとえ意見が採用されなくても、どんどん意見が自由に出てくる雰囲気が構築されていきます。

「心理的安全性を高める」というと、大きな組織改革のようなイメージを連想されるかもしれませんが、その言葉の意味を解釈すると「空気を読む」、つまり互いに喜怒哀楽を推し量ることを指します。年次や立場を問わず互いに、いつでも話しかけたり、相談したりできる空気が作れれば、自ずと心理的安全性は高まっていくのです。難しく考えず、小さな行動実験から取り組んでみましょう。

「行動承認」と「存在承認」はモチベーションの源泉

その他、心理的安全性を高めるために、経営者が知っておくべきことや、やるべきことはありますか?

心理的安全性を高めるためには、相手を承認することが必要不可欠であると意識してください。だれしもが「認められたい」という欲求を持っていますし、その欲求を満たしてあげることは、やる気の向上、モチベーションアップにつながります。

正しく承認するためにも、2種類の承認があることを知っていただきたいです。1つ目は「行動承認」。社員の具体的な行動に対して、褒めたり、感謝を伝えたりすることです。感謝を述べる際には「先日の案件、サポートしてくれてありがとう、助かったよ」などというように、明確なポイントに言及して伝えてください。間接承認といって、例えば「鈴木さんが、あなたの協力に感謝していたよ」と、第3者からの評価を伝えるのも大変有効です。2つ目は名前を読んであいさつするなどの「存在承認」です。日々の些細な声掛けも、名前を呼ぶことで効果が高まります。

また、いざ部下を承認したり、コミュニケーションを取ったりしようと思い立っても、実際は何をどうやって話せばいいのかわからない、と考える上司は少なくありません。そんなときにぜひ試していただきたいのは、部下と話す前に「今はどのプロジェクトを担当しているのか」「周囲はどんな評価をしていたか」などと、2分間相手のことを考えることです。そうすれば興味も湧き、自ずと話す内容も明確になりますよね。さらに相手に興味を持つためにも、会話の最中にメモを取るのもよいですね。「それ、良いアイデアだからちょっとメモさせてね」と伝えれば、相手も悪い気はしないでしょう。

社員が萎縮しない、正しい叱り方は「承認サンドイッチ」

「心理的安全性を意識しすぎてしまい、社員を叱れない」という経営者も少なくありません。どのように対応すべきでしょうか?

否定から入ってしまうと、相手は萎縮してしまい受け入れる姿勢になりにくいことがわかっています。頭ごなしに叱ることは避けましょう。だからといって、見過ごすわけにはいきません。そこでおすすめなのが「承認サンドイッチ」という方法です。指摘したい箇所を、相手を承認する言葉で挟んでから伝えてみましょう。例えば、遅刻してしまった相手に対して、

「この間のプレゼン、わかりやすくてとても良かったよ」(承認)

「でも、遅刻してしまってはダメだよね。もう少し早く来てくれればもっと良かったと思う」(指摘)

「次からは気を付けられるね、いつも頑張ってくれてありがとう」(承認)

という調子です。似たような方法として、「もっとグッドポイント」も効果的です。「こうすれば、もっと良かったよね」と前向きなフィードバックとして相手に伝えましょう。

厳しく叱らないと、社員に軽んじられるのではないでしょうか?

まず、その考え方を変えてみましょう。部下は上司を丁重に扱わなければならない、という決まりはありません。むしろ、上司は自身のダメなところを隠さず部下に共有し、だからこそ互いに補完し合える関係性を築く方が結果として組織力は上がります。メンバーの強みや弱みを知り、その力を掛け合わせてどのように最大化していくかが、リーダーの役割です。

「俺、実は人前で話すの苦手なんだよな」などと、些細なことでも人間味のある弱みを出せれば、部下も同じように本音を打ち明けてくれる可能性も高くなります。これを「返報性の法則」といいます。上司だから偉くなければいけない、舐められてはいけないといった時代は終わりました。変化が激しく、従来の成功体験が通じないからこそ、心理的安全性を高めて、フラットな関係性で突破口を見出すチームが強いのです。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

越川 慎司(株式会社クロスリバー 代表取締役社長)

国内通信会社などを経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者を務める。2017年に株式会社クロスリバーを設立。創業当初から全メンバーが週休3日、複業、7時間睡眠を実践。約700社の中小企業に対して年間400件以上のオンライン講座を提供。著書『トップ5%リーダーの習慣』など30冊。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」などメディア出演多数。

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