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若手からキャリア層まで効果あり!離職を防ぐ、中小企業の「定着率アップ術」とは

2024.07.23

著者:弥報編集部

監修者:東宮 美樹

少子化による売手市場の加速で、新卒・中途共に採用難が叫ばれております。しかし、中小企業において採用と同等に重要なのが「社員の定着」です。東京商工リサーチの発表※によると、2023年度の全国倒産件数は前年度比32%増の9,053件で、その中には「求人難」「従業員退職」「後継者難」などの人材不足関連が理由となった倒産も示されており、この状況は今後も続くと予測されます。こうした厳しい現実を前に、採用強化だけでなく、年代問わず、全社員の定着を図り活躍を促すことが中小企業の飛躍のカギとなります。

今回は、中小企業が社員の定着を成功させる秘訣を、株式会社ジェイックの東宮美樹さんが解説します。企業全体での離職防止策の他、「新入社員の早期離職」や「若手~優秀層の離職」などの離職要因ごとにも対策を伺いましたので、ぜひご覧ください。

※出典:全国企業倒産状況|株式会社東京商工リサーチ


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会社全体の離職防止には「衛生要因の改善」が重要

社員の社歴や年代を問わず、企業全体で離職率が高い場合の対策として有効なのは「衛生要因」の改善です。衛生要因とは、標準的な水準まで満たさないと大きな不満を生み出す要素を指し、具体的には給与や福利厚生、労働条件、心理的な安全性(ハラスメント防止)などです。衛生要因の不足が大きくなると、仕事のモチベーションは大きく低下し、離職などが生じやすくなります。この対策の重要性は経営者の皆さまも既にご存じかと思いますが、少子化、転職の一般化で重要性はますます高まっており、各企業が改善に乗り出しています。

施策には、待遇の改善、残業の管理と削減、サービス残業や休日出勤の撤廃、有給休暇の取得推奨、福利厚生の強化、ハラスメント防止などがあります。中小企業がこれらをすべて改善することは、難しい部分もあるかもしれませんが、衛生要因の不満を放置しておくと、それ以外の施策を打っても効果性が低くなります。衛生要因の不満・不備を調べ、小さな改善を積み重ねましょう。

大きなコストをかけずに実施できる施策もいくつかご紹介します。まずは改善すべき衛生要因の洗い出しです。社員の声を聴く機会を定期的に設け、業務上の不満や改善点を早期に把握します。週次や月次で短時間の1 on 1などを実施し、社員の声から自社が抱える不満要因を洗い出してください。こういった定期的なコミュニケーションの機会を設けることは、社員側にとっても自分の意見が尊重されていると感じられ、信頼関係の向上にもつながります。

不満要因がわかったら、まずは衛生要因の中でも特に「欠如すると大きく不満が発生する要因」の改善に優先的に着手しましょう。具体的には、同業界・同職種と比較して低い給与の改善、サービス残業や休日出勤の排除、時間外労働の管理や適切な分量への削減、有給休暇を取得しにくいなどの労働環境の改善、またハラスメントなどの劣悪な人間関係の改善などです。年間休日数や有休取得実績、時間外労働時間の改善は、採用エージェントからも支援条件として企業に提示されることがあります。

企業が抱える課題によって講ずる対策はさまざまですが、柔軟な働き方の導入は有効な施策です。特にハイブリッド勤務やフレックスタイム制度の導入は、多くの社員にとって魅力的です。社員の定着=長く働き続けてもらうという観点で考えると、今後は男女関係なく、ライフイベントとして育児や介護などを行う社員は増え続けると想定されます。その場合、社員が仕事とプライベートのバランスを取りやすく、働きやすい環境を提供することは非常に重要です。社員のライフイベントやリフレッシュと絡めて有給消化を促進するなども有効でしょう。

また、コストとの兼ね合いもありますが、社内マッサージルームの設置などの職場環境の改善、昼食の支援、社内で開催される飲み会の全額負担といった福利厚生の充実化も、中小企業が取り入れて効果があった施策事例です。記載した施策はあくまで一例ですが、ささいな改善でも、不満・不備を起点にした経営者の改善行動を示すことは社員の定着率向上にも寄与します。まずは社員の声を聴き、課題に対して柔軟に衛生要因の改善を試みてください。

「衛生要因」と同様に重要な「動機付け要因」と「エンゲージメント」

給与や福利厚生、労働環境など、衛生要因を標準ラインまで引き上げても「不満がなくなる」だけで、モチベーションが高くなるわけではありません。衛生要因の改善と並行して、社員の意欲を高めるための「動機付け要因」の強化に取り組んでいきましょう。動機付け要因は、やりがいや成長、仕事の意義といったものであり、増えれば増えるほど意欲が高まります。具体的な施策には、仕事の意義・目的の浸透、成長機会の提供、仕事のやりがいが感じられる仕組みの構築などが該当します。

今、大手企業の組織開発で注目されているのが「エンゲージメント」という概念です。エンゲージメントは組織や仕事に対する愛着や結びつきの強さを示すもので、従来のモチベーションという考え方に代わって注目されています。「エンゲージメントが高い」とは、企業の掲げるミッションやビジョンに共感し、仕事のやりがいを感じられている、つまり動機付け要因を強化した状態です。エンゲージメントが高くなると、「自分がどう顧客や事業に貢献できるか」を一人ひとりの社員が自ら考え動くようになります。

手軽に始められ、エンゲージメントを高めるための取り組みとして有効なのは、「社員から見た自社・事業」のイメージ強化への取り組みです。具体的には、毎朝の朝礼で社長自らが事業のミッションやビジョンを社員に語る、得られた顧客の声を共有し、仕事の意義を浸透させる取り組みなどです。また、社員が日々の感謝を紙やデジタルのカードに記して送り合う、「サンクスカード(ありがとうカード)」の制度も有効です。外から見た仕事の意義、顧客や社員からの感謝を日々得られる状態は高いエンゲージメントを生み、離職防止にもつながります。

新入社員の定着は「ギャップの解消」と「受け入れ直後の対応」がカギ

最近では「退職代行サービス」を活用した新入社員の早期離職が話題となり、「そんな気軽に退職できるの?」と驚かれた方もいるかもしれません。厚生労働省によると新規大学卒就職者の3年以内の離職率は32.3%ですが、事業所規模別にみると5~29人の企業で49.6%、30~99人の企業で40.6%と、中小企業での離職率は平均を大きく上回っており、特に対策が必要です。新入社員の早期離職は、採用にかけたコストや工数などの面からも企業のダメージは大きく、新入社員側もその後の就職活動でデメリットになり、双方にとって望ましいものではありません。

(参考)
新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)|厚生労働省

早期離職の要因は、一言でいえば、「こんなはずじゃなかった」「思っていたのと違う」という入社前のイメージと入社後の現実のギャップです。入社前後のギャップには、業務内容、人間関係、社風、待遇、働き方など、さまざまな要素が含まれます。働いた経験が少ない新人や若手の場合、ある程度のギャップは必ず生じるものですが、大きなギャップはモチベーションの低下や早期離職の原因となります。新卒社員の早期離職を防ぐためには、採用や受け入れのプロセス、初期研修を通じてギャップを減らす、ギャップに対する心構えを持ってもらうことが重要です。

また、採用プロセスでギャップを減らすためには、「現実的な仕事情報」を事前に開示して入社後のミスマッチやギャップを防ぐことが効果的です。採用活動では、自社の魅力や仕事のおもしろさを強調する一方で、大変な側面や社内の未整備な部分を隠す傾向があります。しかし都合の悪いことを伝えないと、入社後に「こんなはずじゃなかった!」という思いが生じ、意欲低下や早期離職につながります。

具体的な施策には、以下のようなものがあります。

  • 職場見学や、社員との座談会(やりがいだけでなく、大変なことも伝える)
  • 未整備の仕組みや体制に関する情報提供

ネガティブな情報を伝える際は、志望度が上がってから、また内定承諾の前後などで行っていくとよいでしょう。中小企業にとっては大企業に対して遅れがちな制度や、働き方に関するネガティブな情報提供は避けたい気持ちがあるかもしれません。そういった場合は、「業務を通じて得られるスキル」や「中小企業ならではの活躍の仕方、スピードの速さ」などのプラス情報とセットで伝えることも重要です。自社の魅力付けと、事実情報開示のバランスが伴った情報提供を心がけましょう。

受け入れ時は、入社後に生じる「新入社員の5つの壁」を乗り越えていくプログラムを検討・実行していきます。

5つの壁は、以下の通りです。

  • 準備の壁:受け入れ準備が不十分で、適切な育成計画がない
  • 人間関係の壁:新人の配属が周知されていない、新人を育てる気持ちがない
  • 期待値の壁:新人の入社意図や価値観と、企業の価値観・業務内容が一致していない
  • 学びの壁:企業文化や価値観を学ぶ仕組みがない
  • アウトプットの壁:成果を上げる仕組みやフィードバック体制がない

これらの壁を受け入れ後の「オンボーディング」で乗り越えていきます。オンボーディングとは、新人が会社や部署に馴染み、早期戦力化を支援するプロセスです。新人の受け入れに慣れていない企業ほど、戦力化、業務を覚えてもらうことに意識がいきがちですが、実は手前の「組織に馴染む」プロセスが非常に大切です。組織に馴染み、人間関係や居場所ができ、暗黙の社内ルールや価値観などを把握していかないと、業務スキルを覚えるだけでは新人は能力を発揮できません。

また、オンボーディングにおいて重要なのは目標設定です。入社1年後をイメージして「どういう人材になってほしいか?」「どのような目標を達成してほしいか」「どんな状態になっていてほしいか?」などの期待値を目標として設定しましょう。期待値は定量的な目標だけでなく、定性的な言葉、新人に共有できるような言葉でも表現しておきましょう。

必要なハードやソフト、アカウントの事前準備も新入社員にとって、企業の第一印象につながります。新人は些細なことにも非常にナーバスな状態です。受け入れ準備がされていないと企業への不信感が生じたり、歓迎されていないように感じたりします。既存社員に対しての事前アナウンスも大切です。どのような人が入社してくるのか、どこが評価のポイントだったかなどを共有して、受け入れのための心構えや親近感を醸成しておきます。

他にも「ブラザーシスター制度」の導入も有効的です。ブラザーシスター制度とは、社歴や年齢が新入社員に近い社員を、気軽な相談役として設定する制度のことです。新入社員は業務上の質問だけでなく、些細な組織内のルールや人間関係での疑問・ストレスなどが多々生じます。OJT指導者や配属先の上司も相談先になりますが、OJT指導者は新入社員にとって一種の上司にあたる存在であり、なかなか気軽な関係にはなりません。したがって、新人にOJT指導者以外の気軽に質問や相談ができる相手を設けることが、組織に馴染ませるうえで有効となります。また、ブラザーシスターやメンターを配置することでOJT指導者の負荷を減らすこともできますし、新入社員とOJT指導者の相性などによる関係性リスクを担保できるというメリットもあります。

若手や優秀層の離職防止には「キャリア安全性」が効果的

入社後、手塩にかけて育成した若手層や優秀社員から突然、「退職します」と言われた経験をお持ちの経営者の方々も多いのではないでしょうか。当社にも、「人間関係は良好だったのになぜ……?」など、悩みの声がよく寄せられます。採用難の現在、今後の活躍を期待する若手社員の離職は大きなダメージです。このような事態を防ぐためには、組織における「キャリア安全性」の向上がポイントとなります。

キャリア安全性とは、「自分のキャリアについて、長期間安全な状態でいられると認識できるかどうか」を指します。5年後や10年後のキャリアが安定し、成長を実感できるか。さらには市場価値が高まり、転職などの選択肢も持てると感じられているかという概念です。20〜30代前半の若手人材は、会社は自分のキャリアを守ってくれないという現実を知っています。だからこそ常に転職も視野に入れて、「市場に通じる人材である」「選択肢を持てる状態である」ことを意識しています。逆に言えば「この会社にいてもキャリア形成にならない」「成長できなさそう」「待遇の向上もしなさそう」と考えると、容易に転職を選択します。

若手人材のキャリアに対する危機感を払しょくし、定着に結びつけるためには、「早めの抜擢」や「成長実感が得られる機会」「自分のキャリア展望を会社が理解し支援してくれている感覚」を提供することが有効です。従来のように、雑用を中心とした長い下積み期間を設けたり、若さを理由に大きな仕事を任せてもらえなかったりすると、優秀層ほど成長機会を求めて離職していってしまうということになりかねません。意欲のある若手には「少し早いかな?」と感じるタイミングでも積極的にチャレンジの機会を提供しましょう。

また最近では中小企業でも若手人材の成長機会を後押しするために、他企業への「越境留学」(他社で働ける機会)を実施する事例もあります。外部との交流は成長の機会になるだけでなく、外部の仕事や働き方を知り、自分の現状や自社に対する客観的な視点を獲得することにつながります。

さらに、成長を促進、また成長実感を獲得するうえでは、定期的な上司からのフィードバックも重要になります。キャリア形成と客観的な視点の獲得には外部とのキャリア面談機会を設けるのも有効です。上司からのフィードバックがずれていたり、業務レビューのみだったりすると、それが転職を決意させる最後の決め手になることもあります。上司や社内の人間だけでなく、社外のフラットな視座を持った専門家に、本音でキャリアや人間関係の相談をできる機会を作ることが重要です。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

東宮 美樹(株式会社ジェイック 執行役員)

ハウス食品株式会社で営業職を経験、人材紹介会社で求職者(3000人)のカウンセラーを経験した後、2006年ジェイックに入社し、「研修講師」としてのキャリアをスタート。2014年には前例のない快挙となる、講師として「リピート率100%」を3年連続で達成。組織開発相談など支援実績多数。定着・活躍推進、キャリア自律、イクボス、女性活躍推進などを中心に活躍中。グループ会社、株式会社Kakedasの取締役を兼任。

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