- 人材(採用・育成・定着)
人材採用にもプラスの効果!中小企業での退職金、確定拠出年金導入のすすめ
2022.12.20
著者:弥報編集部
監修者:大久保 明信
少子高齢化の影響により、日本企業の労働人口は年々減少しています。そんな中で人材採用を有利に進めるための施策として、退職金や確定拠出年金の導入を検討する企業が増えています。
しかし、リソースが潤沢とはいえない中小企業においては、退職金や確定拠出年金制度の導入について慎重に判断しなくてはいけません。そこで今回は、ハートランド税理士法人の大久保 明信さんに、退職金や確定拠出年金の概要やメリット・デメリットなどについてお話を伺いました。
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目次
採用率と定着率アップが期待できる!退職金制度の導入で採用が有利になる理由
企業がコストを掛けてまで、退職金制度を導入する理由を教えてください。
退職金制度を導入する主な理由は、離職率の低下や採用が有利になるメリットなどが得られるためです。
特に近年、老後の2,000万円問題が話題となって以降、求職者は退職金制度を気にする傾向が強くなっています。中小企業では退職金制度を導入していない会社が多いため、導入することで福利厚生として強くアピールすることが可能です。人材確保という意味でも大変役立ち、採用活動が有利になります。
従業員にとっても基本的に勤続年数が長ければ長いほどメリットが大きい制度ですから、離職率を抑制する効果が期待できます。
また、退職金は給与の一部後払いが基本になるため、資金繰り改善にも効果が期待できます。これは大きな特徴といえるでしょう。さらに給与の一部を後払いにすることで、社会保険料の節減にもつながります。退職金として支払うことにより税金が軽減されるため、従業員にとってもメリットは大きいです。
ただし現実的には、給与と別に退職金の運営も必要となりますから、企業側の負担は大きくなります。そのため漁船の漁師など若い方しか従事できない、かつ短期の職場においては、退職金を導入しないところも多いようです。
(参考)
企業年金ノート|りそな年金研究所
退職金を導入する会社側のデメリットを教えてください。
退職金制度を導入するデメリットとしては、原資を準備する必要があることです。事業運営には波があるため、退職者が出た場合、資金繰りに窮する事例もあります。特に中小企業の経営者にとって、退職金制度の導入にはリスクもあると理解しておく必要があるでしょう。
また、一度退職金制度を導入してしまうと、簡単には廃止できません。中小企業退職金共済制度(中退共制度)や特定業種退職金共済(特退共)制度など一部の退職金制度は、従業員がトラブルを起こし、懲戒解雇した場合でも支払い義務が発生します。その金額を減額したり没収したりしても、会社には戻ってこないため注意が必要です。
(参考)
退職金には2種類ある!どちらにするべき?
退職金の年金制度は2種類あると聞きました。それぞれの特徴を教えてください。
退職金の年金制度には「確定給付企業年金」と「確定拠出年⾦」の2種類があります。確定給付企業年金と確定拠出年⾦に共通しているのは、企業が給与から天引きしてかける点です。一方、両者の主な違いとしては、以下のようなものが挙げられます。
確定給付企業年金
- 運用:基金が管理運用
- 将来の受取額:金額が確約
- 受取タイミング:退職時に一時金の受け取りが可能
確定拠出年⾦(企業型)
- 運用:従業員本人が運用先を選ぶ(運用商品を変更できる)
- 将来の受取額:運用によって増減する
- 受取タイミング:原則60歳以降
したがって退職金制度を導入する際には、どのような制度なのか従業員にきちんと説明し、納得してもらったうえで実施しましょう。
確定給付型の退職金と確定拠出年金、それぞれのメリット・デメリットを、従業員側と企業側両方の立場で教えてください。
【確定給付企業年金のメリット・デメリット】
従業員側のメリットは、給付額が確定しているので老後が安心な点や、資産運用を行わないため投資知識が必要ない点です。また、退職したときに一時金として受け取ることも可能で、かつ掛金部分が所得税や住民税の節税、社会保険料の節減につながります。
従業員側のデメリットは、積立不足により会社の補填が発生した場合、業績不振で給与を下げられる可能性がある点です。また、運用状況がわかりづらい点を、従業員が不安に感じるケースもあるでしょう。
一方、企業側のメリットは、採用面で有利になる点や社会保険料の節減につながる点です。また、懲戒解雇の退職者には減額支給などができる点や、会社の退職金制度に合わせて柔軟に設計できる点もメリットといえるでしょう。
企業側のデメリットは、給付時に積立不足が発生した場合、補填の必要がある点です。運営コストが重い点も挙げられます。
【確定拠出年金(企業型)のメリット・デメリット】
従業員側のメリットは、自分で運用できることです。例えばハイリスクハイリターン、ローリスクローリターンなど、自分の好きなように設計できます。基本勤続3年以上であれば懲戒解雇でも減額されない点や、掛金部分が所得税や住民税の節税、社会保険料の節減につながる点も嬉しいところでしょう。
従業員側のデメリットは運用で損失を出す恐れがあることや、受取額が見込みしかわからないため、将来設計に不安が残る点です。また、受け取りは原則60歳以降なので、途中で引き出すのは難しいでしょう。
一方、企業側のメリットは、採用で有利に働く点や社会保険料の節減につながる点です。積立不足が発生しても補填する必要がなく、運営コストも確定給付型に比べて低いケースが多いでしょう。
企業側のデメリットは、継続的な投資教育を実施する責務が発生することや、勤続3年以上の場合、自己都合や懲戒解雇でも減額できないことです。
退職金制度を導入するために検討が必要な内容
退職金制度を実施する際、事前に検討しておくべきことを教えてください。
人材採用に困っているかどうかをしっかりと検討することがポイントです。業界によって「退職金制度があって当たり前」「短期前提なので、あってもまったく訴求にならない」など状況が異なるため、採用につながるかどうか同業他社を調査してから判断しましょう。
そのうえで導入した場合の制度設計を行い、メリット・デメリットを把握します。会社や従業員にいくら影響が出るのか、具体的な数字を出すことが重要です。
退職金や確定拠出年金を導入するために必要な金額目安を教えていただけますか?
確定拠出年金、給付年金の導入コストは、事業所数や従業員数などによって大きく異なります。主な費用は「初期導入費用」と「維持管理費用」の2つです。初期導入費用は10万〜数100万。維持管理費用も年間数万〜数100万程度が相場といえるでしょう。
これらの費用と、以下の金額を比較して判断しなくてはいけません。
- 会社の社会保険料節減額
- 従業員の所得税、住民税の節税額
- 従業員の社会保険料節減額(厚生年金の受取額減も加味)
- 採用率の増加見込み
また、会社の社会保険料節減額との比較も必要です。おおむね従業員が30人を超えると、費用対効果はプラスになるケースが多いと思います。
従業員に対して退職金制度を導入する際、社内規定に盛り込むべき項目を教えてください。
退職金制度を導入する場合は、社内規定に以下の項目を追加する必要があります。
こちらの内容はあくまでも事例ですから、自社や競合他社の状況を踏まえ、適正な内容に調整する必要があります。
退職金の原資を確保する一般的な方法を教えてください。
退職金の原資を確保する主な方法としては、定期預金で毎月退職金積立をコツコツ積み立てる方法以外に、生命保険や中小企業退職金共済制度、特定業種退職金共済制度などが挙げられます。
生命保険の場合、保険料が一部損金になる商品もあるようです。保障を取りながら貯めていける点がメリットといえるでしょう。
中小企業退職金共済制度の対象は、中小企業のみです。掛金の一部を国が助成してくれるため、独力で退職制度を設けるのが難しい場合に利用しましょう。ただし、懲戒解雇の社員にも退職金が強制的に支払われるため注意が必要です。
特定業種退職金共済も、内容は中小企業退職金共済制度とほぼ同じです。中小企業退職金共済制度のほうが、掛金は同じでも受取額が増えます。こちらも中小企業退職金共済制度と同様、懲戒解雇の社員にも退職金が強制的に支払われるので注意しておきましょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
大久保 明信(ハートランド税理士法人・代表社員)
1986年生まれ高知県出身。大阪市内の税理士事務所で経験を積み、2015年に28歳(当時関西最年少)で独立。資金調達の支援金額は平均月間2億円超え、特に創業融資のサポートは開業以来「審査通過率100%」を継続中。社労士法人併設の総合型税理士法人として、2022年には顧問数800件突破。個人事業主から年商100億円企業まで、幅広い顧客のトータルサポートに尽力中。
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