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お客さまごとの好みや希望にすべて応えるのは無理?老舗和食店の女将が考える解決策
2022.08.30
著者:弥報編集部
監修者:小保下 グミ
生き方も価値観も多様となった現代は、不特定多数に向けた物やサービスより、個人個人に合わせた物やサービスが喜ばれる時代です。とはいえ、すべてのお客さまの要望に人力で応えるには限界があります。
では一体、中小規模のお店が個別最適な物やサービスを提供するにはどのような方法が考えられるのでしょうか。詳しくお伝えします。
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目次
生き方も価値観も多様な時代には、個々に合わせた物やサービスが必要
ターゲットを決めずにすべての消費者を見込み客とする「マスマーケティング」の時代が終わり、昨今は「パーソナライズ」という言葉をよく聞くようになりました。
パーソナライズとは、顧客一人ひとりの趣味嗜好などに合わせて物やサービスを最適化する手法のこと。生き方や価値観が多様な現代においては、もはや画一的な物やサービスでは顧客全体をカバーすることができなくなっています。
例えば「飲食店に来店される30代女性」と一口にいっても、懐事情やメニューを選ぶ際のポイントはそれぞれまったく異なります。働く独身女性には、少々値段が高くてもおいしいお酒に上質な料理が求められるかもしれませんし、妊娠を希望する既婚女性であれば、おいしいことも大事ですが、それよりも体に良い自然派な食材や温かい料理が好まれる可能性があります。既婚で子どもが複数人いる場合は、お子さまたちが喜んで食べられるメニューがあることが優先で、それでいてお財布に優しいことも重要視されると想像できます。
もちろんこれらのニーズは一例で、普段あまり料理をしない既婚女性には家庭的な料理が好まれそうですし、他にもお子さま連れでも適度にお酒を楽しみたい女性など、ニーズは本当にさまざまです。
年齢や性別などの大雑把な属性でターゲットを分けたとしても、必ずしも共通のニーズがあるとは限らない時代です。そこで注目されているのが、個々の細かいニーズに合わせたパーソナライズなのです。
要注意!単純に要望を聞くだけでは店側の負担が増えるリスクも
とはいえ、中小規模の店舗経営者が単純にすべてのお客さまの要望に細かく応えようとすると、さまざまなコストが跳ね上がります。
例えば飲食店において、お客さまからの「こんなメニューを増やしてほしい」という要望にお店側がすべて応えたとします。そうすると、新メニューのために仕入れなければならない食材の量が膨大になってしまうのです。どのメニューも満遍なく注文が入ればいいですが、売れなければ食品ロスが発生します。また、メニュー数が増えれば仕込みなどの手間もかさみ、スタッフの労働時間も増えることでしょう。
あとこれは飲食店に限らずB to Cのどの業種にも言えることですが、夜遅くにしか来店できないお客さまに合わせて営業時間をそれまでの21時から23時に延長するとします。その2時間で一定の売上が上がらない場合、光熱費や人件費などのコストが増加するばかりで、時間帯別の売上が赤字になる可能性があります。また、営業時間の延長に合わせてスタッフの労働時間も増やさざるを得ないとなると、やはりいっそうの負担増が見込まれるでしょう。
いずれの施策も、お客さまには喜ばれることはまず間違いありません。しかし、思うように利益が出せなかったり、人件費や仕入れ費用がかさむなど負担ばかり増え、健全な経営からは遠のいてしまう可能性があります。
では、中小規模のお店がパーソナライズに対応するにはどうすればいいのでしょうか。
オーダーメイドサービスはコストに見合った価格設定を!
パーソナライズに対応するために考えられる戦略の1つは、お客さまのリクエストに合わせたオーダーメイドな物やサービスを、きちんとコストに見合った、適正な価格で提供することです。
例えば、寿司店がオーダーメイドの寿司ケーキを販売するとします。オーダーメイドですから、お客さま個人個人の好みの具材やデザインを聞いて制作します。事前予約制で、仕入れ価格と手間に応じた金額を個別に設定する、あるいはお客さまの予算に合わせて、それに見合った内容の寿司ケーキを作るとしましょう。
ここまでは一般的なオーダーサービスですが、さらにもう少し踏み込んで持病のある方向けに低糖・減塩・低タンパク食が選択できたり、動物性の食品を一切使用しないヴィーガンやイスラム教の教えによって許可されたハラルフードに対応できたりすると、今の時代には大変喜ばれるでしょう。
アレルギー対応に限定して考えたとしても、人によって卵は加熱すれば食べることが可能だったり、甲殻類は少量のエキスが含まれているだけでも反応が出てしまうなど、人それぞれです。なるべく細かい要望に応えられると良いでしょう。1歳児の子を持つ私としては、安全性が考慮され、かつ塩分・糖分控えめなコース料理を家族で楽しめるような場があれば、多少高額であってもお祝いごとの際などにぜひ利用したいと思います。
世の中には「自分の欲しい物やサービスは、ニッチすぎて叶わない」と諦めている人も多いのですが、こうした小さな声を拾い上げ適切な価格で提供することで、高単価な顧客の獲得につながるのではないでしょうか。
パーソナライズ化された情報提供で、お客さまのニーズにピッタリ合った商品を提案しよう
実は、お客さまからの要望に応えるだけがパーソナライズではありません。近ごろECサイトなどでよく見かける「この商品を購入した人は、こんな商品も見ています」の表示のように、お客さま自身がまだ気づいていないニーズを掘り起こしたり、YES・NOで答える簡単なWeb診断などを用い、今の自分にとって必要な商品は何なのかを導きだすのも1つのパーソナライズな施策といえます。
飲食業界では、株式会社トレタが提供する「予約/顧客台帳サービス」というサービスがあります。これは、Web予約時に入力された個人情報や、来店時に得た顧客情報を一括管理できるクラウドサービスです。このサービスを使うと、蓄積された顧客情報を来店時にスタッフが確認するだけで、個々のお客さまの好みに合わせたメニューやドリンクをおすすめすることができます。前回までの会話の内容やスタッフとの会話そのものの好き嫌いなども登録しておけば、初めて接客にあたるスタッフでもお客さま一人ひとりに合わせたサービスが提供しやすくなるのです。
小売店にもパーソナライズな取り組みの事例はあります。例えばスムージーとスープの専門店・GREEN SPOONのECサイトでは、簡単な質問に答えるだけで、今の自分の体にとって必要な栄養素を含む食材を200種類以上の中からチョイスして組み合わせ、自分だけのオリジナルスムージー・スープとして毎月届けてくれるサービスを展開しています。
(参考)
株式会社Greenspoon「GREEN SPOON ECサイト」
また、イスラエル発のコスメブランドSABONのECサイトでは、サイトへの来訪回数や商品購入の有無などによって、異なるおすすめ商品をトップページに表示させるシステムを導入しています。単に閲覧履歴のある商品を並べておすすめするのではなく、SABONの売りである「香り」に関連したおすすめ表示をすることで、顔を突き合わせて接客する実店舗により近いサービスを行っているのです。
(参考)
株式会社 SABON Japan(サボン ジャパン)「SABON ECサイト」
このようにITの力を借りることで、今まで人海戦術をとるしかなかった顧客サービスがより効率的かつ効果的に行えるようになりました。あらゆる業界で人手不足が叫ばれる昨今、ベテランスタッフの記憶力や勘に頼ることなく、個別のお客さまに合わせた対応ができる点は魅力的です。
オーダーメイドサービスにしろ、ITの力を借りるにしろ、多様な時代にはいかに細分化されたニーズに対応し、またそれを適切な価格設定で提供できるかが売上アップの鍵になってきます。中でもパーソナライズはその最たるもの。自社の商品やサービスではどのような取り組みができそうか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
小保下 グミ(老舗和食店の女将)
老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。
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