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デキる社長とそうでない社長を分ける「モチベーションマネジメント」の重要性

2021.03.25

「『4つのステップ』の面談で社員をスタートダッシュさせる」の記事では、「最初の1か月間に何を話せばいいのか」のうち、ステップ1「社員の理解」とステップ2「現状の把握」についてお話ししました。

今回はステップ3「全体目標の確認と個人目標の明確化」とステップ4「目標達成に向けての行動の明確化」についてです。社員のモチベーションを高めると、会社の業績にどう好影響が出るのかを解説していきます。


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期初の社長スピーチが、その後のマネジメントの成否を左右する!

面談を通じての「社員のスタートダッシュを可能にする4つのステップ」の各項目は次の通りです。

【ステップ1】社員の理解(信頼関係構築)
   ↓
【ステップ2】現状の把握(課題の発見)
   ↓
【ステップ3】全体目標の確認と個人目標の明確化
   ↓
【ステップ4】目標達成に向けての行動の明確化

今回「ステップ3」と「ステップ4」をご説明する前に、この2つに深く関連する「社長の第一声」についてお話しします。

期初の当日、社長は全社員に対して何かしらのスピーチをします。社長である皆さんは、このスピーチに最大のエネルギーを注いでください。

社員にとっては、今期を託すリーダーが発する最初の言葉になりますから、だれもが興味津々でその第一声を待ち構えています。「今期、うちの会社の売上目標はいくらくらいかな?」「何かしら新しい方針が発表されるのかな?」「今期はどの商品に注力すればいいんだろう?」「社長は自分たちに何を期待するんだろうか?」「この会社をどんなカラーの会社にしていきたいのかな?」など、社員の頭の中は期待と不安でいっぱいです。そんな社員の視線を浴びながら、社長は基本方針を伝えていきます。

このスピーチではくどくどと話す必要はなく、簡潔に会社の目標、基本的な方針、進むべき方向性を表明しましょう。社長の経営観や価値観に沿って、具体的にどんな会社にしたいかという「あなたらしさ」を出していきます。

この時間は、社長が考える会社の目標を全社員と共有するチャンスです。営業担当であれば明確な売上数字、製造担当であれば新商品の開発など「何をいつまでにやるのか」というスタートからゴールまでの全体の流れをイメージさせ、それが全社員の共通認識となるようにします。

仮に目標が具体化していなくても、「全社員が新しいことにチャレンジできるような会社を一緒に築いていきたい」「お互いに何でも言い合えるフランクな職場にしたい」「お互いに競争し合い、刺激し合い、共に成長できる環境を作りたい」など、「あなたらしい」考え方が貫かれているなら、どんな表現でも構いません。

大切なのは、社長であるあなたの本心を自分自身の言葉で伝えることです。借り物の言葉は、社員からすぐに見抜かれてしまいます。

話すポイントは、スピーチの前に必ずメモにまとめておくようにしましょう。社員が「この社長と一緒に頑張ろう」と思える下地を作れるかどうかは、スピーチの内容が大きく影響します。事前準備なしに出たとこ勝負のアドリブで話せる人など、そういません。かのスピーチ上手なスティーブ・ジョブズですら、登壇前にメモを何度も書き直して、繰り返し練習していたと言われていたくらいです。

このスピーチは、日本の新しい首相による国会での所信表明演説や、アメリカの新大統領の就任スピーチと同等の位置付けと考えてください。それほど重要であり、その後のマネジメントの成否を左右します。

せっかくのスピーチなのに、「まあ、あまりいろいろと言うこともないけど、とにかく頑張ってほしい」「今期の売上目標は、○○億円!以上」のような、社員ががっかりするようなスピーチは絶対に避けなくてはなりません。

期初の社長による第一声は、1年を通しての職場の空気を支配すると言っても過言ではありません。この社長による全社目標や大方針のスピーチが、ステップ3「全体目標の確認と個人目標の明確化」へとつながっていくのです。

個人目標は押しつけず、社員が自発的に動けるように誘導しよう

ステップ1「社員の理解」とステップ2「現状の把握」の面談を通して、多くの事実を集めることで発見できた課題があるはずです。

ステップ3「全体目標の確認と個人目標の明確化」では、その課題を解決する戦略を考え、社員ごとに役割分担を決めて目標を振り分けていきます。この素案作りは、社長が1人でじっくり時間をかけて考えましょう。

実際の面談では全社の目標を確認したうえで、個人目標を本人に提示して納得してもらいます。とはいえ、戦略やビジョンを細かく話す必要はありません。大きな方向性を自分自身の言葉で語りましょう。期初の「社長の第一声」と同じで、キレイにまとめられた言葉よりも、思いを込めた言葉のほうが社員には響きます。

例えば「会社として前年比20%アップの目標を掲げている。新商品の売上を伸ばせるように、注力する商品ラインナップを少し見直したいのだけど、問題意識の高いあなたにぜひ商品戦略のプランニングで力を貸してほしい」とか、「今年はとにかく単年度黒字化を目指したい。そのためにいくつかの新しいことにもチャレンジする。あなたは今までになかったものをゼロから生み出したいと前に言っていたよね。ぜひ一緒に新規事業の立ち上げを担当してくれないか」といった具合です。

社員との面談で全社目標の理解は十分に得られたと感じたなら、次は個人目標を具体的に数値化して伝えます。

ポイントは「社員に対して、押しつけにならないようにする」ことです。むしろ、社員たちが「この社長と一緒にやっていくと、この先、自分の社会人としての人生が面白くなりそうだ」というワクワクした気持ちを持てるよう、主体性を促す働きかけを心掛けることです。いきなり「これをこれだけやってくれ」では、社員も押しつけられ感が強まります。まずは、共感を伴った大枠の合意を目指しましょう。

この段階で、社員の「はい!頑張ります!」といった反応が見られたら、ステップ3の目的を果たしたことになります。「一緒に頑張ろう。期待しているからね」と握手でもできたなら、それがこの面談の最高のゴールになります。

さらにステップ4「目標達成に向けての行動の明確化」は、明確になった個人目標を達成するためにどうすれば良いかを考える仕上げのステップです。

その前の面談時に「目標達成するために具体的にどうすればいいか、あなたなりに考えておいてほしい」と宿題を出しておいてもいいと思います。

同時に、社長であるあなたも社員の適性や動機、価値観などを考慮し「どうすれば、やる気を出して業務に取り組んでくれるか」「そのために、どんなスキルを高めなくてはならないか」などを考え、社員の考えてきた宿題とすり合わせて具体的な行動計画に落とし込むと良いでしょう。

ここまでが最初の1か月に実施する面談の「4つのステップ」になります。社員が気持ちよくスタートダッシュを切れたら、残りの11か月でPDCAサイクルを回し、最大限の成果が出せるように側面支援に注力していきます。

社員を見守り、日常的な声掛けを忘れず、課題や悩みに直面した社員には適切なアドバイスをし、目標に対して全力投球できる環境を作る。これは社長の重要な役割です。もちろん、ここでは長期的な人材育成の観点も忘れてはなりません。

業績アップは「社員のやる気を開発できるか」にかかっている

マネジメントというと、「社員を管理すること」と狭く解釈する人がいます。社員の仕事を細かくチェックし、何かあると注意するような監視役だという考え方です。そういう人は行動管理、計画管理、時間管理など目に見えるものしか管理しない傾向があります。

真のマネジメントとはもっと広いもので、目に見えない未来を予測して目指すべき目標と望ましい状態を描き、それに向かって戦略を考え結果を出すことです。当然ながらそれを1人でやるのではなく、社員たちを束ね、それぞれの足し算ではなく掛け算になるように組織力を発揮させることが求められます。その中でも、とりわけ「やる気」のマネジメント、つまりモチベーションマネジメントが大きな比重を占めます。

仕事の成果は、この「やる気」と、「能力」と「知識」と「経験」の掛け合わせから生まれます。

「能力」には、業務に必要なテクニカルスキルと、どんな業種や職種でも共通に必要なポータブルスキルがあります。テクニカルスキルは、営業担当なら顧客と交渉する営業スキル、システムエンジニアならプログラムを作るシステム開発スキルなど、仕事に紐づいたスキルです。また、ポータブルスキルはコミュニケーション能力やロジカルシンキング(論理的な思考力)、セルフコントロール力などが挙げられます。いずれの能力も、0から100へと積み上げ型で獲得するものですが、時間がかかります。逆に、いったん獲得すると陳腐化しにくいものです。

同様に、「知識」や「経験」も一朝一夕に手に入るものではなく、同じく積み上げ型で獲得にはそれなりの時間を要します。つまり、能力も知識も経験も、短期間では変わりにくいものなのです。

翻って「やる気」はどうでしょう?能力や知識や経験が、積み上げ型なのに対して、やる気は上がったり下がったりします。それも一瞬にして変化することがあります。突然0から100になることもあれば、次の瞬間にはマイナス100にもなるものです。

もし、ほぼ同等の能力や知識や経験を備えた2人の社員がいれば、やる気を高く保っている社員のほうが必ず高い成果を上げます。同じ人間でも、やる気満々のときとやる気を失ったときでは、当然ながら成果に差が出ます。

中小企業の場合、社員に対する社長の役割として、業務マネジメントや行動マネジメント、社長自身のノウハウやスキルや知識の伝授、人脈の紹介など、どちらかと言えば社員の行動指導や能力開発の面に目が行きがちです。

しかし、ここで社員のやる気を引き出すモチベーションマネジメントも大切な役割であることを忘れてはなりません。社員の「やる気」を開発できるかどうかは、できる社長と、そうでない社長を分け、業績のいい会社になるかどうかの分かれ目にもなります。会社の業績アップを図りたければ、社員のやる気をとことん上げることに力を注ぎましょう。

以前「デキる経営者が1on1面談で確認している『キャリアデザインの3つの輪』」の記事で、正社員だけでなくアルバイトや派遣社員に対してもちゃんと名前で呼ぶことで、仕事へのモチベーションが上がるとお伝えしました。「部下の名前は、土瓶の取っ手」と言ったのは、評論家の扇谷 正造氏です。取っ手がなければ土瓶を運ぶことができないように、「たかが名前」ですが「されど名前」です。社員の名前を知らずして社員を動かすことはできません。

名前を覚える、そんな小さなことからも社員のモチベーションは変化し、その目は輝きだします。これが結果的に会社の業績にまで影響していくことを念頭に置き、あなたらしいマネジメントをしていきましょう。

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この記事の著者

田中 和彦(たなか かずひこ)

株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

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