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小さな会社だからこそ限られた時間で最大の教育効果を!「インバスケット」の視点から考える新人教育5つのポイント
2020.06.01
私は「インバスケット」という体験型教育ツールを活用した社会人教育を専門としています。インバスケットは1950年代にアメリカ空軍で使われ始めました。日本では管理職の昇格試験や教育などで使われており、近年は若年層の新人教育でも活用されています。今回はインバスケット思考を元に、小さな会社の新人教育で知っておくべき5つのポイントについて解説していきます。
目次
「インバスケット」とは自分の能力の強み・弱みを測定するツール
「インバスケット」(inbasket)は一般的には聞き慣れない言葉かもしれません。
インバスケットとは、まだ決裁がされていない書類の入った「未処理箱」を意味します。1950年代にアメリカ空軍で導入された能力測定ツールで、これを使ったトレーニングでは、例えば職場の主人公になりきり、制限時間内にお客さまからのクレームや部下からの相談など、数多くの案件を的確かつ迅速に処理していきます。このシミュレーションを通して自分に今どんな能力があるか、潜在能力があるか、また強み・弱みを測定し、今後どこを強化すればいいかなどがわかります。
リーダーには問題解決力、意思決定力、洞察力、ヒューマンスキル、優先度設定力などさまざまな能力が必要です。そこで部課長の昇進・昇格時の試験や研修に活用する企業も増えています。また、経営層向け研修、新人・若手社員向け研修、コンプライアンス研修などにも応用できます。理論や知識を詰め込むだけのインプット型とは違う、実践的なシミュレーション型の研修ツールです。
今回は、このインバスケットの考え方を元にご説明していきます。
小さな会社は限られた時間の中で最大の効果を出す教育を
インバスケットを使った研修では、限られた時間の中で最大の効果が求められます。実際に仕事をするうえでも、多くの方は最大の効果を求めようとしていると思います。しかし「限られた時間の中で」という制限を意識されている方は案外少ないものです。
ある大企業では新人教育を行う際に2~4週間という長い時間と多額のコストをかけています。しかし現場に配属された新人がすぐに活躍できるかと言えば、最初から能力を発揮できる人材はそういません。当然、現場からは「何を教育したのか」と嘆かれます。
これは中小企業であればなおさらです。新人教育にかける時間、人手、コストに限りのある中小企業では、いかに効率よく短い時間で教えるかを意識しなければなりません。
ここでのポイントは「教える」と「教えた」を混在しないことです。「教える」とは「相手に合わせて教え方を変え、相手がそれを理解した」という意味です。しかしよくあるのが、相手が新卒採用者であっても中途採用者であっても同じ教え方をしてしまい「教えた」と勘違いしてしまうケースです。
特に新卒と中途は教え方を変えなければなりません。新卒には事前教育が必要です。事前教育とは「分かっていない前提で分かっていない部分を教える」というものです。「え?こんなことも教えなければならないの?」と嘆く社長がいますが、その思いをこらえて分かっていない前提で教えてあげてください。
中途には事後教育が必要です。事後教育とは、「分かっている前提で分かっていない部分を教える」というものです。相手に実際に仕事をしてもらい、できていない部分を補完します。この方法であれば、分かっている部分を重ねて教える無駄を省けます。
「教えた」ことを「できる」ようにするには気づかせること
教えるべきことを教えて新人が理解したとします。しかし「理解した」と「できる」は違います。「理解した」からといって「できる」わけではありません。私はインバスケットを使ってこれまで2万人以上をトレーニングしてきましたが「教える」ことよりも大事にしているのが、本人に「気づかせる」ことです。次の3つの「気づく」を意識しましょう。
①できていない自分に気づかせる
例えば挨拶の仕方を教えたとします。その後、実際にやらせてみます。客観的に見るためにその様子を動画に撮るなどしてみるといいでしょう。すると「あれ?ここがちゃんとできていない」と本人に気づかせることができます。
教わる側は教えられているときは「自分はすでにできている」と思い込みがちです。そのできていると思い込んでいる自分を壊すことが大事なのです。これが気づきにつながる「必要性」を生みます。大人は子供と違って、必要性を感じないと理解しないのです。
②メリットに気づかせる
教えられて「ああ、そうすれば楽だな」とか「こうすれば早くできるのか」とメリットに気づけば、教わる側はそれを実践しようとします。これも大人の教育には必要です。メリットに思えないことは理解しても行動しようとしないからです。
③意味に気づかせる
行動や作業の意味に気づかせることも大切です。例えばヘルメットを着用しなければならないと教えるより、ヘルメットをかぶっていなかった場合の危険性やリスクを教えることで、自然とそれを避ける行動を取るようになります。作業の手順とともに、その意味も教えるようにしましょう。
このように「教える」とは「気づかせる」ことであり、教わる側は気づきを得ることで自主的に行動するようになるのです。
目的を明確に伝え、自分の仕事をしながらOJT教育を
小さな会社では新人教育の時間を確保するのも大変です。私も従業員50人ほどの会社を経営していますが、社内に専門の教育部署はありません。でも毎年5人の新卒を迎え入れ教育し、だいたい2年目には会社に貢献する結果を残すようになります。
私は自分の仕事をしながら教える、いわゆるOJT教育(On-the-Job Training)を実践しています。都合よく聞こえるかもしれませんが、教育できるのは教育の時間だけではないというのが持論です。
お客さまの会社に訪問する際に一緒に連れていったり、トラブルが起きたときに一緒に考えることは絶好の学びの場になります。ここで留意したいのは、ただ連れていくのではなく、連れていく目的を明確にすることです。何を学んでほしいのかを新人に伝えることが重要です。「これからお客さまの会社に行くけど、お客さまの要望を聞き出す方法を見て学んでね」というように、目的をしっかり伝えて一緒に仕事をしましょう。
成長を一気に加速させるには、「失敗経験」を積ませること
はっきり申し上げます。外部研修に行かせても新人は成長しません。当社も教育研修を行っていますが、同じ業界の方がこれを聞くと「何を血迷ったことを言っているのか」と思われるかもしれません。
この根拠には「1:2:7の法則」があります。この法則は新人が成長する3つの要素の割合を示しています。まず成長する1割は「研修・勉強会」。2割は「上司やメンターの指導」。最後の7割は……何だと思いますか? 答えは「経験」です。特に失敗の経験が成長を促進させます。
つまり、先ほど申し上げた外部研修は1割の要素でしかないのです。より効果的に成長させるには、仕事で失敗させることです。仕事を任せて経験を積ませ、失敗しそうになってもすぐには助けず、時にわざと失敗させることが大事です。
インバスケットは仕事の模擬体験ツールです。皆さんの会社で仕事の失敗がどうしても許されない環境であるなら、このツールで模擬体験させ、失敗をさせてもいいと思います。ただやはり新人には、仕事で失敗する経験をあえてさせてあげてほしいものです。
教えなければならないことは、優先順位を付けて教えよう
ここまで新人教育のコツをお話ししてきましたが、最後に教える際の注意点をご紹介します。
教える側が陥りやすい失敗とは何だと思いますか? それは「教えすぎる」ことです。教える側からすると教えなければならないことは無数にありますが、教わる側からすると理解できるキャパシティがあります。
そこで「緊急度」と「重要度」で優先順位を設定します。緊急度は時間軸を指します。それは今、教えなければならないことかと自問自答するといいでしょう。重要度は「それを教えないことによる影響の範囲や損失」と考えるといいでしょう。
教える側が「すべてが重要」と考えていると、教えすぎてしまい、教わる側は消化不良になります。教える側が内容を絞るほうが結果的に新人の成長につながるのです。
この記事の著者
鳥原 隆志(とりはら たかし)
株式会社インバスケット研究所代表取締役。インバスケット・コンサルタント。1972年、大阪府生まれ。大学卒業後、株式会社ダイエーに入社、10店舗を統括する食品担当責任者として店長の指導や問題解決業務に努める。管理職昇進試験時にインバスケットに出合い、自己啓発としてインバスケット・トレーニングを開始。現在は執筆と講演・メディア出演など活躍中。日本で唯一のインバスケット教材開発会社として、株式会社インバスケット研究所設立。著書50冊以上。
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