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【2024年問題】物流・建設・医療も適用開始!「時間外労働の上限規制」はどう変わった?

2024.06.20

著者:弥報編集部

監修者:篠田 恭子

働き方改革関連法として、既に大企業・中小企業を対象に適用されている「時間外労働の上限規制」。2024年4月からは、運送業や建設業など、従来猶予対象だった業種でも適用開始となりました。違反した場合は罰則の対象となるので注意が必要です。

そこで「時間外労働の上限規制」法令改正のポイントと、スモールビジネス事業者が対応すべき注意点について社会保険労務士の篠田恭子先生にお聞きしました。改めて法内容を把握するとともに、対応の漏れがないようにしましょう。


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時間外労働の上限規制とは?違反すれば罰則も

「時間外労働の上限規制」について概要を教えてください。

以前は、時間外労働の上限は法律ではなく、大臣告示によって基準が定められていました。しかし2019年4月からは大企業、2020年4月からは中小企業にも適応された「時間外労働の上限規制」により、時間外労働に関するルールが労働基準法で定められ、違反した場合の罰則も規定されています。さらに、今までは上限がなかった「特別条項による時間外労働」に上限が定められました。

具体的な内容は下記になります。

  • 時間外労働(休日労働は含まず)の上限:
    原則として、月45時間・年360時間。超過できるのは臨時的な特別の事情がある場合のみ
  • 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合も
    ・時間外労働……年720時間以内
    ・時間外労働+休日労働……月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
  • 原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
  • 法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断される
「時間外労働の上限規制」に違反した場合は、どのような罰則があるのでしょうか?

違反した場合の罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。罰則が科されるのは「使用者」です。「使用者」とは「事業主または事業の経営担当者」などとされており、経営者だけでなく部長や所長、店長なども入ります。

2024年4月からの法改正では、何がどのように変わったのでしょうか?

人手不足や勤務形態の特殊性などの理由から、猶予期間として上限規制の適用から除外されていた、下記の業種にも適応が開始となります。

  • 工作物の建設の事業

災害時における復旧および復興の事業を除き、上限規制がすべて適用。

災害時における復旧および復興の事業には、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制は適用されません。

  • 自動車運転の業務

特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間。

時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月までとする規制は適用されません。

  • 医業に従事する医師

特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が最大1860時間。

時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制が適用されません。時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月までとする規制は適用されません。医療法などに追加的健康確保措置に関する定めがあります。

  • 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業

上限規制がすべて適用

規制適用後は、従業員の業務時間が制限されると共に、人手不足などの社会背景の影響も受け、業務を遂行できないなどの問題が生じる可能性がありました。これらの課題は「2024年問題」と呼ばれ、法改正を機にさまざまな業種で就業規則の改訂、労働時間の見直しなどが進んでいます。

上限規制に則った36協定の締結と届出が必要

今回の法改正対にあたって、対処すべき点を教えてください。

従来「残業時間の上限規則」の猶予対象となっていた業種では、従来36協定を締結していれば、残業が実質的にどこまでも許されてしまう状態でした。しかし、適用後の2024年4月からは特別条項付きの36協定があっても、上限を超える時間外労働は認められなくなります。猶予期間中に残業上限を勘案してきた企業の場合は、大きな混乱は起こりにくいと予想されますが、そうでない企業は直ちに対策を講じなければいけません。

例えばトラック運送業では、対策として荷待ち時間の削減や、荷主と協力して勤務時間を短縮するなどの取り組みが必要になります。また建設業では、発注・受注の際に、従業員の休日数や労働時間数を考慮して納期を設定するようにするなど、法を意識した労務管理が求められます。

その他、既に適用となっている大企業・中小企業でも、改めて自社の労務管理を見直す良い機会となるでしょう。従業員の残業を的確に把握しているかを確認しましょう。私の経験では「うちの会社は残業がない」とおっしゃる経営者によく話を聞くと、実際には時間外労働が発生していることがほとんどでした。また、従業員の休憩時間や残業時間を把握していない企業の例もありました。自社の制度や状況を労働基準法と正しく照らし合わせて、時間外労働を把握してください。

ちなみに、従業員に時間外労働をさせるには36協定の締結と届出が必須ですが、これをせずに時間外労働をさせた場合は、その時点で労働基準法第32条違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。必ず締結して届け出てください。

また、時間外労働の上限規制の対象は社員だけでなく、パート・アルバイトも含まれます。派遣労働者に関しては派遣元企業の36協定が適用されますが、36協定で定めた上限を超えて労働させた場合には派遣先企業が法違反となりますので、派遣を受けている企業は注意が必要です。

届出を行う際は、厚生労働省のWebサイト内にある「労働基準法等関係主要様式」にテンプレートがありますので参考にしてください。

(参考)
主要様式ダウンロードコーナー|厚生労働省

臨時的に残業しなければならない場合の措置もあり

月45時間・年360時間を超過する場合は、どのように対応すればよいでしょうか?

臨時的な特別の事情があり月45時間・年360時間を超過する場合は、さらにいくつかの項目について協定を結ぶことが必要です。

その際に特に注意していただきたいのは下記の3点です。

  1. 限度時間を超えて時間外労働をさせる場合の割増賃金率
    法定の割増率(25%)を超える割増率となるよう努める必要がある
  2. 限度時間を超えて労働させる場合における手続き
    事前に申し入れるなど、手続き方法を決めて記載する必要がある
  3. 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置
    下記より番号を選んで、具体的な内容についても記載する必要があります。
    (特別条項付36協定届出用紙記載心得より転載)
    ① 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
    ② 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
    ③ 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
    ④ 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
    ⑤ 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
    ⑥ 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
    ⑦ 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
    ⑧ 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
つまり、限度時間を超過できるのは臨時的例外の場合のみですね?

はい、そうです。「36協定の特別条項を結べば残業させられるんだったらそうしたい」という問い合わせをよくいただきますが、臨時的な特別の事情がなければ限度時間(月45時間・年360時間)を超えることはできず、単に恒常的に月45時間を超えている場合は特別条項の対象外です。

36協定の届出は厚生労働省の作成支援ツールを使ってオンラインで行うことも可能です。社労士に依頼していただくことももちろんできます。社労士は、協定内容や過半数代表者選出のアドバイスも行えますので、ぜひご相談ください。

最も大切なのは業務効率化!残業を減らし働きやすい環境へ

では、時間外労働を正確に把握するためにはどうすればよいでしょうか?
出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

まず、従業員が実際に働いている時間を正確に知る必要があります。その上で、時間外労働の上限規制を遵守するために、使用者は上限を超えないように管理する必要があります。上限時間が規定されたのは時間外労働時間のみで休日労働は対象ではありませんが、月の時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満と制限されていますので、休日労働時間についても正確に把握して管理してください。

そのためには、時間外労働と休日労働の違いについても正しく認識していなければいけません。時間外労働とは、労働基準法で定める法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超労働させた場合を指します。休日労働は、法定休日に労働をした場合を指します。

そして、過度に残業させずに済むよう業務の効率化を図ったり、残り残業可能時間を計算し明示したりすることも大切です。従業員が心身ともに健康で継続的に働いてくれることが経営者にとっての利益にもなります。無理と諦めるのではなく、「どうしたらできるか」を考えて対策を講じましょう。


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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

篠田 恭子(社会保険労務士)

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

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