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従業員満足度をアップさせることが「働き方改革」のゴール

2019.01.18

著者:弥報編集部

生産性の向上や長時間労働の是正を目標とした「働き方改革」。多くの中小企業にとっては、「離職率を下げたい」「従業員満足度を上げたい」など現在抱えている課題の解決につながるチャンスでもあります。とはいえ、具体的にどのような取り組みをすればいいのか迷っている方も多いかもしれません。

そこで今回は、“ES(従業員満足度)”をキーワードに、多様な働き方への改革(ダイバーシティ推進)や社内マルシェといった独自の取り組みを行っているコンサルティング会社「有限会社人事・労務」の代表取締役・矢萩大輔さんに、働き方改革を実践する当事者としての目線と、顧客へのコンサルティングという外部からの目線、ふたつの立場から見た「働き方改革」についてお話を伺いました。

有限会社人事・労務
1998年、社会保険労務士を母体とした人事労務コンサルティング会社として設立。ES(従業員満足)を重視した組織づくりの必要性に気づき、2007年に任意団体日本ES開発協会を立ち上げ、「働き方」の多様化を進める取り組みを行ってきた。特に従業員数300名以下の中小企業を中心に、450社を超えるコンサルティング実績を持つ。現在は「ESなくして働き方改革なし!」をモットーに、多くのクライアントに向け人間性尊重経営による組織開発を提案している。未来思考で人事を語る情報サイト「ES推進イノベーションプログラム」も運営。

人事制度を変えるよりも、従業員ひとりひとりに寄り添うことが大切

矢萩さんが代表を務める有限会社人事・労務では、2拠点ワークや在宅勤務などを取り入れ、多彩な人材の採用・定着に力を入れています。しかし20年前に会社を立ち上げた時点では、そういう考え方には至っていなかったとのこと。

「開業当初はまだ『お金を稼ごう!』という意識の方が強かったと思いますね(笑)。ところが他社の人事制度のコンサルティングをしているうちに、社長がいいと思っていても、従業員の方々がそれでは納得しないという場面が多いことに気づいたんです。そこで、我々がやるべきなのは単に給料を決めたり、人事制度を変えることではなく、従業員ひとりひとりのキャリアや、もっと大きくいえば彼らの人生に寄り添うことなのではないか、と感じるようになりました」

それならまずは自分たちが実践しなければと、従業員の働きやすさを主体とした人事制度を導入したのが開業から3年ほど経ってから。最初に採用されたのが、現在、ヘッドESコンサルタントとして社内のリーダーを務める金野美香さんです。新卒でインターンとして働きながら副業もこなしていたという金野さんですが、実はその当時、一般的に社労士事務所で新卒女性はほとんど採用していなかったといいます。

「身近な社労士の先生からも、若い女性を採用して大丈夫? すぐに結婚していなくなっちゃうんじゃないの? と言われたほど。しかもインターンシップ制度は弁護士事務所などでは普通でしたが、社労士事務所では珍しかったんです。ただ、僕自身も大手のゼネコンを辞めて社労士として開業するまでインターンシップで働いていたので、そこに抵抗はありませんでした」

その後、会社の業務として働きづらさを抱える人への就労支援などをするようになり、その流れでさらにさまざまな事情を抱えた人に働いてもらうようになっていったそうです。

「当社の場合、個々の事情をふまえた採用をしているうちに、自然と働き方も多様になっていきました。現在は短時間正社員制度や在宅勤務、学生や外国人インターンシップの受け入れなども積極的に行い、多彩なメンバーが多様な働き方を実践しています」

そう話してくださる金野さんも、いまや矢萩さんの右腕として会社になくてはならない存在です。

「ICT(情報通信技術)」と「体験の共有」で社内コミュニケーションを活性化

従業員主体の人事制度を導入した当初は、社内から「そんなやり方で稼げるの?」という声もあがったそうです。確かに“生産性を上げること”と“働きやすい職場を作ること”は、相反するものと捉えられがち。「けれど従業員が働きやすい職場作りは、最終的にはお金にも繋がるんですよ」と矢萩さんはいいます。

「当社の顧問をお願いしており、CSR (企業の社会的責任)を研究されている横浜市立大学の影山摩子弥教授が書かれた『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)という本があります。社会貢献ではなく経営戦略として障害者雇用を考える企業は業績を上げているという内容なのですが、当社でも障がいのある方々を採用して一緒に働くようになって、それを実感しています。従業員たちは彼らがスムーズに業務を進められるように気づかったり、彼らを含めたチームとしてパフォーマンスを高める方法を常に考えます。一方、彼ら自身もそれを感じて頑張って仕事をしてくれる。お互いに思いやりを持って接することで従業員同士のつながりが強くなり、それが業務のパフォーマンス向上にも繋がっていくんです」

会社の存在意義というのは、みんなで協力して仕事をすること。一人で完結する仕事がしたいならフリーになればいい、というのが矢萩さんの持論。そのためICT(情報通信技術)を活用し、社内コミュニケーションを密にするための環境整備にも取り組んでいるそうです。

「在宅で仕事をしているメンバーとも、会議の時は『Vキューブ』というシステムを使って顔を見て話をします。つながりを『見える化』しているんです。意思疎通・情報共有のための社内コミュニケーションアプリも積極的に取り入れています。また、クラウドを利用して従業員同士の関係性や各自のマインドの状態などが数値でわかるような仕組みを作っているのですが、それを元に週に一度、もやもやしていることをその場で吐き出したり、自分の状況を話したりする30分程度の会議も行っています。社内のコミュニケーションを活性化させる機会づくりにはかなり注力していますね」

とはいえ雇用形態によって働く時間がさまざまなので、コミュニケーションをとったり、自社の考え方を従業員にも深く理解してもらうといったことは、確かに以前と比べて簡単ではなくなってきたと矢萩さんはいいます。

「だからこそ会社が借りた畑で従業員たちが農作業をして野菜を作り、収穫した野菜を販売する社内マルシェを開いたり、日光街道を歩くイベントを行うなど、体験や思いを共有する場を意識的に作っています。これらの取り組みは会社の理念を浸透させるための大事な装置なんです。そうした取り組みの中で、職場では見ることが出来ない同僚の人柄を知ることができ、コミュニケーションの活性化につながっていると思います」

若者のハングリー精神は「つながり」に向かっている

コンサルタントとして外部から数多くの企業を見てきた矢萩さんは「最近では、そもそも条件面や仕事環境がしっかり整っていない会社は、必然的に就職先として選ばれなくなってきている」といいます。一方、条件的にも悪くなく、働く環境も整っているのに離職率が高いというのは、社内の人間関係の悪さが理由の場合が多いのだそう。

「従業員同士のつながりがうまくいっていないせいで、意思疎通ができずに誤解が生まれたり、それがトラブルへと繋がったりする。そうなると会社への愛着も失われて、だったら別の会社へ移ろうかな、ということになります。ところが採用がうまくいかないとか、離職率が高いといった課題を抱える中小企業は、『だったら給料を上げよう』とか『残業を減らそう』とか、目に見える条件を直しがち。そうすれば人が集まると思っている社長さんが多いので、コンサルタントとしては、そこの考え方を少しシフトしてもらうように意識していますね」

現在、特に若い世代の人々が会社に求めているのは「つながり」ではないかと矢萩さんはいいます。

「年配の方々はよく、今の若者たちはハングリー精神がない、と言いますが、私はそうではなく、世代によってハングリー精神の向かう先が変わってきているだけなんだと思います。たとえば戦後から高度成長期にかけての時代は、物やお金といった物質的なものへのハングリー精神が強く、若い人たちはそれを手に入れるために必死になって働きました。

69年生まれの私が青年だった90年代は、日本がバブルを迎え物質的には満たされた時代でした。そのなかで大企業に属するよりも自分の力で独立したいと考えていた自分自身を振り返ってみると、『個』を大切にしようという意識が強かった。私の場合、ハングリー精神は『物』ではなく『個』に向かっていたんです。

そして今の若者のハングリー精神は、物質的なものへの欲求や、個としてのあり方ではなく、精神的な『つながり』に向かっているように思えます。若者というのは、今も昔も、現状で満たされていない部分を求めるもの。だからこそ彼らは希薄になってしまった『つながり』を求めているんじゃないでしょうか」

確かに、今の若い人たちは物欲がないとよく言われますが、「つながり」に対しては貪欲です。それは会社においても同様、ということでしょう。

長時間労働を抑制したり、有給を取りやすくするといった改善策はもちろん重要です。ただ、そうしたハード面の改善だけでなく、社内の空気や人間関係といったソフト面の問題こそが、従業員満足度には大きく関わっていることは意識しておきたいものです。

「働き方改革」に正解はない!大切なのは「自社に必要な働き方改革」

「本当のところ、働き方改革には、こうすべきであるという正解はありません。

人にはそれぞれに働き方があって、仕事に没入すると集中して深夜まで作業してしまう人もいれば、個人の事情を抱えて早く帰らなければいけない人もいる。ですから当社では『こういう形で働け!』という強制はしません。外で仕事をしたっていいし、早く帰りたければ帰ってもいい。各自、それぞれのペースが守れればいいんです。ただ、夜遅くまで仕事をしている人を見て、それが評価されるんだと思って無理に真似をしてしまう人がいると困る。だからこそ大切なのは、一緒に働いている人それぞれがどんな背景を持っているか、どういう理由で現在のような働き方をしているのか、それを可能な範囲でオープンにすることですね」

大切なのは、決まりきった「働き方改革」よりも、「自社に必要な働き方改革」を設定すること。

どうすれば自社の従業員それぞれの事情に即した働き方を実現できるのか。そしてそれを実現した後も、情報やマインドをいかに共有していくか。従業員が気持ちよく働くことができ、結果的に仕事の効率があがっていくことこそが、本当の意味での「働き方改革」といえるのではないでしょうか。

この記事の著者

弥報編集部

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