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インバスケットの本学の観点から、新人に「段取りの付け方」を教えよう

2020.12.08

新人を叱るときの常套句が「段取りが悪い」です。経験豊富な立場から見ると「どうしてそんなに段取りが悪いのか」と感じるものですが、新人からすると「段取りが悪いと言われてもどうすれば……」と、もやもやした気持ちになります。今回は本学的な「段取りの付け方」について解説していきます。

インバスケット……未決裁の書類の入った「未処理箱」の意。1950年代にアメリカ空軍で導入された能力測定ツール。疑似体験型トレーニングを通じて、自分の能力の強み・弱みを把握・分析できる。

新人に教えるべきは「やり方」ではなく「段取りの付け方」

数年前の出来事です。地方での講演でホテルに宿泊したときのこと。私は同行したスタッフに「明日の朝、タクシーの手配を頼む」と伝えて別れました。しかし翌朝、タクシーどころかそのスタッフも待ち合わせ場所に現れません。その後、5分ほど遅れて走ってきました。スタッフいわく「チェックアウトが混み合っていた」とのこと。さらにタクシーは予約しておらず、その場で拾おうと考えていたそうです。

「だから前日、タクシーを予約しておけと言っただろう」と私が叱ると、彼は「タクシーの手配は頼むと言われましたが、予約して欲しいとは言われておりません」と小さな声で言い訳をします。どこまで教えればいいのかと途方に暮れたものです。

しかし今思えば、私の教え方は末学的に「やり方」を教えていたのです。本学的には、やり方ではなく、「段取りを組む必要性」を教えるべきでした。

(インバスケットにおける末学と本学については、「手法を教える『末学』と目的を教える『本学』の違いを知り、社員教育に活かそう」の記事で解説していますので、そちらをご覧ください)

では、そもそも段取りとは何か? ここから考えていきましょう。段取りという言葉の語源には諸説ありますが、宮大工用語で石畳みの階段を作る際に1段の高さと個数を決めることを「段を取る」と言ったそうです。また、歌舞伎で演目を決めたり、展開の計画を作る際にも使われているそうです。使う状況はそれぞれ異なるかもしれませんが「事前の準備」であることには間違いありません。

ただし、ここで「事前の準備が大事だ」と教えることが本学になるわけでありません。なぜなら、段取りを組まない人は「事前の準備をしなくてもその場で何とかなる」と考えているからです。

では、こういう新人に対して、どう教育していけばいいのでしょうか。具体例を挙げて見ていきましょう。

事前準備なしに、本番で急に「何とかならない」ことを教える

「準備しても使わない可能性があるので意味がない」。実は私も新人のころ、そう考えて行動していたことがあります。先輩と一緒に出張に出掛けたとき、出張先で見つけたホテルにチェックインしたらいい、と考えていたのです。冒頭のタクシーの例も同じですよね。

しかし、ホテルはすぐには見つからず、結局、先輩と一緒に何件もホテルを探すことになってしまいました。ようやくチェックインしたときに先輩から言われたのが「その場で頑張ろうという考え方は致命傷になることもあるよ」でした。「その場で何とかなる」という考え方は経験不足と自意識過剰から来るものです。この考え方を見直させることがインバスケットの本学的な教育方法です。

そこで教えるべきは「(その場で)頑張らないように、(それまでに)頑張る」ことです。例えば、旅行しようとしたときに、当日の朝になってから持ち物を準備するよりも、前日までに準備を済ませておいた方がスムーズに出発できます。もし出かける前に急な電話や訪問などがあっても対応できます。このように、さまざまなリスクを減らすことができると教えるのです。

経営者の皆さんは新人たちに、本番で頑張ろうとしても限界があり、その考え方では何もできないと伝えてみてください。頑張らないように、頑張る。これが本当に賢い考え方なのです。

リスクを減らす「根回し」と「確認」は段取りの基本

頑張らないように、頑張ることを理解してもらったら、次はそれを実行するプロセスを教えていきます。それが「根回し」と「確認」のプロセスです。

「根回し」はもともと園芸用語で、木などを移し替える際に、事前に根の先の方を切って短くしてから植え替える手法を指します。これは根元や根幹を切られることで木がダメージを受け、枯れてしまうリスクを減らすために行われます。仕事でも根回しは予想されるリスクを減らす、段取りの基本的な行動です。

例えば、反対意見を持っていそうな人にあらかじめ相談するなど、利害関係者にホウ(報告)、レン(連絡)、ソウ(相談)をしっかりしておきます。「今日の午後からお客さまからの問い合わせが増える予定なんだ」と周りに根回ししておくだけで、皆協力してくれるでしょう。そうすると、バタバタすることなく仕事が段取りよく進みます。また周りもバタバタしている自分に配慮して無駄に声を掛けなくなります。このように根回しは本人のみならず、周りを幸せにする行動なのです。

また「確認」も大事です。この確認を怠ると、多くの失敗を生んでしまいます。例えば、打ち合わせ時間の確認メール、いわゆるリマインドメールを送ることで、お互いの認識のずれを事前に調整できます。また、チェックリストなどを作成して確認することで、忘れ物や準備不足で慌てることがなくなります。これも段取りの大事な行動の1つです。

経営者の皆さんは、この「根回し」と「確認」の大切さをできるだけ新人のうちに教えておきましょう。これを早い段階で身に付けられれば、新人が成長したときに、次の新人にもそう教えるようになり、それが良い循環となって会社の成長にもつながるはずです。

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この記事の著者

鳥原 隆志(とりはら たかし)

株式会社インバスケット研究所代表取締役。インバスケット・コンサルタント。1972年、大阪府生まれ。大学卒業後、株式会社ダイエーに入社、10店舗を統括する食品担当責任者として店長の指導や問題解決業務に努める。管理職昇進試験時にインバスケットに出合い、自己啓発としてインバスケット・トレーニングを開始。現在は執筆と講演・メディア出演など活躍中。日本で唯一のインバスケット教材開発会社として、株式会社インバスケット研究所設立。著書50冊以上。

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