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若手社員に本質的な問題解決とは何かを教えよう

2020.10.30

仕事の現場で起こる問題をどう解決するか。皆さんはこれを若手社員にどのように教えていますか?「マニュアルに沿って対応させる」「解決方法を指示する」では不十分です。インバスケットの本学的な観点から「若手が問題そのものを起こさないようになり、会社が活気づく教え方」について解説していきます。

インバスケット……未決裁の書類の入った「未処理箱」の意。1950年代にアメリカ空軍で導入された能力測定ツール。疑似体験型トレーニングを通じて、自分の能力の強み・弱みを把握・分析できる。

起こした問題よりも、同じ問題を起こさないことが大事と教える

メールの誤送信――誰しも一度は経験する失敗です。当社も50人のスタッフが日々多くのお客さまとメールのやり取りをしているので、どうしてもこのようなミスが発生してしまいます。その後、このようなやり取りが上司と部下の間で交わされます。

上司:「どうして確認しなかったの?」
部下:「忙しかったので」
上司:「それはわかるが、そんなミスしたら困るよ」
部下:「すいません。以後気を付けます」

一見これで収まったように思われますが、そのやり取りがあった1週間後、同じ失敗が発生してしまいます。

では、なぜ同じ失敗が繰り返されるのでしょうか?それは末学的な教え方が原因なのです。末学的な教え方とは「ミスが起きたことに対して問題解決をするアプローチ」です。つまり、臭いものに蓋をする解決法です。「すぐにお詫びをしなさい」とか「こんなことになって、気を付けろよ」などといった言葉を部下に掛けたことはないでしょうか?

インバスケットの視点に立つと、これは表面的な問題解決に過ぎません。若手社員は経験が不足しているため、多くの問題を起こします。そして、何とかしようとその場をとりなす対応をしがちです。ここで大事なのは起こしてしまった問題よりも「次に同じ問題を起こさない」ことです。これが本学的な問題解決のポイントになります。

「こんなことになって。詫びろ」という指導ではなく「次に起こさないようにするにはどうするのか」という指導が正しいのです。

新人は失敗を恐れがちです。失敗が起きたときに考えるのは「どうすれば怒られないだろう」です。そして上司にどう言い訳をすればいいのか悩みます。そうなると「以後気を付けます」などという抽象的な帰結となってしまい、本質的には何も解決できないまま、また同じ問題を起こすという悪循環に陥ります。

こうなると、本人のモチベーションが下がり、上司であるあなたも部下に不信感を持つことになってしまいます。

では、そんな悪循環に陥らないために上司は部下に問題解決についてどう教えていけばいいのでしょうか。

「見える問題」だけでなく、「見えない問題」にも目を向けさせる

ポイントは先ほど触れたとおり、若手社員が「次に同じ問題を起こさない」ようにすることです。そのときに若手社員には、発生している事象について問うのではなく「どうしてその問題が起きたのか」という視点を持たせることが大事です。

これを「問題発見」と呼びます。問題発見には2つの側面があります。「見える問題」と「見えない問題」です。「見える問題」とは起きている事象を指します。冒頭のメール誤送信の件でしたら、「違った発信先にメールを送ってしまった」が見える問題です。これだけに焦点を当てると「大変なことになった。どう相手にお詫びしよう」という表面的な問題解決に走りがちです。

そんなときに「見えない問題」に気づかせる指導をするのです。「見えない問題」とは「見える問題」の背景にある問題です。例えば、メールの誤送信であれば、なぜ誤送信をしてしまったのかを問います。若手社員に対して「なぜ」を重ねて考えさせると、答えにたどり着きます。

先ほどの事例で本学的な指導をするとすれば、

上司:「なぜメールの誤送信をしてしまったの?」
部下:「はい……確認漏れです」
上司:「なぜ確認漏れが起きたの?」
部下:「相手先のメールアドレスをコピー&ペーストして貼り付けたので、てっきり間違いないと思いました。でも、その方のメールアドレスがコピーできておらず、その前の方のアドレスを張り付けてしまいました」
上司:「ではこれからはどうしたらいいと思う?」
部下:「はい、コピー&ペーストはしないようにします。あと取引先のメールアドレスをあらかじめ登録して、念のために確認するようにします」

となるといいですね。このように、「見える問題」はもちろんのこと、「見えない問題」にも目を向けさせることが本学的な問題解決の教え方なのです。

「問題そのものを起こさせない」ように発想を転換させる

新人が陥りやすい間違いが、「問題が起きたときにどう解決すればいいか」に重きを置いてしまうことです。そこで、この「問題が起きたら対処しよう」という姿勢を変えさせることが本学的な教え方になります。

この図は私たちの仕事を、縦軸の「緊急度」と横軸の「重要度」で分けたものです。もちろん業種や会社によって多少変わるでしょうが、一般的な分類として見ていただければと思います。

ここで「見える問題」となるのが左上の象限です。これらの問題の根本的な原因が、左下の象限に書かれている仕事です。この左下の仕事に目を向けさせることで、問題そのものを起こさない考え方を教育していきます。

先ほどのメールの誤送信の案件でたとえると、左下には「住所録のメンテナンス」「メールを送る際のチェックや確認」などが入ります。新人や若手社員はこれらの仕事の重要性がまだわかりません。実際にその仕事をしたからといって、すぐには結果に結び付かないものだからです。

本学的な教え方とは、一見地味な仕事であっても、「問題」そのものを起こさせないためにそれらの仕事に力を注がせることです。「注意一秒、ケガ一生」。この言葉は私が運転免許を取得するときに教官に教えていただいた言葉ですが、本学的な教え方だなと思うわけです。

若手が本質的な問題解決を理解し実践すると、会社が活気づく

若手社員のうちから問題解決の本質を理解し、自ら実践できるようになると、仕事上のミスそのものがぐんと減り、高いモチベーションを維持した状態で仕事に臨めるようになります。会社も活気づき、上司と部下の間にも信頼関係が生まれるなど、多くの好影響が生まれるでしょう。

皆さんもぜひ職場で試してみてください。

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この記事の著者

鳥原 隆志(とりはら たかし)

株式会社インバスケット研究所代表取締役。インバスケット・コンサルタント。1972年、大阪府生まれ。大学卒業後、株式会社ダイエーに入社、10店舗を統括する食品担当責任者として店長の指導や問題解決業務に努める。管理職昇進試験時にインバスケットに出合い、自己啓発としてインバスケット・トレーニングを開始。現在は執筆と講演・メディア出演など活躍中。日本で唯一のインバスケット教材開発会社として、株式会社インバスケット研究所設立。著書50冊以上。

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