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【利益率改善】今こそ必要な「価格見直し」!適正価格の算出方法を船井総研が解説
2024.09.27
利益改善・拡大のためには、売上だけでなく利益にも目を向けなければいけません。利益率を改善するには価格の見直しなどが有効ですが、何を参考にして適正価格を算出すべきなのでしょうか。
実際に商品価格を見直す際は、複合的な要素を検討のうえで行わなければ、販売数が減ってしまい売上・利益ともに下がってしまうリスクも生じます。今回は適正価格の算出時に目指すべき指標や、参考にすべき項目などについて、船井総合研究所 地方創生支援部 観光フードグループの山﨑滝也さんに解説いただきました。
実際に価格を適正化し、売上・利益率ともにアップした事例なども紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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目次
利益改善・拡大の基盤は「値決め」にあり
利益改善や拡大のためにはなぜ「値決め」が重要なのでしょうか?
企業成長のためには利益を上げることは必須ですよね。その利益を生む根幹となる商品の販売価格は、経営をするうえで最も重要な要素の1つと言えるでしょう。当然ながら、コストを上回ったうえで理想の利益率を達成できるような販売価格にしなければいけません。
しかし、競合企業の類似商品との兼ね合いや肌感覚から値決めをしている事業者が多いのも事実です。物価高騰などの社会的な動向を鑑みず競合価格だけを意識して、利益が出ない価格設定をしてしまい、売れば売るほど赤字になってしまうといったケースも実際に見受けられます。そのような価格設定では、他の施策を講じても利益の改善は難しいでしょう。適切な値決めが利益改善・拡大の基盤となるのです。
「利益改善・拡大」と聞くと、コストダウンやコストカットなども連想しますが、それでは対応できないのでしょうか?
確かに一般的には、コスト削減は利益改善・拡大を実現する1つの手法として知られています。もちろん、短期的には利益を増やす効果はありますが、高騰する材料費などの削減は現実的に難しく、強行すれば品質や商品価値の低下を招く可能性もあります。人件費の削減は比較的実施しやすいですが、こちらに関してもさまざまな弊害が想定されます。
例えば現場の社員たち1人当たりの業務が増えて疲弊したり、飲食店であればサービスの質が落ちたりといったことですね。社員のモチベーションの低下リスクも伴います。人件費をカットしたことで離職率が上がり、採用コストをかけて増員しなければいけなくなったケースもあります。コスト削減を実施する際は、多岐に渡るリスクがあることを理解しなければいけません。
「価格見直し」にもリスクがあるように感じます。
もちろん、どんな施策にもリスクは付き物です。特に長い付き合いのある取引先や顧客を持つ事業者は、顧客離れを恐れて価格の見直しに踏み込むのを避ける傾向があります。確かにその気持ちもわかるのですが、昨今の物価高騰や円安などの経済動向を考慮すると、現状の利益率を維持していては会社や店自体の存続が危ぶまれることになります。
顧客離れを恐れているうちに、そのようなことになってしまっては元も子もありませんよね。やはりどこかのタイミングで、価格の見直し・適正化に取り組まなければならないと腰を据えて向き合うべきです。
かといって、やみくもに価格改定・価格転嫁するのは得策とは言えません。顧客離れが起こるのは、提供内容を変えずに価格を上げたケースが多いです。大切なのは、提供商品の価値に見合った適正価格を見極めることです。いくつかの指標やポイントを抑えれば、適正価格をある程度算出することができるのです。
それって本当に適正?自社の値決め方法・販売価格をチェック
価格が適正かどうか、目安となる指標はありますか?
価格が適正・不適正は、一概に言い切れませんが、参考となる経営指標はあります。船井総研では、売上前年比成長率と営業利益率を足した合計値を「持続的成長スコア」と定義しており、その値が20%を超えている経営状況を理想的な状態としています。
経営において重要なのは継続的な成長です。持続的成長スコアを改善するために売上アップをねらうのか、それとも利益率を上げるべきかを判断する基準として、ぜひ自社の持続的成長スコアを算出してみてください。もちろん売上と利益率の両軸を伸ばせるのが理想ですが、特に利益率改善は、冒頭にお伝えした通り企業の持続的成長を促す基盤固めにつながるでしょう。
一般的によくある値決めの仕方で、注意した方がよい方法はありますか?
商品を直接製造するメーカーなどでは、商品の原価に欲しい利益額を上乗せする「コストプラス法」、卸業者が入る流通業や飲食店などの業界では、仕入れ原価などに欲しい利益額を上乗せする「マークアップ法」が多く採用されています。
コストプラス法
価格=原価(直接費+間接費など)+利益
マークアップ法
価格=原価(仕入れ原価+製造人件費+広告費など)+利益
いずれもシンプルな価格の決め方ゆえ、すばやく設定できます。しかし総コストを把握して利益を乗せていないことも多く、全商品に同じ利率を乗せる事業者も少なくありません。商品ごとに営業利益目標から逆算して原価を設定していく必要があるでしょう。
また、これらの値付け方法は売手の利益目標を反映しており、市場価格や顧客の納得価格を把握せずに付けられることが多いので、思うように顧客に選ばれないという懸念点もあります。原価ベースの思考法では、つい価値提供のことを忘れがちになるので注意が必要です。
適正なプライシングをするにあたり、まず「この値付け法が良い」「これくらいの利率にすべき」というような思考を転換する必要があります。もちろん業種の特性などはありますが、プライシングには市場動向や顧客の購買思考など、マーケティングが深くかかわっています。
よって、さまざまな情報を俯瞰的に考慮して、価格を設定することをおすすめします。加えて継続的に価格戦略を最適化すれば、長期的な企業成長にもつながります。総合的かつ継続的な判断が求められるでしょう。
「業界ライフサイクル・自社ポジショニング・差別化」が適正額のキーワード
実際に価格を見直す際は、まず何をすべきでしょうか?
プライシングを行う際は、単に商品と価格だけに焦点を当てるのではなく、さまざまな情報を基に総合的に検討する必要があります。特に重視すべき要素について、以下に解説します。
業界のライフサイクル
「業界のライフサイクル」は一般的に、業界が成長から衰退するまでの一連の流れのことを意味し、導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つの段階があります。各段階では、市場規模、競争の激しさ、顧客のニーズなどが異なります。市場が成長していくにつれ競争が激化し、衰退傾向に入ると顧客のニーズも一気に減少します。
売りたい商品の属する市場が、現在どの段階であるのかを把握しておけば、適切な価格設定の範囲を見極めることが可能です。ただしご注意いただきたいのは、業界の基準額や傾向に必ずしも従う必要はなく、あくまで参考程度に知っておくのが重要だということです。
自社のポジショニング
業界のライフサイクルを把握したうえで意識したいのは「自社のポジショニング」です。ビジネス戦略におけるポジショニングとは、自社の製品やサービスを市場でどのように位置付けるかを決定するプロセスです。
例えば、競合他社と比較したときに自社の強みと弱みを把握している状態が理想です。自社が最も優位性を発揮できるポジションを定めると、顧客に選ばれる理由も明確になりますよね。ターゲット層や価格帯、アプローチ方法にも大きな影響を与えます。
自社の差別化
自社のポジショニングを行うと同時に目を向けていただきたいのは自社の差別化です。おすすめしたいのは、「差別化の8項目」を検討するアプローチです。これには、「立地・規模・ストアロイヤリティ(暖簾)・商品・販売促進・接客サービス・価格・固定客化」が含まれます。
「立地・規模・ストアロイヤリティ(暖簾)」は戦略的差別化の要素であり、即時の変更が難しいため、長期的な視点で差別化を図る必要があります。一方で、その他の5つの項目に関してはすぐに変化させ、強みの形成や、エリア一番化を実現できる可能性が大いにあります。強みがあり価格訴求が実現できれば、価格競争に飲み込まれることはなくなるでしょう。独自固有の長所があるからこそ適正額を掲示でき、顧客は価格以上の価値を感じる商品に対してお金を出すのです。
この考え方は、飲食店や小売店のみならず、製造業などB to B分野すべてのビジネスで言えることでしょう。競合他社と比較した際に、自社の強みとなる「付加価値」を明確にし、効果的に訴求することが求められます。
「付加価値訴求」について、具体的にどのような例がありますか?
例えば飲食店や小売店であれば「独自メニューや限定商品の提供」ことや、製造業などでは「小ロット対応の柔軟性」などがあげられますね。最近では、サブスクリプション形式のサービスを展開する企業も増えています。
付加価値の訴求を検討する際に、既存の商品を変化させるのではなく、新商品の開発が有効となる場合も多いです。老舗のそば屋の例をあげましょう。老舗がゆえに、既存商品の価格変更が難しく、低い利益率に悩んでいました。そこで取り組んだのは、看板メニューの開発でした。ブランド牛を使った高価格帯の看板商品を新たに作ったのです。ブランド牛という付加価値を付けたことに加え、老舗のブランド力も強みになり、売上と利益の拡大を実現したそうです。
価格設定に役立つ!具体的なツールやアイデア
実際に値決めをする際に役立つツールや手法なども教えてください。
プライシングの際は、数値的な戦略も必要になります。以下は私たちが実際に企業さまの値付けをサポートする際に活用している表や手法です。より精度の高い値決めの一助になれば幸いです。
「理論原価表」は、各商品の原価を詳細に計算できるツールです。相乗積を活用すれば、単品の原価率が異なっていても、全体の原価率を予測できるようになります。まず基準となる原価率を設定してから、単品ごとに調整していきます。
例として、表では飲食店のメニュー料金を取り上げています。一般的に飲食業の原価率は30%が目安とされていますが、絶対的な正解はありません。特に戦略的に打ち出したい商品があったり、あえて集客商品を作ったりする場合には、粗利ミックスという考え方で、メニュー全体の原価率バランスやメリハリを考慮して価格設定を行いましょう。
自社のポジショニングが明確になり、適切な価格帯を設定する際に活用できるのが「予算帯別一番化手法」です。この手法では、顧客が考える予算を1,000円・2,000円・3,000円・5,000円・1万円・2万円と設定し、それぞれの予算帯で相乗平均を算出して分岐点となる中心値を導き出しています。どの予算帯においても、顧客が「安い・高い」という印象を抱く金額は必ず存在するので、ねらう予算帯の適正価格を把握し、他社と比べ一番になれる予算帯を持つことが重要です。
その他、すぐ実施できる施策なども教えてください。
例えば飲食店や小売店であれば、すぐ実践できて効果的なのは、近隣住民を呼んで試食会やモニター会を行うことです。特に新商品を開発する際は有効です。実際に顧客から「この商品はいくらが適正か?」と意見を聞きましょう。メニューをどのように感じるのか、自店にどのような印象を持っているかなども含めて客観的に把握できます。もちろん、顧客の意見がすべて正しいというわけではないので、あくまで参考として取り入れることが重要です。また、試食会やモニター会を通して、参加者が自然と口コミを広げてくれる可能性も上がります。
さらに、成功している企業や繁盛店などのモデルをまねするのも効果的ですね。視察を行い、その取り組みや施策を再現してみましょう。もちろん、自社にそのまま導入することが得策でない場合もありますので、自社の状況や特性に応じて総合的に判断してください。
繰り返しになりますが、「これが良い」という明確な値決め方法はなく、多角的な要因を考慮したうえで意思決定を行うべきです。時間を要したとしても、十分に検討したうえで値決めをすることこそが、利益拡大につながるのです。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
山﨑 滝也(株式会社船井総合研究所 地方創生支援部 マーケティングコンサルタント)
持続的成長を実現する企業づくりをテーマに、5年、10年先を見据えた戦略立案とマーケティング戦略は、25年以上にわたり多くの実績を持つ。特にサービス業や小売業においては、船井流経営法に基づいた現場重視の即時業績向上コンサルティングは定評がある。また、ビジネストレンドや実践的な業績アップに関するメディア取材や雑誌掲載も数多く経験している。
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