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人材の採用や定着につながる福利厚生には何がある?実際に中小企業に導入されている例も紹介
2023.12.12
福利厚生の充実は、従業員が安心して働ける環境を作るために重要な施策の1つです。また、独自の福利厚生を導入して他社との差別化を図ることは、人材の採用や定着にもつながります。
では人材の採用や定着につながる、中小企業にお勧めの福利厚生には何があるのでしょうか?
今回はオフィスモロホシ社会保険労務士法人の諸星 裕美さんに、最近の福利厚生のトレンドやお勧めの福利厚生について伺いました。他の中小企業が実際にどのような福利厚生を取り入れているのかの例も紹介しているので、あなたの会社ならではの福利厚生を実現するヒントにお役立てください。
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目次
今さら聞けない?福利厚生とは
改めて、福利厚生の概要について教えてください。
福利厚生とは賃金などの基本的労働条件とは別に、会社が従業員やその家族の健康、生活向上のために行う施策を指したものです。福利厚生には法律によって企業に義務付けられている「法定福利」と、企業が独自に設定できる「法定外福利」の2種類があります。
法定福利は、社会保険料(健康保険・厚生年金保険・介護保険)、労働保険料(労災保険・雇用保険)、そして子ども・子育て拠出金の6つです。法定外福利は企業独自の施策で、代表的なものとして慶弔金や住宅に関する補助、プラスアルファの休暇などがこれにあたります。
福利厚生を導入するメリットも改めて教えてください。
第1の目的は安心して働ける環境を整えるためです。そのうえで法定外福利にフォーカスすると、最大のメリットは「他社との差別化」となるのではないでしょうか。
企業の魅力をアップさせて、この会社で働き続けたいと従業員に考えてもらうような独自の福利厚生を導入することは、そういったきっかけになり得ると思います。
さまざまなものがある福利厚生ですが、最近人気の福利厚生にはどのようなものがあるのでしょうか。
最近人気の福利厚生は「休暇」と「健康」に関する福利厚生です。
まず「休暇」についてですが、これは若い世代の方々が特に重視しています。今や週休2日制であるのは当たり前で、その他に「有給休暇が取りやすいか」「土日は完全に休めるか」まで求められる場合もあります。飲食業のように土日も営業する業種でさえ「月に最低2回は土日も休みたい」と言われる可能性もあります。
次に「健康」についてですが、コロナ禍を過ごした期間があった影響とも相まって、世間一般的にも健康問題を重視する傾向が高まりました。そのため通常の健康診断にプラスした、オプション検査の需要が増えてきています。中でも女性従業員向けに乳がん・子宮頸がんといった、婦人科の検診を手厚くする会社が多くなりました。また大手企業を中心に、不妊治療の費用の援助や休暇を設けるところも出てきています。
コロナ禍とそれ以前で、福利厚生のトレンドに変化はあったのでしょうか?
確かに変化はありました。コロナ禍によって在宅勤務が定着し、自宅で働くための環境作りにかかるお金をサポートするような福利厚生が特に増えました。具体的には業務用パソコンやスマートフォンの支給、自宅におけるインターネット環境の整備や椅子の購入費用を補助するといったものです。
「時代の変化」で言うと教育訓練もその1つですね。今どきの従業員は「自分たちの能力が他社などでも通用するのか」をとても気にしています。以前は「教育にお金をかけて育てても、そのまま他社に行ってしまったら困る」という感覚がありましたが「従業員の能力向上に費用をかけることは、自社の従業員の定着につながる」という考え方に変わってきています。いわゆるOJTだけではなく、福利厚生の1つとして、従業員が望む教育訓練を盛り込んでみるのも従業員の満足度につながると思います。なお、教育訓練に関しては、会社や従業員などが受けられる国のさまざまな給付金などもあるので、ぜひ調べてみてください。
〈参考〉
資金調達手段を探せる・学べる 専門家を頼れる「資金調達ナビ」|資金調達ナビ by 弥生
また国のサポートという面ではiDeCo+もお勧めです。企業年金を実施していない中小企業が対象で、税法上も有利な扱いがあり、従業員の老後の所得確保も支援することができます。
人材の採用・定着につながる福利厚生はどんなものがある?
人材の採用や定着につながる、中小企業にお勧めの福利厚生を教えてください。
採用時に関していえば、やはり魅力ある休暇制度にかかわる福利厚生がわかりやすく、また業種にもよりますが、必要とされる資格支援制度も需要が高いと思います。今の求職者は内容に加えて取り組みの数も重視していますから、さまざまな制度があることを見せる工夫も重要です。
人材の定着という観点で考えると、在職をされている従業員に聞いてみるのが一番早いですね。定着率が高い会社は、やはり経営陣と従業員の間でしっかりコミュニケーションが取れている傾向が見えます。そういった意味でも、従業員の声に耳を傾けるのが大切だと思います。やり方としては従業員に対し簡単なアンケートを取るのもよいですし、個別や集団でのヒアリングでもかまいません。そこまでしなくても、何か仕事の話のついでに聞いてみるのもお勧めです。普段から何気なく交わしているコミュニケーションが、従業員との信頼にもつながります。
ちなみに実際アンケートを実施した会社の方に聞いてみると、豪華な社員旅行は不評で、若い世代に不人気だと思っていた懇親会の要望が案外多かったなど、意外な結果が出ることもあります。最近では入社以降も在宅勤務でいた方が、コミュニケーションを求める傾向が強くなり、会社が積極的にそのような機会を作る事例も出てきています。
今や求められているのは「一方通行型の福利厚生」ではなく「双方向型の福利厚生」です。
逆に、中小企業にはお勧めしない福利厚生はありますか?
継続的に続けるという意味では、一定費用のかかる家賃補助や引っ越し費用をはじめ、住宅に関する補助はあまりお勧めできません。なお、それらの需要が引き続きあるものの、企業側も金銭的な負担が大きいことやテレワークの普及などの理由から、逆に取りやめる会社も増えています。ですので、中小企業に限ったことではないかもしれません。
一方、最近あったケースでは、入社後数年間だけ補助するというスタイルで、求職者が増えた会社がありました。特に収入が比較的低い若い世代向けに、一定期間だけでも住宅に関する補助が受けられるのは魅力的なようでした。勤務するうちに基本給が上がり、他の手当など増えたため、補助がなくなっても大きな不満にはつながらなかったようです。
福利厚生の導入で注意したい3つのポイント
福利厚生を導入する際のポイントを教えてください。
ポイントは3点あります。1つ目は「費用の上限を決める」ことです。中小企業は特に、福利厚生にかける費用は限られています。先ほど従業員に対し、アンケートなどで聞いてみることが大事だとお伝えしましたが、従業員の要望に沿った福利厚生を限られた予算の中で厳選していくのが、理に適うのではないかと思われます。
2つ目は「自社に合った福利厚生を導入する」ことです。他の会社で人気の福利厚生が、必ずしも自社で受け入れられるとは限りません。従業員の年齢層ごとにニーズは異なりますし、地域ごとでも変わります。若い世代は休暇に関する福利厚生を好む傾向がありますが、バリバリと働くことが苦ではない世代の人は、そうとも限らないこともあります。年配の方に対し「福利厚生としてあったら嬉しいものは?」と聞いてみたら、食事券・ビール券のほか、趣味にかける費用の補助や老後を含めた金銭的な情報のサポートが欲しいと言われたというケースもありました。また地方では一軒家住まいや車通勤の人が多いので、住宅ローン補助・ガソリン代の支給などが結構喜ばれています。
最後の3つ目は「失敗したら立ち止まる」ことです。実施した福利厚生が本当に受け入れられているか、定期的に見直しを行うことは必要です。そのまま利用されない福利厚生を続けていても、会社・従業員の双方にメリットは感じられないと思います。
福利厚生に外部サービスを使うのもありでしょうか?
福利厚生の外部サービスを使うのも1つの手です。外部サービスにはいろいろありますが、会社として会員登録などをすることにより、例えば人間ドックの補助であったり、無料でセミナーを受けられたりと選択肢は幅広いです。会社側で対応できないこともカバーしてもらえます。なお、中小企業向けのサービスの中には、それほど大きな費用がかからないものもありますので、ぜひこの機会に調べてみてください。
実際にどんなものがある?中小企業が導入している福利厚生の例
実際に中小企業で導入されている福利厚生の例を教えてください。
ある飲食店で膝サポーター代を支給した事例があります。ホールスタッフの人は、お客さまの注文を取るときに膝をついたりするため「膝を守り、けがの予防にサポーターを買わせてほしい」と従業員から意見が出たそうです。
サポーター購入自体はそれほど費用もかかりませんし、とても些細に感じるかもしれません。しかし従業員の声を聞き、できる限りそれに対応することが大切で、真の福利厚生となります。
また別の会社では福利厚生の一環として、新型コロナウイルス感染症が5類になってから、久しぶりにホテルでの懇親会を開催したところ、全従業員150人のうち、9割以上の140人もの参加があったということです。これは会社も想定外のことでしたが、懇親が深まったことで「その後の仕事がスムーズになった」と従業員からは感謝の言葉が届いたと言います。
実は私の事務所でも、福利厚生としてマッサージ券を作りました。社会保険労務士事務所の業務はデスクワークが中心のため、肩や腰に負担がかかります。そこで事務所の隣が整骨院だったこともあり、月に最低一度は無料で施術を受けられるようにしました。職員からは「痛みがやわらいで体調が整う」と、とても好評です。
なお求職者は他社にあまりないユニークな制度にも惹きつけられますから、誕生日月に好きなランチを頼めるといった遊び感覚の福利厚生もお勧めですね。
〈ユニークな福利厚生の例〉
- 健康増進のために自転車通勤者に「自転車手当」を毎月支給
- 自宅や外出先でも喫煙実績がなかった従業員へ手当金を支給
- 1回の帰省ごとに支援金を支給する「親孝行支援制度」
- 復職前に同僚や上司とコミュニケーションを取れる「育コミュニケーション手当」
- 始業時間前に出社したら手当が出る「早起きは1,000円の得」
- 仕事場の椅子を社員1人1人に合ったものにする「マイチェア制度」
- 19時には強制的にPCがシャットダウンする「PC19時シャットダウン」
福利厚生の充実は、従業員が安心して働ける環境作りだけでなく、採用や人材の定着のためにも重要です。魅力ある福利厚生を導入して他社との差別化を図り、ずっと勤めたいと思われる会社を目指しましょう。
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この記事の著者
弥報編集部
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この記事の監修者
諸星 裕美(オフィスモロホシ社会保険労務士法人 代表〈社会保険労務士・キャリアコンサルタント〉)
就業規則作成などの労務管理を中心に企業のトップや総務担当者の相談に多数応じ、社労士業に従事してから今年で40年目に入る。直接人事担当者から採用や人材育成にかかわる本音を聞く機会が多く、企業での各種社員教育研修および人事管理制度構築なども行っている。現場で労務コンサルを手がける傍ら、さまざまな分野にかかわるセミナーを行い、一方で公的な経歴を活かし、厚労省など委託事業関連の各種事業において、本委員会の委員を複数拝命している。
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