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【節税効果あり】経営者の退職金である「役員退職金」はどう準備する?6つの方法を紹介

2022.07.20

著者:弥報編集部

監修者:越智 聖

市場の先が読みづらくなったことで、会社経営者の老後も安泰とはいえない状況となっています。経営者の方も、自分の退職金を準備したいところでしょう。経営者の退職金は「役員退職金」と呼ばれ、うまく活用すれば節税にもつながります。

役員退職金を準備する方法は複数ありますから、自分に適した方法を選択する必要があります。そこで今回は、越智聖税理士事務所の越智 聖(おち ひじり)さんに役員退職金の概要や必要性、準備するための方法などについて解説していただきました。


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生前と死後で金額が変わる?役員退職金とは

役員退職金の概要と種類を教えてください。

役員退職金とは、役員の方が退職したときにもらえる退職金のことです。設立役員として会社のために貢献したことへの対価や長年にわたる功績の対価として支払われます。役員退職金はもらうタイミングによって、退職慰労金と死亡退職金のどちらかに分類されます。

まず、役員の方がご健在のときに退職して、退職金としてもらうものが「退職慰労金」です。一方、役員の方が亡くなったときにもらう退職金は「死亡退職金」といいます。死亡退職金は弔慰金(ちょういきん)とも呼ばれ、企業が亡くなった社員の功労として遺族へ贈るお金のことです。


退職慰労金と死亡退職金の違いを教えてください。

まず、もらえる金額に違いがあります。私の感覚では、死亡退職金のほうが金額は多い印象です。

他に、退職金をもらう人も異なります。退職慰労金は、生きているうちに自分がもらえる退職金です。一方、死亡退職金をもらえるのは遺族なので、自分ではなく配偶者や子どもに渡されます。


役員退職金を導入するメリット、デメリットを教えてください。

役員退職金のメリットは、税負担が軽減される点と社会保険料がかからないことです。また、経営者自身の退職後の資金のために投資できる点も、メリットでしょう。経営者やその家族の生活資金として、活用することができるのです。

一方、役員退職金を準備する場合、給料の手取りが減るため、生活自体に制約がかかる可能性があるのはデメリットといえるでしょう。儲かっている会社であれば特に問題はありませんが、最近は原材料コストも上がって利益を圧迫していることも考えられるため、あまり儲けが出ていない会社は厳しいかもしれません。


役員退職金は役員報酬や役員賞与とは異なり「退職所得」に該当しますが、課税額の差など、それぞれの違いを教えてください。

給料・賞与は社会保険の対象になりますが、退職所得の場合は社会保険料がかかりません。また税金計算上の構造でいえば、両方とも累進課税で計算しますが、退職金は計算する前に課税対象額を1/2にしてもらえるため税負担が軽くなります。

ただし退職所得に関しては勤続年数が5年以内で、かつその退職金が300万円を超える場合、1/2にしてもらえない点に注意が必要です。

役員退職金を準備する6つの手段

役員退職金を準備する方法を教えてください。

「小規模企業共済制度」「中小企業倒産防止共済制度」「法人保険」「不動産投資」「有価証券」「預金」の6つの手段があります。

経営者の役員退職金を準備する方法として、一番多いのは「小規模企業共済制度」です。その次は「法人保険」「中小企業倒産防止共済制度」「不動産投資」「有価証券」「預金」という順番となっています。


いくつか併用する場合は、どれとどれを組み合わせるケースが多いのでしょうか?

一般的には退職金額のことを考慮し「小規模企業共済制度」と「法人保険」を併用するケースが多いです。これに加えて「中小企業倒産防止共済制度」を追加するケースも散見されます。この次に「不動産投資」「有価証券」と続きますが、退職金だけのことを考えた場合、「預金」はおすすめできません。

したがって併用パターンとしては、以下の順位となるでしょう。

  1. 小規模企業共済制度+法人保険
  2. 小規模企業共済制度+法人保険+中小企業倒産防止共済制度

それぞれの手段について、メリット、デメリットを解説してください。
小規模企業共済制度の概要とメリット、デメリット

まず、ベースとなる小規模企業共済制度について理解しておきましょう。小規模企業共済制度とは、役員や経営者向けの退職金積み立て制度です。

かけた金額をすべて税金の対象から引いてもらえるため、年間約80万円の相続控除が受けられる点が最大のメリットです。さらに小規模企業共済制度では、共済金を一括でもらえ源泉徴収もしてもらえますから、返ってきたときに「税金がいくらかかるのだろう……」という不安もありません。

一方、小規模企業共済制度のデメリットは、20年以上かけておかないと元本割れすることです。年齢が30〜40歳程度の方であれば今から掛けてもよいのですが、それ以上の年齢の方にはおすすめできません。また掛け金が毎月発生する点も、デメリットといえます。

なお10年ほど前に聞いた話ですが、小規模企業共済制度を運営している機構が2,000億ほどの運用損を出していたというお話もあったので、念のためリスクの1つとして認識しておくとよいでしょう。

法人保険の概要とメリット、デメリット

では、1のパターンである「小規模企業共済制度」にプラスされる法人保険とは、どのようなものなのでしょうか。

法人保険は一定条件を満たすことで、支払った保険料の損金算入が可能です。損金加入タイプには、全額損金タイプ、1/2損金タイプ、1/3損金タイプ、1/4損金タイプがあり、保険の種類によって損金に算入できる割合が変わります。そのため、ご自身や会社の経営状況に応じて、さまざまな方法が選べる点がメリットです。

法人保険を役員退職金の積立に活用する場合、多くの保険会社は全額損金タイプをすすめるケースが多い印象ですね。

しかし、近年はバレンタインショック(返戻率が50%以上の保険商品について、課税方法を定めた通達を見直すと国税庁が発表したこと)による規制強化の影響で、法人保険は経費・損金にならないので、この点と掛け金がかかる点が法人保険のデメリットだといえます。

将来の安心感や、経費化できないけどもらえる金額が増えるという貯金感覚で捉えている方が多いですね。

中小企業倒産防止共済制度の概要とメリット、デメリット

続いて、2のパターンで「小規模企業共済制度+法人保険」にプラスされる「中小企業倒産防止共済制度」について、みていきましょう。

中小企業倒産防止共済制度は、低金利で最高8,000万円の融資を無担保で受けられる制度です。掛金は全額損金算入が可能で、40か月以上の加入で解約時の掛金が全額戻ってきます。また利益が出たとき、すべて経費計上できるところが一番のメリットです。

現在、民間の生命保険会社の節税商品がバレンタインショックですべて消滅してしまったので、節税に使えるものはないというのが現状でしょう。そのため、掛け金がすべて経費や損金になる中小企業倒産防止共済制度は、活用するメリットが大きいと思います。

中小企業倒産防止共済制度のデメリットは、掛け金が戻ってくるときに雑収入になるため、税金の課税対象になる点です。解約する場合には、出口をしっかり作っておくことが必要と考えてください。また、40か月以内に解約すると元本割れします。掛け金の額をコントロールして、なんとか40か月は継続するべきです。

ただし掛け金の上限が月20万円で、合計でも800万円が上限になっているため、金額的には心もとない部分があるのも否定できません。さらに、加入できる企業が限定的なので、加入前に確認しておく必要があるでしょう。

不動産投資のメリット、デメリット

不動産投資は有価証券と同様、運用しだいで金額が大きくなる可能性がある点がメリットです。不動産投資は、利回りに尽きると思います。利回りが高く、修繕もきっちりされている不動産であれば、手残りは多くなるでしょう。

また、将来的にも安定した収益が期待できますので、収入に波がある業種の経営者にとって、不動産投資はメリットが大きいでしょう。ただ、近年は不動産の利回りが悪くなっており、よほど収益性の高いものでなければ、投資は難しいのが現状です。ましてや、役員退職金を準備するために不動産投資を始めるのは、現在はリスクが高いと言わざるを得ないでしょう。

有価証券のメリット、デメリット

有価証券のメリットは、運用しだいで金額が大きくなり、資産売却によるキャピタルゲインが得られる可能性がある点です。普段から株式の勉強をしており、一定の知識がある方であれば、大きく資産を増やせる可能性があります。

有価証券は銀行などもすすめてくるため手軽に始めやすいのですが、専門的な知識がないと、なかなか資産が増えないのがデメリットです。不動産と同様、損失リスクを避けられず、不確実性が高いので役員退職金を準備する方法としては、おすすめできません。また、有価証券は損金算入できないので覚えておきましょう。

預金のメリット、デメリット

確実性が高い点が、一番のメリットです。手間がかからず、自分のペースで積み立てられます。

ただし、現在は金利が低いので、資金を増やすという観点では非効率です。また、損金算入可能な部分が皆無で節税効果がないので、役員退職金を準備する方法としては適していません。さらに最近は、円安が進んできているので、円だけで資産を保有することが将来的なリスクにつながる可能性もあります。

役員退職金は、会社経営者の退職後の人生を大きく左右します。社会情勢を鑑みながら、自分にあった退職金準備方法を考え、準備を進めていきましょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

越智 聖(越智聖税理士事務所代表)

株式会社聖会計代表取締役社長。税理士。四国税理士会松山支部所属。1980年生まれ。香川大学経済学部卒。2015年、越智聖税理士事務所を開業。同年、株式会社聖会計を設立、代表取締役社長に就任。事務所開業直後から会社設立および事業承継支援に積極的に取り組み、豊富な財務分析資料と緻密な経営診断に基づく総合経営コンサルティングを展開。分析に基づく経営アドバイス、懇切丁寧な対応に定評がある。東京の税理士と強いパイプを持っており税制改正、税務の動向、税務調査対策に関する情報収集力も得意としている。

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