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5月だけじゃない「五月病」、放置すると休職につながることも?会社でできる対策を産業医に聞く

2022.07.26

著者:弥報編集部

監修者:森本 英樹

ゴールデンウィーク明けに「会社に行きたくない」気持ちが強くなる、いわゆる「五月病」。一時的なものであれば深刻に考える必要はありませんが、不調が続くようであれば、それは病気かもしれません。そのまま放置すると、従業員の休職や退職につながる可能性もあります。このような不調は1年のうちいつでも起こる可能性があり、例えば部署異動や業務内容の変化、人間関係の悪化などがその要因として挙げられます。

今回は森本産業医事務所代表の森本 英樹さんに、五月病と呼ばれる状態や上司・経営者がやるべき対策について伺いました。不調を確認するチェックリストも紹介しますので、あなた自身の心の健康状態も確認しましょう。


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五月病ってどんな状態?5月とは限らないって本当?

五月病とはどのような状態を指すのでしょうか。

まず「五月病」とは医学的な病名ではありません。病名で言うと「適応障害」と呼ばれる状態であることが多く、身体・心・行動に異変が起こります。

主な症状は、だるさ・頭が重い・吐き気・眠れない・食事が取れない、または取りすぎてしまう・めまい感・不安・イライラ・意欲低下・身だしなみに気を使えなくなるなどです。不調がひどいと精神科や心療内科への通院が必要な場合もありますし、会社を休んだり辞めてしまったりもします。


五月病はなぜ起きるのですか。

本人の意識と環境のギャップが原因で起こります。その時期の多くが5月ごろだから五月病と呼ばれているのでしょう。環境は、仕事の量や質・部署の雰囲気や人間関係・仕事の適性など、あらゆるものが原因になり得ます。

例えば、記者という仕事に憧れていたとしましょう。一見キラキラしていても、その裏には事前準備や企画、校正といった地味な作業がたくさんあります。その他にも、残業は少ないだろうと事務職を選んだらすごく多かったとか、その人によって理由はさまざまです。シンプルに言うと「思っていたのと違う状況で、心身に不調をきたす」ということですね。


五月病のような症状が、数か月後や数年後に出るケースもあるそうですね。

「働き方改革」などの影響もあり、新入社員を最初から1人では全力疾走させることは大手企業などでは、少なくなってきています。研修時間を長く取ったり、マンツーマン指導を続けたりする会社では、5月はまだ助走期間で、その後に本格的な負荷がくることになります。このため最近は、五月病が後ろにずれ込むことが多くなってきている印象があります。人によっては1年目の秋ごろだったり、求められる役割が増える入社2・3年目で不調が現れたりと、ケースはさまざまです。

あなたも五月病になっていない?セルフチェックで確認

「不調」の症状例は以下を参考にしてみてください。1つの目安として、以下の状態が2週間以上続くと危険な兆候といえるのではないかと思います。

【セルフチェック(基本症状)】

□憂うつな気分が続いている
□何に対しても興味や喜びの気持ちが起きない
□疲れが取れない、疲れやすい

【セルフチェック(その他の症状)】

□集中力と注意力が落ちた
□自己評価や自信が低下している
□罪責感がある、自身に価値がないと感じる
□将来に対して悲観的な見方をする
□自分を傷つけたくなる(リストカット・大量のアルコールを摂取するなど)
□死にたい気持ちが強くなる、実際に行動に移そうとする
□睡眠が取れない
□食欲がない

【身体に出る変化】

□普通は楽しいと感じる活動を行わなくなる
□朝の目覚めが普段より2時間以上早い
□午前中に抑うつが強い
□明らかな思考力や決断力などの低下(精神運動抑制)、あるいは焦りが客観的にみられる
□明らかな食欲の減退
□体重が減る(過去1か月で5%以上)
□性欲の減退

上記はうつ病の診断基準(ICD-10)で、いわゆる五月病の症状もこれに準じると考えてよいでしょう。とはいえセルフチェックならまだしも、上司や人事担当者がすべての従業員をチェックするのは非現実的です。人によって症状の出方も異なりますし、該当するチェック項目が少なければ問題ないと、言い切れるものでもありません。

従業員が五月病かも?周りの人が気づいたら取るべき対応は

五月病と思われる部下がいた場合、上司としてどのような対応をとればいいですか。

体調はどうか、仕事で何か困っていないかなどと聞いてください。ポイントは、本人が話を喋りきるまで聞き続け途中で話をさえぎらないこと、わかったつもりにならないことです。

仕事を休まなければならないほど体調が崩れていて、それでも受診がまだの場合は、病院に行くよう勧めましょう。上司から精神科や心療内科を勧めるのは、抵抗があるという人も少なくありません。そのときは、まずは内科を受診するよう伝えましょう。そうすれば、内科医から精神科などへ行くよう助言してくれる場合もあります。産業医や産業看護職がいる会社では、面談を受けてもらってください。

本人が病院に行きたがらない場合は「アイメッセージ」を活用してみてください。アイメッセージとは、主語を「私」とするコミュニケーションを指します。つまり「あなたは病院に行くべき」ではなく「私はあなたが心配、だから病院に行ってみてはどうか」という伝え方をするのです。他にも「将来への約束」という方法もあって「今は行きたくないのはわかった。だけど、この状況があと2週間続いたら病院に行こう」と話すと、受け入れてくれる可能性は高まります。

厚生労働省のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」には、電話・SNS・メールの相談窓口が掲載されています。「1回サイトを見てみたら?」という問いかけであれば、最初から受診を勧めるよりハードルが低いかもしれません。またサイトには、上司がどのように部下に対応すると良いかについての研修資料などもあります。


同僚など身近に五月病と思われる従業員がいる場合は、どのように接したらよいでしょうか?

最初に不調に気付くのは同僚ということもあります。親しい関係だと、不安や愚痴を耳にすることもあるでしょう。普段と変わらない優しさで接しつつ、体調を気にかけると、本人にとってはありがたいと思います。

体調不良が顕在化しているような場合、業務についてできる範囲でのサポートが出てくるかもしれません。現状を上司に伝えつつ、時には業務移管や人員補充について上司に働きかける必要があるかもしれません。なお、情報をだれかと共有する場合には、本人の情報開示の意向についても確認してください。


五月病と思われる従業員に対して、やってはいけない対応があれば教えてください。

頭ごなしの否定や安直なアドバイスは、逆効果になるでしょう。例えば「自分もそのころはつらかった」と本人に伝えた場合、本人からすると「相談したけれども、わかってもらえなかった」という感覚につながります。「無理なものは無理と顧客に伝えておけばいい」という上司のアドバイスは、本人からすると「それができないからつらいんだ」と受け止められかねません。そして「休みの日に気晴らしすれば」と伝えても、気晴らしもできないぐらい体調が悪い人には効果がありません。既に体調に影響が出ている場合、本人はつらい状況にあるわけですので、まずは本人の話を聞くことが重要です。話を聞いた後は状況に応じて、医療機関の受診を勧めつつ、仕事の業務分担などの検討も始めてください。


その他に、何か注意すべきことはありますか。

普段、上司の役割は、要点を聞いて明確な答えや指示を出すことです。一方で、メンタルの問題を抱えた従業員と話すときは、すぐに結論を出さない方がいいこともあります。本人だけで解決がつくようなことですと、体調不良になることはないわけですから、本人の話が行きつ戻りつ揺れ動いていても、まずはきちんと話を聞くことが大切です。もちろん、最終的にはその後の仕事量のコントロールなど、仕事を継続するための判断を上司は求めなければならないので、大変ですが……。

現実問題として上司の中には、業績やパフォーマンスにしか興味がなく、人のマネジメントに関心のない人もいます。ただ、それでは上司の本来の役割を果たしていないともいえます。その意識を変えられるのは上司の上司にあたる人が、その人にどう接するかにかかっています。上司の態度を会社が許容している限りは、チームとしてのパフォーマンスを見ることが重要だという風土は存在しえませんし、離職者も続きかねません。

ちなみに、上司の上司にあたる人というのは、小さな会社だと経営者ではないでしょうか。会社のためにも、きちんと話を聞いて部下の状態に関心を持つ管理職を育てることが、経営者として重要だと感じています。

五月病を防ぐ!会社ができる対応とは

今後五月病の従業員を出さないために、会社(経営者)ができることは何でしょうか。

従業員が会社を辞めるときは、一身上の都合だとか、他にやりたい仕事があるからと言います。でも、内心は「上司と合わない」とか「職場の雰囲気が悪い」などと考えていることも、現実では多いように思います。「どうしてあの従業員は不調なのか、辞めてしまうのか」を会社で振り返ることは重要です。

振り返りをすると本人と環境のギャップはどちらかだけに原因があるのではなく、両方が組み合わさって起きる場合がほとんどです。すべての人が居心地が良いと感じる会社を作るのは困難ですし、それを目指すのは現実的ではありません。とはいえ会社に全く問題がないと言い切れることも、またありません。一つ一つのできごとを振り返り、できる対策を会社が少しずつでも行っていくしかないと思います。

年1〜2回程度の人事評価面談を設けている会社は多いものの、従業員の本音を知るにはそれだけでは足りないように思います。些細な問題を放置し、積み重なればそれが大きな不満と従業員のあきらめにつながります。小さなトラブルを一つ一つ解決する姿勢と行動が上位者にあれば、最終的には職場の大きな不満がくすぶることもなく、五月病も減り、この会社でこれからも仕事をしたいという従業員が増えるのではないでしょうか。


リモートワークの多い職場ではどう対応すればよいでしょうか。

うまく相談できないなどの事態が発生していた場合には、都度相談ではなく定期的な相談に変更すると有効です。小さな困りごとだからと放置していたり、上司がバタバタしていて相談しにくいといった状況が重なると、やがて大きな問題に発展します。

リモートワーク特有の懸念点は、メンバー間の情報共有が進まず「だれが何をやっているかわからない」という不安を引き起こしやすいことです。週1回程度は、個別・グループでそれぞれミーティングするとよいでしょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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森本 英樹(森本産業医事務所 代表)

医師、医学博士、社会保険労務士、公認心理師。社会保険労務士資格を持つ開業産業医として労働衛生にかかわるコンサルティングや企業の嘱託産業医、実務家視点での講師や執筆等を行っている。近著として『ケースでわかる 実践型 職場のメンタルヘルス対応マニュアル』(中央経済社)。

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