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【客単価10%UPの事例も】大企業よりDX化しやすい中小企業のDXスタート術を船井総合研究所に聞く

2022.05.19

著者:弥報編集部

監修者:斉藤 芳宜

時代の流れを受け、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が加速しています。中小企業においても、競争力強化や顧客体験向上にDXは欠かせません。しかし、その必要性は感じていても、社内に情報システムの専門知識やスキルを持った人材が不在なケースも多いのが、中小企業の実情です。

ただ、同様の状況下でも専門家に相談したり、他社の事例を参考にしながらDXを推進し、大きな成果を上げている中小企業はたくさんあります。そこで今回は、株式会社船井総合研究所の斉藤 芳宜さんに、中小企業がDXを実現する方法や成功事例について紹介していただきます。


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経営資源や人的リソースが乏しい中小企業こそ導入すべき「DX」

DXとは、どんな仕事をどのような状態にすることでしょうか?

DXについて説明するために、まず「デジタル化」「デジタルシフト」について説明しましょう。

デジタル化とは、紙の管理からデータの管理への移行、いわゆるアナログからデジタルへ移行するフェーズです。この段階では業務プロセスなどの改善は伴わず、単純に仕事で扱うツールが紙からデータになるといった形ですね。

次の段階がデジタルシフトで、業務プロセスの改善を伴うデジタルツールの導入というフェーズです。

そしてDXはさらに一歩進んで「デジタルツールなどを活用して、ビジネスモデル自体を変えていく取り組み」といえるでしょう。つまり、デジタルツールなどを導入して業務改善を行っていても、ビジネスモデルが変わっていなければDXとはいえません。

近年、DXという言葉がバズワード化しており、なんでもかんでもDXを付ければOKという風潮もあります。しかし本来DXで実現しようとする企業の姿は、非常に難易度の高いものだということを認識するべきでしょう。


中小企業こそDXを推進するべき理由を教えてください。

中小企業がDXを推進するべき理由は「新しい顧客体験を提供し、顧客満足度の向上と収益向上につなげるため」です。

中小企業は大企業に比べ経営資源や人的リソースが乏しく、毎日売上を上げていかなければ倒産してしまうケースもあると思います。そのため、大企業のようにAIの研究を行うといった取り組みはハードルが高く、業績アップに直結する施策の実施を優先しなくてはいけません。具体的には、売上に直結しやすいマーケティングや営業といった分野から、DXを推進することが大切です。

DXの基本的な実施メリットは、新たな顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)を提供して業績アップを実現できることです。

例えば、お客さまがWebページの特定箇所をクリックしたら定型メールが送信されたり、動画を再生させたりする施策を、スタッフがアナログで行うことは非常に面倒です。しかし、MAツール(Marketing Automation Tool)を使えば、こうした作業を自動化できます。お客さまの視点からみても、最適なタイミングで最適な情報が得られることになるため、顧客体験の向上につながるということです。

また有人対応のカスタマーサポートの場合、営業時間外になると電話がつながらなくなります。しかし、ホームページにチャットボットを導入すれば、24時間顧客対応ができますから、顧客体験を高めることが可能です。

また、大企業に比べ中小企業のほうがDXを推進しやすい理由もあります。大企業は既にシステムが導入されているため、かえってDXを推進しにくい状況にあります。一方、そもそもシステムが入っていない中小企業は、ゼロから新しいしくみを作り上げることが可能です、そのため実は中小企業のほうがDXを推進しやすいのです。


DXを推進するためには、さまざまなデジタルツールや最新のテクノロジーの活用が欠かせないと思いますが、中小企業のDXに有用なものをいくつか紹介してください。

中小企業のDX推進に有効なデジタルツールは、非常にたくさんあります。代表的なデジタルツールは以下の通りです。

中小企業がDXを推進する際、特に有効なデジタルツールは、マーケティング活動の効率化や業績アップにつなげやすいMAツールやSFAツール、コミュニケーションツール、RPA、BIツールなどが挙げられます。

多少のITリテラシーは必要ですが、特に中小企業は「Googleのデータポータル」などのBIツールを有効活用するべきでしょう。車のダッシュボードのようなインターフェースで、会社の経営状況を一目でわかるようにできます。無料のツールもありますので、有効活用して、リアルタイムに経営状況が把握できるようにしておくことは、非常に有用です。

一方、既に導入している企業も多いと思いますが「Zoom」などのミーティングツールも、費用対効果が高いです。交通費を削減し、移動もなくなるため仕事に取り組める時間が増え、生産性も上がります。また、中小企業はスタッフ間の伝達手段に乏しいケースも多いので「Chatwork」や「Slack」などのチャットツールなどを活用して、社長の声がダイレクトにスタッフへと伝わる環境を用意することも効果的でしょう。

しかし、中小企業ではスタッフ一人ひとりに端末が貸与されないことが多い点も、課題となります。そのため、まずは全スタッフにスマートフォンを貸与し、デジタルツールに慣れてもらうことから始めることが必要です。


従業員が5名程度の企業においてDXを推進しようとする場合、だれが音頭をとるべきでしょうか?

最近の若い方は新しいシステムを触ることに長けていて、少し使用するだけで使いこなせるケースが多いです。いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる20代の若いスタッフをDX推進担当者に据えて、自由に施策の検討・実施を任せるといいでしょう。

若いスタッフをDX推進担当者に抜擢することで、スピード感を持って進めてくれるケースが多いです。

ただし、業務知識などに関しては足りない部分もありますから、先輩社員のサポートは必須と考えてください。

取り組み次第で客単価10%アップも!中小企業DX導入成功事例

小規模、中小企業でDXに成功した企業の事例を紹介してください。
ビジネスホテルにおけるRPAの活用事例

現在、多くのホテルがダイナミックプライシングを採用しており、予約サイトなどに顧客がアクセスすると日によって料金が変動します。料金の調整はスタッフの勘と経験による、アナログ作業で行われるケースがほとんどです。この作業には多くの工数が必要なことに加え、適切な料金に調整しきれない事例も散見されます。

そのため平日と週末くらいしか変更しない、一律料金にしているところも多いようです。しかし、ダイナミックプライシングを適正に実施することで、売上の向上が期待できます。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

そこで、この作業をRPAの活用によって自動化することにしました。具体的には、ホテルの予約サイトに反映させる情報を一元管理するシステムを、RPAで自動操作するしくみを構築したのです。

客室の稼働率に応じて最適化されたテーブルを準備し、RPAが適宜確認しながらこまめに料金を調整できるようにしました。稼働率が80%のときは1万円、50%のときは7,000円といったように、稼働率が上がるほど料金も上がるように設定されています。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

その結果、人手による作業を行っていたときに比べ、客単価が10%程度上がりました。さらに、これまで作業にかけていたリソースを別のコア業務に割けるようになったことで、サービスの質向上にもつながったそうです。

RPAは通常、作業工数を減らすといった業務効率化を目的に活用されるケースが多いのですが、中小企業にはそれほどたくさんの作業があるわけではないので、費用対効果が低くなりがちでしょう。そのため中小企業がRPAを活用する場合は、売上向上を目的とする視点を持つことも非常に重要です。

ゴルフ場や美容室、エステなど、比較的客単価が高いビジネスを行っている業界においては、同じようなしくみを取り入れはじめているところが増えています。

なお今回お話した内容の詳細は、書籍『中堅・中小企業のための「DX」実践講座』で確認できますので、こちらも併せてご確認ください。

指標設定や最適なツール選定が成功の鍵!DX化において注意すべきポイント

中小企業はDXを進めづらいと言われる原因を教えてください。

中小企業でなかなかDXが進まない原因としては、4つの壁が存在することが挙げられます。

1つ目の壁は「全体最適視点の欠如」です。会社にはさまざまなシステムが導入されていますが、部署ごとにバラバラなケースが散見されます。会社全体を俯瞰的に見て、システム導入の設計ができているケースは非常に少ないでしょう。

近年、クラウドなどの安価で便利なデジタルツールが多いので、部署ごとに「どんどん導入しよう」という流れになりがちなのが、その理由です。

しかし、そういった行為が2つ目の壁となる「システムバラバラ問題」を引き起こします。部署ごとに導入したシステムは、他のシステムと連携していないことが多く、二重運用や非効率な業務フローの発生原因になり得るでしょう。

3つ目の壁は「DX推進の中心人物がいない」ことです。中小企業は大企業のように人材が豊富ではないので、そもそもDXを推進できる人材がいないケースがほとんどでしょう。DXを推進できる人材はITだけでなく業務にも精通している必要があるので、中小企業が獲得、育成するハードルは非常に高いと思われます。

4つ目の壁が「目的の欠如」です。よくある手段と目的をはき違えるケースで、デジタルツールを導入すること自体がDXの目的になっているパターンです。何のためにDXを推進するかという目的がないまま、DXを推進しようとする中小企業が一定数存在します。

多くの中小企業に、これら4つの壁が存在しているため、DXが推進しにくいのです。


中小企業が社内でDXを推進するときに、注意しておくべきポイントを教えてください。

中小企業におけるデジタル化がうまくいなかい理由は、いくつかあります。

いきなりデジタルツールを導入してしまう

「〇〇っていうツールが良いらしいぞ」という話を聞いて、いきなりデジタルツールを導入すると、失敗する可能性が高いでしょう。やはり導入目的の決定と、設計図を作成して成功への道筋を見出せなければ、大きな成果は期待できません。

掛け声だけで、目的があいまいなまま進めてしまう

「DXを進めるぞ」という掛け声だけで、目的が設定されていないと、失敗する可能性が高い傾向にあります。どのような目的でDXを推進するのかということを明確化しておくことが必須と考えてください。

投資回収のシミュレーションをしていない

例えば「このデジタルツールを導入することで、どの程度の粗利が実現できるか」という試算をまったく行わずにDXを推進するのはNGです。もちろん、投資回収の試算は机上のものなので、本当に同じような結果になるかは分からない部分もあります。

しかし、何も試算していない場合には検証すらできません。想定通りだったのか、そうでなかったのかを把握するためにも、仮説でよいので投資回収のシミュレーションを実施しておきましょう。

投資がいくらかかっても、回収ができれば問題ありません。例えば1,000万円投資しても3,000万円のリターンがあれば、実施する判断ができます。経営者であればこうした発想を持てますが、総務や購買部門の方の場合、こうした発想は持ちにくいかもしれません。実際、費用を抑えることにばかり終始しがちで、リターンのことまで頭が回らないケースが多いです。そうなるとデジタルツールの導入もコスト圧縮にフォーカスされる可能性が高まり、大きな効果が期待できなくなります。

ITベンダーの言いなりになってしまう

情報の格差もあるのでハードルは高いかもしれませんが、なんでもかんでもITベンダーに言いなりになるのは非常に危険です。やたら高いデジタルツールや最新のものをすすめたがるITベンダーもいますが、中小企業側としては実績のあるデジタルツールを、適度な価格で導入したいと考えるのが一般的だと思いますから、見極めは慎重に行いましょう。

最新かつ高機能のデジタルツールを導入しようとする

身の丈にあったデジタルツールを導入することも、DXを成功させるポイントです。高機能でも使いこなせなければ意味がないので、必要最低限の機能が提供されたものを選ぶようにしましょう。

AIで何でもできると考えている

AIは何でもできる魔法のツールだと思われている方も多いのですが、これは大きな間違いです。AIで実現できることと、そうでないことを理解し、自社で有効活用できるかどうか判断しましょう。

効果検証のための指標を設定していない

どの指標が上がったら、デジタルツールの導入が成功したのかという点を、最初から想定することが必要です。また、それぞれのKPIの目標値を設定しておくことも、忘れないようにしましょう。

専門家へ外注?DXの設計図から内製?中小企業がDXを実現する方法

社内に情報システム部門などがない中小企業がDXを推進する場合、だれに相談したらよいのでしょうか?

DXを推進する人材は、業務とITの両方に精通している必要があります。そのため、DXを推進する場合は業種特化型のITベンダーかITに詳しいコンサル会社に相談するのが得策です。業種特化型のITベンダーであれば業務に対する造詣が深く、その業種が抱える一般的な課題や問題、導入すると便利なデジタルツールなどの知見が豊富ですから、話が早く進められます。


外注せず、社内でDXを推進する方法を説明してください。

外注せずに社内でDXを推進する際には、DXの設計図を作ることから始めましょう。自社の「どこに」「どのような」システムがあるかを把握するために作成するもので、我々は「DXジャーニーマップ」と呼んでいます。

経営者の方もこの作業を通して、社内のシステムについて理解を深めることができます。そのうえでデジタルツールを導入して社内のシステムを全体最適する方向性を検討してください。

ただし厳密にやろうとすると非常に大変なので、DXジャーニーマップはざっくりでよいです。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

DXジャーニーマップを作成するには、まず業務プロセスの洗い出しが必要です。

業務プロセスを洗い出す場合は、多くても7つくらいに抑えるのがポイントです。もちろん事業が複数にまたがる場合は、事業ごとに切り出す必要がありますが、基本的には一覧で俯瞰できるような7つ程度のプロセスにまとめます。

上図のように「集客」「営業」「受注」「案件対応」といった大まかな業務プロセスがある中で、現状どのようなデジタルツールを使っていて、将来的にどのようなものに置き換えるべきなのかといったポイントを整理します。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

次にDXで達成したい目的を明確化します。業績を上げたい、生産性を上げたい、残業時間を減らしたいといった、具体的なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指数)を設定しましょう。例えば、集客であればWebからの問い合わせ件数を月に20件程度取りたい、営業であれば成約率30%を達成するなど、達成したいKPIを具体的に設定します。そして、BIツール(Business Intelligence Tool:企業に蓄積されたデータを収集・分析し、意思決定をサポートするためのデジタルツール)を活用して、各種KPIの達成率を経営層がリアルタイムに把握できるようにすることがポイントです。

DXを推進する場合には、まず全体像を整理しておかなければ、そもそも何も手を付けられないでしょう。そのため、DXジャーニーマップを作成しておく必要があるのです。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

ここまで整理できたら、次は各デジタルツール同士を連携して業務の無駄を省くために、システム全体を俯瞰しましょう。API(Application Programming Interface:ソフトウェアの一部機能を簡単に共有するしくみ)やRPA(Robotics Process Automation:ヒトがパソコンで行っている定型作業を、ソフトウェアロボットに代替させることで自動化を実現するデジタルツール)など、具体的な実現方法について検討します。

最後に、新たなデジタルツールなどの導入によって、どのような顧客体験が提供できるのかプロットします。例えば「24時間顧客からの問い合わせに対応できるようになる」「在庫の問い合わせに即時回答できる」といった提供価値を、DXジャーニーマップに記載することが想定されるでしょう。

出典:中堅・中小企業のための「DX」実践講座|船井総合研究所

例えば、上記は自動車販売店のDXジャーニーマップのサンプルですが、DXで達成するべき目的であるKGI(Key Goal Indicator)を大上段に設定し、業務プロセスごとのKPIを設定しています。そして、それらを実現するために必要なデジタルツール同士を、どのように連携させるか記載しておきましょう。その下に、提供したい顧客体験を整理します。

しかしDXジャーニーマップを作成するためには、業務とITの両方の知識が必要なため、容易に実践できないケースも想定されます。自社内でDXを推進する場合には、DXジャーニーマップを『中堅・中小企業のための「DX」実践講座』といった書籍などを参考にしながら作ってみたり、DXのワークショップなどに参加してノウハウを学んでみるのもよいでしょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

斉藤 芳宜(株式会社船井総合研究所 ライン統括本部 事業開発室 ディレクター)

神戸大学経営学部卒業後、大手通信会社に入社。IT関連の新規事業立ち上げのチームリーダーを経て、2004年に船井総合研究所に入社。現在、テクノロジーを活用して企業に変革をもたらす新規事業開発の責任者であり、RPAを活用した自動化システム、データドリブン経営などを推進している。著書に「中堅・中小企業のための『DX』実践講座」(日本実業出版社)、「図解よくわかるこれからのデジタルマーケティング」(同文舘出版)がある。

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