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弁護士に相談したいけど顧問契約とスポット契約どっちが正解?弁護士事務所に直接聞いてみた!

2021.05.18

著者:弥報編集部

監修者:棚田 章弘

中小企業はフットワークが軽く、早いペースで新規事業やサービスをリリースできる強さがあります。その反面トラブルに巻き込まれる可能性も高いため、リスクヘッジのために法の専門家である弁護士の力を借りられるようにしておくと安心です。

今回は大谷・佐々木・棚田法律事務所の弁護士である棚田 章弘氏に、中小企業の経営者が弁護士を雇う必要性や選び方、選ぶ際のポイントについてお聞きしました。また、どのような場合に顧問契約するべきかについても伺いましたので、参考にしてください。

弁護士が中小企業から受ける相談は労働問題がメイン

中小企業が弁護士を頼るシーンとして、一般的な事例を教えてください。

最近は労働問題が非常に多く、内容としては解雇無効や残業代、労働条件に関するもの、36協定への抵触や就業規則の確認が一般的となっています。会社内の労働組合ではなく、公益ユニオンに所属して団体交渉を申し込むケースも多いです。この場合、社内組織ではないため、かなり厳しい要求を出してくることも珍しくありません。特に、会社を辞めた方がそのユニオンに属している場合は、難しい事案になることもあります。

具体例をあげると、退職勧奨でも解雇とみなして話をしてきたり、解雇を言い渡された即日に弁護士へ相談に行き、翌日には通知書が届いたりするケースもあります。このように、最近は労働者側の権利意識や知識が高まっているため、すぐに弁護士に依頼する傾向がみられます。成功報酬型の事務所も多く、弁護士に依頼しやすい環境になってきているのも一因として考えられるでしょう。

その他に、どのような案件が多のでしょうか。

契約書のリーガルチェックなども多いですね。契約書は、どちら側が作るかも重要になります。また、相手方も中小企業で交渉の余地があるのか、それとも相手方が大企業で従わざるをえないものなのかによっても、対応は大きく異なります。

後者の場合、「契約内容を修正できないなら、弁護士に頼む意味がない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、リーガルチェックをしっかり行うことで将来的なリスクの予見が可能です。不利な条件で契約してしまうと、会社の倒産につながるケースもあります。契約前にどのようなリスクがあるのか把握し、契約の最終判断材料とするのがお勧めです。

また、契約期間も大事なポイントです。契約期間が長いものや自動更新がある場合は、要注意と考えましょう。先日あった事例になりますが、広告契約が自動更新とされており、期間は3年に設定されていました。契約金も非常に高額かつ途中解約できない契約となっていたため、依頼者の方は大損する結果となってしまいました。

長い契約書にも、注意が必要です。皆さん、契約内容が長くなるときちんと読まなくなる傾向がありますが、長い契約書ほど面倒な条項がたくさんついている場合が多くなります。総合的に考えると、一度弁護士にリーガリチェックを依頼したほうが無難といえるでしょう。

中小企業から取引先へ契約書を提示するケースで、弁護士に依頼するメリットを教えてください。

中小企業側から契約書を提示する場合も、弁護士に依頼することで将来的なリスク抑制につながります。

よくある事例が、特定の業界の方にしか分からない単語を多用した契約書です。もちろん、何も問題が起こらなければ良いのですが、裁判沙汰になると面倒な事態に陥る可能性があります。裁判所が内容を見たときに意味が分からないと、最悪敗訴する場合もあるでしょう。

裁判所に単語の意味をきちんと説明して理解させることも、非常に手間と時間がかかります。説明して終わればまだ良いのですが、相手側が「いやいやそういう意味じゃない」と言ってきた場合には、どちらが正しいのかについて議論が必要となり、かなりの時間が必要です。その結果、相手側に反証する機会を多く与えることになり、敗訴する可能性も高くなります。

したがって、中小企業はリスクを排除するためにも、弁護士に契約書をチェックしてもらい、第三者でも分かる内容か確認してもらうことが重要なのです。

債権回収などの場合も、依頼したほうが良いのでしょうか。

債権回収においては、回収したいという思いが強い場合、やはり弁護士を入れたほうが良いでしょう。

スポットで頼む場合でも、回収方法はいくつかあります。普通に手紙を送る場合もありますが、裁判手続など法律上の手続きをとる場合には「支払督促」という制度を使うことが多いです。

さらに、回収確率を上げたい場合には「保全」という手続きがあります。この手続きは、仮に債権を回収する権利があることを裁判所に証明できれば、仮押さえしてもらえる手続きです。裁判になると1年程度の期間が必要になりますが、不動産などを売却されないように仮押さえできます。

保全手続きを実施することで債権回収が早くなり、相手側から和解を申し出てくるケースも多いです。

「明朗会計システム」と「誠実さ」で弁護士を選ぶ

中小企業の経営者が、弁護士を探す方法を教えてください。

私のところに相談に来られる方は、だいたい3パターンぐらいに分類されます。

1つ目は知り合いからの紹介パターンです。顧問先の中小企業や税理士から紹介を受けるケースが多くあります。

2つ目がネットを見て来られるパターンで、3つ目は弁護士会の法律相談の場に来場されるパターンです。3つ目のパターンは、法人ではなく個人がほとんどになります。

紹介パターンのメリットは、ある程度付き合いがある中での紹介なので、紹介者のお墨付きをもらっている弁護士だというところです。デメリットとしては、紹介された弁護士ということもあり、断りづらい面もあります。例えば、紹介してもらったものの、費用が非常に高い場合などに困るケースもあります。

ネットで検索する場合、初見で自分が相談したいジャンルに強い弁護士を見つけるのは困難だと思います。その際、そのジャンルに強い弁護士を選ぶか、会社から近い事務所の弁護士を選ぶかどちらが良いのでしょうか?

難しい部分もあるとは思いますが、個人的にはどのジャンルの専門性を有しているのかが重要だと思っています。

例えば、離婚事件とか遺産分割事件という案件であれば、実はそれほど高い専門性は必要ないというのが私たち弁護士の考えです。また、一般的な企業法務の契約書文言チェック程度であれば、企業にとって有利・不利の判断にそれほど高い専門性は必要ないでしょう。

一方、専門性の高い領域ですと知的財産法や医療過誤事件、建築紛争などが挙げられます。あとは特殊な業法が絡む分野の場合は、専門性が必要になる場合が多いでしょう。

ネット検索のメリットは、お客さま側でいろいろな弁護士事務所を比較しながら選べるところにあると思います。実際にネットで見つけた法律事務所に相談にいったとしても、相談だけでものすごい金額を取られるということは、まずありません。

また初回相談は無料というところも多いので、いくつかの法律事務所や弁護士に相談して、ご自身が信頼できると感じたところに決めるのが良いでしょう。

中小企業の経営者はどのような弁護士を選ぶべきなのでしょうか?経営者目線で、顧問弁護士を選ぶ際のポイントを教えてください。

まず明朗会計であることが、最も重要なポイントだと思います。

例えば、依頼時にあらかじめ見積もりを出してくれるか、契約書を適切に作ってくれるかという部分です。少なくとも契約段階にいく前までに「費用は〇〇円です」と書面などで明確に分かる形で示してくれる弁護士を選ぶべきでしょう。後になって「こんな費用かかりました」と請求されても、困りますからね。

次に、業務範囲を明確化してくれる弁護士を選ぶことも大切です。

スポットで依頼する場合、その費用で対応してくれるのが訴訟までなのか、強制執行までなのかといった具体的な手続き内容と、必要となる費用に関する説明があるかどうかが重要になります。誠実な弁護士であれば、きちんと教えてくるはずです。もちろん説明が分かりやすいことも重要なポイントです。

そして、不利なことは不利だと明言してくれる弁護士も、信用できると思います。自分の都合の良いことしか言わない弁護士よりも、きちんとリスクを説明してくれるほうが信用できると考えましょう。ここに関しては、依頼する側も勝ってほしいという気持ちがあるため、難しい部分ではあります。リスクを説明したうえで「今回はこういう方針でいきましょうか」と方針を示してくれる弁護士は信頼できると考えてください。

あとは、やはり「この人にお願いしたい」と直感的に思える弁護士かどうかは、大事だと思いますね。

弁護士を雇う際の費用相場や料金体系などについて教えてください。

ご存じの通り、現在弁護士の費用は業界的に自由化されているため、決まった基準はありません。ただし、実際には旧弁護士会報酬規定を基に算定している法律事務所が多いと思います。

【参考】
(旧)日本弁護士連合会報酬等基準※事務所によって異なる場合がございます。

例えば300万円未満の事件の場合には、着手金は経済的利益の8%、報酬金は16%です。そこから3,000万円までは、着手金は5%プラス9万円、報奨金が10%プラス18万円になります。しかしながら、3,000万円を超える事件というものは、なかなかないと思います。こちらを参考に、あとは個別交渉してみてください。

税理士などの場合、1月〜3月くらいが繁忙期であまり仕事を頼めないイメージがあるのですが、弁護士に仕事を頼みやすい時期はあったりするのでしょうか?

弁護士は、裁判があると忙しくなります。裁判所というのは7月から8月にかけてと、3月終わりから4月頭にかけて休廷期間と異動のシーズンになるため、裁判が入りません。したがってこの時期であれば、弁護士に比較的楽にアポイントが取れると思います。

一方で、繁忙期らしい繁忙期というのは実はないのですが、しいていうならば12月の末ですね。裁判所が年内に案件を終わらせたい事情もあり、年末は若干忙しくなる傾向にあります。

顧問契約かスポット契約か、企業にとっての必要性を見極める

中小企業の経営者が弁護士と顧問契約を結んだほうが良いと思う条件があれば、教えてください。

事業規模が小さなケースや大きな金額の取引がない場合は、顧問契約を締結してもあまり相談することがないと思われます。そのような場合は、スポットで依頼したほうが良いでしょう。あとは取引規模は大きくても、ほとんどが定型的な契約であるケースや交渉して決まるような契約ではない場合も同様です。

小売業などは特にそうだと思いますが、一般のエンドユーザーと現金取引する場合や、仕入れもほとんどないような場合はトラブルも少ないと思いますので、顧問契約は必要ないでしょう。ただし従業員の数が増えてきた場合は、法務的なリスクを鑑みて顧問契約を検討してみても良いかもしれません。

顧問契約するメリットには、どのようなものが考えられますか?

顧問契約における一番のメリットは、弁護士に早期相談ができるところにあります。

普段からいつでも相談できるラインがあることで、「この企業ちょっと怪しい」「取引先との証拠で怪しいものがある」といった場合に、リスクを予見して対処することができます。そして、いざ本当にまずい状況になった際には、準備した証拠を持って裁判に臨むことで、早期解決につながる可能性も高いでしょう。

また顧問弁護士に依頼して、社内向けの研修などを気軽に行える点もメリットです。例えば、債権回収や危ない会社を見抜くコツなどをテーマにした研修を実施し、社員のリテラシーを向上させることで、リスクの抑制にもつながります。

信頼できる弁護士と顧問契約しておけば、常日頃から相談できる環境が整います。やはり、何かあったらすぐに電話をして聞けるという安心感は、大きなメリットですね。

顧問弁護士を雇う際の費用相場や料金体系などについて教えてください。

顧問契約の費用は、1か月で3万円や5万円程度が一般的だと思われます。日本弁護士連合会が取ったアンケートにおいても、そのような結果となっているようです。

ただし顧問料の違いは、相談回数や業務量によって異なります。本当にすぐに答えられるような内容であれば顧問料の範囲で対応できますが、調べる物や手続きが多い場合は別料金になる可能性が高いでしょう。

ちなみに私だけの話でいうと、月3万の場合であれば電話とFAX、メール、法律相談はいくらでも対応します。何かを調べた場合でも、別途請求はしていません。契約書に関しては、月1本までは一部文言の修正ぐらいはおこないます。

したがって企業が顧問契約をする場合、概ね3万〜5万の範囲に収まることが多いでしょう。

弁護士を決めて、実際に顧問契約を締結するときの注意点を教えてください。

業務範囲の確認が一番です。やってくれる業務の範囲がポイントになりますので、必ず押さえるようにしてください。

お願いしたものを、すべてやってくれるということはありませんので注意しましょう。なんらかの必要性があって顧問弁護士にお願いするわけですので、最初にやってほしいことをきちんと整理して伝えておくことも重要です。

また、すぐに連絡がつきやすいかどうかもポイントになります。もちろん顧問先であれば概ね連絡は取れますが、小まめに対応してくれるかどうかも大切です。ちなみに弊社の弁護士は、たまに夜中でも電話を受けるケースがあります。とはいえ携帯電話の番号まで教えてくれるかどうかは、ケースバイケースです。そこまではしないとしても、ていねいに対応してくれる弁護士かどうかを見極めることが大切と考えましょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

棚田 章弘(棚田法律事務所 弁護士)

中央大学法学部卒業。清水総合法律事務所入所、大谷・佐々木・棚田法律事務所を経て、2024年棚田法律事務所を開設。
一般民事、企業法務を問わず、広く事件を扱っており、特に専門分野を絞らず幅広い相談に対応。日頃から相談しやすい事務所、アクセスが容易な事務所を目指し、業務に従事。

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