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「小売ビジネスの未来はどうなる?」リテールを知るための5冊【連載:読むべき優良ビジネス書】
2019.08.26
スモールビジネスパーソンのために、年間300冊のビジネス書を読破するプロ書評家・坂本海氏におすすめのビジネス書を紹介していただく連載企画。毎回のテーマに沿ってビジネス書から得られるヒントを元にスモールビジネスを考えていくことで、本から得られる学びをお伝えしていきます。
今回のテーマは「リテール」。Amazon(以下、アマゾン)を中心としたEC(electronic commerce)の利用が当たり前となり、小売ビジネスでは大きな環境変化に晒されている現在。リアルとネットに関するビジネス書を元に、小売ビジネスの将来について考えます。
目次
本当にリアル店舗は淘汰されるのか?
今、アメリカではアマゾンの影響で、リアル店舗の大量閉店が起こっています。その範囲は、書店に限らず、服飾・雑貨店、家具店、食料品店からデパートまで、あらゆる小売業に及んでいます。
アメリカの消費者の2/3以上が毎月オンラインで買い物をしていて、毎週ECを利用している人は、2015年に33%を記録しています。これから先、もはや消費者はリアル店舗では買い物をしないのでしょうか。
日本でもデパートの閉店など、リアル店舗の閉店が話題になり始めています。経済産業省の調査によれば、日本のEC化率は2018年時点で6.2%。アメリカに比べれば低いものの、毎年少しずつEC化が進んでいます。
EC化が進むとどうなるのかについては『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』(商業界)で、以下のように考察されています。
つまり、各店の売上に占めるEC比率が高まれば、店舗を維持することが困難になり、店舗の役割がショールームとなってしまう。顧客は店舗で実際の商品を見て、スマホでECから購入するようになるのです。こうした状況で、店舗が生き残るには、店舗の良い部分とECの良い部分のいいとこ取りが求められるようで、これはリアル店舗を運営する小売事業者にとって、かなり厳しいと言えるかもしれません。
世界で最も進歩している小売店
今、最も進んだ小売店として注目を集める店舗が、上海や深圳など中国の都市部にあります。中国の巨大IT企業アリババグループが展開するスーパー「盒馬鮮生(フーマー)」です。
フーマーは、ECのメリットとリアル店舗のメリットを合体させ、優れた顧客体験を提供しています。ECで生鮮食品を購入できるのはもちろん、店舗で購入した生鮮食品も30分以内に無料で届けてもらえます。顧客は店舗から荷物を持たずに帰ることができます。
まさに店舗が生鮮食品のショールームとなっていて、さらに、当然すべてがスマホ決済。顧客の行動データは分析され、在庫管理から商品のレコメンドまで、店舗運営もECと同じように最適化されます。
今後、モバイルやIoTの発展で、こうしたECと垣根がないリアル店舗は、ますます増加していくと考えられます。あくまでリアル店舗は、顧客接点の1つとして考えられ、「オフラインが存在しない状態」を前提としてビジネスを展開する――。こうした考え方は、「OMO(Online Merges with Offline)」(オンラインとオフラインの融合)と呼ばれ、すでにアマゾンやアリババをはじめとする企業では取り組みが始まっています。
上記の小売ビジネスにおける最先端の考え方や事例を知るには『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(日経BP社)がおすすめです。もはや「リアル店舗かECか」という優劣を考える時代ではないことを考えさせられます。
リアル店舗の勝算「体験の価値」
さて、スモールビジネスを展開する立場に立った時、アマゾンやアリババのように、ECとリアル店舗の融合を行うことは、人材や資金などのリソースの面でも不可能に思えます。そもそも、楽天などを利用してECを展開するリアル店舗すら現在はまだまだ少ないのではないでしょうか。
では、スモールビジネスにおける店舗に未来はないのか。ここまでEC化が進んでいる話を紹介してきましたが、実はEC化が進む一方で、逆の現象も起こっています。それが『アナログの逆襲』(インターシフト)です。
小売市場全体としてみれば、EC化が進んでいるのは間違いありません。しかし、そうした市場環境において、レコード店が世界中で増加していたり、減少する一方であった書店がまた増え始めています。
その理由として、リアル店舗の強みが見直されているようです。例えば、直接顧客に商品を売る「手売り」の文化(顧客と店員の交流)、棚やラック、並べ方から、照明、音楽、装飾、香りといった店舗にしかできない販売促進などです。
ECは確かに便利で、商品が豊富、価格が安いといったメリットがあります。しかし、「買い物体験」という点では、リアル店舗には劣ります。顧客は、店に品物を買いに行くというよりは、その店らしさを感じ、商品を見て回る体験をするために、店舗に行くようになったのです。
『アナログの逆襲』では、レコード、万年筆、紙のノート、フィルム写真、ボードゲーム、凸版印刷など、アナログなモノの復活した事例が紹介されています。デジタル・テクノロジーが進歩した結果、その利点と欠点を公正に判断できるようになったため、アナログの良さが見直されているといいます。
デジタルに囲まれた現代生活で、私たちはもっとモノに触れる経験、人間が主体となる経験を渇望している。商品やサービスに直に触れたいと望み、多くの人がそのためなら余分な出費も厭わない。たとえ同じことをデジタルでするよりも、手間がかかって高額でも。(同書より引用)
このあたりに、これからの店舗が生き残っていくヒントがありそうです。
また、店舗の生き残り方について考えるには『小売再生 ―リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)も参考になります。
これからの店舗は、身体性を大事にし、製品に対して本能的に「触れる」「試す」「感じる」「体験する」という行為が楽しめないといけないといいます。ECが普及したからこそ、逆にリアルの価値が高まっていく。ECにない買い物体験を提供できるかが大切です。
個性的な店舗をつくるのは、むしろ大規模チェーンよりも、個人経営のスモールビジネスこそ向いています。優れた顧客体験とは何かについて、今一度考えるきっかけとして、読んでみてはいかがでしょうか。
買い物客を攻略する
最後に1冊、店舗における顧客体験を考える上で、参考になる本を紹介します。
買い物客は何を考えてモノを買うのか。買い物客の脳の動きをリサーチして、それを解明したのが『買いたがる脳』(日本実業出版社)です。ここで書かれている心理学の手法は、様々な広告やPRに用いられています。
どのようにすれば、買い物客に「欲しいし必要」と思わせることができるのか。これがわかれば、店舗で顧客に商品やサービスを購入してもらうことができるはず。方法は6通りあります。
①買い物客に「作業」を与える
顧客が成果に関わっている感覚を生み出せると、顧客が感じる商品価値を高めることができます。顧客は掘り出し物を見つけるといった作業で、購入意欲が高まります。
②希少性を作り出す
希少性は精神や身体の強い興奮状態を生み出し、商品をめぐる競争の激しさに比例して、「手に入れたい」という願望が強まります。
③「それだけではありません」というお得感で買う気にさせる
値引きによるアピールまたは、別のアイテムの追加や大幅な値引きなどの方法で、購買の可能性は高まります。
④楽しさを演出する
人は楽しく遊んでいる時、買い物する気分になる傾向が強い。
⑤気分転換に「必要なもの」にする
顧客が、時間を持て余して気晴らしを求め、緊張感をほぐしたいという場面で売る。
⑥「問題がある」と感じさせる
顧客の不安を助長し、その解決策として商品やサービスを売る。
ここで紹介されている方法は、すでにお店で何気なく使っているかもしれませんが、どれも心理学的に有効なものとして裏付けられているようです。ぜひ参考にしてみてください。
5冊の本を通じて、小売ビジネスの未来について考えてきました。間違いなさそうなことは、日本でもアメリカと同じようにEC化は着実に進むということです。つまり、リアル店舗の売上は減り続けるということです。これまで通り、お店を開いているだけでは生き残ることが厳しい時代がやってきました。
生き残るために大切なのは「優れた顧客体験を提供する」ことです。スモールビジネスは、小回りが効き、柔軟な対応ができます。個性も作りやすいです。そういう意味では、これからの時代はスモールビジネスにとって、むしろチャンスなのかもしれません。
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この記事の著者
坂本 海
兵庫県出身。大学卒業後、半導体商社を経て、SBIインベストメントでベンチャー投資の審査や経営支援に従事。現在はスタートアップ企業において事業戦略・ファイナンスを担当。書評・要約サイト「ブックビネガー」編集長。ビジネス書読書会「朝・カフェで読書会」主宰。2019年5月 ぱる出版社より「神・読書術」を上梓
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