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中小企業や飲食店・小売店が行うべきインバウンド(訪日外国人)に向けた準備とは?

2016.10.21

中小企業や飲食店・小売店が行うべきインバウンド(訪日外国人)に向けた準備とは?

はじめまして。筆者は10年以上中国に駐在し、コンサルティング会社を経営しています。主な業務としては日系企業の越境EC(国を超えた電子商取引)や中国人観光客に対するインバウンド支援、インターネット・SNSでの情報発信などを行っています。

今回は、中小企業や飲食店・小売店でもできるインバウンド対策をご紹介します。外国からの旅行者は年々大きく拡大しています。ぜひこれを読んで、ご自身のビジネスにも取り入れてみてくださいね。

急速に伸びるインバウンド市場

近年よく耳にするようになった「インバウンド(Inbound)」という言葉は、直訳すれば「入ってくる」という意味ですが、経済活動の視点からすると「訪日外国人」のことを意味します。2015年度の訪日外国人数は1,974万人で前年(1,341万人)に比べ47.1%増、訪日外国人全体の旅行消費額は3兆4,771億円と推計され、前年(2兆278億円)比71.5%増と大幅に増加しています(図1)。

図1:旅行消費額と訪日外国人旅行者数の推移 参考:訪日外国人消費動向調査|日本政府観光局(JNTO)を元に作図
図1:旅行消費額と訪日外国人旅行者数の推移 参考:訪日外国人消費動向調査|日本政府観光局(JNTO)を元に作図

2015年に日本を訪れた中国人は499万人で、国別では1位です。また、訪日外国人の旅行消費額を見ると、中国人が2015年に初めて1兆円を超え、訪日外国人全体総額の4割を占めました。2015年の新語・流行語大賞の年間大賞となった「爆買い」という言葉は、データでも裏付けられています(図2)。

図2:国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比参考:訪日外国人消費動向調査|日本政府観光局(JNTO)を元に作図
図2:国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比参考:訪日外国人消費動向調査|日本政府観光局(JNTO)を元に作図

実際、中国語圏(中国、台湾、香港)合計での旅行消費額は2兆円を超え、全体の63%。また、1人当たりの旅行支出では訪日外国人全体の平均で17万6,167円ですが、中国人は28万3,842円で圧倒的1位です。さまざまな国から観光客が来日していますが、実際の消費額を考えると、中小企業や飲食店・小売店にとって中国人(中国語圏)観光客への対策が最重要課題であることがわかります。

2016年3月、日本政府は訪日外国人数に関する新しい目標を決めました。2020年に2016年の2倍の年間4,000万人、30年には3倍の6,000万人に増やす強気の計画です。菅官房長官が2016年7月に行った講演では、ビザの緩和や首都圏空港の発着枠の増加で、まだ訪日外国人は増やせると発言しています。東京オリンピックを控えている日本のインバウンドマーケットはまだまだ大きくなると見てよいでしょう。

小さな企業でも中国人の「買い物リスト」に入ることができる!

増え続ける中国人訪日旅行客を呼びこむ方法にはどのようなものがあるでしょうか。有名観光地であればツアーや個人旅行者が自然と集まりますが、それ以外の地区となると、まずはアピールポイントの整理が必要です。その土地やお店の魅力をわかりやすく整理し、発信していく必要があります。

情報発信の方法としては、自社・自店ホームページや、FacebookやTwitter、LINEといったSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)が中心です。ただし、中国政府はグローバル・スタンダードの情報発信手段ともいえるFacebook、Twitter、YouTubeなどを規制していて、中国側からは閲覧することができません。

中国で使われているSNSはウェイボー(微博)WeChat(微信)などです。これらのアプリは日本からもスマートフォンやパソコンで使用することができます。中国語ができなくても、グーグル翻訳(たとえ100%正確でなくても)を使い中国に情報を発信し、特に写真を多く掲載するという手法が、お店や商品のアピールへの近道です。

現在でもお店に訪日外国人が訪れているのであれば、Wi-Fiを整備することも有効です。中国語のホームページやSNSアカウントを表示するためのQRコードを利用して、情報をお客さまから積極的に発信してもらう「仕掛け」づくりが、認知度を高めます。実際にそのお店を訪れているリアルな観光客からの情報発信が、良質な口コミになり、お客さまがお客さまを呼んでくれる好循環が生まれます(図3)。

図3:ウェイボーで発信される日本の外食店の情報
図3:ウェイボーで発信される日本の外食店の情報

中国ではメディアを政府が管理しているため、中国人はメディアの記事や広告をあまり信用していません。そのためSNSで友達から発信される口コミの効果は私たちが考える以上に大きく、そこから火がついて「爆買い」されている日本製品も少なくないのです。

訪日中国人の買い物の傾向としては、ほとんど事前に買うものを決めている指名買いが特徴的です(図4)。

図4:大阪心斎橋で事前に作成した買い物リストを見ながら買い物をする中国人旅行客
図4:大阪心斎橋で事前に作成した買い物リストを見ながら買い物をする中国人旅行客

つまり、中国人の買い物リストに入るように、事前に情報を発信するという方策が最も有効というわけです。訪日外国人へ物やサービスを提供するには、店頭で実際に商品を手に取ってもらって訴求するのではなく、情報がインターネット上で拡散されていき、その商品が「検索」結果の上位に表示されるような手段を講じることが、インバウンドでの消費、その後の越境ECなどでの輸出販売のチャンスにつながっていきます。

また、中国人の団体旅行の誘致には、まず日本側の受け入れる旅行社への働きかけが必要です。ただし、中国の旅行業界では、旅行社やガイドへのキックバックが必要な場合が多いという点も頭に入れておきましょう。

小規模事業者でもできる中国人向けインバウンド対策とは

増え続けるインバウンド消費。ただし、効果的な対策ができている中小企業や飲食店・小売店といった小規模事業者は少ないのが現状です。

まず中国人の好みを知ることが大切です。中国人の生活習慣や好みは、日本人と異なる部分も少なくありません。例えば日本製食器を売る場合、定食の取り分け用の食器はあまり売れません。円卓に大皿で料理を出すことの多い中国人には大皿のセット、また贈り物を重視するため、豪華な包装でセットにした商品が好まれます。つまり、中国人のニーズに合わせた商品開発や選択が重要になります。

中国人にインバウンドやネットショップで現在売れている商品で、日本人にはあまり知られていない商品も少なくありません。ブランド力のない中小企業の商品でも、ホームページやSNSをきっかけに、売上を伸ばした例がたくさんあるのです。

ホームページやSNSでの情報発信では、多くの読者やSNSのフォロワーを抱える、影響力のある「パワーブロガー」と呼ばれる方へアプローチして投稿してもらったり、日本の情報を発信しているSNS公式アカウントへ広告出稿したりする方法もあります。日本にパワーブロガーを招き、実際にサービスの体験、商品を使用してもらうなどして、感想を記事として投稿してもらえば、それが強力な情報発信の起点となります(図5)。

図5:SNSで発信される日本製品の口コミ情報
図5:SNSで発信される日本製品の口コミ情報

インバウンドで中国人に売れているものは、国を越えたインターネット経由の商取引である「越境EC」などの輸出でもよく売れています。旅行者は旅行が終われば国に帰ります。日本で購入した商品を、越境ECを利用して継続購入し、周囲の人にも薦めてくれるかもしれません。つまり旅行者の心をつかんだインバウンド対策を行えば、ブランドや商品の知名度が上がり、その後ネットショップを通じて、日本にいながらにして大きな中国輸出のビジネスチャンスが広がっていきます。

中国へ販売進出するには、従来は現地に法人を作り、駐在員を派遣するなど大変なコストがかかり、大企業でないと難しいものでした。しかし現在では、インターネットの浸透によって、中小企業や飲食店・小売店でもアイデアや取り組み次第で、大きな中国マーケットを目指せる環境になってきているのです。

自社製品やサービスの特徴を整理し、訪日外国人の特徴を知り、インターネットの力を使って自社製品を世界に売り込んでいきましょう。

対策の3つのポイント

  • 訪日外国人の消費額の半分以上を占める、中国や台湾といった中国語圏への対策が最重要課題
  • 中国で使われるSNSでアピールできるかが鍵となる
  • 訪日外国人にSNSで情報拡散してもらう施策をうち、越境ECによる販売につなげる

この記事の著者

高山 義弘(たかやま よしひろ)

フィールドマーケティングサービス(北京)有限公司 総経理。中国北京在住。1967年愛知県生まれ。味の素コミュニケーションズ在籍時に上海大学へ留学。北京天怡然有限公司総経理(日系商社と中国交通部との合弁企業)、SGS-CSTC Standards Technical Services Co., Ltd.を経て、フィールドマーケティングサービス(北京)有限公司を起業。日本企業の中国販売進出、Webプロモーションなどインバウンド対策を多数支援。

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