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取材も殺到?話題づくりのプロから学ぶ、小規模事業者のための「PR」の始め方

2016.11.16

取材も殺到?話題づくりのプロから学ぶ、中小・小規模事業者のための「PR」入門

日本の経済活性化には中小・小規模事業者の存在が不可欠。政府も起業支援や地方創生として力を入れていますが、こうした中小規模のビジネスをどう盛り上げるかが課題です。知名度が低く、広告費のかけられない中小規模の企業が集客や売り上げアップを図るには、話題づくり(=PR)が鍵となります。そこで、PRのプロであるネオマーケティングの荒木克彦氏に、PRの基本であるプレスリリースの上手なコツを聞きました。

PRは、メディアに見つけてもらう仕掛けを作ること

まずPRと広告の違いを教えていただけますか?

荒木:テレビや雑誌で見かける情報は、大きく分けて2つあります。1つはメディアにお金を払って掲載する「広告」と、メディア側が取材などを行って作成する「記事」です。PRというのは、この「記事」に取り上げられるための行動を指します。

広告だと掲載枠に対して費用を払いますから、雑誌でも数十万円から、テレビだと百万円単位の予算が必要で、さらに広告代理店を挟まなければならないケースがほとんどです。しかしPRは、メディア側が「取り上げたい」と考えて記事にするので、当然掲載料はかかりませんし、外部に依頼せずに自社だけで取り組むこともそれほど難しくありません。

なるほど、予算が少ない企業にはもってこいの方法ですね。

荒木:メリットはそれだけではありません。近年では、押し売りの広告が嫌われる傾向にあります。金銭のやり取りがなく、第三者からの紹介のため、PRは信頼性が高いと認識される傾向があります。この「コスト」と「信頼性」というのが、PRの大きな特徴といえます。

「新聞を見開いてみると、下段の3分の1が広告です。上段、中段の3分の2が記事です。どちらの枠内を信用しますか?」私たちがPRの有用性を説明するときによく用いる質問
「新聞を見開いてみると、下段の3分の1が広告です。上段、中段の3分の2が記事です。どちらの枠内を信用しますか?」PRの有用性を説明するときによく用いる質問
メディアに取り上げられるには、何から始めればよいですか?

荒木:メディアに見つけてもらう手段で代表的なものに、自社のニュースを自らメディアに売り込む「プレスリリース」があります。大きな企業の場合、自社のホームページにリリースを掲載するだけで、メディアが取り上げてくれる場合があります。しかし小さな企業の場合は、自分から売り込むことが必要です。まずはこのプレスリリースの効果的な書き方、メディアへの売り込み方を知ることが、PRを始める第一歩といえるでしょう。

効果的なプレスリリースのための3つのステップ

荒木:プレスリリースは、ただ自分たちの伝えたい情報を、やみくもにメディアに送っても、取り上げてくれるケースは多くないでしょう。取り上げてもらいやすくするには、まず「自己分析」、その後「メディア研究」を経て「情報提供を行う」という、大きく3つのステップが必要だと考えています。

プレスリリースを効果的に掲載してもらうには、大きく3つのステップが必要だ
プレスリリースを効果的に掲載してもらうには、大きく3つのステップが必要だ

ステップ1:自己分析

1つ目の自己分析について詳しく教えていただけますか?

荒木:自己分析は、メディアに見つけてもらうためにまずやってほしいことです。自社の商品やサービスの魅力や強みを分析して、それが顧客のニーズに合っているかどうかを突き詰めるのです。

その際には、自社の商品やサービスをとことん好きになってください。情報を発信していく際に、自社の商品・サービスが好きでなければ、熱意や思いは伝わりません。メディアの担当者も人間なので、熱意や思いのない情報は取り上げられる可能性が少なくなります。

われわれが提唱しているのは、自分自身が消費者として何かの商品やサービスのリピーターになったときに、「なぜその商品やサービスを好きになったのか」を徹底的に考えてみることです。

好きになった商品やサービスには、「接客がすごく良かった」「手書きの手紙が来た」など、好きになった瞬間があるはずです。その経験をもとに、自社の商品やサービスをどのように育て、ブランディング(ユーザーに商品価値を認識させ、一定の市場価値を築く)し、どのようにお客さまとコミュニケーションすべきかをイメージしていくのです。

自社の商品やサービスはどんな特徴があって、どんなターゲットに刺さるのか。何事も自己分析から始まると荒木氏
自社の商品やサービスはどんな特徴があって、どんなターゲットに刺さるのか。何事も自己分析から始まると荒木氏

ステップ2:メディア研究

確かに自分たちが自社の商品・サービスの魅力を理解して、顧客のニーズをどう解決できるかが分からなければ、メディアもメッセージも決まらないですよね。

荒木:自分たちの強みや顧客のニーズを理解したうえで、ターゲットに合ったメディア選びができるようになります。この段階で必要なのがメディア研究です。

今では4マス(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)に加え、インターネットメディアが盛んなのはご承知の通りですが、さらにインターネットメディアは多様化・細分化が進んで、露出したいメディアの選択肢が増えています。

メディアを選ぶうえで、1つ目に見ておきたいポイントが、自己分析で明らかにした、自分たちが届けたいターゲットが接触しているメディアなのかどうかです。多くのメディアは広告主向けにメディアガイドを公開しています。このメディアガイドはPRにも活用できます。購読者数や男女・年齢比率などが掲載されているので、自分たちのターゲットに合っているかどうかは、すぐに把握できるはずです。

もう1つのポイントは、自社の伝えたい内容や目的に対して、メディアが扱う内容やフォーマット(文字なのか映像なのか、または紙なのかWebなのかなど)が適切かどうかです。

メディアの種類が異なると好まれる企画も変わります。例えば、新聞の生活面が好む記事はほのぼのとした話、テレビを狙うなら画(=映像)のおもしろさが重要、ネットのメディアは特色がさまざまですから、それぞれに合った表現や考え方が必要です。PRを成功させるためには、こういったメディアごとの特徴や傾向を理解したうえで、PRする目的に合わせて掲載を狙うメディアを決めていくことが重要です。ネット上での拡散を無視した結果、新聞などに掲載することができたとしても、ネットで拡散されず、集客目標を達成できないというケースもあるからです。

ステップ3:情報提供

メディアが決まったら、いよいよプレスリリースを送るのですね。このとき、メディアに取り上げてもらいやすくなるコツはありますか?

荒木:メディアには、毎日たくさんのプレスリリースが送られてきます。その中から選ばれるというのは、一朝一夕にできることではありませんし、特に知名度の低い商品の場合、大手メディアではなかなか扱ってくれません。そのため、まずはメディアとの関係性を作るということが大事になります。

いきなり大手を狙わずに、地元のメディアなどにプレスリリースを送り、実績を積んでいくのがいいと思います。相手のメディアをよく読んで、どんな記事がどのような切り口で掲載されているのかを研究し、おもしろいネタを提供し続け、「A社からのプレスリリースはおもしろいな」と認識されると、メディアの関係者にも会えるようになり、記事として扱ってもらえる確率が上がります。

また、プレスリリースが、そのまま記事として使用されることに耐えうる内容になっているか、データがきちんとそろっているかというのもポイントです。多くのリリースをより分けるメディア担当者の立場になって考えれば、掲載しやすいものの方がありがたいですよね。

過去には、複数媒体にリリースが掲載されたものの、記事にURLが記載されていなかったために、サイトへの流入が得られなかったというケースもあります。必ずしも希望に沿った内容で掲載されるとは限らないのがPRですが、情報を不足なく届けることで、こうしたリスクを減らすことはできます。

特に中小企業であれば、毎月新商品が出るわけでもなく、ネタが枯渇しそうですが……

荒木:ニュースというのは、何も新商品情報だけではありません。むしろ単なる製品情報だと「広告」となってしまうので、何らかのストーリーや価値ある情報である方が望ましいです。

ある化粧品・サプリメントメーカーの例を紹介しましょう。その会社は、自社で商品を開発し、自社運営のECサイトで販売していました。自社ECサイトへの集客のために、「開発ストーリー」を活用したプレスリリースを発信しました。

商品の売り込みではなく、ストーリーに特化したプレスリリースを作ったことで、ECサイトのPV(ページビュー)数は2.5倍に向上。また掲載記事を既存顧客へ配布したことにより、リピート率が向上しました。さらに商品と地域の親和性が高かったため、 地域に根づいたメディアとの接点が強化されました。

また同じ企業で、全国区への認知度向上のために、価値ある情報として「調査レポート」を発信しました。結果5つのインターネットメディアに掲載され、転載先を含めると26メディアに拡散。さらに地域系のメディアを中心に6つのメディアにも掲載され、全国への認知を獲得しました。それぞれの相乗効果で企業の信頼が上がり、販路の拡大にもつながっています。商品の売り込みではなく、ストーリーに特化することが成功の秘けつというわけです。


最後に中小企業、小規模事業者の方に向けてアドバイスをお願いします。

荒木:中小・小規模事業者は、毎週新たな製品やサービスをリリースできるわけではありません。それでも、PRで取り上げてもらえる土台を作るには、信用されるリリースを定期的に中長期にわたって発信し続けることが重要です。そうすることで、メディアには印象として残ります。そのためにもプレスリリースの内容(ネタ)は、先ほどお話しした3つのステップを理解したうえで、さまざまな企画を立てていく必要があります。

例えば、自社製品のジャンルに関する調査レポートなどは、数値としておもしろい結果だと、メディアが取り上げる可能性が高くなります。また、メディアにもよりますが、イベントや季節に合わせた情報を盛りこんだり、今流行っていることに便乗した企画を立てたりするのも効果的です。

また、1つの商品にとらわれず、同ジャンルの商品・業種で協力するのも1つの手です。メディアは1つの商品だけを取り上げると広告のように見えてしまうため、類似の商品などを紹介してバランスをとる傾向にあります。あえて競合する複数の商品と一緒に企画を立てるなど、いろいろな尺度を用意しておくことも重要です。

中小・小規模事業者の場合、PRをプロに依頼するのは効率的ではないかもしれません。なぜなら知名度が低いため、中長期の戦略を立てて継続しなくては効果が表れにくく、毎月数十万円のコストがかかるからです。

そこで、有志の何社かで集まり、PRのセミナーなどに参加して考え方を勉強し、自社内で努力していくことから始めることをご提案します。もちろん、簡単なことではありませんが、まずは自己分析、メディアの研究、対象となるメディアの好む企画を考える、といったステップをこなしていってほしいと思います。

最後に、もしPRのプロに依頼する場合は、相性がポイントです。評判だけでなく、実際に会って考え方、相手の熱量などを見極めて長く一緒に続けられるパートナーを選んでください。小さなPR会社であれば、20~30万円でも親身になってくれるところもありますし、自社でPRを行う場合の指南をしてもらえることもありますので、まずは相談してみることをお勧めします。

中小・小規模事業者のPRにおける3つのポイント

  • 自社の商品やサービスをとことん好きになって分析する
  • 相性の良いメディアを探して関係を構築する
  • プレスリリースは商品やサービス情報だけではない「おもしろいネタ」を提供する
荒木 克彦

お話を伺った方: 荒木 克彦(あらき かつひこ)さま

総合マーケティング支援事業の株式会社ネオマーケティングの代表取締役COOとPR・マーケティング支援を行っている株式会社oneの代表取締役を務める。

この記事の著者

弥報編集部

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