- 経営ノウハウ&トレンド
【PickUp企業】会社を激変させた魔法の「経営計画書」−スズキ機工株式会社③
2017.07.21
社員わずか16名の産業用自動機メーカーに、年間100社を超える企業が視察に訪れています。その会社の名は「スズキ機工」。1976年に18L缶の製造機械メンテナンス事業からスタートした同社は、食品業界向けの産業用自動機メーカーへと転身し、さらにはテレビでも取り上げられる「絶対に止まらない潤滑剤 LSベルハンマー」をはじめとするヒットメーカーになりました。
今でこそ「中小企業の星」として注目を浴びる同社ですが、今に至るまで幾度も社内外の軋轢、経営危機を乗り越えてきたのだとか。そこで今回は、自ら「弱者の経営戦略」と表現する、「中小企業が危機を切り抜け、飛躍を遂げるためのヒント」を代表取締役の鈴木豊氏に伺いました。
目次
忙しいのにもうからない、社員が辞める……負の連鎖を断ち切った「経営計画書」
鈴木社長が先代から会社を任されたばかりのころの話です。毎日のように汗水たらして外回りをしていた鈴木社長に、経理の女性が社内で起きている出来事を報告しました。
「社長が外にいる間、社員が会社の外でサボっています」
それを知った鈴木社長が社員を問いただすと「こっちは段取りを考えてやっているのに、社長が急ぎの仕事を入れてくる」という不満を抱えていることが分かりました。
「一生懸命やっている背中を見せれば、社員はついてくるものと私は信じていました。でも、実際は違いました。社員はくしの歯が欠けるように辞めていきました」
忙しいのにもうからないし、社員も辞めてしまう……鈴木社長はわらにもすがる思いで、経営に関する書籍を読みあさったそうです。そして古田土満氏の書籍を参考にして、経営計画書をつくることに。これが転機になりました。
「この会社にいることで、社員がどう幸せになれるのか。ビジョンと理念を示さないと誰もついてこないと書いてありました。本当に目からうろこが落ちました。早速、経営理念・ビジョンを明文化し、それを手帳型の経営計画書に盛り込んで社員に配布しました。すると経営計画書を導入してから、退職者はゼロに。うそのように社内状況が変わりました」
経営計画書には会社の優先事項として「倒産させないこと」と明記されています。倒産しないためには、世の中の変化に対応できることが重要。どんな時代も生き抜く「変化し続ける会社」を目指していることが、一人ひとりに腹落ちしているから、新しいチャレンジにも全社員が一丸となって取り組めるようになったのです。
朝の30分は「整理整頓」だけ
かつて鈴木社長が1人で取り組んでいた5S(整理/整頓/清掃/清潔/しつけ)活動も、経営計画書に明記してからは会社全体で取り組むようになりました。スズキ機工の勤務時間は8時半からお昼の休憩を挟んで17時半まで。なんと8時半から9時までの30分間は「整理整頓」だけに費やされています。
「工場見学の方から、『モノをつくるのが仕事なのに整理整頓に30分も使うんですか?』とよくいわれます。でも整理整頓に時間をかけた方が1日の生産性は上がります。1日30分かけてやれば、どこに何があるか完全に分かりますし、作業環境も安全です。なにより生産活動を阻害する『モノを探す時間』を排除できるので、効率が各段に上がるのです」
かつてはスズキ機工の工場も、モノが散らばり、コードもぐちゃぐちゃに転がっている時代があったといいます。それがとても信じられないほど、今では工場内の隅から隅まで整頓されています。
「『整理整頓をしろ!』と口を酸っぱくしていったところで何も変わりません。『毎朝30分整理整頓する』『不要なものは新品でも捨てる』『探しの排除をする』という具合に、その目的や進め方、ルールなどを明記しないと浸透しないものなのです」
経営計画書を作成してから、鈴木社長も驚くほどの勢いであらゆる業務が改善しました。やがて、工場が手狭になり、労働環境を向上させるために新工場を取得することに。そして旧工場の賃貸契約に「社会福祉法人まつど育成会」が手を挙げたことがきっかけで、スズキ機工の新しい挑戦がスタートしました。
事業を通じて授産施設利用者の自立を応援したい
もともと、旧工場は納得の条件で他社に貸す予定でした。まつど育成会が提示したのは、その6掛けの賃料です。
「取りあえずどんなことをしているのか見せてもらったら、90平方メートルくらいの狭いところで何十人もの障がいのある人たちが肩をぶつけながら作業をしていました。担当者に話を聞くと、住民の反対が怖くて腰が引ける大家さんが多く、なかなか場所を借りられないのだそうです。一方、当社は松飛台という工業団地で30年間やってきましたし、周りの会社の社長の了承を得るのは難しいことではありませんでした。彼らの大変さを知ってしまった以上、何もせずにはいられませんでした」
社会福祉法人が請け負う作業の工賃は、例えば箱の組み立てが1つ1円など。1カ月の工賃が1,000円に満たないこともあります。
「彼らの仕事の価値はそんなものじゃありません。経済的な自立を目指すための手助けを、仕事を通じてできないかということで、LSベルハンマーの物流倉庫で管理するためのバーコードシールを貼ってもらうなど、商品を通じた関わり合いをしています」
「あゆーるの話をすると、『その金額で仕事を依頼するのは大変ではないですか?』といわれることもあります。でも、商品が売れて会社が成長しているから全く問題ありませんし、彼らと出会って新しい成長の機会を得ることができました。私は、あゆーるのみんなの努力を多くの人に知ってもらいたいと思っています。今の取り組みがそのきっかけになれば嬉しいですね」
スズキ機工では、看板商品のLSベルハンマーに加えて、薄いビニ-ルや紙の裁断に特化した、ささくれが発生しないハサミ「ベルシザー」もヒット。国外からの引き合いも多く、ベルシリーズの海外進出も控えています。あゆーるの力も今以上に必要になるでしょう。スズキ機工とあゆーるの連携はまだ始まったばかりです。
ここまで全3回にわたって、千葉県松戸市にある「スズキ機工」の経営戦略をご紹介しました。営業エリアを車で片道1時間以内に絞って深堀りし、ニーズを見つけてヒット商品を連発。新しい事業を育てながら、地域社会とともに発展していくスズキ機工。そんな「中小企業の星」のもとには、毎日のように会社見学希望者がやってきます。
今、キラ星のように輝いているスズキ機工も、かつては倒産の危機を経験してきました。スズキ機工の経営戦略には、ピンチを迎えている企業を含め、多くの企業に当てはまる飛躍のヒントが詰まっているように感じました。
今後も全国で頑張る中小企業にスポットを当てていきたいと思います。
Profile:スズキ機工株式会社
1971年設立。18L缶製造装置のメンテナンスから事業をスタート。製缶機械の開発・販売、製缶プラントの輸出へと業務拡大するも、バブル経済崩壊のあおりを受けて経営危機に。食品業界向けを中心とする産業自動機械事業へ業務転換し、息を吹き返す。地域密着で事業を展開しつつ、その中で見つけたニーズを商品化。「LSベルハンマー」「ベルシザー」などヒット商品を連発。さらに社会福祉法人と連携し、事業を通じて授産施設利用者の自立を目指す社会貢献活動を展開している。
この記事の著者
弥報編集部
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